【インタビュー】金曜20時の興奮を再びスマホで…「つくろう」シリーズ生みの親が手掛けるサミーネットワークス『プロレスラーをつくろう!』の試み
サミーネットワークスは、「つくろう」シリーズの最新作にあたる育成ゲームアプリ『プロレスラーをつくろう! THE GOLDEN HOUR』の配信を12月上旬に予定している。
プレイヤーは、バーコードをカメラ機能で読み込むなどして、レスラーをスカウトしながら、種類豊富なコスチュームや技をそろえ、自分だけのレスラーを育てていく。試合は「打撃技」「投げ技」「極め技」をお互いに出し合う三すくみ(ジャンケン)バトルを採用。さらに、相手の技を受けてゲージが満タンになれば、FINISH MOVEが発動して大迫力の技の数々がスマートフォンの画面いっぱいに繰り出されるのが魅力。
本稿では、シリーズの生みの親でも知られるサミーネットワークスの川越隆幸氏と、本作のプロデューサー・山本大祐氏の2名に、開発経緯やゲーム概要、リリース後の運営方針などを聞いてきた。
■再び生みの親が手掛ける待望の「つくろう」シリーズ最新作
株式会社サミーネットワークス 取締役 開発本部 本部長
川越 隆幸氏 (写真左)
株式会社サミーネットワークス
『プロレスラーをつくろう!』プロデューサー
山本 大祐氏 (写真右)
――:本日はよろしくお願いします。川越さんと言えば『プロサッカークラブをつくろう!』などの「つくろう」シリーズの開発者でもありますが、今回は久しぶりのシリーズ最新作かと思います。はじめに、本作の開発経緯からお聞かせください。
川越氏:じつは、セガ在籍時に一度プロレスを題材にした「つくろう」シリーズの開発を考えていたことがありましたが、結局それが実現することはありませんでした。
現在はサミーネットワークスのSAP事業を見ることになったのですが、一昨年に新しいタイトルを開発するため「天下一企画会」と題した社内コンペが開催されたのです。そこで書類(企画書)審査、役員プレゼンを経て上がってきたのが、この山本が企画したプロレスを題材にしたスマホゲームでした。もちろん当初は細かなゲーム概要は決まっておらず、「つくろう」シリーズでもありませんでした。
――:なるほど。ちなみに当時の山本さんの企画は、どのようなものだったのですか。
山本氏:最初はもう少し格闘ゲーム寄りの要素がありました。ジャンルとしてもフリック機能を活かしたアクションゲームでしたね。
特徴的なゲームシステムは、格好いい技の繰り出し方や“魅せる戦い”をすることで、観客が盛り上がりを見せるので、その具合で報酬がたくさんもらえるなどをゲームとして盛り込んでいました。
そういった題材ならば、よりプロレスに特化したゲームのほうがいいのではとなり、企画を練り直したのが本作となります。
――:とはいえ、アクションゲームから「つくろう」シリーズならではのシステムに変更していくのは、開発現場としても様々な決定があったかと思います。
山本氏:もともと川越の構想として、「打撃技」「投げ技」「極め技」の三すくみ(ジャンケン)要素の考えがありました。さらにモバイルゲームでアクション性が高すぎるのは、かえってユーザーが難しいと思う懸念点があり、そこでもっと気軽にレスラーの技を繰り出せるように、三すくみの要素を加えながらも簡単に遊べる現在のゲームシステムに整えていきました。
――:川越さんは、立場的にエグゼクティブプロデューサーですね。
山本氏:はい。そうです。
川越氏:結構やかましくは言っていますね(笑)。もう私自身で企画書を書くことはないですが、会議中にホワイトボードにはいっぱい書きます。
――:正式に「つくろう」シリーズの最新作として開発が決定したのは、何かエピソードはあるのでしょうか。
川越氏:当初から、特別なライセンスを獲得して、実名選手を多く使用したゲームにすることは考えていませんでした。となると、自分でプロレスラーを作っていくことを考えれば、「つくろう」シリーズだろう……となりました。最初の企画書では仮のタイトルでしたが、もう役員会議で「つくろうシリーズの最新作を作ります」って言いました(笑)。
