【インタビュー】バンダイナムコエンターテインメントが新入社員に求めるものとは? 常務取締役・浅沼氏が語る理想とする人材、会社の方針、そして今後の展開
同社では、市場の動向が日々変化しているゲーム業界、そしてエンターテインメント業界において、新しい遊びやサービスを生み出し、そして世間に提供するためにともに戦っていく人材、とりわけこれからのエンターテインメント業界を担う新卒の採用も積極的に行っていく姿勢を見せている。
そこで今回、バンダイナムコエンターテインメント常務取締役の浅沼 誠氏へのインタビューを実施。世界に目を向けた今後のグローバル展開からバンダイナムコエンターテインメントの方針、そして新入社員に求めるものを、浅沼誠氏に伺った。
◼︎モバイルゲーム、家庭用ゲームに限らず、グローバル戦略は非常に重要
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
常務取締役
浅沼 誠氏
――採用のお話の前に、まず昨今のゲーム市場、特にモバイルゲーム市場の動向を御社はどのように見ていらっしゃるのでしょうか。
2000年代に入ってから、家庭用ゲーム機やアーケードゲームは変わらずありますが、モバイルが一気に普及してきて、ゲーム市場も随分と色々なことが変わってきたと思います。それまでは、任天堂さんやソニーさんのハードを買う、ソフトを買うという、ゲームが好きな人が前提だったものが、フィーチャーフォンやスマートフォンといった、皆さんがいつも持ち歩いているガジェットでもプレイできるようになり、それまでゲーム機やソフトを買うほどモチベーションが高くなかった人たちにとってもゲームが身近になり、ゲームに接する生活様式は大きく変化し、ユーザーから求められるゲームも多様化してきているなと思います。
――そういった市場の中で、御社が取り組まれている中期ビジョンとして掲げられている方針やエリア戦略についてお聞かせください。
モバイルに限らず、ゲーム自体一昔前に比べると地域が変わってきましたね。かつて海外のゲームは“洋ゲー”と呼ばれ、言い方は悪いですが「海外のゲームは難しい」とか「おもしろくない」という意見もありましたが、それがここ数年で激変しましたよね。
国内でどれだけヒットしても数百万本であるのに対し、海外の大型タイトルは数十億、数百億をかけて全世界で数千万本売れるという、ちょっと映画産業に近い形になってきています。日本国内に留まっていると数百万、数千万本は簡単ではありませんが、ワールドワイドに、グローバルな視点で見ると1千万本クラスで売れる感じになっているんです。我々としても、モバイルゲーム、家庭用ゲームに限らず、グローバル戦略は非常に重要であると考えています。
――規模はもちろん、他社さんもかなり参戦していることを考えると重要である、と。
ビジネス上、マーケットの数が多いほうが広い意味で商売になりますので、そういう部分でも海外戦略には重きを置いてます。
◼︎多様性と柔軟性、総合的なエンターテインメントの視点を持つ
――そういったビジョンがある中、最近の御社の採用の動きはいかがでしょうか。
いろいろなことを考えてやっているんですが、少し前はゲームを作る上で、ゲームが好きなお客様に対してゲームを売るというところで作る側も深堀していましたが、その一方で、例えばモバイルゲームに関しては、ゲーム機は持っていないけどスマホを持っているからゲームをプレイする層や、何十本、何百本も持っていないけどゲーム自体は好きという層など様々です。ゲーム自体が総合エンターテインメントのようになっていて、「このゲームを作りたい」という強い気持ちと同時に、エンターテインメントとは何か、エンターテインメントとしてのゲームはこうあるべきだ、という視点を持っていないと、いまの時代にはなかなかマッチングしないかなと思っています。
つまり、ゲームしか見ていない、ゲームしか作りたくない、という方よりも、総合エンターテインメントコンテンツの視点を持っている方のほうが、色々なことができるのではないかなと思っています。
――確かに最近はゲームもAR、VRなどに結びついた形になって総合エンターテインメントとしても注目されています。ただゲームを作るより、ゲームと何かを掛け合わせるという考えかたが重要ということですね。
ただ難しいのは、そうは言っても根幹、コアな部分は、ゲームのおもしろさ、完成度が求められて、その両方を持ち合わせていなければいけないという。それを初めから採用すべき若い方たちに求めるということはしませんが、やはりそういう視点で物が見られるほうが望ましいです。
――多様性というか、柔軟性を持っている方のほうが良いと。
そうですね。最近、多様性とよく言われていますが、私もその通りだと考えています。もちろん、何か専門的な分野を持っていることもとても良いことなのですが、そのほかに、総合的にいろいろな視点で物を見られるという。作っている側の気持ちと受け取り側の気持ちの両方を見られるのは難しいことですが、総合エンターテインメントである以上、そういったことも考えなければならない。ですから、いろいろな視点で多様性を持った方が望ましいのかなという気はしています。
