【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」


正直、2週に一回とはいえ「これからこうなる!」と言い続けるのは結構つらいものでして、すでにネタ切れであります(笑)。最近ゲーム作りってこうやるんだよ的な話にもなってますし、いよいよもってわけがわかりません。

そこで需要があるかわかりませんが、これまでの連載に添えていた「P.S.」の要素をむしろメインにしていこうと思います。「今、これが注目コンテンツだ!」的なやつですね(ネタがたまったり気が向いたらまた「これからこうなる!」に触れていきます)。

というわけで、今日はアイドルものについて書こうと思います。

実は私、「アイカツ!」の大ファンで今でこそ落ち着いたもののかつてはアイカツおじさんだったりしました。一方で「プリティーリズム オーロラドリーム」「プリティーリズム レインボーライブ」のアニメにもハマりその流れで「プリパラ」も視聴。さらにモバゲーの『アイドルマスター シンデレラガールズ』(通称:モバマス、デレマス)に至っては課金しすぎてモバマス破産しかけたことさえあります。それがきっかけでもっと給料のいい会社に転職しようと思ったこともありました。

そんなアイドルコンテンツに目がない私ですが、最近劇場版が絶好調の「ラブライブ!」については改めてすごいと感じています

なぜここまで人気があるのか。いろんな方がいろんな考察をされていますが、他のアイドルコンテンツも等しく楽しんでいる身としての視点から、「ラブライブ!」ならではの魅力について考察してみようと思いました。

そこで、同じくアイドルコンテンツに目がないスクエニのプロデューサーと一緒に、その魅力について議論してみたのです。(なお、このプロデューサーは「WUG」の大ファンです)

 

■「ラブライブ!」の魅力ってなんだろう



まず最初に「ラブライブ!」の魅力を客観的に考えてみました。

<アニメそのものの魅力>
キャラ絵がかわいい ← でもこれは好みが分かれる
魅力的なキャラクター性 ← これも好みが分かれる
音楽がいい ← これも好みが分かれる
お話が面白い ← これも好みが分かれる
スクールアイドルという設定 ← アイドル+学園要素としてとても秀逸
甲子園(ラブライブ)要素 熱血要素として鉄板

<アニメの外側の魅力>
キャラと声優のシンクロ ← 2.5次元的な魅力
ユーザー参加型 ← ワシが育てた要素
メディアミックスによる多面展開 ← 話題が途切れない
途切れない曲のリリース ← 話題が途切れない

他にもあるかもしれませんが、私たちが考えた限りだとこんな感じです。

中身の魅力はもちろん、外側の仕掛け方が秀逸ですね。ただここまでだったらいろんな方が分析されてますし、そりゃそうだよねって話にしかならないのですが、もう少し視点を変えて掘り下げてみようと思います。

 

■王道の魅力


実は私、「ラブライブ!」初見時にあることに違和感を覚えました。それは「キャラクター性」です。

作中で矢澤にこというキャラが「アイドルはキャラ作りが大事!」ということで「にっこにっこにー」という決め台詞を度々口にするのですが、初見では「なんかちょっと今そのキャラは寒くないだろうか?」と感じました。同じことが星空凛というキャラにも言えます。語尾が「にゃー」なんです。ここでもやはり「今更にゃー!?」という感想。

その他のキャラに関しても、もちろんギャップ萌えはちりばめていつつも、かなり定番というか王道な設定。アニメ視聴歴の長い我々からするとちょっと物足りなさを感じました。

しかし、一期から二期、そして劇場版を視聴していく中で「やっぱりこういうのいいな…」と思ってまいりまして、スルメ的な感覚で「ラブライブ!」の中で好きなキャラTop3に、今やにこと凛が入っていたりするのでした。
 

