■第十一回「ハッカソンの功罪」
みなさま、遅ればせながらあけましておめでとうございます
活人研、今年もよろしくお願いいたします
さて、今回は、ちょっと過激なタイトルではありますが、2016年最初の話題として
ハッカソン
についてお話したいと思います
ゲーム業界におけるハッカソンといえば、Global Game Jam がまずはあげられると思います。世界各地で同時に開催される、ゲームハッカソンの一大イベントで、プロ・アマ問わず参加して48時間で、1つのものを組み上げる!というものです。
プロは、仕事では開発することのできないもの(ジャンル、ガワ、遊び心地など)をつくるチャレンジができますし、学生は、そもそも、プロと一緒に仕事ができるというのも大きな勉強ですし、他校の学生と交わることができることも非常に有意義なことだと思います。
それよりなにより、学生はともすれば、学内に閉じこもりがちで、外に一歩を踏み出そうとしません。それで、就職活動の時になって初めて外に出る、となるとそれは、緊張もあるでしょうし、そもそも、不慣れな状態では力を発揮することも難しいでしょう。ですので、就活のためにも、社会人と話ができる、つまりは「おとなに触れる」ことができますし、学校の外にでて活動するという社会性を高める行動でもあるわけです。単にゲームを開発するというだけでなく、そのほかにも得るものが多いイベントなのです。
さて、ここからが本題です。やや過激なことを言うかもしれませんが、あしからずw
まず、大前提として、わたしは、ハッカソン自体は、肯定しています。
それは、特にゲーム業界を志望する学生さんにとっては非常に有益な側面をもっていると考えています。
大学生、専門学校生はもちろんのこと、さらにそれよりも若い、高校生、中学生においてさえも有益だと考えます。つまりは、
「ゲーム業界を志し、将来はゲームクリエイターになりたいな…」
と、なんとなくレベルでもよいので思ってくださった学生さんたちに、貴重な体験を提供することができると考えるからです。
なぜならば、ゲームクリエイターという職業を志すきっかけは、大抵の場合、ゲームを作った経験からではなく、ゲームを遊んだ経験、プレイヤーとしてゲームにふれた経験からくることが多いからです。
プレイした ⇒ 面白い ⇒ こんな面白いものを「遊ぶ」ことを仕事にしたいな!
とは、なかなかならないですし、そもそもプロゲーマーの皆さんの登場は、まだ最近のことです。ふつうに考えれば、ゲームを「つくる」ことを仕事にしたい! と考えてくれるわけです。しかし、今でこそ、Unityなどゲームエンジンを簡単にさわることができる時代になったので、やろう! と思えばできなくはない時代になりましたが、一昔前までは、紙と鉛筆で、ボードゲームもどきをつくることくらいしか、「つくる」という行為を試すことはできませんでした。
前の岩谷さんの対談インタビューでも、若かりし頃、競馬をモチーフにしたスゴロクもどきをつくったことがある、とおっしゃっていました。かくいうわたしも、F1が大人気であったときに、F1をモチーフにしたスゴロクのようなボードゲームをつくって遊んでいました。スタートがあり、ゴールがある、その中になんらかの駆け引きが包含されているものをモチーフにすること、且つ、ボードゲームであるからこその面白さ、手触りをそこに追加して、子どもなりにつくってみる、というのをやっていたと思います。
その結果、体験として、
・自分なりに創意工夫してゲームをつくる
・周囲の友人と遊んで、課題をあらいだし、改善していく
⇒まあ、正確には、気づいたところから修正していくのですけどねw
というものをしていたと思います。ユーザ評価も少ないながら受けていたと思います。このレベルの経験は、今でもできるとおもいますし、個人でつくるという観点から、アナログゲーム、ボードゲームである必要は無く、それこそ、Unityとかで手軽に動くものをつくってみるのもやられている方、多いと思います
そこまで自分で一歩を踏み出せる方は素晴らしいと思いますが、ほんのひと握りの方だと思います。そんな中、GGJをはじめハッカソンが流行るようになったことで、より大勢の方が、受動的にではありますが、
「ゲームをつくるって、こんなに面白いんだ!」
という、初期体験を経験することができるようになりました。もちろん、面白いだけじゃなくて、苦しいことも、うまくいかないことも山ほど発生するでしょうけれど…そこも含めてゲーム開発ですし、その中で創意工夫するから、楽しいのです。