――スペシャリストという形も必要である一方、ゼネラリストというのも重要というわけですね。
難しいんですけどね。もしかしたら分けたほうがいいかもしれないですけど、我々の会社は基本的にはプロデューサー業なんです。ディレクターかプロデューサーかというと、プロデューサー。人もお金も使って、どうやって自分の事業をやっていくか? おもしろい物を作らなければいけないし、予算も考えないといけないし、チームをどう使うか考えなければいけない。総合プロデュースが事業のミッションですので、それをどうやっていくのかを考えられる方が重要なのですが、実際はなかなか難しいですね。
――これまで新卒で御社に入られた方は、どのようなキャリアを踏まれて、どういった形で活躍されているのでしょうか。
少なくともバンダイナムコグループでは、色々な事業に就くことになります。我々は、エンターテインメント事業に関わることでやっていないのは出版業くらいなんです。音楽はランティス、映像はバンダイビジュアル、配信はバンダイナムコライツマーケティング、玩具もバンダイと一言で言いますが、純玩具から大人向けのフィギュア、カード、カプセル、アパレルもやっていて、ほとんどやっているんです。バンダイナムコグループの強みは、そこにあります。
社会人人生、長いか短いかわからないですが、色々なことを転職なしで経験できるんです。ライセンスを扱う部署もあれば、マーケティング、プロモーションの部署もある。プロデュースの部署もあるし、数字を扱う部署や戦略の部署もある。それらがエンターテインメントコンテンツのほとんどの事業に備わっています。色々な事業でさまざまな経験を積めるのは、個人にとって大事なことだと思います。実際、入社した後もジョブローテーションを勧めています。バンダイナムコエンターテインメントに入ったら、色々な部署に行って、色々なことを経験して、色々な人脈を作ってほしいと常々思っています。
――確かに人との繋がりはとても大事だと思います。
大事ですよ。我々はグループ内で会社が変わっただけで、取引先、上司、同僚、部下など全てが新しい人になるんです。これは、ものすごく大きな経験だと思います。年齢を重ねてから部署や会社を変えるというのはなかなか勇気がいる。そういう意味では、若いうちからどんどん色々なことを経験したほうが絶対に自分の為になるんです。会社員の立場として事業がどうこうではなく、人間としての厚みが出ると思います。
――御社に応募してみようと考えている新卒の方たちに対して、求めることはありますか。
「私はこういうことがやりたい」という気持ちは大事なんですが、新卒の方たちはまだ会社で働いたことがないからわからないと思います。だから、実際にやってみるとイメージと違うこともあれば、想像しなかったことをやったらおもしろかったりすることが多々あるんです。
仕事は1つではなく多岐に渡ってあるので、もちろんバンダイナムコエンターテインメントでゲームを作りたい、というイメージを持っていただいても良いのですが、色々なことを経験できるのがこの会社のいいところです。ですから、広い心を持って、色々な経験を積んで、最終的に入社時にイメージした仕事に到達するのも良いと思います。それまでの経験が、自分にとっても会社にとっても良いことなので、まずは広い心で。新卒の皆さんは白紙の状態で何でもできると思うので、「これだ!」と決めずに色々なことを経験して吸収してもらいたいです。例えば「どうしてもプロモーションがやりたい」といって入ってきても、ちょっと違うなと思うかもしれませんが、まずは経験して考えることが一番良いと思います。
――最初はわからないことばかりで判断もできないと思います。
そうですね。新卒の皆さんは、入社前は会社で働いたことないからわからないのは当たり前です。だから広い心で、あまり固定観念に縛られないでほしいですね。ただ、我々の最大の目的はエンターテインメントコンテンツを作ってお客様に楽しんでもらう、喜んでもらうことなので、そういうことをしたいという気持ちがあれば、「これしかやりたくない」と思わず、色々な経験を積みながら考えればいいと思います。
バンダイナムコエンターテインメントに入ると、色々なことができます。エンターテインメントの言葉の意味をご理解していただければ、極端に言えばなんでもできる会社です。ただ、主軸はゲームとしてのエンターテインメントにはなりますが。
――何よりも、可能性を持っておいてほしいということですよね。そして御社はその可能性を活かせる場があると。
エンターテインメントを扱う他の会社さんと比べて、我々の会社の良いところは、自分でやりたいことがあったら、やる気と実力と気合と根性があれば何とかなるところなので、そういう意味で可能性はとてもあると思います。
