【CEDEC2017】『SINoALICE』&『CARAVAN STORIES』制作事例から見る、SPARK GEARを用いたハイクオリティなVFX開発

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が、8月30日~9月1日までパシフィコ横浜にて開催した、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2017」(CEDEC 2017)。 

本稿では、8月31日に実施された講演「SPARK GEARを用いたスマートフォンでのハイクオリティなVFX開発事例とハイエンド向け新機能の紹介」についてのレポートをお届けしていく。 本セッションでは、株式会社スパークの代表取締役・岡村雄一郎氏、株式会社AimingのリードVFXデザイナー・板井諒輔氏、株式会社ポケラボのエフェクトアーティスト・池田博幸氏が登壇。エフェクト制作ミドルウェアツール「SPARK GEAR」を使用した『SINoALICE ーシノアリスー』『CARAVAN STORIES』の制作事例を紹介するとともに、コンソール向けの新技術や新エンジン対応に関しての技術報告が行われた。


▲株式会社スパークの代表取締役・岡村氏。ゲームリパブリック、スクウェア・エニックスなどでVFXアーティストとして経験を積み、2015年に株式会社スパークを創業。2017年には株式会社スパーククリエイティブを創業している。

 
▲株式会社AimingのリードVFXデザイナー・板井氏。2007年にヘッドロック、2012年にAimingに入社。DS、ブラウザゲーム、PCゲームなどの開発経験を経て、現在はスマホゲームのエフェクト開発に携わる。


▲株式会社ポケラボのエフェクトアーティスト・池田氏。スクウェア(現:スクウェア・エニックス)、サイバーコネクトツーなどを経て、現在ポケラボにて『SINoALICE』のバトルエフェクトを担当。

 

■女神の体重のように軽く、透き通るように美しい「女神エフェクト」制作秘話


本セッションでは、まずポケラボの池田氏が、自身がバトルエフェクトを担当したスマホ向けRPG『SINoALICE ーシノアリスー』(以下、『シノアリス』)について説明。“ポケラボ起死回生の一作”と紹介したシノアリスは、当時社内の全リソースを開発にすべて割り振って作られ、背水の陣で挑んだ意欲作。エフェクトはこれまでにないほど美しく仕上がっている本作だが、池田氏は一般的な意見として、こう話した。

「スマホゲーは見た目よりゲームの面白さでしょ。エフェクトの品質は直接ゲームの売上に貢献する要素じゃない」

自虐ともとれる内容だが、池田氏はこれを「正論だ」と肯定。しかし、「じゃあショボくていいのか?」という自問に関しては、「そんなことは絶対にない!」と力強く否定した。ユーザーは高品質なものは自然と受け入れるが、低品質なエフェクトは違和感として受け取っている。それはユーザーに対して我慢を強いているのと同じである。必ず心の奥底で“本物”を欲しがっていると語った。

そこで池田氏が辿り着いた結論が、『シノアリス』に軽やかで美しい「女神エフェクト(※1)」を載せて、世界15億(※2)のユーザー様に震えるような感動を届けることだった。
※1:池田氏が名付けたシノアリスのエフェクトを指す造語
※2:IDCが2017年3月1日までにまとめた世界スマフォ市場レポート/2017年の年間出荷台数は15億3480万台

続いて、「女神エフェクト」を制作する上での開発ツール、いわば“武器”について。シノアリス開発初期、試作で過去作でも実績のあったshurikenを使用したが、その表現に限界を感じていたという。様々な葛藤のなか、協業先であり池田氏の古巣でもあるスクウェア・エニックス側から、あるエフェクトツールを紹介される。それが「SPARK GEAR」であった。


▲SPARK GEARは、『ファイナルファンタジーXIV』のエフェクトアーティストであった岡村雄一郎氏、エンジニアの広本氏が独立して制作した、いわば2人の力の結晶である。


▲Shurikenの評価。リーチは「表現の幅」、軽さは「処理の軽さ」、切れ味は「表現力」を表す。


▲SPARK GEARの評価。各性能がShurikenを上回る。

Shuriken導入当時の課題として、パーティクル、シェーダ、バッチ不都合(Unity5.3.4p2で修正済)の3点があったと池田氏。まず、パーティクルに関しては、実際それだけでは表現が足りず、3DモデルとUBアニメを併用することが多いという。Shuriken単体では、演出の核になるアイコニック(誰にでも分かる抽象的)な表現には至れない。今作のUIはUGUI製なので、SortingLayerとの相性を鑑みつつUI装飾の材料として使用していた。

