gloopsは、10月8日、企業のデータ分析担当者を対象とした、無料のデータ分析・活用セミナー「gloops流データアナリストの部署間連携術 ~データ様に聞け! - 組織の中のデータマイニング」をgloops本社で開催した。
このセミナーは、『スカイロック』で実施した大規模プロモーションを題材に、データアナリストが関係部署とどう調整したのか、ベースとなる考え方から紹介した。さらに企画担当者とマーケティング担当者も登壇し、プロモーションを成功に導くため、それぞれがどういった施策を行ったのか、そしてデータアナリストとどう連携したかも明らかにした。今回、セミナーの模様をお伝えしよう。
まず、gloopsのデータアナリストの勝俣真也氏(写真)が登壇し、会社の概要と自身の経歴を説明した後、他部署と連携するためのポイントとして、3つの「D」を重視していると述べた。
(1)Data…伝えたいことを明確に、結論をピンポイントに表す。一目瞭然のアウトプットを心がける。
(2)Data Analyst…分析対象をしっかり理解する、そして自分が知らないことをしっかりと知る
(3)Destination…連携先と共通目標を設定すること、共通認識を普及させていく。広宣流布の精神が重要。
続いてgloopsデータマイニングの日常を紹介。データマイニング部では、日常、大きく2種類のデータを収集・分析しているそうだ。毎日のログインユーザー数や課金額といった全社的なデータ、そしてユーザーの行動ログやイベントの進捗度合いなど担当コンテンツに関するデータの収集・分析である。
担当プロジェクトを分析していく際、データの収集・分析と同じくらい重視しているのが対象となるゲームを理解することだという。実際にゲームをプレイしながら、ゲーム中の機能間のつながりを示す相関図を作成しており、今回、『スカイロック』の相関図が公開された。
このメリットとして以下の点がある。
(1)ゲームを理解することができる。データマイニングの目的は、データを取ることが目的ではなく、データの先にあるユーザーの行動を適切に把握すること。したがって、自分でプレイしながら、実際にユーザーの気持ちになることが可能になる。
(2)企画担当者とゲームに関して議論する場合、ゲームをろくにプレイしたことのない人間が「KPIが良くないから直してほしい」と話しても説得力が欠ける。ここまで遊びこんでいれば、企画担当者との距離が近づく。
(3)共通認識を自分の中に普及できる。例えば、ソーシャルゲームの中にはゲーム内通貨が存在する。コンテンツによって名称は様々だが、『スカイロック』では「ゼニ」を使用している。当然、制作サイドも会議では「ゼニ」を使う。こういう状況のなか、データアナリストが「ゲーム内通貨」という言い方をしていたら心理的な距離ができてしまう。
また分析を行う際、DMAICサイクルを使っているそうだ。
(1)発生した問題を定義する
(2)定義した問題に関して必要なデータを計測する
(3)データを分析し、改善を行う
(4)改善策の効果を監視する
このプロセスの中で、gloopsが最も重要視するのは、一番最初の「問題定義」だ。これがきちんとできていないと、「とりあえずデータを共有する」だけで終わり、データが活用されなくなるという。逆に問題をきちんと定義していると、何が問題なのかがデータから読み取ることができ、問題の本質に近づくことができるのだ。
続いて、6月に行われた『スカイロック』の大規模プロモーションの事例紹介が行われた。テレビCMに関しては、実施前、実施中、実施後の3つのフェーズに分かれたが、データマイニンググループは全てのフェーズに関わったそうだ。
■フェーズ1:テレビCM実施前
<マーケティング部の取り組み>
フェーズ1の流れは以下のようになる。
(1)マーケティング部がCM実施コンテンツの検討とプラットフォームを運営するDeNAとの調整
(2)データマイニングが決済予測とリクープ期間の算出
(3)マーケティングがそのデータをもとにプラットフォーム側と諸条件の調整
ここでgloopsマーケティング本部長の鶴羽崇晋氏がマーケティング担当部門の活動を説明した。『スカイロック』の大型プロモーションは、5月30日から6月19日までに行われ、その目的は「新規インストール数とアウェイク数を大型プロモーションによって最大化し、決済増を狙うこと」だった。テレビCMを中心とした大規模なプロモーション展開はもちろん、プラットフォーム内の導線設定、プラットフォーム外広告も行った。