――一般的に規模の大きい会社は固いイメージがありますが、御社は懐が広いということでしょうか。
良い意味でゆるいといいますか(笑) でも、我々のグループがうまくいっているのは、そこが要因だと思っています。実際問題、現場では厳しい判断をする場もあると思いますが、決してそれが全てではありません。一般的なコンテンツ会社ですと、自分が担当したコンテンツが当たらなかったら、しばらく活躍の場がなくなるという感じだと思いますが、この会社は失敗しろとは言いませんし、失敗がいいとも言わないのですが、一度失敗した人は次に失敗しないと思っているんです。
同じ過ちを繰り返してまた嫌な思いはしたくないですから。でも、それがつぎの経験になるので、成功し続けてる人よりも失敗を経験した人のほうがいい。極端に言えば、ちょっとは失敗してほしいですね。そうすると、次の伸びかたが違ってくるんです。もちろん失敗の仕方にもよりますが、ちゃんと努力してたまたま結果が出なかった人に対して、しばらく次の機会を与えないということはないので、そこはひとつの会社の文化なのかなと思っています。ただし、何をやっても許されるのではなく、信賞必罰の原則は変わりませんが。
◼︎どこかで喜びを見つけ、何かが楽しいと感じられる職場環境
――失敗を受け入れる土壌もあると。その文化に関してですが、御社の職場はどのような環境や雰囲気でしょうか。
自由と言えば自由ですね(笑)。バンダイナムコエンターテインメントのビルのエントランスの装飾って良く変わると思いますが、それはエンターテインメントの会社なので、来社されるお客様を楽しませたい、つぎはどんな装飾なのか楽しみにしてもらいたい、という社長の意向なんです。
ある意味、仕事というのは辛いことだと思います。それが好きな事であっても、逆に好きだからこそ辛く感じることもあると思う。もし失敗したら嫌いになってしまうかもしれない。だから、辛いことなら少しでも楽しくしたほうがいいと思っていて、じゃあどうすればいいのか? 仕事の環境、人事の環境、生活環境で言うと、僕らではなく、現場で手を動かしてエンターテインメントを生み出している人たちが、「うちの会社風通し悪いよね」とか「環境が悪いよね」と感じてしまっていては、決していいものは作れません。そこに関しては、広い意味を含めて仕事がしやすい、働き甲斐がある、そしてエンターテインメントの会社なので働いて楽しくないといけない。
働いている人が楽しくないと、楽しいものは絶対に作れないし、お客様にも伝わってしまいます。ですから、会社の環境を少しでも楽しいものにしようと考えていて、そこに力を入れている、というよりも自然とそういう方向に向かっていますね。
――エンターテインメントを発信する人たちはエンターテインメントをインプットしなければいけないですから。
仕事は辛いに決まっているけど、上司が怒鳴って部下が泣きながら作っているようでは絶対にダメだと思います。辛いかもしれないけど、どこかで喜びを見つけたり、何かが楽しいと感じられないと、仕事はうまく進まないと思います。
――御社の社内環境の中で、特徴的なものがあれば教えてください。
これも社長の方針ですが、2ヶ月に一回全社員にドーナツを配るというイベントがあります。社長室の前にドーナツを置いて、みんなで遊びに来いと(笑) 社長室に行くと簡単なパターゴルフや、弊社のアミューズメントゲームが置いてあって景品が出たり。社長室のあるフロアは普段は誰も行かないので、月に一回ドーナツやスイーツを全社員分用意しています。普通の会社ではないかもしれないですね(笑)
あとは社員旅行があったり、東京ドームで運動会をやったり。これは社員が喜んでくれればという面もありますが、会社という場所、そして仕事が100%楽しくて、100%つらくないなんてことはないと思うので、だったら楽しくやっていこうよという考えですね。その中で、コミュニケーションが生まれたり、新しいアイデアが生まれればいいし、とにかく気分を前向きにポジティブにしたほうが、エンターテインメントコンテンツは良いものができると確信しています。
――随所に楽しむというところを大事にしているわけですね。
そこは強弱ですよね。いまの話だけだとすごくゆるい感じに思われるかもしれませんが(笑)、基本的には厳しく、+αで楽しく働くというイメージですね。
――ちなみに御社の社員の皆さんはどういったタイプの方が多いですか。
あまり普通の人はいないかもしれないですね(笑)。一昔前って、自分で望んでゲーム会社やおもちゃメーカーに入ってくる人は多くありませんでした。僕の時代もバンダイに入ったとき、「バンダイに入るの!おもちゃの会社だろ?」と言われていた時代でしたね。社会的な地位は、一般的な有名企業と比べると決して高くはなかったんです。いまは環境が変わりましたが、当時はそういう感じでしたので、そこでわざわざうちのグループに来て働いているいまの人たちは、みんな変わった人だと思います。
