タイトーは、去る2014年12月25日のクリスマスに新作アプリ『アイドルクロニクル』のAndroid版を配信開始した。
本作は、アイドルの最も身近な存在“マネージャー”となり、アイドルと二人三脚でトップアイドルを目指していくスマートフォン向けゲーム。アイドルたちのマネージャーとなったプレイヤーは、レッスン、ライブ、お仕事などを自由に組み合わせてスケジュールを作り、アイドルを成長させていく。
ライブをこなしていくと、アイドルたちの追加ストーリーはもちろん、ダンスの上達が垣間見られるのも本作ならではの魅力。さらにライブでは衣装だけでなく、ステージ演出をカスタマイズすることができ、そのライブ動画をYoutubeやニコニコ動画にアップして、“みせびらかす”こともできる。
長年、コンシューマやアーケードゲームを中心に事業を展開してきた同社だが、2015年は急速に成長を続けるスマートフォンゲーム市場に、これまで以上に注力していくとのこと。本稿では、そんな新進気鋭のアイドルゲームを手掛けたタイトーの郷田氏にインタビューを実施し、開発経緯や今後の展望について聞いてきた。
■『アイドルクロニクル』
■ファンからサポーターへ … アイドルの歴史と共に紐解く本作の魅力
株式会社タイトー
デジタルコンテンツ事業本部
ON!AIR事業部 プロダクション1部 部長
郷田 努 氏
――:本日はよろしくお願いします。郷田さんといえば、これまでバンダイナムコゲームスやgumi<3903>で、コンシューマ・ソーシャルゲームなど様々なプラットフォームのタイトルを立ち上げて、また携われてこられたかと思います。まず、今回タイトーでアイドルゲームを開発しようと思った経緯をお聞かせください。
はじめは弊社で運営しているソーシャルゲーム『アイログ』のネイティブアプリ版を開発するところから、このプロジェクトが発足しました。『アイログ』はサービス開始から3周年を迎えた人気タイトルで、カードイラストも2,000枚近くあります。
もちろん、これらの資産を活用してアプリを開発することも考えたのですが、新規IPを立ち上げるならば、オリジナルタイトルとして更地から開発したほうが訴求しやすいと思い、一から作ることにしました。本格的に開発が始まったのは2014年3月頃になりますね。
――:様々なアイドルゲームがリリースされていますが、何か『アイドルクロニクル』を開発するうえで、明確なコンセプトはあったのでしょうか。
コンセプトは、スマホでもきちんとしたクオリティのあるアイドルゲームにすることでした。これまでのスマホのアイドルゲームは、言わばカードバトルゲームの延長線上のようなタイトルが多く、実際に画面上でアイドルたちが歌って踊って掛け合いの会話劇を繰り広げるタイトルは少ないように感じていました。アイドルたちの個性をきちんと描いて、なおかつスマホでも隙間時間に遊べる最適なゲーム性に仕上げる必要があったのです。
もちろんアイドルがカードとなり、歌だけが流れるタイプでも、それはそれで良さがあるのですが、より密度のある世界観を表現するために、きちんと踊って着せ替えなども楽しめるようにしました。
――:なるほど。ちなみに、郷田さんご自身はアイドルゲームを開発するのは……。
はじめてです。どちらかと言うとこれまではRPGやアクションゲームが多くて、アイドルゲームは開発したことないですし、基本的に女の子が主人公のゲームも作ったことないですね。
――:これは意外です。ただ、開発するにあたっては、勉強されたのではないでしょうか。
はい。アイドルビジネスに関する論文や、遍歴が分かる関連書籍などを大量に読み込みました。あとは実際のアイドル好き(ファン)に、知り合いを介してヒアリングさせてもらいました。「どうしてアイドルを好きになったのか」「コンサートに行く楽しみ」など、話を聞くと色々見えてくるものがあって、そこからいくつかの要素をゲーム開発にも役立てていきました。
――:具体的にアイドル好きの方々から、どのような要素が挙がったのでしょうか。
たとえば、今の多くのアイドルの楽曲には、歌詞に「私」「あなた」という単語が入っていません。ですが、昭和80年代に活躍していたアイドル達が歌う曲には入っていました。当時アイドルは偶像だったため、歌では擬似恋愛みたいなものを歌っていたのです。また、歌番組で女の子がスポットライトを浴びたり、カメラが寄ったりと、まるでショウケースのように多くの人が熱狂していったという構造がありました。
▲ライブシーン
――:なるほど。
ところが、時代が進むにつれて歌番組がなくなり、言わば“みせびらかす”ショウケースがなくなってきました。そこからは一時的なアイドル冬の時代となりました、CMに出てから人気が出るというアイドル的なタレントが登場して、歌がセットではなくなってきたのです。