テレビCMは、全国で3000GRPほど。クリエイティブに関しては、ゲームの世界観とキャラクターを活かし、セル画を使用したアニメーションで制作した。クリエイティブは、3種類用意した。スカイロックのストーリーを象徴的に見せられるものに仕上げた。インセンティブは毎週1つずつ3種類用意し、ユーザーがどのテレビCMを見ても強力なインセンティブを受け取れるようにした。
プラットフォーム外でのプロモーションに関しては、ネイティブアプリが隆盛ということもあって、プラットフォーム内だけでの集客に限界がある。このため、公式サイトをリニューアルし、SNSを活用したキャンペーンなども行った。
また、テレビCMを出稿するタイトルを選ぶにあたって、過去のデータを分析しながら、どのタイトルが最も「伸び代」があるのかを重視したそうだ。そこで選んだ『スカイロック』は、2013年にリリースされたMobageタイトルの中でも最もKPIが良好だったため、大規模プロモーションでさらに伸ばすことができると判断したとのこと。
その後、以下の流れとなった。
(1)過去の出稿を通じて蓄積したデータに基づいて、想定インストール数と想定アウェイクを計算し、プロモーション投資の回収期間を検証する
(2)プラットフォーマーであるDeNAと協議を行い、各種施策によって獲得できる想定数字の精緻化を行う
(3)再度、シミュレーションを行い、投資回収期間の目標を設定する
(4)テレビCMの実施を決定した
また、テレビCMを行うにあたって、広告費だけでなく、プロモーション対応で増える人件費やインフラコストといった費用と、決済の伸びやアクティブ数確保といった効果を比較したという。さらに予算の決定にあたって大型プロモーションを行った場合と行わなかった場合の決済を比較し、その差分である「決済の増加分」をプロモーション予算に決定したとのことだった。
このほか、想定されるPR効果についても最大、最小となった場合の想定も行っていたという。その結果、大規模プロモーション費用は半年で回収できる、という結論に至ったそうだ。
<データマイニングの役割>
ここで勝俣氏が登壇し、このフェーズにおけるデータマイニングの役割を紹介した。ミッションは、リクープ期間を算出することだった。リクープ期間を最小化するためには、費用対効果の最大化、そしてそのためには決済予測が必要になる。
決済は、
install×継続率×課金率×ARPPU
で算出されるが、いずれも過去のデータから予測可能のように思われる。しかし、一点だけ難しい問題がある。それはinstallの予測だ。テレビCM期間はinstallが通常に比べて大きく伸びるため、これまでのデータでは合理的な算出ができない。
DeNAは、これまでテレビCMの出稿実績が豊富なこともあり、テレビCM期間中のinstall数のデータを持っており、使わせてもらえないかと考えたものの、勝俣氏個人とDeNAとの窓口がない。そんななか、マーケティング部とDeNAが協議していたことを思い出し、マーケティング部に相談したところ、テレビCMによるinstall数の予測値を算出していることが判明し使わせてもらえたとのことだった。問題設定の段階で、リクープ期間を算出すること=決済予測を出すこととし、マーケティング部と十分共有できていたことが大きかったそうだ。
■フェーズ2:CM実施中
<企画側の取り組み>
テレビCM実施中では以下のようなプロセスとなった。
(1)プロモーション効果を最大にし、かつ長く遊んでもらえるための企画側の取り組み
(2)データマイニングがデータの収集・分析を行い、離脱要因を検討する
(3)この分析に基づいて改善施策の立案・実施
『スカイロック』のディレクターの上田朋宏氏が登壇し、テレビCM実施中の具体的な取り組みを公開した。企画側では、まずテレビCMを通じて、「ゲームを毎日遊んでくれるユーザー=ファンを増やすことを目標に設定した。そこで1ヶ月間26日以上ログインするユーザーを示すHBU(Heavy Base User)をKPIに設定し、それを1.5倍に増やすこととした。そしてHBUを増やすためには流入してきたユーザーにゲームを継続して遊んでもらう必要がある。つまり、継続率を上げることが中目標となった。
