KLabのアクションRPG『BLEACH Brave Souls』が好調だ。アプリのダウンロード数は600万件を突破し、アプリストアの売上ランキングでも上位に入る人気タイトルとなっている。何より爽快なアクション性に加え、原作を再現した演出やストーリーが魅力だ。
同社として3Dアクションゲームは初だが、なぜ完成度の高いゲームに仕上がったのか。今回の開発者インタビューでは、爽快なアクション性と、原作の再現性をいかにして実現したかといった作品の魅力を中心に話を聞いてみた。
■コアなファンを上回る確かな知識量も
▲左から松田氏(クライアント開発メンバー)、清原氏(メインプランナー)、住田氏(プロデューサー)、北崎氏(コンテンツマスター)、片平氏(クライアント開発リーダー)
――:本日はよろしくお願いいたします。まず、本作においてご担当されているところから教えてください。
住田氏:ゲームのプロデューサーです。主にゲーム全体の「軸」を考えたり、クオリティのコントロールなどを行ったりしています。プロジェクトの立ち上げ当初から関わっています。
清原氏:メインプランナーです。住田の考えたゲームの軸に合わせて、ゲームの設計やバランスの調整などを主に行っています。2014年4月に新卒で入社しました。
北崎氏:プランナーです。主にモーションやボイス、エフェクトなどキャラクターにまつわるところを全般的に担当しています。私も2014年4月に新卒で入社しました。
住田氏:北崎は、コンテンツマスターと言って、『BLEACH』に最も詳しいスタッフです。ゲームのイベントを考えることにも参加しますが、システムはほぼノータッチです。特殊な立場かと思いますが、ファンの方々がどういったことに喜んでもらえるのか、より楽しく遊んでいただけるかを考える立場です。通常のゲーム開発にはない仕事かと思います。
――:一般的なスマホゲームではなかなかみられない立場ですよね。
住田氏:『BLEACH』ファンのなかには作品に精通している方がすごくいらっしゃいます。そういった方々にもゲームで楽しんでいただきたいですから、コアなファンを上回る知識を持っている開発スタッフが必要になります。この部分は我々としてこだわっているポイントです。
――:ということは、北崎さんは相当作品を見たのですか?
北崎氏:もともと作品のファンなんです。コミックスはもちろん、映像パッケージは、すべて揃えていますし、いずれも通して30回以上見ています。「何話が何の話?」、「何話の何分あたりのセリフはなに?」と聞かれたらすぐに答えられます。
片平氏:私はクライアント側の開発リーダーです。クエストと呼ばれるアクションパートの開発を行う傍ら、開発メンバーが使用するUnityの技術サポートなども行っています。『BLEACH』らしい爽快感やスピード感をいかに実現していくか、というところを注意しながら開発に取り組みました。
松田氏:私は主にパフォーマンスチューニングを担当するエンジニアですが、最近では、パフォーマンス以外にも演出面での品質管理にも参加しています。クリエイティブとエンジニアの中間といった仕事が多いですね。プロジェクトには、住田に入りたいとアピールしていれてもらいました(笑)。あとは個人的にクオリティアップするのが好きなので、自主的に作ったものを組み込んだりしていました。
住田氏:もちろん、実装は私が確認してからになります(笑)。ゲームというものは、仕様どおりにつくっても面白くなくて、自発的に作った要素のほうが面白いことも少なくありません。ゲームバランスを壊さない程度だったら、どんどんやってもらっています。
■「切り心地」を重視したアクションゲームをいかに実現するか
――:まず、どういった開発の経緯があったんでしょうか。
住田氏:当社のゲーム開発の特徴は、プロトタイプを作ってトライアンドエラーをしてから、本開発に入る点にあります。『BLEACH』についても、プロトタイプの開発に半年くらいかけました。ランニングゲームやコマンドRPGなど様々な形を試しましたが、『BLEACH』ファンの方々に愛されるのはどんなゲームかと考えた時、「切り心地」を重視したアクションゲームがいいと提案しました。