でも、自分たちが遊んでいたゲームやおもちゃを、今度は自分で作ってみたいという発想はすばらしいなと思っていますし、そこに踏み切って入ってくる人は、銀行や一般的な企業で働かれている方とは、少し違うんじゃないかなと思います。そのどこか違うところが、いまのバンダイナムコエンターテインメントの会社の環境、雰囲気であり、うまくいっている理由でしょうか。
――楽しいものを作り出したいというポジティブが方が多いのですね。ちなみに、新卒で入られた方は、先にお話しされたグローバル戦略にもどんどん参画されるのでしょうか。
そうですね。グローバル人材も多くとっていますし、そういう部署もあります。少し前まではグローバル部署を作ろうとか、海外と戦おうということが標語としてありましたが、いまは当たり前のことになっています。そういう意味ですと、社内にいる外国人スタッフの会社生活に対するサポートも人事で始めました。
――確かに文化が違いますから海外スタッフの方は戸惑うこともあると思います。
身の回りとはいいませんが、生活する上で、仕事する上でわからないことで、会社がサポートできることはやっていこうと。積極的というか、海外スタッフが増えてきたら当然そうすべきだなと思います。
◼︎新卒の方たち、そしてゲーム業界の方たちに向けて
――最後にメッセージをいただきたいのですが、まずは新卒の皆さんに向けてお願いします。
我々は、ゲームを主軸にエンターテインメントを作っている会社ですが、いまゲームの幅が広がってきていて、ゲームという言葉だけでは括りきれなくなっています。プラットフォームに縛られないこともあれば、縛られることもありますが、逆に言えば色々なことができる時代だと思います。ゲームという捉えかたもグローバルで変わってきて、狭いものから広いものになっているけれど、相変わらずコアな部分もたくさんあって。その中で、どういった新しいコンテンツを作るか? 我々の最大のミッションは、そういったコンテンツ、サービスを生み出すことであり、そういうものが作れることが多様性に富んでいる我々の会社だと思っています。自分の可能性は、自分ではわからないと思います。ただ可能性がある場所にいかないと、自分自身の可能性もわからないと思います。その可能性を試すという部分では、バンダイナムコエンターテインメントは可能性を試せる場所ですので、ぜひ我々の会社に来て可能性を試してもらいたいです。
何か具体的に実行することで可能性は見えてきますが、実行できる環境というのは意外とないものです。会社での仕事においては、狭い範囲の仕事をずっとやり続けることになるかもしれない。うちの会社でもゼロではないですが、少なくとも間口が広くて多様性があるので、まずは自分自身の可能性を確かめ、それをどう広げていくかを考えてほしいです。そのためにBNEは適した会社だと思います。とくにエンターテインメントの会社なので、人に喜びや楽しみを与えたいという方には、とてもいい会社です。ぜひともバンダイナムコエンターテインメントに入って、自分自身の可能性を確かめてほしいし、結果的に一人でも多くの人に新しくておもしろいエンターテインメントを提供できる人になって、世界中で活躍してくれることを期待しています。
――では、ゲーム業界の方々に向けてもメッセージをお願いします。
先日の業績でも、ネットワークコンテンツ事業は大きく伸ばすことができましたが、その要因はスピードかなと思っています。コンテンツを作ってサービスを提供するのは非常に多難な部分がありますが、やはりユーザー動向が非常にスピーディーになってきている中で、そこに追いつくためには我々のスピードをあげていくしかない。なるべく早くユーザーに提供し、なるべく早く結果を出し、なるべく早く次に進むということだと考えています。もちろん戦略に関しても熟考していますし、みんなで色々なことを考えています。その結果を早くユーザーに届けて、それが一体どうだったのかというところをトライ&エラーを含めてやっていくことが大事です。
とにかく今のエンターテインメント業界は何事もスピーディな世界です。そこで、じっと考え続けて、最終的に何もアウトプットしないのが一番よくない。かと言って、思い付きでやれば良いというわけではありませんが、早く考えて、早く実行して、早く結果を出すということが大事です。そこに関して、全スタッフが共通で認識を持っているところが、会社の業績が良い要因の一部だと思います。我々の持ち味はスピード。これからも、小規模でスピードのある会社さんに負けないようなスピード感でやっていきます。
――ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- 株式会社バンダイナムコエンターテインメント
- 設立
- 1955年6月
- 代表者
- 代表取締役社長 宇田川 南欧
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2896億5700万円、営業利益442億3600万円、経常利益489億5100万円、最終利益352億5600万円(2023年3月期)