そして、90年代後半に、今までよりも身近なアイドルグループが生まれ始めました。オーディションに落ちたメンバーを中心にグループ化したアイドルグループなど、よりファンにとっては近しい存在から始まったアイドルです。長くアイドル不在があったことはもちろん、人気になった要因は、その時代にフィットしていたのが大きかったです。
――:そして現在のアイドルたちですね。
ええ。その後、爆発的な人気となった会いに行けるアイドルです。一見して「80年代アイドルグループの焼き増しだよね?」と思われがちですが、ファンから直接質問や要望を聞く場を設けた「支配人部屋」が何よりも象徴的で、ファンをサポーターのビジネスに変えたのです。
CDを大量に買うことも散々メディアが叩きますが、別に誰にも強制されているわけではないし、喜んで買っているわけですよ。どこかサッカーのサポーターと似ていて、大好きなので“意見も言うけど応援はする”のです。
また、実際にファンの人に話を聞くと、アイドルに対して「彼女にしたい」という気持ちよりも、家族のように身内を応援する感覚で尽くしたいという気持ちが何よりも大きいとのことです。その子がトップアイドルになりたいのであれば、そのためにグッズも買うし、コンサートにも行く……という感じです。なので、話は戻りますが、現在のアイドルの歌詞は「あなた」「私」ではなく、「僕たち」「私たち」となっているんですよ。
▲会話シーン
――:ただ女の子を眺めるのではなくて、成長を見守りたい、または支えていきたいという思いがあるのですね。そうしたエッセンスをゲームにも。
はい、取り入れていきました。そうすることで、これまでのアイドルゲームとは異なる雰囲気を感じていただけると思っています。『アイドルクロニクル』でも「ファン」という単語ではなくて、「サポーター」という単語に統一しています。また、我々もお客様と一緒に『アイドルクロニクル』を育てていきたいと思っているので、みなさんからの意見も積極的に聞いていきます。まさに、いまの時代に合ったアイドルゲームだと思っています。
――:歴史あるアイドル論と交えてお話いただき、勉強になりました。ちなみにキャラクターですが、あえて3人にしたのは理由があるのでしょうか。ほかのアイドルゲームでは多くの女の子たちが登場するものですが……。
女の子たちは増えていきます。もちろん、どのように増えていくかはお客さん次第ですね。はじめから多くの人数がいたり、途中で10人加入させたりしても、やはりビジュアルだけ増えたところで誰も熱狂はしません。「どういう女の子なのか」という個性や立ち位置、そして物語がお客さんのなかで浸透していないと意味がないため、そこはしっかりと描いてから追加していきます。
また、ライバルのアイドルグループもいるのですが、たとえば、彼女たちが事務所を移動して操作キャラクターになることも、お客様が望むのであれば、私はありだと思っています。オンラインのゲームですので、タイミングとお客様の要望次第で、柔軟にコンテンツを昇華できるような余地が本作には残しています。
■運営側の本気度が伝わるスピード感も実現
――:そして、本作のスタッフ陣もえらく豪華ですよね。
■スタッフ一覧
プロデュース:郷田努(TAITO)
原案・原作・脚本:郷田努(TAITO)
ゲーム製作:株式会社ハ・ン・ド
楽曲製作:Team-MAX(ROCKMAN)
ゲームBGM製作:ZUNTATA(TAITO)
音響監督:納谷僚介(スタジオマウス)
振付:アークジュエル
モーションキャプチャー:ヴィジュアルワークス(スクウェア・エニックス)
そうですね。開発には、『データカードダス アイカツ!』などアイドルゲーム開発の実績を持つハ・ン・ド。楽曲製作は、本物のアイドルグループの作曲・編曲を手掛けるTeam-MAX、ゲーム内BGMはタイトー内製のサウンドチーム・ZUNTATA、音響監督は納谷僚介氏が担当しています。
また、モーションキャプチャーで表現した振り付けは、実際のアイドルグループを多数プロデュースしているアークジュエルと組み、グループ会社であるスクウェア・エニックスのヴィジュアルワークスが撮影したものを起用しています。
ここまでのクリエイター陣を揃えられたのも、どちらかと言えば「こういう予算案でアイドルゲーム作りましょう」という単純なものではなくて、我々が目指すものに賛同してもらったのが大きいです。
『アイドルクロニクル』に関わるクリエイター全員が全員、とてつもなく高い熱量を持っています。私もゲーム業界18年ぐらいになりますが、これだけの熱い雰囲気にプロジェクトがなるのは、そうそうないです。
――:そういう意味では、今回のメインキャラクター3人の声優の選定方法も独特なのではないでしょうか。
