今回のセミナーでは目玉コンテンツとして、数々の人気ゲームに携わってきたCygamesシナリオチーム・サブマネージャーの坂本正吾氏による講演「Cygames流ゲームシナリオの極意」を実施。本稿では、その様子をお届けしていく。
▲はじめにCygames シナリオチーム・マネージャーの大竹亜季氏より、Cygames設立の経緯や作品紹介など、会社説明が行われた。大竹氏のインタビューはこちら。
■最高のゲームシナリオを創るための極意とは
続いて講演「Cygames流ゲームシナリオの極意」では、Cygamesシナリオチーム・サブマネージャーの坂本正吾氏が登壇。フリーライターとして数々の有名タイトルに携わってきた坂本氏の登場に、会場に集まったセミナー参加者からも自然と拍手が起こった。
▲Cygamesシナリオチーム・サブマネージャーの坂本正吾氏。
まず始めに、坂本氏は、Cygamesのシナリオチームが担当するメイン作業として主に「企画」「発注」「執筆」「収録」「実装」といったパートがあると紹介。その中でも今回の講演では「企画」「執筆」「収録」の3点にスポットを当てて講演が始まった。
●企画について
企画の基本は「仕様にマッチする特質でないとキャラクターが活きない」ことだと坂本氏は語る。例えば、プレイヤーとキャラクターが一対一で会話するシーンにおいては、無口で清純なキャラクターの魅力は引き出せない。ライターは常に仕様を意識して、そのキャラクターの魅力を引き出す、あるいは、魅力的に描けるキャラクターを企画するのが大切なのだ。
続いて、シナリオを書くにあたっては、最初に「呼称表」と「テキスト文字数」を必ず準備すべきだと強調した。「とりあえず書き始めよう」「あとで調整すればいいや」という軽い気持ちで準備を怠ると、後に大混乱や厄介なバグを招いてしまう。実際、坂本氏は仕様変更に伴って改行を入れ直すだけで2ヵ月かかったことがあるそうだ。
●執筆について
次のパートである執筆は、「頭のインパクトが大事!」という言葉から始まった。ゲームシナリオやテキストにおいては、常に冒頭にインパクトが求められる。ユーザーは必ず最後まで読むとは限らないため、最後まで読んで面白いと言える構造や、徐々に盛り上がっていくような展開は望ましくないのだ。
また、ゲームシナリオ特有のポイントとして「画面に何が写っているか」を常に意識することが重要だと坂本氏は語る。例えば、カードのフレーバーテキストを執筆する際に、カード上「少女が手を差し伸べている」からといって、「この手を掴んでください」と書くことは必ずしも正解ではない。そのテキストやセリフが画面に表示される際に、トリミングして表示されている可能性があるからだ。つまり、実機での表示領域や使用方法を理解していなければ理想的なテキストは書けないのだ。
さらに、3つ目のポイントとして「表現方法は一つではない」と坂本氏は語った。例えば、100wのテキストが書ける枠に、ひとつの物語を詰め込んでもいいし、複数のショートストーリーや一発ギャグが入っていてもいい。この時、どういったテキストを入れるかという選定基準となるのは、「どうすればユーザーに楽しんでもらえるか」ということだ。
最後に、執筆のノウハウとして紹介されたのは「周囲のスタッフとの連携が大切」ということだった。コミュニケーションを密にして互いの情報を共有することで、新しい視点でシナリオを膨らませることが可能になる。
話だけを聞くとあたりまえのようにも聞こえるが、外注ライターではこのような環境を実現することは難しい。これを実現できているからこそ、坂本氏自身もCygamesのシナリオチームに合流することに決めたそうだ。
まとめとして、坂本氏は「シナリオライターとしての未来を考えたとき、皆で一緒に仕事できる環境に身を置けるのは素晴らしい価値のあることだ」と語った。
●収録について
話は三つ目のパートである「収録」へと移行する。
坂本氏は、収録ではまず役者さんたちに気持ち良く演じてもらうことを優先すべきだとしたうえで、テキストそのものも「読まれる」工夫をすべきだと語った。例えば、短すぎるセリフは複数の解釈が出来るため、聞いた人が考え込んで、ゲームプレイの手を止めてしまうことがある。演出の為に挿入するならば良いが、なんとなくこのようなセリフを書いてはならない。
また、時には「芝居」よりも「音の綺麗さ」を優先することも必要だと坂本氏は語る。音声単体で良い芝居であったとしても、ゲーム音源で鳴らし、他の演出と合わせるとわかりづらい表現になってしまうことがある。迷った時には複数の音声を録って、実機に入れて確認することが大切である。この手間を惜しまずつくれる環境は貴重だと坂本氏は強調した。
●これからのシナリオライターの仕事
最後に坂本氏は本講演のまとめとして、シナリオライターの仕事は、話を書くのみに留まらず、「住空間」を創ることになりつつあると力説。
アトラクション重視のテーマパークが、雰囲気や居心地重視に変化してきたように。ゲームもまた、シナリオの展開重視から、プレイしているだけで楽しい空間重視へと変化してきた。
坂本氏は、今後もユーザーの為の最高の体験を作っていきたいと語って、講演を締めた。
講演終了後は、セミナー参加者たちからの質疑応答に、坂本氏はもちろん、大竹氏も熱心に応じていた。収録やシナリオライターの未来にまで踏み込んだ講演は非常に珍しく、参加者たちの満足度は高かったようだ。