MMORPG黎明期から夢見た“仮想空間内での生活”を目指す VRクラウドに挑戦するモノビット代表の本城氏とCTO中嶋謙互氏に取材
モノビットは、8月24日から8月26日、パシフィコ横浜(横浜市・みなとみらい)にて行われる「CEDEC2016」セッションにおいて、「第1回 VRクラウド開発者会議 @ CEDEC2016」を開催する。
当日は、モノビットとパートナー企業が発起人となり、世界で最初となる“VRクラウド開発者会議”を実施。VRクラウドとは、クラウド通信を活用したVRアプリのための新しいカテゴリ。マルチプレイゲームはもちろん、複数人によるリアルタイム共同作業を行うもので、音声や映像の共同視聴アプリなども含んでいる。
本稿では、CEDEC開催に先駆けて、当日登壇するモノビットの代表取締役社長の本城嘉太郎氏とCTO(最高技術責任者)の中嶋謙互氏に、同社におけるVR事業の取り組みをはじめ、VRクラウドの詳細について伺ってきた。
株式会社モノビット 代表取締役社長
本城 嘉太郎 氏 (写真左)
1978年生まれ。神戸出身。19歳の時に出会った『UltimaOnline』、『Diablo』に衝撃を受け、将来ネットワークゲー ムを作ると決意。システムエンジニア、コンシューマゲームプログラマを経て、2005年にネットワークゲーム制作会社モノビットを創業。20タイトル以上のネットワークゲームの開発と運営を手がける。2013年にゲーム向け通信ミドルウェア『モノビットエンジン』を販売開始。個人活動として、Cマガジン記事執筆、CEDEC講演、スッキリ!!出演など。
株式会社モノビット 最高技術責任者(CTO)
中嶋 謙互 氏 (写真右 - オンライン通話より参加)
1974年京都に生まれ、小学生の時からゲームプログラミングを始める。96年、世界初のJavaアプレットを用いたMMORPGを制作、いくつかのMMORPGが成功した後、2001年にはオンラインゲーム用ミドルウェアVCEを開発し、約50社で利用され、日本のオンラインゲームの黎明期を創出。その後、国民的人気シリーズのMMORPGをはじめ、様々なネットワークゲームの開発に従事。また、シンラ・テクノロジー社ではクラウドゲーム用SDKの開発を主導。著書に「オンラインゲームを支える技術-壮大なプレイ空間の舞台裏」(技術評論社)CEDECなど講演実績多数。
■新たに「VR LAB」も発足 モノビットが目指すVRクラウドとは
――:本日はよろしくお願いいたします。すでに360度動画やゲームコンテンツなど、VR事業に関する様々な取り組みをされているモノビット社ですが、そもそもこれだけVRに注力するに至った経緯からお伺いできればと思います。
本城嘉太郎氏(以下、本城):弊社は2015年からVR事業を本格的に行ってきました。もともと私が起業した理由は、名作オンラインゲームに次ぐタイトルを作ろうというところから始まりました。これまで2D、3Dと様々なMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)がリリースされましたが、もう少し没入感のある世界に行けたらという欲求も高まっていったのです。
――:なるほど。そして、数年前からVR市場も盛り上がりを見せ始めて、VRにおけるオンラインゲームの可能性を感じていったのですか。
本城:そうですね。MMORPGで遊んでいると、本当にその世界で生活しているような感覚になると思います。その没入感を、VRという別の次元で表現できればと考えて、自身でOculus RiftのDK1(プロトタイプ)を購入して色々なことを試していきました。体験してみると、別の世界に入り込めるためには一番適した表現ができるメディアなのではと感じたのです。
――:そうしてVR事業を本格的に始められたのですね。
本城:はい。弊社には、これまでリアルタイム通信エンジンの開発やデータベースの負荷分散に関する研究開発など、ネットワーク通信におけるノウハウが蓄積されています。VRコンテンツの開発においても、クラウド通信を活用したミドルウェアを手掛けるのが弊社の役割なのではないかと思っています。
――:これまで御社はゲーム事業社を対象にしてきたと思いますが、ことVR事業に関しては他業種ともお付き合いされるのではないでしょうか。
本城:そうですね。VRも本質的にはエンタメコンテンツの一種です。ともすれば、たとえ他業種でもVRコンテンツの開発に携えるのであれば、弊社の理念にもマッチしているのかと思います。
VR市場を盛り上げていくためにも、ゲーム事業社様だけに縛られず、他の企業様との協業は積極的に行っていく方向に切り替えています。そのひとつの取り組みがVRカフェだと思いますし、これをきっかけに多くの方々と交流を持たせてもらいました。
