【インタビュー】100万DAUが当たり前の時代にも耐えられるサーバー運用へ…クルーズが語るIDCFクラウドの魅力とこれからの展望

テレビCMでもお馴染み「エレメンタルストーリー」や「アヴァロンの騎士」など、ソーシャルゲームを提供するエンターテインメント企業として成長を続けるクルーズが、昨年ごろから徐々にサーバーをIDCFクラウドに切り替えている。人気アプリを多く抱える同社にとってクラウドへの移行は決して楽ではないはずだが、ここまで順調な動きを見せている。
 
今回はクルーズのCTOとして活躍する鈴木優一氏と、IDCフロンティアのエバンジェリストグループを率いる片岡美穂氏にインタビューを実施。クルーズのゲーム作りの体制から、IDCFクラウドを採用することになった経緯やその実力について聞いてきた。
 
 

◼︎アイディアも、行動も独創的なエンジニアが集う

 
CROOZ株式会社
技術統括担当執行役員 CTO
鈴木 優一

 
――まず始めに、鈴木さんのプロフィールと現在の業務を教えてください。
 
鈴木氏:クルーズには2012年の8月に入社しまして、最初はフレームワークを見ていました。現在はそれにとどまらず、インフラ部門や人材育成部門なども幅広く見ています。これ以外にもアプリをリリースする前の品質管理部門やカスタマーサポート部門の管理も業務のひとつです。
 

――かなり多岐にわたる業務を行っているのですね。その中でも鈴木さん自身の中核となっているのはどれですか?
 
鈴木氏:やはり技術関連に関する業務がメインになってきます。特に技術選定やアーキテクチャーのデザインはもちろんですが、人の採用や育成についても注力しています。弊社も創業から15年の間に事業も技術トレンドも様変わりしています。そうなると使う技術やアーキテクチャーも柔軟に変えていく必要があり、どう軌道修正していくかなどを見ています。
 

――人材周りというと、ゲームに限らず全スタッフを見ているのですか?
 
鈴木氏:基本的にはエンジニアが中心です。弊社の場合ゲーム以外にもさまざまなプロダクトがあり、そのすべてのエンジニアを見ていますね。エンジニア以外だと品質管理部門やカスタマーサポート部門、人材育成部門のスタッフについても見ています。
 

――鈴木さん自身は採用面にも関わっているのですか?
 
鈴木氏:採用は選考に加え、入社したスタッフの育成にも関わっています。あとは新卒採用時に使うアセスメントツールなどの開発、保守などをしております。
 

――では、クルーズさんのエンジニアを見たとき、どんな人物が多い印象ですか。
 
鈴木氏:個性的な人が多いですね(笑)。アイディアに加え行動も独創的で、それがゲーム作りにも活かされているのだと思います。ただ決して技術ドリブンではなく事業ドリブンのエンジニアのほうが圧倒的に多いです。
 

――人材のみならず幅広い業務をこなしていると思いますが、その中でもここ最近を振り返って、印象に残っていることはありますか?
 
鈴木氏:扱う業務範囲がほんとうに広いので、思い出すのも難しいくらいです(笑)。最近で言うと弊社で運営しているアプリのひとつが、リリース直後に予測値をはるかに上回る桁違いのDAUを叩き出しました。これは嬉しい反面サーバーへの負担も大きく、リクエストをいかに捌いていくか頭を悩ませた記憶もあります。
 
片岡氏:DAUが好調なアプリがあることは私たちと打ち合わせをする中でも話題に挙がっていました。IDCFクラウドを導入する理由のひとつにもなっていましたね。
 
 

◼︎ゲーム開発・運営にかけるクルーズの「こだわり」



――400万ダウンロードを突破と好調な「エレメンタルストーリー」ですが、コンセプトを教えていただけますか?
 
鈴木氏:共闘と対戦の爽快パズル消しゲー「エレメンタルストーリー」は、7 秒間のうちにピースを動かして特定のカタチを描くことで必殺技スキルを発動・乱射させて戦うスマホ向けのパズル RPG です。単にピースをつないで必殺技を出すだけのパズルゲームではなく、お手軽ながらも奥深い戦略性と爽快感を併せ持つゲーム性を重視しています。
 

――これらタイトルの開発環境を選定する際の基準や採用ポリシーはあるのですか?
 
