【セミナー】誰でも簡単にゲームアイデアが生み出せる手法とは…『もじぴったん』の開発者・中村隆之氏が登壇したDeNA主催「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)は、8月24日、ゲーム企画職を志す学生およびゲーム企画職の若手を対象としたセミナー「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾 〜未来を担う人に伝えたいこと〜」の第3回目を渋谷ヒカリエ DeNA本社にて開催した。

第3回目では、ゲームデザイン教育研究者の中村隆之氏が講師を務め、「ゲームデザインとフレームワーク」について講演。本稿では、今すぐ使えるゲームアイデアの知識も披露された第3回「座・芸夢」の模様を取材。


■誰でも簡単にゲームアイデアを生み出せる手法とは


はじめに、モデレーターを務めるDeNAのプロデューサー 兼 採用担当の馬場保仁氏が、「座・芸夢」の実施経緯について語ってくれた。そもそも「座・芸夢」は、毎回著名なゲームクリエイターを講師に迎え、講演と直接指導を受けられる演習の二部制で行われ、過去2回とも定員を超える多数のエントリーがあるセミナー。

「若手ゲームプランナー育成塾」として、これからのゲーム業界の未来を担う人に、ゲームプランニング・デザインの基礎を体系的に伝え・学んでもらう場となっている。

過去、6月24日に開催された第1回では、「ゲームの神様」遠藤雅伸氏よりゲームの本質を学び、アイデアが相乗効果を呼び合う熱気あふれる演習が行われた。また、7月21日(火)開催の第2回は、Unity Technologies Japan  クリエイティブ・ストラテジストの簗瀬洋平氏を講師に迎え、アナログとデジタルの両面から「ゲーム」を作り上げる要素について講演。

そして、第3回目では、ゲームデザイン教育研究者の中村隆之氏が登壇。

中村氏は、1995年ソニーに入社、携帯電話の開発に従事し、97年にナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社する。プログラマとして業務用ゲーム機の開発に関わった後、『もじぴったん』シリーズなどのディレクター、プロデューサーとして活躍し、2010年に退社。フリーランスのクリエイティブプロデューサーとなる。

2012年に神奈川工科大学情報メディア学科特任准教授に就任し、ゲームデザイン教育、ゲーム開発教育を進めている。

今回は「EMS Framework」によるゲームアイデア発想方及び分析法について講演を行った。「EMS Frameworkって何?」と思うところだが、それもそのはず、これは中村氏が独自に考えたゲームアイデアを簡単に生み出せるフレームワークである。「EMS Framework」の解説に行く前に、中村氏は学生と開発したゲーム『アオモリズム』について紹介してくれた。

『アオモリズム』とは、北海道と青森が殴り合うという、一風変わった地形リズムアクションゲーム。「東京ゲームショウ2013」に出展すると、瞬く間に待機列が出来上がり、大きな話題を呼んだ。また、「CEDEC2014」ではインタラクティブセッションに招待されるだけではなく、青森のホテルにも展示されるなど、各所で引っ張りだこに。

中村氏のサポートがあったとはいえ、なかなか学生が作ったゲームでここまでの話題になることは珍しい。しかし、まさにこのタイトルこそ「EMS Framework」にのっとり開発されたゲームなのだ。
 



「何も知識がなければ、いきなりゲームのアイデアを出すのは難しい。しかし、手法を知っていればゲームのアイデアを出すだけなら難しくない」と中村氏。逆に大量に出てきたアイデアを絞り込むほうが頭を悩ませるようで、クリエイターはそれらを評価・分解する力が問われるという。

さて、ここで「EMS Framework」の概要を解説。「EMS Framework」のEMSとは、Ends and Means Structure(手段目的構造)の略で、基本形で言い表すと、「○○を××して(手段)、□□を△△する(目的)ゲーム」。たとえば「パズルを連鎖させて(手段)、ドラゴンを倒す(目的)ゲーム=『パズル&ドラゴンズ』」など、ひとりプレイの既存ゲームは、ほぼこの形で言い表せる。

このように、ゲームには必ず手段と目的が存在する。


▲サッカー(スポーツ)を例に解説。サッカーの目的は、当然ボールをゴールに入れて点数を取ること。そのためには、味方にパスをしたり、シュートを決めたり……ただ、そもそもの手段としてはまずボールをキックするといった、手段と目的が存在し、それぞれ動詞で表されていることが分かる。