――:ここからはVRクラウドについてお伺いできればと思います。そもそも取り組みが始まったきっかけについて教えてください。
本城:VR事業をはじめてから、色々な業種の方々とお取り組みさせていただきました。ゲーム事業社はもちろんですが、先ほど申し上げた通り他業種の方も多いです。そうした方々は、たとえUnityでコンテンツが作れたとしても、サーバエンジニアがいなければ使えないネットワークソリューションに対しては、ハードルが高く感じるところも多々あるかと思います。
それらをクラウド化することで、ネットワークの知識がなくても、誰でも簡単に空間共有できるVRコンテンツが作れるサービスを事業社様に提供できるのではないか、と今回の取り組みを始めました。
――:2016年6月1日付で中嶋さんがCTO(最高技術責任者)としてジョインされました。まさにVRクラウドの開発に着手されていると思いますが、その経緯についても伺ってもいいですか。
本城:じつはモノビットを設立する前から、中嶋とは様々な面で接点がありました。「モノビットエンジン」を開発する際にも一度お声がけさせていただきましたが、当時はなかなかタイミングが合いませんでした。
その後、実際にスマートフォンアプリでリアルタイム通信の波が来て、それが現在ではVRコンテンツでも取り沙汰されている。技術的に探求しても面白い領域となり、市場の流れや中嶋の都合などのタイミングが重なり、今回のCTO就任が実現できました。
――:中嶋さんにもお聞きしますが、モノビット社に入社したのは現在の取り組みや共感できるものがあったということでしょうか。
中嶋謙互氏(以下、中嶋):そうですね。私自身、リアルタイムに脳みそが直結するように、最終的には様々なものがMMOのようになってくると思っています。
何年か前までは自身でマルチプレイゲームを手掛けていたのですが、どうも自分が満足できるミドルウェアやクラウドサービスがありませんでした。そして、今回モノビット社からお声がけいただき、VRでもスピードやレイテンシーのレベルが一段上がっているタイミングもあり、自身で作るというチャレンジにも最適なタイミングだと思いました。
――:なるほど。技術的にも追及していくタイミングでもあったと。
中嶋:ええ。とくにクラウドのコストに直結するサーバやスループットという点では、まだまだ追求できていないように感じます。一般に使えるまでの基準のエンジンがないため、これは新しいサービスを創出するチャンスではないかと考えました。
――:実際にCEDECではVRクラウドについて語られると思いますが、おもに講演ではどのような内容をお話されますか。
中嶋:まだ製品を出す前なので、詳細については語ることができません。メインは、VRクラウドで今後必要となる低遅延・広帯域通信技術の概要と、具体的な開発課題など、我々が現在直面している点についてお話することになります。問題意識を共有したうえで、実現した際には“今後こういうアプリケーションに繋がっていくでしょう”と、いくつか想定される用途のお話もさせていただきます。
――:ちなみに、現在の開発状況について教えていただけますか。
中嶋:VR上でのボイスチャットに関しては、CEDEC開催までにはリリースできるよう進めています。
本城:余談ですが、Unity向けリアルタイム通信の勉強会を開いて、今後のロードマップとしてボイスチャットの発言をすると、「いつ頃出るんですか?」などそっちに質問が集中されます(笑)。それだけ開発者に求められている技術なのかなと思っています。
現在は優先してUnity向けのミドルウェアにボイスチャットを乗せるところからスタートしています。その後、出てきた課題をひとつずつ潰していき、完璧なクラウドサービスを作るという流れになっていきます。
――:VRクラウドの登場により、今後市場はどのように変化していくと思いますか。希望的観測でも構いませんので、ビジョンを教えていただけますか。
本城:ものすごく夢のある話をすると、ひとつの仮想空間のなかで行政などあらゆるサービスが受けられるようになると思っています。
今ではインターネット上で人とコミュニケーションをとったり、税金を納めたり、銀行の振り込みが出来たりしますが、それに限らず、今後はVR空間内でもほかの人とコミュニケーションをとったり、または一緒に楽しんだりと、ひとつのVR空間内であらゆるソフトウェアの利用やサービスが受けられるようになるのではと思っています。
――:プラットフォームとしての夢も広がりますね。
本城:家にいるだけで、様々なサービスを受けられて、ほかの人と会話も楽しめて、すべて仮想空間上で行える未来になるのかもしれません。インターネットを使いながらも役所があるように、VRにも多種多様なサービスがこれから入ってくると思います。そうなったとき、今のスマホに置き換わる世界になるのではないでしょうか。
