【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:岩野弘明氏
■第28回「恋活アプリ体験談」
先日後輩が「出会い系アプリがiOS売上ランキングでめっちゃ目立ってるのでその秘密を調査中です!」と言ってました。正直出会い系や恋活アプリの印象は、業者やサクラが多く、人を騙すためのサービスのようにしか思っていませんでしたので、その時はまったく興味を持てなかったのですが、プライベートで周りに恋活アプリを使っている人間の体験談を聞いたりしていると、全部が全部いかがわしいものばかりではないようだ、ということがわかってきました。
特に、facebook連携しているタイプのアプリなんかは透明性があってサクラがほぼいないことからちゃんとした恋活をしやすいという声を聞きました。実際iOSの売上ランキングでも恋活アプリの中ではfacebook連携型のものが一番売上が高いようです。ならばということで、ここ数年彼女がいなくてそろそろちゃんと恋をしたいと思っていた私も試してみることにしました。(なお、最初に断っておきますがちゃんとした恋活のための利用になります)
なおわたくし、この手のサービスを利用するのは初めてなので、すでに恋活系アプリを使われている方からすると「何当たり前のこと言ってんの」と思われる内容が多々あるかと思います。あくまで初心者目線ということでご覧いただければと思います。
■いざ、利用開始
実はこのfacebook連携型恋活アプリの存在自体は前から知ってました。facebookを見ているとチラチラ広告が出てきていましたので。「facebookのフレンドには利用していることはバレないよ」という触れ込みも目にしたのですが、うさん臭くて当時は完全スルーしていたものでした。
今回は恋活がてら利用体験そのものを連載に書こうという意気込みでやっているので、バレようがバレまいがどうでもよいということで早速利用開始。
最初は自分のプロフィールを充実させる作業。この手のサービスからすると当たり前のことなのかもしれませんが、自己紹介文を書く際にフォーマットを用意してくれたり、簡単に自分の趣味趣向を伝えやすいようにmixiのコミュニティのような要素があったり、よくできてるもんだなと思いました。
プロフィールを埋めたら次は相手を探すフェーズです。検索条件で自分の好みのプロフィールを設定して検索開始。いい感じの方がいたら「いいね!」ボタンを押して気になってるアピールをするという流れなのですが、いかんせん初心者なので緊張してなかなか「いいね!」を押せません。
すると「いいね!」に踏み切れない時用に「お気に入り」に設定できることが判明。後でわかったのですが、「いいね!」は無制限に送れるわけではなく、一定数を超えると有料になるようです。そこでとりあえず気になったら「お気に入り」に設定。あとでちゃんと「いいね!」を送るかどうかを検討する。という感じでズバーっと見ていきました。
■恐ろしい…! 巧みな課金導線
そうこうしているうちに相手からの「いいね!」が届きます。ここで俄然テンションが上がります。仕組みとしては「いいね!」された相手に「いいね!」を返すとマッチングが成立し、そこで初めてメッセージのやり取りが可能になるようです。
というわけでとりあえず「いいね!」返し。すると早速相手からメッセージが! さらにテンションが上がります。なんて書いてあるのかなーとメッセージを見ようとすると「身分を証明してください」と保険証や免許証の写メを要求されます。「おいおいなんかちょっと危険な香りがしてきたよ…」と思ったのですが、ここまでおおっぴらに展開しているサービスだから大丈夫だろうということで写メを送ります。でも心の奥では「せっかくメッセージが届いたのに見ないわけにはいか… ない!」という気持ちでした。我ながらちょろいですね。
そしていよいよメッセージ開封! と思いきやさらにここで「メッセージを見るには有料会員になってね」のポップアップが!!
