【NDC18】韓国のモバイルゲーム市場の歴史から見る未来の展望…ネクソンコリア モバイル事業部副部長が市場分析を語る

ネクソン<3659>連結子会社のNEXON Koreaは、4月24日~26日の3日間、韓国最大規模のゲーム開発者向けカンファレンス「Nexon Developers Conference 18(NDC18)」を開催している。
 
本稿では、本イベント期間中、日本メディア向けに、ネクソンコリアのモバイル事業部副部長であるソ・ヨンソク氏に、韓国のゲーム市場についてお話を伺う機会を得られたので、その内容をお届けしていく。
 
 

■オープンマーケットの定着で急成長した韓国のモバイルゲーム市場

 

▲ネクソンコリア モバイル事業部副部長のソ・ヨンソク氏。フューチャーフォンが主流であった2007年ごろのネクソンモバイル時代からモバイル事業を担当している。
 
まずヨンソク氏は、韓国のモバイルゲーム市場を語るにあたって、過去から現在までどのように発展してきたかを振り返っていく。
 
韓国のモバイルゲームの発祥は1990年代半ば、白黒のゲームからスタートしたという。そして、モバイルゲーム市場が開拓されると同時に、世間ではカラーグラフィックの表示が可能なフューチャーフォンが急速に普及する。これにより、それまでに比べてより高度な表現が可能となったことで市場の有料化が進んでいく。その後、2000年代初頭にフリートゥプレイ、いわゆる無料で遊べるゲームが登場したことにより市場規模は一気に拡大される。
 
この時のフューチャーフォンゲームの発展は、今のスマートフォンゲーム市場の発展と非常に似ている部分があるとヨンソク氏は話す。最初はカジュアルなゲームからスタートし、徐々に戦略RPGやアクションRPGといったコアなゲームに流れがシフトしていく様が共通の部分にあたるという。特に、アクションRPGはフューチャーフォンがスマートフォンに切り替わる5年間に韓国のモバイルゲーム市場で最大規模の売り上げを誇るジャンルにまで成長した。
 
スマートフォンが普及し出した当初は、フューチャーフォンでヒットしたアクションRPGをスマートフォン向けに移行する動きが見られたが、これの多くは失敗に終わってしまう。これについてヨンソク氏は、当時、『アングリーバード』を始めとしたハイクオリティなゲームが非常に安価で配信されていたところにあると原因を分析した。
 

 
その結果、2009年~2011年の2年ほどは、売り上げの面で韓国のモバイルゲーム市場は世界に比べて芳しくない成績を収めることとなる。この状況を一変させたのは、App StoreやGoogle Playといったオープンマーケットの定着だ。この時の市場の成長速度は目まぐるしいもので、『Anipang』というタイトルでは1日に1億ウォン(約1000万円)、『みんなと一緒にチャチャチャ』に至っては1日に10億ウォン(約1億円)を売り上げるほどの規模に成長したと実例を挙げた。
 
フューチャーフォンが主流だった時代に、3年間でヒットしたゲームの売り上げを全て合わせて300億ウォン(約30億円)ほどの規模だったというのだから、スマートフォン市場の規模の大きさは明白である。さらに、アクションRPGの台頭が始まってからはより顕著に成果が表れるようになり、例えば『BLADE』は1年で1000億ウォン(約100億円)、『レイヴン(RAVEN)』に至っては3ヶ月で『BLADE』と同じ額を売り上げることとなる。
 
ここでヨンソク氏が注目したいと語るのは、同じジャンルのゲームが普及してユーザーを奪い合っているのではなく、ユーザーの総数が増えたということだ。
 

▲ネクソンでも、アクションRPGというジャンルで『HIT』がリリースされる。
 
『HIT』がリリースされて以降、韓国ではこれ以上アクションRPGの市場は大きくならないかと予測されていたが、ここに一石を投じたのが『リネージュM』や『リネージュ2 レボリューション』となる。これが、モバイルゲームにMMORPGが定着できたきっかけとなったとヨンソク氏は話した。
 
2016年までは『セブンナイツ』や『真・三國無双 斬』といった収集型のアクションRPGがヒットしたが、2018年現在は勢いが衰え、代わりにアップグレードバージョンであるMMORPGがヒットするようになった。ヨンソク氏は、これが、現在に至るまでの韓国のモバイルゲーム市場の推移だと紹介した。

 

■今後の韓国モバイルゲーム市場のトレンドの行方は?

