【上期総括】グリー荒木英士氏が語るネイティブアプリ業界の動向とVR市場の現状「ネイティブは総合力が問われる時代に」「VRは市場の確立を」

 

スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2016年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2016年上期振り返り」。今回は、グリー<3632>の取締役 執行役員である荒木英士氏にインタビューを行い、上半期のネイティブアプリ市場の動向や、VR市場への取り組み、さらには下半期へ向けての展望について話を伺ってきた。
 
 
――:まず始めに、2016年上半期のゲームアプリ市場を振り返ってどのような印象を持たれましたか?
 
より「総合力」が問われる時代になっていると感じました。企画・開発の段階からマーケットを見据えてジャンルやゲームデザイン、モチーフ、IPなどを組み合わせて、品質の高いプロダクトを提供しているなと。全体のクオリティが上がってきているので、弱点がないタイトルしかヒットしなくなってきた印象があります。そうなると当然、開発規模は大きくなりますし、マーケットがあるところにしっかりと良い人材や予算を投下するという正攻法の戦い方になってきたのではないでしょうか。
 

――:具体的に気になられたタイトルはございますか?
 
ここ1~2ヵ月だけを見ても、Happy Elementsさんの『ラストピリオド - 終わりなき螺旋の物語 -』(以下、『ラストピリオド』)や、コロプラ<3668>さんの『ドラゴンプロジェクト』、Cygamesさんの『Shadowverse』など、ヒットしているタイトルはどれも奇抜なことをしているというより、オーソドックスで面白いゲームデザインを高品質に仕上げ、魅力的なアートやIPを乗せ、運営に至るまできちんと準備された状態でリリースしているのを感じます。日本ではランキング上位にIPタイトルが多いように見えますが、そればかりでは閉塞感が生まれてしまいますし、先ほど挙げたタイトルのようにノンIPの新規タイトルでも良いものを作ればランキング上位に食い込めるというのは良い傾向だと思います。
 
海外の動向としては、3月にリリースされたSupercellの『クラッシュ・ロワイヤル』は非常に勢いがありましたね。同社の人気タイトルである『クラッシュ・オブ・クラン』のモチーフを取り入れつつ、練りに練られたゲームデザインや、カードゲームの延長線上に作られたマネタイズの仕組みなど、まさに弱点がないタイトルではないでしょうか。『クラッシュ・ロワイヤル』がリリースされ、ミッドコア領域のマーケットにある他のアプリの売上総額が急激に減ったのを目の当たりにして、カテゴリそのものを揺るがすタイトルが当たるべくして当たっているのが凄いと感じました。
 
――:確かに、上半期はノンIPの新規タイトルのランクインが目立っていました。
 
それぞれのタイトルを見ると、制作している会社がしっかりと得意分野の能力を積み上げてこられているということが分かります。例えば、先ほど挙げた『ラストピリオド』にしても、Happy Elementsさんには『メルクストーリア - 癒術士と鈴のしらべ -』や『あんさんぶるスターズ!』で培ったイラストの魅力やRPGの強みがあって、そこで既に一定のファン層ができあがっているんですよね。毎回0からまったく違うことをするのではなく、これまでにリリースしたタイトルで得たノウハウや技術が積み上がったうえで新規タイトルの制作に取り掛かることで、自分たちなりの強みや得意分野を伸ばす。これは、コンソール業界では10年以上前から見られる傾向なので、ネイティブアプリ業界も相当進化を遂げているのだと思いました。
 
――:業界にそういった変化が見られる中、グリーの動向としては上半期を振り返ってみていかがでしたでしょうか?
 
現在、開発中のタイトルが多数ありますので、その仕込みを着実に進めてきたのが主なところです。上半期にリリースした『ソウルアームズ』は横スクロールのアクションRPGなのですが、今後リリースされる『追憶の青』など、いくつかのタイトルでも同ジャンルに挑戦しておりますので、先ほど言った「自分たちの得意分野を作っていく」という側面もあります。
 

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――:まさに今、積み上げている段階だと。
 
はい、現在はそういった積み上げの方向で考えているものをひたすら開発しているフェーズです。これらのタイトルをリリースできるよう、粛々と開発を進めております。2014年秋頃にWebゲーム中心だった体制をネイティブにシフトしますと宣言し、そこから1~2年かけて進めてきた開発の成果が今年の下半期にどんどん出てきます。中でも、『追憶の青』は、事前情報でもお伝えしている通りLINEさんとのパートナーシップで共にリリースしていくもので注力タイトルのひとつです。ほかにも、未発表のものを含め、夏から冬にかけてコンスタントにタイトルをリリースしていけるのではないかと考えております。
 
――:『追憶の青』をLINEとの協業でリリースすることになったきっかけをお聞かせください。
 
まず、LINEさんとは2年ほど前からパートナーシップを組んでおり、お互いに強みを持ち寄る形で事業を展開していきましょうという話をしています。グリーに期待されているのは、LINEゲームのポートフォリオ内にミッドコア領域のタイトルを増やしてラインナップを拡充していくことです。そこで、LINEゲームのラインナップに類似したタイトルがないという理由から、『追憶の青』を協業でリリースしましょうという話になりました。


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――:既にリリースされているタイトルについて大きな動きはございましたか?
 