――:VRクラウドの登場により、VRゲームはどのように変化されていくと思いますか。
中嶋:個人的な好みの話ですが、『マインクラフト』のように世界が変化していくようなサーバを用いり、多様なメタバース(インターネット上に存在する仮想世界)が作られることです。本来、既存ゲームと比べて桁違いの通信量を求められますが、これらが簡単に作られるようになるのではないかと思っています。
――:VRの仮想空間上でリアルタイムに他の方と交流ができる……。本当に昔夢に描いていたリアルMMORPGのような世界が広がりますね。
中嶋:二度と戻って来られなくなりそうですよね(笑)。それだけオンラインゲームの世界に身体ごと入り込むような感覚を大切しています。最終的に大きなヘッドマントディスプレイ(HMD)を付けないのが理想ですが、恐らく今後軽量化したものが出てくると思いますので、より没入感のある体験は実現できるのではないかと思っています。
本城:ひとり用のゲームでも体験は多岐にわたるかもしれません。たとえば、リアルでないと体験できない脱出ゲームや遊園地の体感型アトラクションなど、ひとつの仮想空間上にそれぞれが“遊びに行く”ということも実現できると思います。
――:待ち合わせがVRの仮想空間上。家に居ながらもより没入感のある体験を、友人らと遊ぶ……そうした未来があるのかもしれませんね。ちなみに開発体制はどのようになっているのでしょうか。
本城:中嶋が中心となり、事業部長の安田の指揮の元、本社や神戸支社のミドルウェア事業部のエンジニアが一緒になって開発しています。
――:そのほか御社でVR事業に関する取り組みとかはありますか。
本城:じつは新たに「VR LAB」を発足しました。こちらは事業部制をとっておらず、自社に関わるほぼすべてのVRコンテンツを手掛けております。たとえば、メーカー様と共同で360度動画を制作したり、VRゲームを開発したりと様々です。将来的には、これらのノウハウが蓄積されて、社内で共有していくことを目的としています。
また、「VR LAB」の隣には事業社様に最新VRを体験してもらう、「VR lounge」という部屋も用意する予定です。いろんな方々に実際にVRを体験していただきながら、知識を高めたり、開発するコンテンツに反映させたり、または商談したりとVR事業のための部屋となっています。
――:それでは、最後にCEDECに来場される方々にメッセージをいただければ幸いです。
中嶋:「VRクラウド」は、“マルチプレイのVRコンテンツを開発するうえで必要なサービス”として、最初に思い浮かんでもらえるようなサービスにしていきます。そうした決定版にするために、講演では何が必要で課題になっているかなどを説明させていただきます。
また、ボイスチャットについても詳細を言えると思いますので、ぜひ足を運んでみてください。
――:本日はありがとうございます。
■モノビット社 CEDEC講演情報
講演タイトル:第1回 クラウドVR開発者会議 @ CEDEC 2016
日時:8月24日(水)17:50~18:20
形式:ショートセッション
プラットフォーム: PC モバイル
難易度:甘口
写真撮影:可、SNS公開:可
資料公開:後日CEDiLにて公開予定です
受講スキル:ゲーム制作に関わっている方どなたでも
受講者が得られるであろう知見:クラウドVRで今後必要となる低遅延・広帯域通信技術の概要と、具体的な開発課題
本セッションでは、クラウドVRで今後必要となる低遅延・広帯域通信技術の概要と、具体的な開発課題について共有を行うという。最後に、クラウドVRにおけるモノビットのビジョンを紹介し、現在のモノビットの製品や技術の位置付けを、共同で製品開発しているパートナー企業とともに紹介。
また、モノビットブースでは、「クラウドVR開発者会議」を推進すべく、「クラウドVR開発者会議」賛同者向けグッズを用意するほか、VR対応するモノビットエンジンをイメージしたVR体験デモコーナーや最新のモノビットエンジン「Monobit Unity Networking」の体験コーナーも設置するとのことだ。
▲VR体験デモは、ジオラマ内で模型の戦艦を使って対戦を行うオンライン対戦ゲーム。
▲VR体験は2つのパートに分かれており、「VR 空間内で模型の戦艦を掴みジオラマに配置する」という「Oculus Touch」独特の直感的な操作を体験するパートと、「3 人 vs3 人」のリアルタイム通信対戦を模したデモンストレーションパートを体験できる。
会社情報
- 会社名
- monoAI technology株式会社
- 設立
- 2013年1月
- 代表者
- 代表取締役社長 本城 嘉太郎
- 決算期
- 12月
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 5240