 
…何を言いたいのかというと、アニメ視聴歴がわりと長い私のような人間が「ちょっと物足りない」と思うくらいの定番具合が、むしろちょうどいいんじゃないだろうかということなんです。受け手でもあり、作り手でもある私のような立場からすると、日々生まれてくる世の良キャラを参考に、でも被らないようにとキャラを作ったりしているのですが、意識をしていなくてもどうしても奇をてらいすぎることがあります。

そういった感覚でものを見ていると、定番・王道といったものに対して「ちょっと物足りない」と感じてしまうのかもと思うのですが、しかし今の世の中は漫画やラノベ、アニメなどに対して寛容になりつつある。ちょっと前ならアニメ見てたら即キモオタ扱いでしたから、そんな時代と比べるとかなりライトな層がアニメを見ているわけです。

そして、そんな彼らからすると、王道・定番こそ心地よかったりするのではないでしょうか。いきなりニッチな世界観を見せられてもついていけないですし、なにより定番ものはシンプルで人に伝えやすい、話題にしやすい、というところもいい点です。

「ラブライブ!」のキャラクターには、そのちょうどいいキャラクター性が備わっていて、だからこそカジュアルにアニメを視聴する層も巻き込んであれだけの規模に広まったのではないだろうか、と思うわけです。

考えてみればキャラクター性だけでなく、設定なんかも実に王道で正統派。一方「アイカツ!」「プリパラ」などは同じく学園×アイドルですがカードを使って変身するなど魔法少女的な要素がありますし、「プリリズシリーズ」はアイドル×フィギュアスケートという変化球。

個人的なところでいうと、何年もアニメを見ていると違った味を味わいたくなりがちなため、「アイカツ!」や「プリリズ」などにまず興味をそそられたのですが、「ラブライブ!」の正統派な感じというのは、安心を感じつつ一周まわっての新鮮さみたいなものさえあるのかも、と思うのでした。
 

▲30分でわかる!これまでのラブライブ!TVアニメ1期Ver.(Lantis Channelより)


 

■曲のリリース速度と物量


アイドルコンテンツといえば曲が最重要要素のひとつ。曲の良しあしはもちろん、ユーザーに対して常に新鮮さや話題を提供する意味でもアニメの中だけでなく、アニメが終わった後や他のメディアでの展開においても曲を提供し続けるというのはとても大事です。

そこで、私が視聴したことのあるアイドルコンテンツについて、どのくらい曲をリリースしているのかを数えてみました。

・ラブライブ!:約193曲(2010年スタート)
・THE iDOLM@STER:約176曲(2005年スタート)
・アイカツ!:約79曲(2012年スタート)
・アイドルマスターシンデレラガールズ:約60曲(2011年スタート)
・プリティーリズム レインボーライブ:約33曲(2013年スタート)
・プリパラ:約25曲(2014年スタート)
・プリティーリズム オーロラドリーム:約20曲(2011年スタート)
・Wake Up, Girls!:約16曲(2014年スタート)


※スタート時期はアニメ放映開始ではなく、コンテンツとして世に出たタイミングです
※wikiや歌詞掲載サイトを参考に数えてみました。


多すぎてすべてを網羅できているか自信がないのですがあくまで目安ということで…

ご覧の通り、曲数・リリース頻度ともに一番多く、特にリリース頻度は驚異的です。

アニメは作るのに時間がかかりますし、クオリティを維持しながらずっと放映し続けるのはかなり困難。また、ゲームにしても音ゲーの場合新しい曲がでないとすぐ飽きてしまう。アニメやゲームといった「音」が非常に重要なプロジェクトの場合、曲の数、継続したリリースが成否に大きな影響を与えます

だからアイドルコンテンツにおける曲作りというのは、質はもちろんスピードと継続性がとても重要なのですが、「ラブライブ!」はその点において群を抜いています。

IPを育てるには話題性を提供し続けることを以前このコラムでも書きましたが、小説やアニメ、ゲームといった面の展開はもちろん、曲をリリースし続けるということでも、「ラブライブ!」は継続した話題提供をしてきたことがわかります。