鈴木氏:事業戦略、採用、人材育成、習得コストなど包含的に検討して、開発言語としては「PHP」を採用しています。ただ、個人的な好みやトレンドもありますので、目的があって新しい技術を採用する際にはどんどん提案してほしい、というスタンスでエンジニアメンバーには働きかけています。会社として、新しい技術の採用については全方位的に分析した結果から採用・不採用を判断するようにしています。

しかし、但し採用が決まったものについては現場単位での技術要素やミドルウェアのバージョン変更は禁止しています。こうしないと事故になることがあるものですから。
 
 

◼︎IDCFクラウドは柔軟なインフラ基盤を作るための手段

 
――IDCFクラウドを利用するきっかけは何だったのでしょうか。
 
鈴木氏:大きなきっかけは昨年の8月です。当時、「100万DAUに耐えられるインフラ基盤の構築」が技術部門の目標であり、弊社がデータセンター内に在庫として抱えるサーバーだけリクエスト規模に耐えることで出来ず、目標達成が難しい状況でした。一方でリクエスト数に波があるゲーム事業において、新規にサーバーを調達し資産として持つのも現実的ではないし、だからといって全てをクラウドに置き換えるとDBサーバーがボトルネックになってリクエストを捌ききれないということにもなりかねません。

そこで、100万DAUを安定してさばきながらかつ柔軟にスケール出来るインフラ基盤を作るためにはどうするべきかを議論し始めました。完全にクラウドへ移行するのか、オンプレにサーバーを買い足して運用するのか、それともハイブリットクラウドを目指すのかなどさまざまな案が出ましたが、最終的にIDCFクラウドを採用することになったのです。
 

――IDCFクラウドの採用を決断してから実際に運用するまでに、どのくらいの時間がかかりましたか?
 
鈴木氏:最初にIDCFクラウドの名前が挙がったのが7月ごろで、8月ごろからIDCFクラウドの導入が徐々に始まっていきました。移行のプランニングから実際の移行までは2週間程度なので、スピードは相当な早さですね。アプリの中には移行当時ですでに20万DAUに達していたものもあったのですが、それもスムーズに乗り換えられたのは素直にすごいと感じましたね。弊社が運営するアプリのインフラ基盤はシンプルで、複雑なミドルウェアや複雑なクラスタリング方式などは原則使っておりません。シンプルな背系であることが結果に繋がったのだと思います。
 

――IDCFクラウドを導入する前はどのような方法で運用していたのですか?
 
鈴木氏:以前はデータセンターでのハウジングなので、サーバーやネットワーク機器などをいかに安く調達するかに神経に使っていました。またFusion ioのようなコストの高いデバイスに依存しないプログラミングの実現方法はよく考えていました。LinuxやMySQLのチューニングパラメータもすべて調整していましたね。とはいえ、当時の苦労もあったおかげでWebサーバーを限界まで使いこなす知識は社内に残っていて、それはクラウド導入後も役立っています。他社と比べるとサーバー台数はかなり少なく済んでいるはずですよ。
 

――そんな過程を経てIDCFクラウドに移行したわけですが、ゲームの運営に変化は見られますか?
 
鈴木氏:昔よりWebサーバーに対する不安が減ったのは間違いないです。ブラウザゲームなので以前はプロキシを通してHTMLのやり取りを行っていました。今はそれがAPI経由になり、一台あたりのサーバーの負荷自体は変わらないものの、実際のサーバー台数は少なく抑えられています。
 

――IDCフロンティアさんとしては、クルーズさんに対してどんな印象を持っていましたか?
 