▲さらにゲーム内の手段目的構造に制約を加えることで、ゲーム性が増していくという。先ほどのサッカーで言えば、手を使わずに足だけで相手ゴールにボールを入れるだったり、アクションゲームで言えば制限時間内で敵に当たらないようゴールを目指すであったりと。

「EMS Framework」が持つ「○○を××して(手段)、□□を△△する(目的)ゲーム」の型を守れば、必ずゲームのアイデアとなる。何より、企画に関する知識が無い人でも、ゲームのアイデア出しに参加できることに加え、人が増えるほど当然アイデアも大量に生み出されていくのだ。
 

▲『アオモリズム』は、学生たちが考えた300以上にも及ぶアイデアのひとつ。

なお、アイデア出しが進むと、少しずつ現実の縛りを離れて各々「願望や欲求」が出やすくなり、結果的に「面白そう」「楽しそう」「やってみたい」ゲームのアイデアに繋がっていくという。

このほか「EMS Framework」には4つの応用パターンが存在。

①主語の追加:
(主語)が、○○を××して(手段)、△△を□□する(目的)のゲーム」の場合、例として「サラリーマンが、電車のダイヤを狂わせて、会社にいかない言い訳を作るゲーム」に。恐らくこれが女子校生や犬など、ほかの主役をたてることでも盛り上がるだろう。

②形容詞の追加:
「○○を(形容詞1)に××して(手段)、△△を(形容詞2)に□□する(目的)のゲーム」の場合、例として「魚をスタイリッシュにさばいて、居酒屋を華麗に三ツ星レストランにするゲーム」に。形容詞を追加することで具体的になり、ゲームに対する想像も膨らんでいく。

③制約の追加:
「■■を☆☆する事なく(制約)、○○を××して(手段)、△△を□□する(目的)のゲーム」の場合、例として「ボールを手や腕で触る事なく、ボールを運んで、ボールをゴールに入れるゲーム」に。まさに前述したサッカー(スポーツ)は制約付きのゲームだ。

④カテゴリーの追加:
「○○を××して(手段)、△△を□□する(目的)の(カテゴリー)ゲーム」の場合、例として「アオモリがホッカイドウを殴って、ホッカイドウを小さくするリズムゲーム」に。当初はシミュレーションゲームも発想とあったが、試しにカテゴリーをリズムゲームにしたところ「青森と言えば”ねぶた祭り”だよね」となり、どんどんアイデアが膨らんでいったようだ。

以上の応用パターンを活用することで、より奇抜なゲームアイデアが生まれることも。

 

■湯水の如く出てくるゲームアイデア…



ここからは、実際に「EMS Framework」を活用したワークショップに移った。受講者は、わずか3分間でゲームアイデアをポストイットに書いていく。1ゲームアイデアにつきポストイット1枚となる。その2分後、自分が書いたゲームアイデア(ポストイット)をチームの台紙に貼ってまとめていく……といったように、たった5分でアイデアを固めていくというかなりハイスピードな展開に。
 
複数出てきたアイデアを見てみると、異様に「タコ」の出現率が高かった。じつは、当日出た軽食にタコ焼きが出たことが原因で、このように身近なものをヒントにしてアイデアに繋げることも多々あるようだ。「DNA」(開催場所のDeNA)や「空き缶」(当日出たジュース)なども近しい要素だろう。
 

ここで中村氏は、いくつか応用パターンを利用すると、ゲームアイデアに深みが増すことを指摘してくれた。たとえば、アイデアのひとつにあった「タコを沢山斬ってタコ焼きを沢山作って売りさばくゲーム」では、イカを主語に加えることで「イカがタコを沢山斬ってタコ焼きを沢山作って売りさばくゲーム」となり、何やら双方のライバル関係や妙に滑稽な世界観を想像してしまい、見違えるほど面白くなることも。

ちなみに、中村氏とその教え子が事前に書いたゲームアイデアも披露された。さすが「EMS Framework」で訓練されていることもあり、なかなかユニークなゲームアイデアに。
 
 

 