次にシェーダ。純正シェーダだけだと表現の幅は狭い。動き出すためには連番画像に頼らざるを得ず、これが画像メモリを圧迫する。そのため自前でシェーダを作ることになるのだが、シェーダ作成も敷居が高く、知見あるテクニカルアーティストが必要になる。

最後にバッチ不都合だが、リアルタイムバトルでエフェクトが同時多発線画されるシノアリスでは、これが致命的であった。メンバー間で協議した結果、いつ直るか分からない不都合解消を待つより、バッチが正常に効いており、品質も担保できているSPARK GEARでエフェクト制作を行う道を選んだという。

これまで課題として挙げてきたが、もちろん導入のメリットもある。社内外に使い手が多く、リソースや知見も溜まりやすいため安心して使用できる。また、UGUIとShuriken/SortingLayerの併用で、単一カメラ内の2D/スプライトUIに対してもソーティングで奥行き感を出せる。外部ツールを使用することで機能の拡張も可能だった。

SPARK GEAR導入の課題、およびメリットについては下記の通り。


▲実績、導入コスト、熟練コスト、Unity上での半透明奥行線画などの課題があった。しかし、現在ではほぼ解決済みである。


▲SPARK GEAR導入のメリット。ツール内のすべての作業が完結し、時間やメモリの節約にも繋がる。

3ヶ月におよぶ検証の結果、池田氏はShurikenとSPARK GEARの両ツールを使用して、開発を進めることにした。役割分担としては、単一カメラ内での多重感表現が可能なShurikenをUGUI/SortingLayerの併用で、主にUIに施す装飾として使用。S表現の多彩さや柔軟性に加え、キャラクターのアニメーションを再生しながら同時にエフェクト制作が可能なPARK GEARを、主にバトルやカットシーン制作などで使用したという。

続いて話題は、『シノアリス』のエフェクトを実際にどうするか。開発当時、シノアリスのデザインに関して、原作・クリエイティブ・ディレクターを務めるヨコオタロウ氏から「スタンダードかつスタンダードでないもの」と言われていたという。この言葉を池田氏は「表現は見た人の記憶に残るものではなくてはならない」と解釈し、美しさだけではなく、表現のエグさにも挑戦することに決めたのだった。


▲スタンダートなエフェクトを考えた時、リアルとアニメが両極にあった。これを混ぜることで、新たな表現が生まれた。



▲アニメ表現のケレン味であるちぎれ消滅。SPARK GEARのパレットをクランプさせて、負の方向にアニメーションされるだけで表現できる。


シノアリスのエフェクトは“女神の体重のように軽く、透き通るように美しい”ことが絶対条件だったという。しかし、ターン制バトルではないため、同時多発的にエフェクトが発生しやすく、格好良い演出に必要な間や尺も取りづらい。多発線画増大はもちろん、プレイの視認性も妨げてしまう。つまり、リッチでド派手で尺の長いエフェクトは厳しい現実があった。

加えて、プランナーからの要望も絶望的だった。それは、シノアリスの武器ウリであるため、ヒットエフェクトは武器種別、属性別、威力別で“全部作り分けたい”というもの。バリエーションを増やしつつ、解像度は落とさず、メモリは抑えたい。この要望に答えられたのがSPARK GEARの「R8」「パレット」「トリガー」という3つの機能だった。

・R8
単一チャンネルのグレースケールフォーマット。メモリが最大で4分の1に減るので、解像度を必要以上に落とす必要がない。

・パレット
RGBAの持つ繊細な階調を保持したまま、柔軟な色彩調整が可能。気に入ったパレットのライブラリ化もできる。

・トリガー
複数のエフェクトを丸ごと1つに統合、分割して呼び出せる。データ圧縮とファイルの一元管理に効力を発揮。



▲パレットの仕組み。グレー画像が持つ色のグラデーションを保持したまま、柔軟に変更できる。


▲シノアリスでは、1つのプレハブに最大12個のエフェクトを内包させている。

ここで池田氏は、『シノアリス』のエフェクトに関して、1つの秘密を公開した。それは“ヒットエフェクトの大きさが毎回微妙に違う”ということ。これはヨコオタロウ氏からの提案で導入したもので、ヒットエフェクトの大きさに乱数値を用いて変化を付けたという。例えば弱ヒットの際は基準値から最大20%マイナス、強ヒットの際は基準値から最大40%マイナスという具合だ。加えて、位置、大きさ、角度など、ほぼすべての要素にも乱数を導入。その結果、ヒットするたびに毎回微妙に異なる結果が線画されるようになった。