片岡氏:最近のゲーム会社ではインフラエンジニアの方が不足しているケースが多く、弊社でネットワークの足回りを提供することが多々あります。しかしクルーズさんのお話を聞くと基盤はしっかりしていて、私たちが手を加えるのはむしろオーバーヘッドになると感じました。通常ですとセキュリティホールになることが多々ありますが、クルーズさんにおいては問題なかったため、バックボーン、すべてのクラウドの足回り回線を10ギガビット直結で通信できるように個別にアレンジしたり、極力シンプルな形での協力を心がけました。
 
株式会社IDCフロンティア
ビジネス開発本部 ソリューションアーキテクト部 エバンジェリストグループ
グループリーダー
片岡 美穂 氏


――なるほど。ではゲームに限らず、業務全般ではどうでしょう。
 
鈴木氏:自社で持ったほうが良い技術と捨てたほうが良い技術があって、個人的にはメールサーバーや画像キャッシュなどは自社で持たなくていいと考えています。例えばメールサーバーの場合は、一度構築して運用に乗ってしまうとほとんど手をかけることが無いので結果として構築手順しか社内に残りません。このような状態でかつ障害が発生した際にサービス全体にとてつもない影響をもたらす。しかも社内ナレッジが少ないので復旧にかかる時間も長くなる。このように重要度が高く自社内での保守や運用の発生工数が少ないものについては自社で持つべきではなく、得意な会社にアウトソース行くべきだと考えています。将来的にそういったものはどんどん出していきたいですね。
 

――では、スタッフの意識という意味ではいかがですか。
 
鈴木氏:まずネイティブシフトの部分での大きな変化がありました。ブラウザゲームの時代は、テキストの誤字などの軽微なバグについてはリリース後に修正すればいいという悪い習慣がありました。それがネイティブの時代になると、リリースした時点で完全な状態で提供しなければいけません。ネイティブアプリのアップデートが発生するようなバグがリリース後に発覚した場合、ブラウザゲームであれば修正してサーバーのソースを更新して終了だったものが、ネイティブアプリの場合は、修正してビルド後に、各配信プラットフォームに再申請して申請が通過して初めてバグ修正が完了します。今まで数分だったバグ修正が最低でも2日以上かかってしまいます。そこでリリース前にデバッグの期間をしっかりと設け、リリース後のレビューチェックなども徹底するようにしました。ネイティブアプリ開発に関わるスタッフ全員がネイティブの運用に慣れるまでは相当な苦労もありました。
 

――IDCFクラウドは、クルーズさんの全タイトルで利用しているのですか?
 
鈴木氏:いえ、そこはクラウドのメリットとデメリットを見て、相性の良いタイトルで利用するようにしています。例えば安定運用フェーズに入り、急激なユーザー数増加が見込まれないタイトルはデータセンター運用のままで問題ないですし、逆にWebソケット通信があるタイトルや、ユーザー推移が読めないタイトルにはクラウドを取り入れています。もちろん今後の新作でも、必要と感じれば随時導入していく考えです。
 

――導入の際に苦労した点はありますか?
 
鈴木氏:完全なクラウドにするかハイブリッド形式にするかはいろいろな検証が必要で、そこは苦労しましたね。本来なら完全なクラウドのほうがいいのですが、ゲームの特性として、データベースサーバへのIOが多く、仮想サーバーだと捌き切れない可能性もあります。そこはほかのクラウドベンターと比較したり、IDCFクラウドの中でもベアメタルを試してみたりと、さまざまな試行錯誤がありました。
 
あとビジネス的な面でいうと、弊社の場合データセンターとのハウジング契約が元々あるので、変動分だけをクラウドに変えるのが理想でした。しかしデータセンター間のレイテンシーの問題や、バランシング方法などの技術課題などがいくつかあり、これらの技術課題を踏まえたうえで、どのようなインフラ構成にするとQCDを最適化できるかについてはいくつもシミュレーションを作成し何がベストなのかを検討しました。
 
片岡氏:仕組みとしてIDCFクラウドを利用していただいていますが、クルーズさんにはデータセンター(ハウジング)の環境もあったため、まずはこの2つをつなぐことから始めました。当初はネットワークサービスを間に挟む案もあったのですが、クルーズさんが元々構築していたものがかなりしっかりしていたため、あまり手を加えずにスッキリした構成にできたかと思います。私たちとしても潤沢なインフラを提供することに徹することができました。
 
▲クルーズ社 サービス構成イメージ
 
 
――その中で、IDCFさんからのサポートはあったのですか?
 