思わず「ざっけんな!笑」と心の中で叫びましたがサービス提供側からすればこれも商売ですので、仕方あるまいと心を落ち着けながら料金を確認。
高い!!w 月4100円てなにそれ! 1000円くらいならまぁいいかと思ってたけど4100円は高いよ! というわけでアプリはそっ閉じ。
………
でもまぁ身分証明書の写メまで送っているわけだから、ここで引き下がるわけにはいかんという思いもあるんですよね…… そこで、
課金の方、させていただきました。
実にちょろい。
本当に我ながらちょろすぎますね。
こうやって人々は課金していくんだな、と実感すると共に感心しました。この「片足をつっこんだからには進まざるを得ない」状況を作りだし巧みに課金に誘導していく感じ………実にずるい。
とにもかくにも、「恋活」という本分を考えるとここからが本番のようで、どういった感じでメッセージのやり取りをしていけばよいのか、文章の書き方や心構えなどが重要とのこと。私の熱い恋愛活動「コイカツ!」は今まさに始まったばかりというわけです。
ただし、登録から日が経てば経つほど自分の情報も目立たなくなりますし、「いいね!」を送るには課金が必要、ということでさっさと恋活を成功させないと継続的な課金を余儀なくされるようです。本当によくできた仕組みですね…。
■F2Pゲームとの共通点
この手のサービスには根本的に「怪しさ」「いかがわしさ」を感じるものですが、facebook連携で「安心感」を提供できたことがこの恋活アプリの勝利ポイントだと思います。より安心感を高めようと思えば月何万もかかる婚活サービスもあるようなのですが、それと比べて安価で手軽なところもよかったのかと思います。
そんな安心感から始めた人々に対し、周到な課金導線を用意することで課金に結び付ける。上記で紹介した「有料会員になってね」のポップアップを読むに至るまでの「片足をつっこんだからには進まざるを得ない」感は、手玉に取られながらも、その鮮やかな導線に感服した次第です。
この感覚をソシャゲやスマホゲームに置き換えると、イベント中に出現する「今買えばお得なガチャ」だったり、イベント開始時に配布されるカードを期間中に一定レベルまで成長させると入手できる仕組み、といったものに似ていますね。
ただ、ここで注目したいのが、その課金をするためには「納得感」が必要であるということ。よくわからない効果の見えないものに人は課金しません。F2Pアプリの課金の仕組みの定番であるガチャも最近では確率表記が当たり前になってきましたが、それでも普段F2Pのゲームをやらない人からしたらあまり納得感はないでしょう。多少確率を上げたところで最後は運で決まりますので、ガチャという仕組みそのものに100%納得して課金するというのは難しいと思います。
純粋な時短系の課金であれば効果もはっきりわかりますのでより納得感は生まれますが、そういった課金方法を軸に長く続けていけるようなビジネスに発展させていくのはかなり難度が高いです。
今回この恋活アプリの課金について取り上げたのは、ガチャのように不確定なものに対する課金ではなく、「いいね!を送る回数を増やす」「メッセージを見れる」「検索精度を上げる」「自分をアピールしやすくする」など、目に見えて効果がわかる形での課金方法で、課金に対する納得感が高いと思ったからです。
もちろん、その課金導線はすごくいやらしいタイミングで用意されているので、「悔しい、でも課金しちゃう…!」という感じで釈然としない感じではあるのですが、課金効果については納得感があります。「ほら、課金した方がいいでしょ?」と効果的に提案してくるところが、秀逸だなと思った次第。
最近のスマホ市場は日々タイトルが出てきては消えをものすごいスピード感で繰り返す市場なだけに、継続性が非常に大事になっています。一方で、ファミ通さんがファミ通App No.023/024で実施された読者調査で「一番ゲームをやめたくなる時は?」という質問に「ガチャ」「課金」がTop2を占めるなど、課金に対する納得感が継続性に大きく影響を与えることは明らか。
だからこそ、市場の状況に合わせて課金に対する納得感は日々見つめなおしていかなくてはいけないと思うのですが、ここは本当に難しく、私の担当しているタイトルでも目下の課題となっています。ガチャがスタンダードであることはこの先もほぼ変わることはないのでしょうが、ガチャの中でも納得感を高めていったり、純粋時短や機能開放、弾数補充系、あるいは新たな課金方法によって納得感のある課金による運営をしていくことがこの先生き残っていくための一つの鍵なのではないかと思います。 ではでは今日はこの辺で!
P.S.
恋活アプリ利用開始から一週間以上経ちましたが、今のところ進展しそうな雰囲気はありま… せん!
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第27回「エニックス創業者の福嶋康博さんが教えてくれたエンタメの神髄」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…後編「DeNAが目指す次のステップ」 (岩野)
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」 (安藤)
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは (岩野)
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
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■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
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会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)