――:そうだったんですね(笑)。ちなみに、セガネットワークス社から出ているスマホ版の「つくろう」シリーズは、川越さんは携わっているのでしょうか。
川越氏:そちらには関わっていないですね。
――:そう考えれば、恐らく川越さんが手掛ける「つくろう」シリーズと考えれば、久しぶりの現場復帰にもなるんですかね。
川越氏:そんな大層な役割は担っていませんよ。本当、ただのうるさいオヤジが居るだけです(笑)。
一同:(笑)
■「ニッチなものをテンコ盛り」
――:オリジナル選手で、なおかつ技名がカードになっているのは珍しいかと思います。改めて、プロレスゲームをスマートフォンアプリで開発する際に、こだわった箇所を教えてください。
川越氏:やはり「打撃技」「投げ技」「極め技」の三すくみのほか、もうひとつ絶対にプロレスでやらなければならない「受け身」の要素を取り入れたことは大きいですね。いわゆる格闘技にある防御や避けるものではなくて、きちんと“受けること”を前提としているのは、プロレスならではの要素でもありますから。あとは開発ラインを作る際に、プロレスゲーム開発の精鋭たちを集めたことですかね。
――:あ、組織からこだわられているのですね。
川越氏:ええ。開発をシンソフィアにお願いしました。セガのときにPSP用『クロヒョウ 龍が如く新章』を開発した会社で、そのほかに『バーチャル・プロレスリング』や『キン肉マン』などを開発している、プロレスゲームを得意とするゲーム会社です。そうしたエッセンスがほしくて今回お願いしました。
山本氏:『クロヒョウ 龍が如く新章』でもプロレス技がふんだんに出てくるんですよ。ことプロレス技の演出や要素に関しては、非常に多くのノウハウを持っているゲーム会社さんのため、プロレス技の演出やグラフィックなどはとてつもないこだわりがあり、それがゲームにも表現されています。
――:分かりました。そして、選手はバーコードからの読み取りで作成できますよね。
川越氏:そうです。従来の「つくろう」シリーズでは、髪型や口、鼻など細かいパーツを最初に決めますが、いまのスマホゲームでそれをやっていたらダメだなと思いました。そのため、すぐにでもオリジナルキャラが手にできるように、今回のバーコード機能を導入しました。
――:実名選手などは、今後導入することはあるのでしょうか。
川越氏:詳細はあまり言えないですが、期間限定として色々仕込んでおります。実際のプロレスでもヤングライオン(新日本プロレスに所属する若手選手の通称)から始まるように、ゲームでも新人レスラーから数々の団体を倒して上りつめていくと思うのですが、最終的には凄いIPなどを用意して戦わせたいですね。
――:レスラーの育成に加え、団体の経営などはあるのでしょうか。
川越氏:現時点ではありません。あくまでも自慢のレスラーを何体作成できるかにフォーカスをあてています。昔から「つくろう」シリーズは、ユーザー同士で挨拶や会話をするときに、「自分のところどうなの?」みたいな“我が子自慢”が楽しみなんですよね。
――:なるほど。ちなみに、本作で狙うユーザー層はどういったところになるのでしょう。
川越氏:当然プロレス好きは外さないです。そして意外とプロレス好きのユーザーとネットの親和性が高いため、大きな括りでは多くのユーザーに訴求できるタイトルであると思っています。さらに、プロレス好きはゲームも好きなので、下手なものは作れないだろうなぁと(苦笑)。
恐らくユーザーは、いかにゲームで自分のこだわりが表現されるのかが気になると思います。たとえば、「ここで技をかわして、次に技を華麗に決める」とか。自身が想像した流れを実際に表現されていくことが、気持ちのいいものであり、面白さにも繋がります。そういう意味では本当に手が抜けないですよ。「この技入ってんの?」とか要望も来そうですね。
――:たしかに。技がカードになっているため、何かとレアリティなどの強弱をつけることも大変かと思います。そのへんは、開発チームで会議を重ねて熟考されたのでしょうか。
川越氏:ないです、ないです。そんなことしたら多分決まらないです(笑)。
一同:(笑)
山本氏:ただ「最低限これは入っているだろう…」というのは押さえており、私のほうで細かいレアリティや強い技、弱い技などのバランスを振っていきました。