さらに私がすごいと思ったのが、アニメの中では一切触れられていないのですが、μ'sのメンバー内で「BiBi」「Printemps」「lily white」と3つにユニット分けて、それぞれが曲をリリースしていたことです。

このユニット分けのメリットは、単にいつもと違った雰囲気を提供できるだけでなく、オフラインイベントの際にメンバーをそろえやすくなることです。9人全員を集めることは難しくても、3人ならばまだ集めやすくなる。単に9人の中の3人が出演するだけでは中途半端になりますが、ユニットメンバーである3人が出演することでしっかりとしたイベントにできる。

アイドルコンテンツはオフラインイベントが重要です。少人数でも、イベントを行うこと自体がファンサービスになり話題を提供することになる。そういった地道な活動を少しでもファンに喜んでもらえるような形にしているのは、流石としか言いようがありません。
 

▲左から徳井青空さん(矢澤にこ役)、新田恵海さん(高坂穂乃果役)、飯田里穂さん(星空凛役)。2015年6月に開催された初の単独リアルイベント「スクフェス感謝祭 2015」に出演。


 

■ユーザーとの関係性


そして、ユニット名の募集など、プロジェクトの初期段階からユーザー参加企画を積極的に実施したことにより、ユーザーの中での「ワシが育てた感」を高め、IPに対する愛着を深めていったことも「ラブライブ!」の特徴のひとつかと思います。

こういったユーザーは長くそのIPを愛してくれ、IP成長の幹となってもらえるとても大切なファンになります。そういったユーザーとの関係性を大事にしてきた「ラブライブ!」だからこそ、今の人気があるのではないでしょうか。

これはあくまで私の個人的な仮説なので、別の見方もあるかと思いますが、「ラブライブ!」ならではの魅力ということについて、いったんの結論としてはこんな感じです。

 

■ここから学ぶこと



何本もタイトルをつくり、何体もキャラクターを作っていると、より「他とは違うものを!」…という思いについついかられますが、逆の立場に立ってみると、それってただの作り手の空回りなんだということを自覚しなくてはいけません。

そういえば、昔好きだったアーティストが、今では全然自分の琴線に触れない曲ばかり作っていて、「あの頃の感じでいいのに!」と思うことよくありますが、イメージとしてはこの感じと似ているのかな、と。新しいことにチャレンジすることはもちろん大事なのですが、ちゃんと需要を把握し変えないところは変えない。それをおさえた上でちょっと新しい見せ方をしていく、といったバランス感を養い、忘れないことが大事です。

また、特にF2Pのゲームともなると運営開始からが本番。そのため、ゲームの内外問わず、継続して運営していけることをあらかじめ想定した体制、企画を用意しておく必要があります。

そして何よりユーザーとの関係性を大事にすることを忘れてはならない

そんなことを、「ラブライブ!」を見て改めて強く思ったのでした。 ではでは今日はこの辺で!

P.S.
「アイドルマスター シンデレラガールズ」の音ゲーアプリが遂に発表になりましたね!(関連記事) アプリセールスランキングの上位においては長らく「ラブライブ!」の一強時代が続いていましたが、デレマスの登場でその勢力争いにも遂に変化が訪れそうな予感ですが、一体さわり心地はいかほどのものなのか!? 今から非常に気になります!
 

ちなみに私の推しキャラは輿水幸子です。普段から「自分はかわいい!」とふりまき、態度も上からで腹パンしたくなる感じでちょっとウザいのですが、実力が伴い切れていないことからその言動も自己暗示気味なものにも見えてしまい、窮地に陥るとガクブルしながら虚勢を張る。その間抜けな感じが実に微笑ましいのです。これこそギャップ萌えですね!
 


■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
 
 
■スクウェア・エニックス

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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)

第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)

第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)

第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)

第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)

第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)


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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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