『消滅都市』に関しては、5月末に2周年を迎えたことを記念してファン向けのイベントを開催したり、グッズを作ってAmazon内に「消滅都市ストア」を開設したり、年末に「消滅都市 Future Concert」を実施することを発表したり、いろいろと良い動きができました。ゲームの中と外の動きを上手く連動させながらお客様に楽しんでいただき、プロダクト自体も伸ばしていくという方法が取れていると思います。ゲーム自体は大規模なメジャーアップデートを予定しており、現在開発中なのですが、ゲームの中と外を連動させる企画は今後も考えていきたいなと。

――:ゲームの外にも幅を広げようと考えられた理由をお教えいただけますか?
 
ゲームの外側に仕掛けることで認知を広げることができますし、何より、既にゲームを遊んでくれているファンに対するサービスという意味でも、より面白く、より楽しく、より好きになってもらうために目新しいことができます。『消滅都市』自体はゲームですが、キャラクターやストーリー、音楽など、様々な部分に魅力を感じてくださっているファンの方々がいらっしゃいますし、そういったところにも『消滅都市』の価値はありますので、より接点を広げていきたいと思いました。
 
――:『消滅都市』の2周年記念イベントはユーザーからの反響もかなり好評でしたね。
 
ファンがいることが凄く大事だと思っていて、ゲームを遊ぶだけが楽しみ方じゃないということを強く感じています。1月末に行われた闘会議2016のステージでは、オリジナルキャラをライブドローイングするところを見ていただきました。「何が楽しんでもらえるのか」、「できることは何か」ということを考えたときに、ゲームの機能追加や、イベントを実施する以外にもできることがあると感じて広げているのが今で、そこを凄く大事にしています。

 
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――:一方、ネイティブアプリ以外ではVRについての取り組みも盛んでしたが、VRを始めようと思われたきっかけをお伺いしてもよろしいでしょうか。
 
2~3年前に読んだ本の中に、発明家のレイ・カーツワイル氏という方が書かれた『The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology』(日本語訳:『ポスト・ヒューマン誕生 コンピューターが人類の知性を超えるとき』)というものがありまして。これは、Singularity(特異点)について言及された本で、人類とテクノロジーの過去や、これからの未来について書かれています。VRに特化した本ではないのですが、ロボティクス、遺伝子工学、人工知能など、様々なものについて書かれていて、そこに書かれた過去や、それをベースにした未来予想に共感して納得しました。5年、10年、20年と時を経て、ソフトウェアやエンターテインメントはどうなっていくのだろうと考えたときに、いずれ脳に回線を直結して神経に直接アクセスできるようになれば、今こうして対面で会話をしているのと同じような形で、遠隔でのコミュニケーションや、仮想の人物と食事ができる世界になると思っていました。そこに今年、Oculusを始め、一般消費者用製品として受け入れられるレベルに達したVRプラットフォームが出てきて。今はまだ本当に入口にすぎないですが、この先は、レイ・カーツワイル氏の本に書いてあったような世界に繋がっていると感じました。私が考えていた「20年後こうなる」という想像に繋がる線が見えたんです。PCインターネット、モバイルインターネット、その次のプラットフォームがVRだという話があり、私自身もそう思っているのですが、そこだけを短絡的に捉えるのではなく、いろいろと移り変わりがある中で未来に繋がるステップだと思ったのが大きいですね。
 
――:VR=ゲームのみでなく、さらに広い視野で見られているということでしょうか?
 
応用は多数出てくると思います。ただ、VR業界で最も早く市場として立ち上がるのはゲームだと考えています。可能性は無限にありますが、ユーザー体験としてゲームが1番分かりやすいので。また、グリーとしてビジネスで進めるのであれば、ゲームが中心になると思って取り組んでいます。
 
――:開発の方では、『Tomb of the Golems』のリリースなどございましたが、実際に制作・配信をしてみていかがでしたか?
 
Gear VR向けのストアでは、日本デベロッパー初の配信だったのですが、国別ダウンロード数や売り上げ、使われ方、Gear VR向けストアならではの特徴などが分かりましたので、やって良かったと思っています。マーケットにリリースしてみないと分からないことがたくさんありますので、いろいろと学んでいる最中です。
 

 
――:アプリ開発において苦労した部分はございましたか?
 