アクションゲームといっても、『BLEACH』という作品をお借りするわけですから、「切り心地」だけでなく、原作のストーリーや必殺技もしっかり再現していくことが最良のユーザー体験だと考えました。ゲームを遊んだ時、ついついコミックを読み返したくなるようなゲームをつくりたいと思いました。いくつか出たサンプルの中でもアクションゲームが一番いいと評価してもらい、作り始めることになりました。
――:以前、森田取締役にインタビュー(関連記事)した時、かなりスムーズに進んだというお話でしたが、現場の実感としてもスムーズだったんでしょうか。御社としてこういった3Dのアクションゲームは初めてだったかと思うんですが。
住田氏:進行についてはスムーズに進んだと思います。ただ、実際開発者には苦労をかけました。
片平氏:そうですね。プログラミングやUnityに関して高い技術を持っているものの、若いメンバーが多くアクションゲームに作り慣れていないなどの問題があり、私としては、そういった部分をサポートするように心がけました。私自身もアクションゲームを作るのが好きで、アクションパートでもタイミング系を中心に見ていました。
松田氏:関連してですが、若いメンバーが多かったので、毎フレーム処理をおこなうゲームの実装経験がなかったんです。例えば、敵を切っている最中にデータをロードしてしまい、処理が一度止まってしまうという実装が多く見受けられました。
そこで最初に必要なデータをロードして、プールしておき、使うときに取り出して使用したらまた戻すといった処理を施しました。これによって、アクションパートでバンバン切ってもフレームレートが落ちないようになっています。最初は、アクションパートが15~20FPSで、アクションゲームとして苦しい出来でした。最低でも40FPSは出したいと思い、データのロードだけでなく、描画処理のコードの書き換えなど地道な改善も行いました。
――:フレームレートが落ちないような処理を施したとのことでしたが、それ以外になにか気をつけたことはあるんですか?
北崎氏:「切り心地」という観点からすると、モーションが大事ですね。このキャラクターは、縦から切るのか、横から切るのかといったことを再現するだけでなく、テンポ感が重要だと思っています。あとは刀が相手に当たる瞬間、きちんと相手に当たっていないと気持ちよくないですよね。フレームごとに管理してもらいました。
片平氏:連続攻撃も重視しました。攻撃をする時、キャラクターは、刀を1回振って終わるわけではなく、2回3回4回…と連続して動作して「切る」ことになります。この一連の動作をスムーズに表示するため、アニメーションの切り替えのタイミングの設定や、開発とアニメーション制作双方の調整なども行いました。
あとは、ダッシュ移動でコンボをキャンセルする動作も絶対欲しいと思って入れました。スピード感のある、『BLEACH』らしい戦闘をするために必要です。
――:ところで、若い方が多かったとのことですが、IPとしてはかなり大きな作品ですし、むしろ経験豊富なベテランを割り当てるという考えもあったかと思うんですが。
北崎氏:それも一つの考え方ですが、やる気があれば、チャレンジさせてくれるのがKLabの特徴です。清原と私はお話したように2014年の新卒ですし、2013年の新卒社員もかなりプロジェクトにアサインされました。社内のプロジェクトとしてもかなり若いと思います。
住田氏:実際に接していると、若いスタッフは良いと思います。中途で入ってきた社員ももちろんですが、何かを作りたいという熱い気持ちが人一倍あって、多少曲がっていても進んでいく力が強いです。ゲームを作りたい人に「これをやれ」と作業させるより、本人がなにをしたいという気持ちを大事にしてあげることが重要だと思いました。
■オリジナル要素の導入は「ドキドキした」
――:リリース後ですが、ユーザーさんの反応はいかがでしたか?
