■第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」
今回は、ゲーム業界で働く上で、そもそも、
どんな環境を選択するのがいいのか?
という観点から論じます。これは、決して、学生に限った話ではなく、社会人が転職を考える際にも言えることだと思います。そういう意味でもプロ・アマ問わずです。
~どんな長所、短所…つまりは特徴があるのか?~
わたしは、現在、全国の大学や専門学校をまわって講演をしていますが、学生さんには、根強い大手パブリッシャーさん、コンシューマゲーム開発会社さんへの「信仰に近い志望」が非常に多く見受けられます。ちなみに、コンシューマ系のパブリッシャーさんを志望することがNGなのではありません。誤解なきようw
確たる理由があって志望しているのであれば、どんな選択をしても本人の人生なので、なんら問題はないんです。ただ、たいていの場合は、
①自身が触れてきたゲームがそうだから
②大規模ゲーム、やりごたえのあるゲームがつくりたいから
③ほかを知らないから…
みたいな理由が多いです。①と③は、ほぼほぼ、同じ理由ですけどね。
極論、自身が知っている中から選ぶというのは、なんら問題ありません。ただ、その幅が狭すぎないか? ということですね。あなたが仕事にしたいことは、仕事に求めたいことは、いったいなんなのか? です。ゲームクリエイターの欲求は、
自分が面白いと考えるゲームをうみだして、世の中の人に遊んで欲しい!
ではないのか? と思います。そうなった時に、プラットフォームやデバイスで対象を切ってしまうのは、非常にもったいなくはないか? ということですね。
また、大規模ゲーム、やりごたえのあるゲームという②に関しても、もはや、スマホは、PS2~3くらいのことはできてしまう時代にきており、あと5年たったら、果たしてどこまで何ができるか?想像できませんw
そうなると、入口の段階で門を狭くしてしまうのは、非常に危険であると同時に、もったいないということになるかと思います。
ここでいくつかの切り口で比較して考えてみましょう。
■比較その① コンシューマ パブリッシャー と コンシューマ デベロッパー
すべてのゲームがそうだとは言いませんが、コンシューマのパブリッシャーでは、
・自社開発(内製開発)
・協力会社との開発(外部開発)
と、2種類の開発ラインがあることが多いです。
まず、新規技術の開発や、ハイエンドなど工数、労力のかかる開発に関しては、内製開発で行うことが多いです。開発して、自社に経験値やノウハウを残したい、次につないでいきたいので多くの自社社員にやらせるために、内製開発という手法をとります。もちろん、それ以外にも理由があることはありますが(契約上、コンフィデンシャルな項目なので、中でやるしかないなどもありますし)ここでは、「経験・ノウハウを残す」という企業、個人を成長させるために紐づく観点からのみで話をします。
なので、中の社員の人数を多く使うこともありますし、期間もかかることが多いです。ただ、繰り返しになりますが、新しい(先端)or大規模プロジェクトにふれるには、非常によいチャンスです。
それに対して、パブリッシャーも、足元を固めないといけない、つまりは事業を安定化させないといけないのは、当然なことです。そうなると、チャレンジングな大規模自社開発だけをしているわけにはいかないのです。また、長期に開発が及ぶようですと、その年、その期に売上をつくることができません。企業は、社会貢献するために存在もしていますが、その前に利益を追求する組織であることもまた真理ですから、長期に及んで売上がないのは、非常にまずいのです。
そのためにも、やや小規模なもの(例:携帯ゲーム機やスマホアプリなど)や、シリーズもので安定開発ができそうなものを、協力会社さんにお願いして、外部開発することがあるわけです。
それを受託して、開発されるのが、デベロッパーだということです。
なので、デベロッパーは、
・いろんな会社さんの仕事を受託して開発される
・パブリッシャーに比べれば、比較的短い工期のものを求められる
ということが多いです。もちろん、デベロッパーでも、自社開発をされている会社さんもありますし、大規模なのものを受託されている会社さんもありますので、全部がこれで言い切れるわけではありませんが、比較的この傾向があるということです
<まとめ>
■パブリッシャー
長所: 先端技術の開発に携われる
長期開発してもいい、トライ&エラーに時間かけて臨むことができる
短所: やはり、1つ1つの開発工期が長く、評価を受ける頻度が減る
大規模プロジェクトが多く、大勢の中の1人で仕事を進めないといけない事が多い
■デベロッパー
長所: 開発工期が短く、短いスパンで評価を受けられる
いろいろなカルチャーの会社の仕事を経験できる(幅が広がる)
短所: 受託開発が多く、新規、先端からは、やや遠い傾向がある
と、ともに長所短所があるわけです。
これは、新卒で入社する際にも、中途で転職する際にも、よくよく、考えないといけないことだと思います。また、これは大きな区分けでしかないので、この中に、さらに各社の特徴があるわけですね。なので、就活の段階では(新卒、中途)このPros/Consどちらもあることを念頭において、いろいろな企業を受ける必要があるわけです
■比較その② コンシューマゲーム開発 と スマホアプリ開発