このシステムに対して、池田氏は「乱数はあくまでスパイスでありメインディッシュではない。だが、女神は細部に宿る」と強く主張した。



▲乱数を視覚的に比較した図。

最後に、池田氏は制作主要メンバーを紹介し、「ポケラボクリエイティブチームとSparkさんの協力のおかげで、シノアリス女神エフェクトはナンバーワンの品質に仕上がった」と宣言。いずれ後発に抜かれる日は来るだろうが、より上を目指すために抜いて貰わなければ困ると話した。そして、『シノアリス』の女神エフェクトは、新しい表現、リッチで軽いエフェクト、そして情熱で出来ていると紹介し、「ソーシャルアプリで世界15億人の人生を変えましょう」と業界全体に激励を送った。

 

■リアルとアニメを融合した『CARAVAN STORIES』のエフェクト表現技法


続いて、Aimingの板井氏が登壇。自身が手掛けるスマホ向けMMORPG『CARAVAN STORIES』(以下、キャラバンストーリーズ)を例に、SPARK GEAR導入の経緯や、作業環境、開発のなかで気付いた点などについて発表した。

『キャラバンストーリーズ』は、今の技術力とハードのスペックで実現可能な“グラフィックスにこだわったタイトル”を作ることを目標に制作されている作品。同チームで以前制作した『幻塔戦記グリフォン』以上の表現技術を求めた結果、SPARK GEARの導入に至ったという。

続いて、話題は「キャラバンストーリーズで目指したエフェクト表現技法」に。本作が目指す絵作りは、フォトリアルより、手書き感溢れる映像表現である。具体的には下記の写真のとおり。



しかしながら、手書き感に似合うエフェクト表現とは何か、この問いに大いに悩んだという。リアル過ぎる表現だとキャラクターに合わない、逆にアニメ過ぎると背景から浮いてしまう。アニメでもないが、リアル路線でもないもの。板井氏は考え抜いた末に、状況に合わせた表現の使い分けと組み合わせという結論に至った。具体的には、キャラクターやスキル系はアニメテイスト寄りに、背景系はリアルテイスト寄りに制作することで、世界観を壊すことのないエフェクト表現を実現したという。

 
▲SPARK GEARでは、1枚のテクスチャで見た目をリアルタイムで変化させることができる。

 
▲炎の先端のシルエットはくっきりと、終わりの際は煙が消えるようにシルエットはボケ気味にしている。

 
▲景観に馴染ませる線画処理と表現について。たとえば左部分は松明の炎は、下段のように煙のある場所だとぼやけて見える。

『キャラバンストーリーズ』での作業環境については、まずSPARK GEARに搭載されている「リアルタイムエフェクト」という機能を説明した。リアルタイムエフェクトは、他の開発ツール・デバイスと連動させ、開発画面を見ながら直接編集作業ができるというもの。つまりSPARK GEARでの編集結果を、Unityのなかでゲームをプレイしながらリアルタイムで確認できるというわけだ。板井氏はその実例として、会場にてエフェクトの編集を行い、来場者に公開した。



▲剣から放たれる炎のようなエフェクトをリアルタイムで編集し、変化させた。

以上を踏まえて、板井氏は開発のなかで感じたSPARK GEARの優位性を発表。2Dから3Dまで、リアルな表現からアニメ的表現まで、固形物の表現から流体的な表現まで、つまり多種多様な表現技術が備わっているSPARK GEAR。2016年4月の導入以来、凄まじい速度で開発され、今後の更なる新機能の実装にも期待がかかっている。

 
▲SPARK GEARなしでエフェクト作業環境を構築するのは難しかっただろうと予測。

板井氏は現在クローズドβテストを行っているキャラバンストーリーズを再度紹介し、発表を終えた。

 

■今後の「SPARK GEAR」はハイエンド向け新機能を拡充


最後に、SPARK GEARの開発元である株式会社スパークの代表取締役・岡村氏が登壇。「SPARK GEARのこれまでとこれから」と題し、今後実装される機能などを発表した。現在、SPARK GEARを使用した未発表タイトルは20~30本ほどあり、そのほとんどがスマホタイトルである。この状況を踏まえて、スマホゲームのグラフィックは次のステップに進んでいると実感したという。その後、開発中のリアルタイムフルイドやUE4についてコメントし、本セッションは終了した。



▲これまでとこれからのSPARK GEARについて。



 

(文・長戸勲)



 

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会社名
株式会社ポケラボ
設立
2007年11月
代表者
代表取締役社長 前田 悠太
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