■「で、結局何するゲームなの?」…作品の魅力を明確に伝える



続いて、すでにあるゲームを「EMS Framework」で分析していく内容に移った。これまではゲームアイデアを生み出していく立場であったが、今度はすでにあるゲームをかみ砕いて「一言で」「シンプルに」「魅力的に」言い表していく。

ゲームは年々複雑化していく、なかなか一言で魅力的に伝えることは難しい。なかには抽象的で「結局これは何する(何が目的の)ゲームなの?」とユーザーが感じることもしばしば。たとえば、「スマホの限界を超えた超絶美麗なグラフィックス!」「高度なAIが生み出す○○○バトルシステム!」「豪華声優陣フルボイス収録!」なども内容が詰まっているわりには、どこか抽象的。

今回はチーム毎に分析するゲームが決まっており、2チームが同じゲームを分析(合計5タイトル)。分析対象のゲームを、「EMS Framework」の形で「分かりやすく」「端的に」「魅力的に」伝えるように表現。応用系だが、カテゴリーも必須に。なお、分析対象のタイトルは下記の通り。

【分析対象タイトル】
■『こだわりラーメン館』(カイロソフト)
■『Plague Inc. -伝染病株式会社-』(Ndemic Creations)
■『Goat Simulator GoatZ』(Coffee Stain Studios)
■『まかいピクニック』(Route24)
■『Cut the Rope』(ZeptoLab)
 

世界的有名なゲームタイトルもあれば、つい最近リリースされた日本のゲームも。ちなみに、5タイトルには当たりはずれが存在するという。今回の場合の当たりは、一言で表現できない一風変わったゲームのことを指す。それだけ頭のなかで考えて、学びが多いからこその当たりとなる。一方ではずれの場合は、ゲームコンセプトが明快で簡単に言い表せるため、いまいち分析に歯応えがないため、セッションのなかでははずれの部類となる。

受講者の多くは、既存ゲームの魅力を分析し、言葉巧みに表現することに関して、ゲームアイデアを生み出すときよりも頭を悩ませていた。ちなみに表現しやすいのは『こだわりラーメン館』、ちょっと考えさせられるのは『まかいピクニック』といったところだろうか。各チーム、頭を抱えながらも的確にゲームを分析していった。
 

▲「EMS Framework」を用いた『Plague Inc. -伝染病株式会社-』の分析。カテゴリー・手段・目的に切り分けることで、自然とどういうゲームかが明確に。ここで応用パターンの形容詞などを追加することで、より魅力的なゲーム紹介文に昇華されていく。

2時間にも及ぶ第3回「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」はこれにて終了。中村氏は最後に「こうしたフレームワークの考え方は、ゲームの世界ではメジャーではないですが、マーケティングの世界では普通です。分かりにくいものは、型にはめることで見えてくるものがあります。物足りないと思う人は、職場や学校の仲間と一緒にやってみてください。時間をかければもっと面白いものができると思います」と述べて、講演を締めくくった。
 

 
(取材・文:編集部  原孝則)

 

■第4回は9月25日(金)開催 エントリー受付中



なお、次回の第4回は9月25日(金)19:30から渋谷ヒカリエ21F DeNAオフィスにて開催。登壇者は、「座・芸夢」のモデレーターを務める馬場保仁氏自らが担当。これまで数多くのゲームタイトルをプロデュースしてきた同氏より、「世界観とゲームデザイン」について講演を行う。

◆参加資格: 
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生 ※学生は学年不問 
・若手のゲーム企画職の方 ※32歳以下

◆参加費:無料

◆参加エントリーはこちら 申込締切:9月16日 結果連絡:9月18日
・Peatixからのエントリーはこちら http://peatix.com/event/111991/view
・Wantedlyからのエントリーはこちら https://www.wantedly.com/projects/27562

※事前エントリー制ですので、必ずお申込みください。
※定員を超える応募があった場合は抽選となります。
※当日はメディア取材、写真撮影が入る場合がありますが、撮影について配慮させていただきます。
 

▲毎回恒例の講師による受講証のスタンプ。
参加回数が多くなると等級が上がり、何やら良いこともあるとか……。


なお、来週オープン予定の「Social Game Info」新規メディアにて馬場保仁氏の連載コラムも予定しているので、こちらも注目いただきたい。

 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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