【上期総括】CyberZ山内社長インタビュー「e-Sportsは今後日本でさらに発展するための地盤作りの段階」



スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016年上期振り返り」。今回はCyberZの山内隆裕社長にインタビューを行い、e-Sportsを中心に同社の取り組みと市場動向を振り返ってもらいつつ、下半期の展望について語ってもらった。



――:e-Sports市場の上期を振り返っての感想をお願いします。

e-Sportsは当社のメイン事業にするために取り組んでいますが、まだ初歩的な段階です。e-Sportsという言葉を聞く機会は増えてきてはいると思うのですが、まだ知名度も低く、市民権を得ているようには思えませんし、エコシステムに関してもそれだけで生活している人はほんの一握りで、もっともっと増やしていかないといけません。あとは、当社で運営している大会やその模様を配信する動画サイト(OPENREC.tv)の規模も急速に拡大はしているものの、まだまだ大きいとはいえません。

こうしたなか、今年1月にはじめての「RAGE」を開催したとき、e-Sportsのポテンシャルを改めて感じました。当社の運営は改善が必要な点も多いですが、瞬間風速的に会場のボルテージが盛り上がる感じは、野球やサッカーなどいわゆる本当のスポーツと同じような雰囲気があります。会場に足を運んだ人にしかわからない興奮があり、エンターテイメント性を追求すればもっと面白くなると感じました。課題は沢山ありますが、やってよかったと思います。



――:拝見して、スポーツ会場に似た、独特の盛り上がりがあるなと思いました。

「RAGE」に関しては様々な方からご意見や感想をいただくことが多かったのですが、実際に現場で見た方とそうでない方では感想が違いました。会場にお越し頂いた方からは、生の盛り上がりを感じられたというご意見が多く、OPENREC.tvやイベントレポートで見て頂いた方からは演出など大会全体がスタイリッシュですね、と言われました。


――:さきほどエンターテイメント性を高めていきたいとのことでしたが、もう少し詳しく教えていただけないでしょうか。

前回の「RAGE」ではファンが喜ぶようなサプライズゲストの登場や、フォトセッションでコスプレの演出も用意しました。コスプレでは実際に写真撮影をしている方が少なく、もっと撮影しやすい雰囲気にする必要があったかなと思っています。また、ファンならばグッズが欲しくなるので今後は物販も必要だと考えています。そしてなによりも会場で伝わった興奮を動画視聴者にダイレクトに伝わるようなカメラワークなど、もっと研究したいと思います。会場も全席座席でしたが、立ち見席なども用意しておいても良かったかもしれません。

課題をあげるとキリがありませんね。今回は反響も大きく十分な成果があったと思いますが、良い意味でも悪い意味でもひねりは少なかったです。最後はサプライズゲストにInvincible Armadaが登場して非常に盛り上がりました。わかりやすい展開だと思いましたので、次回はもっと驚きを演出したいですね。

 


――:将来から見て、今のe-Sportsの状況をどう位置づけておられますか?

今後日本でさらにe-Sportsが発展するために、今は3年後、4年後を見据えた地盤作りの段階です。プロで稼げるチームやエコシステムができて、それを露出する動画サービスが普及し、「RAGE」のようなリーグが広がることが条件ですが、いずれもまだ他スポーツ競技と比べると地盤作りの段階だと感じています。それぞれを規模化してシナジーを生めるようにすることが大事ですので、4年後はそれなりの規模にしていきたいですし、僕らでできる貢献はもちろん、業界全体でやれることがあれば取り組んでいきたいですね。


――:拡大に関しての戦略はどういったお考えでしょうか。

そうですね。簡単ではないですが、総張りで伸ばしていきたいと思います。e-Sportsは、動画メディア、大会、プロ選手の育成という3つの要素が相互に関連して伸びていくものだと考えています。例えば、動画メディアが普及していくと、そのメディアを通して活躍する選手が配信して収入が得られるようになりますので、エコシステムが生まれます。そしてファンとのコミュニケーションも増えるようになるでしょう。大会を成長させ動画メディアに出すことで、メディアがハブになることができます。そこらが伸びていくと、すべてが良くなっていくと思います。局所的にどこかを伸ばそうとしているかというとそうでもなく、全体的にバランスよく伸ばしていきたいですね。


――:OPENREC.tvについては。

世の中に出していますが、僕らの開発の満足度は初歩という状態です。というのは、ユーザー同士のコミュニケーションがとれる機能がなく、インタフェースについても一覧性が少ないです。ライブ配信の本数もまだ少ない状況です。内部のKPIをみていると、DAUや視聴数は想定を上回る成長をしている状況ですが、決してうまくいっているとは思っていません。目標を高く置きながらも粛々とやっている状況です。


――:OPENREC.tvは、だいぶ活発になっているように見えますが。

国内でゲームに特化したところでは少しずつ存在感をだしてきてはいると思うのですが、まだまだです。OPENREC.tvをどういう風に使ってもらいたいかと考えた時、このゲームに詳しくなりたい、この配信者が好きといったところが動機になると思うのですが、毎日来たくなるのはどういうことかと考えた時、ゲームの好きな人に使ってもらう機能として、コミュニティの活性化が大きいと思っています。

例えばウイニングイレブンをやっていたとして、ウイニングイレブンのコミュニティがOPENREC.tvにあったとします。ユーザーの方の中には、ゲーム動画目当てではなく、情報交換などコミュニティ目当てでいらっしゃる人がいてもいいと思うんです。これまでは開発の優先順位として、動画の品質を高くすることにリソースを割いていましたが、これからコミュニティに関する機能も充実させていく予定です。