次に、比較その②として、コンシューマゲームとスマホアプリの開発の比較をしてみましょう。コンシューマゲームは前述したようなところがありますが、この2つの比較は以下の観点においてしたいと思います。これまでの活人研でも、ゲームクリエイターにとって、
「成長とは、自身のやった仕事を他人の目にふれさせて評価され、振り返り、Next Actionを起こしていくこと。そして、その頻度が数多くあることが大事」
ということを説いてきたと思います。この観点で、上記のパブリッシャーとデベロッパーの比較でも長所短所のところに「開発期間」を記載したわけです
コンシューマゲームは、特に、ハイエンド機と呼ばれる、携帯ゲーム機ではないソフトの開発は、シリーズものでよほどこなれたもの、システム化されたものでない限り、1年で開発をすることは難しくなってきています。また、新卒であっても中途であっても、「新たな環境」で大きな責任と権限を得るためには、まずは、信用を勝ち取らなくてはいけません。そのためには、評価されるタイミングが近いほどいいですし、頻度も多い方がいいわけです。そうなってきたときに、2~3年開発期間がかかり、大規模プロジェクトで、自身の貢献度合いや、自身の取り組みに対するユーザさんたちからの評価を受ける実感も少ない環境というのは、やや厳しい側面があると思います
それに比べて、スマホアプリの開発は、新規開発においては、コンシューマゲームほどはチームメンバーの数も多くないので自身の責任範囲は大きく持つことができますし、開発期間に関しても、1年前後でできるものは、まだ多くあります。また、最大の違いは運用の存在だと思います。毎月なにがしかのイベントを開発⇒実装⇒リリースしていく=運用していく、このサイクルを繰り返していくことができます。
これは、上記の「世に問う経験」を毎月1回、レベル感は別にして行うことができる!ことを意味します。また、コンシューマに比べて、サーバでのデータを見ることや、B to B to Cである、コンシューマに比べて、事実上、B to Cであるスマホアプリは、ユーザさんの意見や動向、イメージを素早くキャッチすることができます。つまりは、評価をよりダイレクトに感じることができるわけです。もちろん、良い評価ばかりではありませんので、心して仕事に着手しなくてはいけませんが…。ただ、改善して、追加コンテンツを提供した時にも、その反応の変化を素早く確認できるのも、これまたスマホアプリの特徴です
ただし、スマホアプリは、スマホというデバイスの限界があります。
描画がどれだけできるようになったといっても、PS4ほどはまだまだ難しいところがありますし、どこまでいっても、パッドによる接触感のある操作デバイスにはなりえません。(なにかをアタッチするとかは除きます)ただ、自身の開発したゲームを遊んでもらうのに、ハードから購入してもらわなくてもいいというメリットもあります。
まとめますと…
■コンシューマゲーム開発
長所: 先端技術の開発に携われる
パッドなど「さわる」ゲームの感覚や細かい操作を要求できる
短所: やはり、1つ1つの開発工期が長く、評価を受ける頻度が減る
大規模プロジェクトが多く、大勢の中の1人で仕事を進めないといけない事が多い
B to B to Cで少し、ユーザさんが遠い
■スマホアプリ開発&運用
長所: 開発工期が短く、短いスパンで評価を受けられる
運用があるので、毎月1回、世の中の評価を受けられる
B to C でユーザさんとの距離が近い
短所: 表現力に限界があり、且つ、操作にも限界がある
などがあげられます。
こう考えていくと、新卒採用で学生さんが企業を探し、選ぶときも、中途で社会人の皆さんが企業を探し、選ぶときも、これらの長所、短所を鑑みて、ちゃんと分析しなければいけないということです。特に、「いま」というタイミングがそういうタイミングにあると思っています
4つの大きなベクトルがあるので、そこを理解した上で、自分はどの方向に進むのか? それをしっかり考えて、意思決定していただきたいと思います。ただし、受ける前に決めてしまうのではなく、受けてから決めてくださいね! 情報は、それほど、開示されていませんので実際に、各企業さんと話をすることが一番の情報源だと思いますので!!
今年最後の活人研ですが、最後にまとめ…
「新卒、中途かかわらず、自分の目で企業の長所・短所を見定めましょう!」
⇒ 受けてみなきゃわからない、幅を狭めない!
「見定める際のキーワードは「成長」」
⇒ 自分だけでは努力できないもの(環境・人)があるのは、どの会社か?成長を軸に検討しましょう!
です。人間、1人1人に長所短所が必ずあるように、企業、組織もそうです。そのうえで、「自分がその組織に如何に貢献するか?」と同時に「どんな成長をそこで成し遂げられるか?」が大事な企業選びの軸になるとおもいますし、いまは、それが非常に大切な時期であるということです。
それでは、今回はこれまで!
本年はありがとうございました。
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また、来年お目にかかりましょう!
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■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
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会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432