ただ、ここで注意していただきたいのです
わたしが推奨する、ハッカソンのターゲットユーザと効能は、
【タイプ①】
ターゲット:ゲーム開発経験のないor少ない アマチュア
効能:まずはゲーム開発(の入口)を経験すること
【タイプ②】
ターゲット:ゲーム開発経験はあるが、1人でしかつくったことがないアマチュア
効能:短時間とはいえ、グループで役割分担してのチーム開発を経験すること
【タイプ③】
ターゲット:ゲーム開発経験はあるが、アマチュア同士でしかやったことがないアマチュア
効能:GGJや、企業主催のハッカソンで「社会人と一緒に」開発を経験すること(レベルアップにつながる)
【タイプ④】
ターゲット:普段、業務では開発できないゲームのアイデアがあるプロ
効能:新たなチャレンジをインティーズ的に実施すること、ストレス発散w
【タイプ⑤】
ターゲット:やや現在の状態に行き詰まりのあるプロ
効能:ブレインストーミング的に活用
というような感じになります。まだあるかとは思いますが、まずは、ざっとあげてみるとこんな感じです。とりあえずで考えてみて、これくらいのターゲットや効能が、スラスラとあがってくるのですから、ハッカソン自体の効果や価値というのは、非常に高いことがご理解いただけると思います。
功罪という観点でいえば、ここまでは「功」の部分にあたります。
では、ここからは「罪」といいますか、ハッカソンを過信してはいけない部分について書きます。
実はすでに、そのヒントとなることは書いてきているのですが、端的に言えば、
「ターゲット外の人が、ハッカソンを必要以上に繰り返すこと」
です。ちなみに、今回はプロを対象外として話をします。プロにはプロの考えがあるでしょうし、どこまでいっても自己責任ですし、プロ・アマ問わず、他社やふだんあまり絡むことのない人と出会う可能性があります。ましてや、その人たちで一緒にゲームを開発するという体験は、なかなかできるものではないです。また、情報交換という目的で参加されている方もいらっしゃると思います。これもNGではありません。少なくとも、すでにみなさん「プロ」なのですから。
ただ、学生、アマチュアに限っては、必ずしも必要以上にやることを肯定できません。
ハッカソンは、短時間で
・おおまかなサイクルをなぞる
・チーム開発
・自分というものをある程度主張する
などなど
を学ぶことはできますが、どこまでいっても、
・プロトタイプ以下
のものしか開発できません。なぜならば、絶対時間が不足しているからです。
でも、だからこそ、誰でも気軽に参加することができるわけです。チームでものごとを成すことは、非常に楽しいことです。わたしも、そもそも、ゲーム業界を目指したきっかけは、学生時代のグループワークでした。1人でない、集団でなにか1つのことに立ち向かい、ケミストリーが生まれ、自分だけでは考えつかなかったものにたどり着けたとき、その喜びは、大きなものがあることは理解しています。
ただ、そこにスキルアップは、あるのか? ということです。もちろん、「ハッカソンに初めて参加した人」は、学びは多いと思います。プロからの指摘や、うまくいかなかった時のふりかえりでも、かなり得られるものがあるはずです。なので、
2,3度ハッカソンに【タイプ①】の方が参加することは非常に良い
ことだと思うのです。ただし、ちゃんと毎回「参加しての振り返り」をして「次のハッカソンでクリア、挑戦したいこと」をまとめてから、参加しないと意味がありません。
もちろん、繰り返し参加することで、レベルアップできるスキルもあります。
①ハッカソンを効率よくやるスキル
②知らない人たちの前に、人前にでることに慣れるスキル
です。②は、意味があります。繰り返しになりますが、特に、東京と大阪といった「ゲーム会社の多い地域」に住んでいる学生ではない、それ以外の地域の学生さんは、どうしても、一歩出遅れるところがあります。それは、この「人前に出る」経験が少ないからだと思います。就活の時になって初めてこの経験をするようですと、確かにエントリーも一歩遅れるでしょうし、面接にいっても一歩引いてしまう感じがでてしまうかもしれません。そのためにも、人前にでることに慣れる経験は積んでおいたほうがいいでしょう。このために特に企業の方が参加されるハッカソンにでていくことは、いいことだと思います。
ですが、①は、ほぼ意味がありません。ハッカソン自体を選考に活用されている企業さんのみを受験するならばいいとおもいますが、ハッカソンをうまくやり過ごせるようになっても、ゲーム開発の本質には近づけないからです