コントローラーがないので、ポインティングとタップのみの簡単な操作でなければいけない、しかし、ゲーム性の幅広さや奥深さは担保しなければいけないというところで、ゲームデザイン上の工夫がかなりありました。また、開発チームに関しては、今までネイティブアプリを制作していたメンバーが担当しています。
 
――:そのほか、「Japan VR Summit」(以下、「JVRS」)の開催や「GVR Fund」の設立など、振興や投資の面でも力を入れてこられましたが、その辺りにはどういった狙いが?
 
まず、VR市場自体が大きく、早く立ち上がって欲しいというところがあります。私たちが開発の仕事をするためにも、VR業界に参入する会社やコンテンツが増えてユーザーに広がらなければいけないですし。個人の見解としては、長期的な目で見れば必ずVR市場は立ち上がると思っているのですが、より早く立ち上がってくれた方がビジネス的にも嬉しいですし、何よりそういった未来を前倒ししたいという想いがあります。自分たちでカバーできない部分に投資で介入することによってサービスを生み出すサポートをしたり、「JVRS」のようなイベントを開催することでVR業界にビジネスとして参入する会社が増えて市場が広がれば、業界全体として立ち上がるまでの期間が縮まりますよね。業界が立ち上がるのを待っているだけではなく、時間を縮める方法として、こういった施策が有用だと考えております。
 
――:JVRSの反響はいかがでしたか?
 
申し込みの数に対する出席率が非常に高かったです。登壇者の方からは「世界的に見ても、ソニー、Oculus、HTCが顔を並べて話す機会は初めてですね」と言われました。また、これについては意識していたのですが、プラットフォームからソフトウェア、開発ツール、海外事情、投資まで、幅広いトピックをカバーして1日見れば今のVR業界の全貌が分かるようにしました。その後、ネットワーキングの場にしたいと考えて開いた懇親会があったのですが、その出席率も非常に高く、話を聞くだけではなくて来場者同士の交流や商談があったのも良かったと思います。
 


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――:今のVR業界を俯瞰的に見てどう思われますか?
 
レイヤーに例えると、まず1番下にハードウェアやプラットフォームの基礎技術、真ん中にMicrosoft OfficeやAdobeのようなプロダクティビティツール、最上にはゲームや映画といったコンテンツがあります。まず、ハードウェアやプラットフォームが整備されて一定のユーザー体験の品質が担保されたうえで、コンテンツを作るための仕組みができあがる、最後にコンテンツが出てきてヒットするという流れになると考えています。その中で現在、1番下のレイヤーにあたる企業の合併や買収は頻繁に発生しており、お金や人材の動きが活発です。真ん中の制作ツールに関しては、今、投資を受けた企業が立ち上がり始めているところかと。この部分は今、競争力が計りやすく、リターンが出るという理由で投資が盛んです。グリーではコンテンツにあたる部分を担っているのですが、ここはまだ出始めですね。
 
あと、日本国内にはVR関連の会社が少なすぎるので、もっと積極的に参入してほしいと思っています。アメリカでは既にブームが来ているものなので、その中でどう上手く立ち回るかという話になっていて、企業の大小に関わらずお金や人材の動きがとにかく速いです。

 
――:現在、求めている人材についてもお話を伺えますか?
 
VRに関しては、Webだけの時代は必要なかった3Dエンジニアやアートディレクター、3Dアーティストなどの技術職を求めています。まだ市場も立ち上がっていない業界なので、VRの専門家ではなく、ゲーム開発をするうえでの基礎力が非常に高いという部分を大前提に、新しいものを学んで取り込める柔軟性や吸収力、作っては壊しという工程を何度も経るので、そのスピード感を備えた人材が理想的です。
 
 
――:最後に、下半期の展望についてお聞かせください。
 
ネイティブアプリについては先ほども申し上げた通り、カテゴリごとに得意分野を積み上げている会社がコンスタントにヒットタイトルを生み出していますので、私たちも早くそこに追いつけ追い越せで頑張っていきたいと思います。今、自分たちが進めているプロダクトに関しても、領域やジャンルをある程度絞り込んでいて、投資額をより大きくしているので、狙って大きく当てる方法を実現させたいと考えております。
 
VRについては、まだ立ち上がり時期なのでコンスタントにタイトルを作って世に配信していくことが大事だと思っています。開発面では、作ったものがどう使われているかというフィードバックを得て、次に活かすというサイクルを早く回したいなと。プラットフォームの立ち上げ時期にはミニゲームが大量に出てくるフェーズがあるのですが、VRゲームに関しては既にストアに並んでいる作品のクオリティが高いので、良いゲームを作るという点からブレないように、遊びごたえのある中規模タイトルを作っていきたいです。振興や投資に関しては、引き続き市場の立ち上がりが早くなるよう貢献していきます。
 
今年は、下半期にかけて仕込んでいたものがどんどん世の中に出ます。真価が問われるタイミングでもあるのでプレッシャーはありますが、是非、ご期待ください。

 
――本日はありがとうございました。
 
 
(取材・文:編集部 山岡広樹)
(取材・撮影:編集部 和田和也)
 
グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
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