また、希望する配信者の方全てに配信していただくことができていません。現状は、当社が一部の方に配信者権限をお渡ししている状況で、一般の人にもっと開放していくといったことも必要です。さらに、ランキングに応じてトラフィックが増えるようにしてあげることで、配信者のやる気を高める取り組みなども今後取り組んでいきたいです。


つまり、やりたいことがいっぱいある状況なんです。優先順位の高いところは年内にやって、内部のKPIをクリアし、多くの方に知ってもらえるようにプロモーションもやりたいと思っています。


――:日本以外のe-Sportsの状況を教えて下さい

海外では、日本よりも熱狂的な盛り上がりとなっているところが多いですね。賞金でいくと、億単位の大会が数多くあり、その金額はマスターズと同規模のものもあります。また、最近はスペインのサッカーチームのバレンシアCFがe-Sports部門を設立したというニュースもありました。日本については、ゲームにはよっては競技者のレベルが世界的に見ても高いジャンルもあるので、世界的な流れと無縁とは考えづらいです。少しずつ海外の市場に近づいていくと見ています。


――:日本が遅れている理由はなんだと思いますか?

いろいろな要因があるので難しい質問ですが、私が考えるには、伝統的にコンソールゲームの影響が大きく、ゲームは一人で遊んだり家でみんなで遊ぶものだという観念が強く、オンラインで対人戦をやることに対して抵抗があるのかもしれません。

しかし、ソーシャルメディアやスマホの台頭で、配信されているゲーム動画が出てくると自分もやりたいと思う方も増えていますし、マルチプレイのスマホゲームが台頭して、不特定多数の人と一緒に遊んだり対戦することに慣れてきているのではないでしょうか。つまり、日本も徐々に変わってきています。



――:スマホゲームでも対戦やマルチプレイを入れるものが増えてきましたし、対戦への抵抗もそんなになさそうですよね。

同感です。私が子供の頃もそうですが、ゲームセンターで見知らぬ人同士が格闘ゲームで対戦することはよく行われてきましたし、そして、それを見物する人も少なくありませんでした。対戦への抵抗は少ないように思います。その仮説が正しいとすれば、作っている会社がオンラインゲームを作っていけば、もっとユーザーに受け入れられるでしょうし、いろいろな会社にヒアリングしてもそういったゲームに注力しようとしています。今後e-Sportsは、日本でもゲームとユーザーをつなぐ重要なポイントになるのではないかと思います。


――:一般からの知名度UPに必要なこととしてどういったことがあるでしょうか。

例えば、誰もが知っているようなスター選手がまだいないので、そういう方が必要かもしれませんね。メディアに取り上げられやすいテーマだと思うのですが、ゲームを通して生計を立てることが世間から十分に理解が得られていません。また、日本ではゲーム大会ってオタクっぽいという誤解もあるかと思います。スポーツとして成り立っているのだという認知も一般的にはされていません。


――:ゲームの大会については一般受けを狙うのならば、見栄えや格好良くする必要がありますよね。

当社の場合は、決勝大会にでる選手やチームに1つずつ「RAGE」のユニフォームを用意して着てもらっていますし、ファンから目標にされる人になって欲しいです。煽り動画を撮影するときにはスタイリストもつけましたが、次は大会の時にも付けたいと思っています。こういってはなんですが、実力者の中には、見た目を気にしない方もいるんです。それがいけないというわけではないのですが、やはり格好良くしていたほうがスポンサーの話も来るでしょうから、演出上も格好良く見せられるようにしています。e-Sports自体が市民権を得られるような方向性にしたいと思っています。パブリックイメージといいますか、e-Sports全体にマイナスにならないようにひとつひとつしっかりやっていきたいです。


――:それでは下期の見通しをお願い致します。今後の市場としての成長イメージや、業界が発展していくための課題はどういった点にありますか。

e-Sportsの市場がものすごく成長するかというか、保守的に見積もってもそうでもないのでは思っています。というのは、市場規模そのものは、競技者の人口やゲーム数に比例して伸びていく傾向がありますので、タイトルが増えると市場も伸びるでしょう。

「RAGE」だけをみると、『Vainglory』だけでなく、『ストリートファイターⅤ』も採用しますので、観客動員については前回の6倍、立ち見も合わせて10倍近く狙いたいと思っています。すごい伸びになると期待しています。

日本では、e-Sportsとして成り立っているタイトルがまだ少ないので、そういったタイトルが出てくると市場もさらに伸びるのではないかと思います。

 


――:御社としての取り組みは7月のRAGE以外にはありますか?

いくつか考えています。年末年始あたりにスーパーグランドファイナルのようなものをやりたいです。その間にもう一度、「RAGE」をやる可能性もあります。そこではMOBAと格闘ゲーム以外に新規タイトルもやる予定です。こちらはあっと驚くような有力タイトルとお話を進めています。新たな競技タイトル以外にも大きな仕込みがありますので、ぜひお楽しみに。


――:7月のRAGEの見どころは?

7月30日がVaingloryで、31日には『ストリートファイターⅤ』の大会が行われます。『ストリートファイターⅤ』については、先日カプコンプロツアーのプレミア大会「CEO 2016」で優勝したときど選手や、かずのこ選手といった強豪選手も出ますので、非常に盛り上がるのではないかと思います。先日別の大会を実施しましたが、英語でも配信を行い、世界中のユーザーからアクセスがありましたので、今回も英語対応のライブ配信を用意しています。また前回のRAGEに続いて、新しい公式テーマソングも出します。こちらは最近注目を集めている、A応Pさんにお願いしています。7月30日、31日のグランドファイナルでは前回の大会を越える演出を考えておりますので、是非ご期待ください。

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――:ありがとうございました。
株式会社CyberZ
https://cyber-z.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社CyberZ
設立
2009年4月
代表者
代表取締役社長CEO 山内 隆裕
決算期
9月
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