住田氏:ランキングもあがっていきましたし、想像以上に受け入れてもらえたと思います。正直申し上げて、アクションゲームは、日本のタイトルでは少ないですから受け入れてもらえるのか、不安だった部分がありました。
清原氏:お客様のゲームの進行も想的な形で進んでくれていると思います。難しいことが好きな人はすごく先まで進んでおられますし、普段は簡単なころで育成して少しずつ難しいことにチャレンジしていく、という方もいらっしゃいます。ゲームとしては、キャラクターを成長させていったら、強い敵にも勝てるようになっていた、というゲームバランスにはなっていると思います。
――:なるほど。ファンから受け入れられたのは、「切る」というアクション要素以外にも、原作の再現性などもあったかと思います。そのあたりで気をつけたところは。
北崎氏:マンガやアニメで見ていて、ファンならばここはほしい、このシーンが好き、といったところは確実に抑えました。そのうえで楽しんでもらうためにはどうしたらいいかを考えました。例えば、「チャド」の覚醒するシーンは、通常よりもリッチな演出になっています。原作のファンのためにクオリティアップしたところでもあります。あとは、黒崎一護が人から死神になるシーンも、アニメのように格好良く仕上がっていると思います。
――:原作を30回以上ご覧になったとのことですが、本当にファンに喜んでもらうものを作るにはそれくらい作品に精通しないとダメということなんですね。
住田氏:久保帯人先生から許諾をいただいているわけですから、そこはしっかりやりたいと思いました。コンシューマゲームと違い、ストーリーが少し断片的になってしまいますが、その切り取り方にも細心の注意を払いました。原作には熱心なファンも多いですから、切り取り方を少しでも間違えるとゲームの魅力がなくなってしまいます。
――:他にこだわったというポイントは。
北崎氏:オリジナルの要素ですね。このゲームにしかないことをやろうということで、キャラクターに浴衣を着せたり、オリジナルストーリーを展開したりもしました。特に浴衣に関しては、アニメではキャラクターは着ていないんです。幸いお客様からも好評でした。
――:オリジナル要素って、怖い部分がありますよね。
北崎氏:少し怖かったです。浴衣の実装後、Twitterなどで浴衣を着たキャラクターのイラストが投稿されているのを何度も見て嬉しく思いました。オリジナルストーリーは、お祭りやハロウィンなどを題材にしたストーリーです。アニメではお祭りは少し出てくる程度ですし、ハロウィンはもちろんありません。あとは必殺技のないキャラクターをどうしようかと悩みました。オリジナル要素は毎回ドキドキですが、総じて好評だと思います。
――:作品愛が深いファンの方もいらっしゃいますから大変ですよね。
住田氏:そういった方々に負けないように頑張っています。チームの中の誰かがより深く考えて知識を持っていないといけません。原作との微妙な誤差が「こんなの『BLEACH』じゃない」と思われる要因になります。
■容量を減らしていかにスムーズに遊べるようにする…エンジニアの取り組み
――:運営やイベント設計で気をつけたところは。『BLEACH』の良さを活かすところ以外では。
松田氏:リリースした時に対応できなかった端末がありました。それはシェーダーが対応してないことが主な理由でしたが、そういう端末を確保して、ひとつひとつチューニングして遊べるようにしたことがあります。
あとは、新規のマップは実装した際、ダウンロードする時間が長い傾向にありましたので、マップデータをすべてダウンロードするのではなく、すでにあるマップ上にデコレーションする機能を追加して、お客様からは新規マップで遊べるように感じられる…といった仕組みも入れました。
片平氏:『BLEACH』はキャラクターが多くて魅力的ですが、ユニークな動きが多く、レアリティ3以上には必殺技が用意されます。なかには変身するキャラクターもいます。そのため、バトルの時、一度に持っておくデータが多くなるんです。古めの端末だと、遅くなったり、遊べなかったりすることが多く、私と松田で協力してアニメーションの見た目を変えずにデータ量を減らすか、といったことにも取り組みました。
松田氏:例えば、あるテクスチャを使っていたとき、部分的にしか使っていなかったら、使う部分だけを切り取って容量を小さくする、あるいはアニメーションのなかで余分なフレームを持っているところを見つけ出して削除するスクリプトも作るといったことです。最初は700MBくらいあったデータも、リリース時には350MB程度まで削減しました。
■自発性を尊重、意見や質問しやすい開発現場に
――:開発現場の雰囲気はどういった形ですか。
松田氏:すごく意見が言いやすいですね。プロデューサーが決定権を持っていますので、誰に相談すれば良いのか明確です。そしてすぐに相談することができます。デザインや企画にしても誰に何を質問すれば良いのかが明確なので、開発側からするとすごく仕事がしやすいですね。
片平氏:『BLEACH』の方向性は、住田が明確に持っていますので、それにそって魅力的にしたり、遊びやすくしたりすることに集中できます。意見があれば、すぐに伝えることができて、すぐに開発にフィードバックしてくれます。間違えているところは間違えているとすぐに指摘してくれるので、作っている側としては安心ですね。
北崎氏:楽しいです。開発やクリエイティブと話をするために、毎日、駆けずり回っていますが、話しやすい雰囲気ですし、なにより質問がしやすいです。入った時はこんな仕事に携われるとは思っていませんでした。
――:…だそうですが、いかがですか?