――:そこは実際に川越さんもチェックされたんですか。
川越氏:ちょっと見ましたけど、見るのやめました(笑)。どちらかというと、ユーザー目線で「この技あるの?」とツッコミを入れるほうですね。
山本氏:ただ、弱い技でも必ず一段階、二段階はレアリティが上がるような進化機能を備えています。そのため、弱い技でも一定のところまでの強さに伸ばすことができ、思い入れのある技を序盤から中盤まで使うことはできるように考えています。
――:ちなみにゲーム中では、どのくらいの技が出てくるのでしょうか。
山本氏:技の種類で言うと、90ぐらいはあります。カードのレアリティごとにそれぞれ分かれるため、だいたい200は超えます。これに加えて、イベントなどの形で毎月10個ほど増やしていきます。そのため「この技ないな…」と思っている方は、いつかは追加される可能性があるので、ぜひ遊びながらお待ちください。
――:リアルのプロレスでも技は膨大にあるのでしょうか。
川越氏:ものすごくあります。と言いますか、解釈によって技は異なりますね。同じ技でも組み方ひとつで名前が変わりますから、もう付けたモン勝ちですよ。たとえば、ジャーマン・スープレックスもかかとが浮いているか、浮いていないだけで「ゴッチ式」になるとか…そういう話です(笑)。
山本氏:ほかにもジャンピングニーアタックを、ジャンボ鶴田がやると膝を正面に当てるのですが、世界の荒鷲・坂口征二がやると太ももからお尻にかけてちょっと横向きになると。
――:細かい動作で技名も細分化されるんですね。
山本氏:ええ。最初は基本的な技を取り揃えて、逐次アレンジものを広げて追加していきます。あとは場外技、反則技みたいなものも含めて、プロレスを構成する要素として多彩なバリエーションになるよう考えています。
――:あ、場外技も用意しているんですね。
山本氏:まずは場外へ飛ぶ技を用意しています。それが決まると画面が場外になり、技をかけるシーンに移ります。
――:そういえば、「つくろう」シリーズとして見ても今回のプロレスという題材は、コスチューム面でも楽しめそうですよね。ある意味やりやすいのでしょうか。
川越氏:やりやすいんですが、自由度が高すぎてキリがないですね(笑)。やはりレスラー特有の格好もありますし、アイテムは逐次追加していきます。まあレスラーと言っても実在するものだけじゃないですから、色々考えることはありますね。
――:ん、実在しないレスラーというと、たとえば?
川越氏:まあ、それは追々……(苦笑)。
一同:(笑)
川越氏:いや、かなり期待できる内容に仕上がっていると思いますよ(笑)。もう本作では、とにかくニッチなものをテンコ盛りにしようと考えています。それこそ、これまで発売しているプロレスゲームには無い要素が入っています。コラボ関連にしても分かりやすいことをやろうかと思っています。
――:コラボですか。
川越氏:ええ。まあセガグループですから色々と。
山本氏:もう答えじゃないですか(笑)
※マンガ原作からは、にわのまこと氏によるプロレスマンガ「THE MOMOTAROH」のモモタロウ選手、STGキンタロウ選手、ウラシマまりん選手、ブラックモモタロウ選手の登場が決定。もちろんセガのゲームキャラによる参戦にも期待がかかる。
――:(笑)。そのほか、現実世界のレジェンド選手のコラボにも期待がかかりますよね。
川越氏:そうですね。とにかくコラボは面白くしたいですね。なんか古臭いオヤジみたいな言い方ですけど、その昔、今ほど情報が多くない時代には“未知の強豪”がたくさんいて、当時はそれらを東スポとかでしか知ることができなかったんですよ。私が小学生のころ、モンスターロシモフの新聞サイズ実物大手形が一面を飾って、「こいつどれだけ強いんだよ」と衝撃を覚えたものです。
そんなユーザー自身も思い入れのある数々のレジェンド選手たちと、本作では自分が育てたレスラーと戦わすことができるのです。あるいは、実名選手とタッグマッチすることも。そうした驚きや面白さを、いまのユーザーにも伝えていければいいですね。
※すでにプロレスラーのスタン・ハンセン選手とブルーザー・ブロディ選手の登場が決定