まず、『アイドルクロニクル』にスーパーバイザー的な立ち位置で携わっている方に、私がやりたいことやキャラクター設定などを共有し、その方がM・A・Oさん(里見陽奈役)、五十嵐裕美さん(松平ユリア役)、遠藤ゆりかさん(京極瑠璃役)を呼んでくれました。
選定基準としては、ゲーム以外の展開も積極的にやっていくプロジェクトのため、一緒に協力できるか、できないか……言わば“ちゃんとお付き合いできるか”が重要でした。幸いにも彼女たちも本プロジェクトに賛同してもらいました。また、実際に現場で喋っていただいて、すんなりと配役は決まりました。
――:そして、本作のジャンル名が“アイドルみせびらかしゲーム”とのことで、ゲームプレイを録画して動画投稿に促す施策も『アイドルクロニクル』ならではだと思います。
これまでスマホのアイドルゲームは、だいたい育ててもパラメータしか上がらず、視覚的に成長している実感がほぼありませんでした。しかし『アイドルクロニクル』では、女の子たちは成長によって徐々にダンスが上手くなっていきます。簡単な振り付けからテクニカルなダンスが踊れるようになるので、こうした成長が動画投稿ですごく生きてくると思っています。
ライブのステージ演出も好きなタイミングで花火をあげたり、フェザー(羽)を降らしたりと差別化ができるため、自分だけのアイドルライブ映像を簡単に仕立てることができますし、終わったらボタンひとつで動画を投稿できます。
■ユーザーが投稿した動画
――:また、ほかのプレイヤーが投稿した動画を見ることによる拡散性も備えていますよね。
ええ。「ここまでダンスが上達するのか」「あんな衣装があるのか」「このアクセサリーと衣装のコーディネイト良いなぁ」など。ゲームの外側に出て行って、動画を見せびらかすところまでが本作のプロダクトになります。そういう意味では、これまでのアイドルゲームとはだいぶ毛色が異なりますし、遊んでいただくと、何が違うのかは理解できると思います。
――:楽曲はどのような感じでしょうか。
初期6曲なのですが、今後きちんと追加していきます。また、追加楽曲に関しては、オリジナル音源は一切課金なしとなります。やはり先ほど話したように、動画投稿して見せびらかすところまでがプロダクトアイデアなので、課金しないと楽曲を追加できないのであれば、その時点で壁ができてしまい、本末転倒になってしまいます。もちろん、ゲストを招いてのアレンジバージョンでは課金を考えていますが、楽曲のみではなく、ゲーム内アイテムとセットでの販売を行う予定です。
あとは衣装も課金のみでしか手に入らないというのはしていません。きちんとゲームを進めていけば衣装が増えていきますし、課金しないと物語が進めなくなるということもありません。衣装やアイテムのグレードがノーマルでも、結構可愛いものもありますし。
――:となると、ガチャに関してもハズレと思う要素が他作品より少ないですよね。たとえば、ノーマルのアクセサリーでもカスタマイズ次第では、何かライブ風景を撮影するときに着用するなど、純粋にパラメータ以外のところで価値が見出されます。
そうですね。昨今のソーシャルゲームのガチャは、回して目的のカードが出なかったら何も見返りがないという、言わばセーフティがありませんでした。そこで本作では、ガチャを回すと必ずメダルが付いてくるようになっています。そのメダルを使用して、エナジー回復アイテムやメダルでしか交換できない衣装などに活用できるようにしています。
▲コスチューム変更画面
――:分かりました。それでは、最後に今後の展望をお聞かせください。
以前、公式Twitterでお客さんから犬や狐など獣耳をもっと追加してほしいという声が多数寄せられました。これら、全部入れるように開発進めています。このように、直接お客さんからTwitterを介して意見をもらっても、その場で意思決定し、なるべく早いスピード感で実装まで進められるような運営スタイルで今後も進めていきたいと思っています。
先ほど言いましたように、我々はお客さんの声を積極的に拾って一緒に『アイドルクロニクル』を育てていきます。これは建前で言っているわけではなくて、本気なんです。その本気が伝わるような運営にしていきますし、何より安心して投資できるような物量と施策を展開していきますので、このゲームにかけていただいても大丈夫です。
何より制作側のテンションが高いです。IP展開として露出も考えていますが、まずはゲームの盛り上がりが一番です。今後もクオリティの高い開発・運営に努めていきますので、ぜひ引き続き応援していただければ幸いです。また、公式Twitterでは常にご意見・ご要望をお待ちしております。
――:本日はありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
■『アイドルクロニクル』
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