しかし、「継続率アップ」は、上田氏の経験上、最も難しい目標のひとつだという。ユーザーがゲームをやめる理由は多岐にわたるため、ゲーム内の施策でコントロールすることは不可能に近いからだ。そこで、上田氏は、継続率に影響を与えそうなパラメータの分析・抽出をデータマイニングチームに依頼した。その結果、戦闘力6000以上のユーザーが継続率が高いこと、ステージ3以上のユーザーの継続率が高いこと、そしてイベント参加率、フレンド数、所持魔物レアリティといった要素との相関が強いことが判明したそうだ。
具体的な施策は以下のスライドのとおり。
また、ユーザーを新規、既存、カムバックの3つのセグメントに分けて、22もの施策を行った。表示されるバナーもセグメントごとに変わるようにしただけでなく、各セグメントごとレポートも毎日送ってもらい、KPIのチェックを行っていた。
このような取り組みの結果、テレビCM放映終了から1カ月後にHBU1.5倍という目標を達成することができた。データマイニングと連携することで役立ったのは、KPIを具体化したことにあると振り返った。これによって、プランナーが具体的な企画をイメージしやすくしたことだった。そして優先順位付も話し合えたそうだ。そして、プランナーは、企画を考えることが第一で、分析やモデルには興味がないため、データ分析の結論を素早くピンポイントにわかりやすく共有してくれたことも大きかったと語った。
<データマイニングの役割>
再び勝俣氏が登場し、フェーズ2におけるデータマイニングの取り組みを紹介した。HBUを1.5倍にするという目標を達成するためには多くのユーザーに長く遊んでもらう必要がある。継続プレイに強く影響をあたえる要因を明らかにすることが問題となった。ここで企画からのサジェスチョンにもとづいて、継続率に影響を与える要因を特定していった。
まず、戦闘力と継続率の関係についてはすぐに相関があると確認できた。ただ、そのままではわかりづらいため、横軸に戦闘力、縦軸に翌日継続率をとったグラフにしたところ、戦闘力6000を超えたところから継続率が高くなっていることがわかったという。それを受けて、上田氏が戦闘力6000以上にするための施策を考えていった。こうした取り組みが目標達成につながったのだ。
なお、分析結果の共有にあたって、企画側に結論をわかりやすく提示するだけでなく、データ分析の結果が妥当かどうかも話し合ったという。例えば、戦闘力6000に関しては、継続率の高いユーザーだから戦闘力6000を超えているだけである可能性もある。この点については、ゲームの設定上、戦闘力が6000を超えていると、ステージ3まですんなりと遊べるようになるため、ユーザーの戦闘力6000以上に引き上げるという施策は妥当という判断に至ったそうだ。
■フェーズ3:効果測定
最後に気になるテレビCMの効果については、データマイニングが効果測定を行い、関係各所に共有した。続いてテレビCM終了後の各KPIの状況が明らかにされた。
まず、新規のインストールに関しては予測を大きく上回った。対予測で139%となった。
継続率も同様に大規模プロモーション中の継続率と期間外の新規ユーザーの継続率を比較したところ、期間中にインストールしたユーザーの方が継続率が高いこともわかった。
決済については、予測を大きく上回った。6月は129%、7月は120%、8月は110%となった。勝俣氏は、テレビCMとしては大成功だったとまとめた。
また注意点としては、データをそのまま提示するのではなく、何を伝えたいのか明確にすること。今回は、予測に対して高かったのか低かったのか、プロモーション期間がそれ以外の期間と比べて数字が高かったのか否かを伝えたかったという。伝えたい数字があるのに細かい数字を出しても見づらいと思われて利用されなくなってしまうからだ。
最後に勝俣氏は、効果測定は忙しいとおろそかになりがちだが、「ここをしっかり行っていくことによって、問題点が炙りだされて、次の問題設定につながっていく」と非常に重要なプロセスだと強調した。そして、部署間連携を円滑に行うコツは、しっかりと「Define」(問題設定)することにあると講演を締めくくった。
ちなみに、gloopsでは、データアナリストを絶賛募集中とのこと。興味のある方はgloopsの採用サイトを確認してほしい。
■関連サイト
会社情報
- 会社名
- 株式会社gloops
- 設立
- 2005年8月
- 代表者
- 李 仁
- 決算期
- 12月
- 上場区分
- 非上場