▲スタン・ハンセン選手
©Stan Hansen
▲ブルーザー・ブロディ選手
©Bruiser Brody
▲二人がタッグを組んだ通称「超獣コンビ」
写真提供:週刊プロレス
――:ちなみに、おふたりはかなりのプロレス好きかと思いますが、開発中は特別プロレスに関する勉強はされたのでしょうか。たとえば、興行を見られたとか。
山本氏:私はWWE(World Wrestling Entertainment)の日本公演に行って、ハルク・ホーガンを観に行きました。ある意味取材みたいなものですね。
川越氏:それ本当に取材か?(笑)
山本氏:ほぼ趣味ですね(笑)。
――:やはり開発中は、改めてプロレスのことになると見る目も変わってくるかと思います。実際にリアルのプロレスからゲームに活かそうと加えた要素はあるんですか。
山本氏:一度に全て入れ込むのは、なかなか難しいと思っています。というのもユーザーさんがプロレスに各々抱いているものは異なりますし、その時期によっても流行が変わっていくこともあります。だからこそ、その都度アップデートできるようなスマホゲームのタイトルであれば、ユーザーさんのニーズにも応えていけるかと思っています。
川越氏:じつは、私が山本に何かを注文するのは、月曜日が多いんですよ。何故なら休みに家で録画しておいたテレビ番組を見ているので(笑)。
山本氏:だいたい先週末のプロレス番組を見たんだろうなと。「これ、ないんか?」「これ必要やろ?」と言われて(笑)。週末にやっているプロレス番組と言えば、プロレス好きのユーザーさんもピンとくると思いますが、当然我々もチェックしています。
――:なるほど。プロレスにも季節要因があるのですね。
山本氏:そうですね。たとえば、昔に流行った技が急に別の選手が使いだすと、これが新鮮に見えるようで、またその技が脚光を浴びるんですよね。プロレス界にもトレンドが存在して、うまくそれらを捉えてゲーム内でもタイムリーなネタを出していきたいです。
また、驚いたのが、社内のイベントでお子さんに遊んでもらったことがあったんですよ。まだ開発途中のバージョンだったのですが、もうのめり込むように熱中して遊んでくれて、「面白い」とも言ってもらえました。お子さんにも受け入られるのは嬉しいことで、「これはいけるかな」と自信にも繋がりました。
――:どういった部分にお子さんはゲームを楽しんでいたのですか。
山本氏:主に技の演出です。あとはキャラクター同士が向かい合うシーンでも興奮していましたね。「次は僕にやらせてくれ」みたいな端末の取り合いにもなるほどでした。
――:それでは、最後にリリース後の運営方針を教えてください。
川越氏:やはりレスラーを何人も育てたくなるような運営にはしていこうと思います。はじめにひとり目を徹底的に育てていただいて、そのうちにふたり目が欲しくなるかと思います。
というのも今後は、リアルタイム対戦を取り入れた最大4人で行うタッグマッチなども視野に入れていますので、ぜひお楽しみください。
山本氏:プロレスを見ていた世代に、本作をきっかけにもう一度プロレスの面白さを伝えられれば一番嬉しいですね。その逆に現実のプロレスが盛り上がることで、我々のゲームも賑わいを見せるなど、良い循環が生まれるような形まで運営していければいいと思っています。
川越氏:どこの団体のオーナーや(笑)。
山本氏:(笑)。まあ市場の活性化までいけるか分からないですが、まずは話題になることが理想の形です。
川越氏:でも、本当に30~40代の方って、格闘ゲームの真っ只中で青春時代を過ごした方もいますし、それこそ金曜20時の「THE GOLDEN HOUR」を経験した方も多くいます。このアプリでは、まさに自分が脳内補完していたプロレス風景を、自分自身で作り上げることができるので、大いに楽しめると思います。
――:これは夢が広がりますね。本日は、ありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
©にわのまこと
会社情報
- 会社名
- 株式会社サミーネットワークス
- 設立
- 2000年3月
- 代表者
- 代表取締役社長 德村 憲一
- 決算期
- 3月