住田氏:う~ん、ここで言われても嬉しくないですね(笑)。各人がやりたいということは、なるべくやらせてあげるようにしています。また、ゴール地点をできるだけ明確にするように心がけています。気をつけていることはこれだけです。あとは、それぞれの方向性が間違えた時に「そうじゃないよ」と指摘できる状況であればいいですから。あまり細かいところには気をつけていません。
――:自由にやらせるというのは、言うのは簡単ですが、各人が勝手に動きすぎたり、逆に、自発的に動かなかったりすることもありえますよね。
住田氏:そこは若いスタッフが多いことの良さでもあります。これをつくりたいという欲求が凄く大きく、自発的に動いてくれます。作りたいという欲求を「いやこうしろ」と方向転換させてもゲームって良くならないんです。どこがいいのかというポイントを説明してもらって、私はそこで可否のジャッジメントをするだけです。つまり、私は座っているだけです(笑)。
それと、プロジェクト運営で大切なのを完成したゲームをお客様からお褒めの言葉をいただくことですが、開発している途中でも周りから評価しあうことも同じくらい大切です。自発的に作ったものが褒められるとモチベーションがあがりますし、その積み重ねがいい作品となって、お客様に届きます。
■今後の展開 共闘やボイスなども実装したい
――:これからの展開は。
住田氏:お客様がもっと楽しめるコンテンツやイベントを届けることです。今後大きなところでは共闘ですね。みんなでいっしょに『BLEACH』の世界を楽しめるようにしたいです。
清原氏:共闘の機能についてはさらに面白いものにしていきたいです。それ以外にも、お客様からのご意見やご要望を拾って、ゲームを良くする方向にチューニングしていきたいですね。
北崎氏:アニメでも原作でもやっていないことをもっとやっていきたいです。例えば、声優さんにご協力していただいて、ボイスを入れるといったこともやりたいです。
テレビCMでは、黒崎一護の声優(森田 成一)さんにご協力いただいたのですが、お客様からの反響も非常に大きく、アクションパートで新規で録り下ろすといったことも考えています。ゲームを通じて『BLEACH』の世界に浸ってもらえれば嬉しいです。
片平氏:開発側としては、処理の負荷を下げる、バグを減らす、安定化するなど、コンテンツの魅力実現のための手助けをしたいと思っています。あとは、カーブミラーの例もありますが、ゲームのメインとは違いますが、気づきや操作して見つけて嬉しいといった要素を組み込めたらと思っています。
松田氏:チューニングがメインなので、とにかく安定したアプリにしていきたいです。操作性がまだ固いところがあるので、ストレスのないゲームにしていくことが一番の目標です。あとは隠し要素を少しずつ入れていくほか、お客様がずっと触っていたいと思えるようなUIをつくりたいですね。
また、片平が触れたカーブミラーですが、補足説明しておきますと、市街地のステージで「カーブミラー」があります。当初は、ただのオブジェクトでしたが、途中からカーブミラーにキャラクターが映るように変更を加えました。気づかなくても困らないような、ちょっとした隠し要素です。
それを発見した方がTwitterなどで喜んでいただいたり、拡散していただいたりして、すごく嬉しかったですね。今後のステージでも、こういった発見や面白い要素が何かあるのではと思って遊んでくれると思えるといいですし、ゲーム内にも取り入れたいと思っています。
――:あと、これから海外もありますね。
住田氏:そうですね。『BLEACH』は海外でも人気のある作品ですし、待っていただいている方も多いので、なるべく早く出したいです。とはいえ、国内でもまだやっと出せたという状態であることに変わりはありません。多くのお客様に楽しんでいただていることは嬉しいですが、『BLEACH』でやりたいことはまだまだありますし、ゲームも運営ももっと進化させていきたいと思っています。
――:本日はありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
■KLab
■『BLEACH Brave Souls』
会社情報
- 会社名
- KLab株式会社
- 設立
- 2000年8月
- 代表者
- 代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3656