・時間が絶対的に不足している
⇒考え抜く、コンセプチュアルにものを考えて、それを論理と感性で裏付けていくことが困難
⇒構造を考えて、「おもいついたままつくる」のではない、設計意識を持った開発がしづらい
・チーム作業の良さまでたどり着けない
⇒メンバーが選び抜かれた人員でやらないことで、まずは、プロトタイプをつくる感じになること多い
⇒初めての人と集団でやるがゆえに、コミュニケーションの部分にコストを割く必要がでてくるから
・スクラップ&ビルドができない
⇒これが、一番致命的です。ゲーム開発はこの繰り返しです。試行錯誤があってよきものに近づいていきます。なぜならば、「正解のない」ものをつくっているからです。なので、試してみないとわからないことも多くあるのです。ですが、ハッカソンでは、さすがにそれをしている時間はありません
・短時間ゆえに、変に達成感がある
⇒達成感は、あってもいいです。ただ、何も成し遂げていないことを自覚して頂ければいいんです。やりきってないんです。物理的な、定められた「時間」を過ごしたこと以外は…
※ただし、時間(納期)を意識した作業をすること自体は、いい経験です
まだまだ、あげていけばキリがありません。ただ、言えることは、ハッカソンを経験することは貴重だが、2度、3度、しっかり振り返りをして参加したら次のステップにいかないと時間がもったいない、ということです。
ハッカソンは、短時間で、なにか、それっぽいものができあがります。
そして、終わります。
上記した、経験をいくつか積んだら、次は、
Stage 0: ハッカソンなどに参加して、「ゲーム開発って面白い!」というエッセンスに触れる
Stage 1: 企画立案から、しっかり考えてみる(HEAT devやHEAT art のようにプロトをいきなり、ではなく基礎を踏まえたうえで、プロセスをしっかり踏む)
Stage 2: 1人で1~2ヶ月で、なにかゲームをつくりきる
Stage 3: 3人以上で3ヶ月くらいで、なにかゲームをつくりきる
と、ステップを踏んでいかないといけないのです
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ハッカソンのところで止まってしまうと、なんとなく楽しいプロトをつくって、おしまい、みたいなのを繰り返していくことになり、いまだとUnityがいろんなことをしてくれてしまうので、自分で本当に何を考え、設計し、こだわり、ものを作り上げていくか? がどうしても不足してしまいます。
そして、企業は、Stage0や1のあたりの人でも「ポテンシャル」をみて採用をしなくはないですが、本来は、ポテンシャルではなく、実力として、Stage2の後半から3に差し掛かっている方を採用したいので、活人研の第一回でもお話しましたが「採用したいが、なかなかいい子がいない」となる、つまりは、
需要と供給のレベルがあっていない
ことにつながってしまうのです。ただ、これは決して暗い話だけではありません。ハッカソンが隆盛となってきたのは、まだこの1,2年の話です。それまでは、こういったものが、そもそも、なかったのです。つまり、Stage0にすら、登れていない学生さんが多数いたわけですね。それが、システムといいますか、環境といいますか、こういう取り組みが増えてきたことで、ゲームクリエイターとしての成長、経験を積むことに、ハシゴがかかったのは間違いないのです!
なので、ここからは学校の先生方に読んでいただき、気をつけてほしいのですが、
早い段階で、Stage0を経験させ
次にいかに、Stage1~3を実行させるか?
を考えていただけるといいと思います。もちろん、学校を頼らず、自分たちでも業界を志すならば、学生さんたちも、考え、行動し、やりきる! ことは非常に大事だと思います。
新年、一回目の活人研でしたが、未来にむけて、明確にステップを踏んでいっていただきたいので、いま思うことをハッキリと口にしてみました。
今回は、これまで!
■若手ゲームプランナー育成塾『座・芸夢』 第8回開催(1/26)
■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
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会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432