鈴木氏:はい。専用のチャットを立ててもらったおかげでレスポンスも早く、非常に助かってますね。クラウドに移行したばかりのころはこちらも手探りで、細かい問題点はいくつも出てきました。特にすでに運営が始まっているアプリでは、障害が発生してしまってから対応しても遅く、予兆がある時点で潰さなければいけません。例えば「一台だけサーバーの負荷が高い」とか、それ自体は問題ではないものの、障害の原因になりそうなことには先回りして対応してもらいましたね。
 

――普段から打ち合わせはチャットでするのですか?
 
片岡氏:いえ、基本的な設計やスケジュールを決めるのはもちろん顔を合わせての打ち合わせで、チャットはあくまでも緊急時の対応に使用します。鈴木さんも話していたとおり、チャットも上手く活用することで障害の対策はもちろん、問題を未然に防ぐこともできています。電話でも連絡はできますが、ダイレクトに担当につながらない時もあると思います。クルーズさんのような利用者側には安心感があると思いますし、対応側としてもフォローができるので非常に楽です。
 

――IDCFクラウドを利用するときに特に注意した点はありますか?
 
鈴木氏:ひとつはプログラムの作りです。今まではデータセンターでの運用ではいかに少ないラックでインフラ基盤を構築するかがポイントとなるので、Webサーバーは少ない台数の高スペックサーバーを運用していましたが、それはクラウド向けの思想ではありません。クラウドはスペックの低いサーバーを横に並べるスケールアウトの思想です。この思想の差異を極力アプリ側のプログラムの変更をさせず、ミドルウェアの設定やフレームワーク内の実装で吸収させるかについてはいろいろな方法を検討して実践していきました。具体的な話だと、ローカルキャッシュ(RedisやOPcache)のパラメータの調整やデータの持ち方の変更などです。
 

――導入してから約1年というところですが、ここまででIDCFクラウドならではの魅力を感じることはありましたか?
 
鈴木氏:まずは起動が早いこと、そして無停止でサーバーのスペックアップができることです。アクティブユーザの推移は、私たちでもなかなか読めることではありません。実際に、計画外で突発的に急激な負荷がかかるケースもあります。このような時にボタンひとつでサーバーを止めることなくスペックアップさせることができるのです。
 


――分かりました。それでは最後に、今後へ向けての目標、意気込みがあれば教えてください。
 
鈴木氏:どんなに緻密に計画しても、やってみなければ分からない部分が多いじゃないですか。そんなときにいかに素早く動ける仕組みを作るかが重要だと考えています。
魂込めて開発しても思うようなKPIを得られないケースや、全く原因の見当が付かないサービス障害が発生し暫定で何かしらの対応をしなければならないケースなどいろいろありますが、このような時に素早く動けるようにするための武器とヒトと仕組みをブラッシュアップしていきたいです。

既に武器としてフレームワークやモジュールや統合開発環境、仕組みとして開発支援ツールやリリース統制機構など様々ありますがまだ不十分だと考えていますし、最後にものをいうのは武器や仕組みを使いこなして素早くプロダクトをツクれるヒトの技術力であり、そこが伴っていないと一連の仕組みとして機能しません。
 
武器、ヒト、仕組みを日々ブラッシュアップしていくことで素早く動ける組織体制を作り、自社の事業成長に貢献していきたいと考えています。
 
片岡氏:現在は高速・大容量ネットワークを中心にご利用いただいていますが、今後もクルーズさんと協力してより利便性の高いインフラを目指していきたいです。インフラについてはサーバー管理の手法など、弊社がクルーズさんに学ぶ部分もありますし、逆に弊社のノウハウがクルーズさんに良い影響を与えることもあると思いますので、お互いが成長できたらいいなと思います。将来的には、相互に積上げた経験を多くの環境で活かせればと考えています。
 
――ありがとうございました。


  ◼︎CROOZ
 

採用ページ
 


■IDCFクラウド

ゲーム事業者向け特集サイト

クルーズ株式会社
http://crooz.co.jp/

会社情報

会社名
クルーズ株式会社
設立
2001年5月
代表者
代表取締役社長 小渕 宏二
決算期
3月
直近業績
売上高140億円、営業利益6億4400万円、経常利益6億2800万円、最終利益2億5400万円(2023年3月期)
上場区分
東証スタンダード
証券コード
2138
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