 
ここからは2019年以降の韓国モバイルゲーム市場のトレンド予測を発表。
 
大きな変動要因がない限り、韓国のモバイルゲーム市場はしばらくMMORPGと収集型RPGが売り上げを牽引していくと考えられる。
 

 
MMORPGでは、PCからモバイルへの移行が急速に行われるようになると見ている。代表的な例としては先ほども挙げられた『リネージュM』や『リネージュ2 レボリューション』、さらに近年、韓国でリリースされて好成績を収めている『黒い砂漠』といったタイトルが良い例だと紹介した。まだ発表されていないタイトルにも、モバイルに移行する計画が進行中のものがあるとのこと。なお、中にはノンIPで独自のゲームクオリティのみを活かそうとしている開発会社もあると付け加えた。
 
一方、収集型RPGはサブカルチャーとの融合により人気を維持している。その一例として、『少女戦線』や『崩壊3rd』などを挙げた。また、今も多くの開発会社がパブリッシングの提案をしているという。こうしたタイトルはIPの強化でブランディングを図っており、ノンIPタイトルにもIP化によるブランディングを進める動きが見られている。
 
そのほか、フューチャーフォンの時代と比べて大きな違いになっているのがインディーゲームジャンルだ。ヨンスク氏は、フューチャーフォンにはオープンマーケットが存在しなかったため、インディーゲームを制作する小規模の開発は成り立たなかったと説明する。オープンマーケットが登場したスマートフォンでは、現在、中学生デベロッパーや新婚夫婦が制作したゲームが成功を収めたケースもあるという。ヨンスク氏は、小規模の開発者、幅広い層による開発者が加わったことでマーケットがより多様なものとなったとコメントした。
 

 
もちろん、個人の売り上げはメジャータイトルに比べれば小さいものだが、多くの開発者が加わったことによって競争や効率化はより活発なものとなった。こうして発展を遂げたモバイルゲーム市場は、2017年に初めて、全世界的にPCゲームの売り上げをモバイルゲームが凌駕する結果へと繋がる。最後にヨンスク氏は、2019年ごろにはモバイルゲーム市場の売り上げはPCゲームの120%にまで達すると予想しているとの予測を明かしてスピーチを締めた。
 

 
さらにこの後は日本メディアより気になった点についての質疑応答が行われたので、その模様をお届けしていく。
 
 
■韓国の市場から見る日本との違い
 
――:日本ではモバイルゲームはサービス開始から半年~1年がサービス継続へのひとつのポイントと言われているが、韓国でも同じ感覚でしょうか?
 
ヨンスク氏:韓国でも半年後~1年後というライフサイクルをもって最初に設計するが、より早い段階で判断しなければいけないケースもあります。その場合、サービスインから1日目、3日目、7日目、15日目、30日目のデータに基づいて、そのゲームを長く継続できるかどうかの一時的な判断を行います。
 
また、メジャーゲームかインディーゲームかによって戦略に違いはありますが、ボリュームが大きなゲームの場合、3ヶ月目まで推移を見て今後DAUを維持することが厳しいと判断された場合は規模を縮小することがあります。一方、インディーゲームは個人や小規模で運営されるのでその辺りのリスクは少ないです。

 
――:モバイルゲームのeスポーツ化は韓国で活性化されていくでしょうか?
 
ヨンスク氏:コンソールゲームやPCのゲームが活発にeスポーツ化されていることに比べると、モバイルゲームのeスポーツはまだそれほど活性化されていません。ですが、我々は引き続きモバイルゲームのeスポーツ化にも挑戦を続けたいと思います。理由として、オープンマーケットが活性化されたことで、プロゲーマーだけでなく一般ユーザーにもアプローチしやすくなるという点が挙げられます。
 
弊社のモバイルゲームもイベント制でeスポーツ大会を開催してきました。ネクソンアリーナなどもございますので、今後もチャレンジは続くと思います。個人的な意見としては、『PUBG』のモバイル版が韓国でどのような影響を及ぼすかがモバイルゲームのeスポーツ化を判断できるひとつの指標になるのではないかと思い、非常に楽しみです。

 
――:日本ではコンソールタイトルのリメイクが数多くモバイルに配信されていますが、韓国ではそういった動きはございますか?
 
ヨンスク氏:コンソールタイトルのリメイクは、日本の市場に比べてあまり事例が多くないというのが実情です。最も大きな理由は、韓国より日本の方がコンソールで優秀なタイトルを数多く開発できた環境が存在しているからではないかと考えられます。
 
そういった意味では、韓国は比較的コンソールよりPCゲームやオンラインゲームのIPをモバイル化する動きが加速化しています。他社タイトルの事例としては『リネージュ』や『黒い砂漠』、『MU』などが挙げられます。弊社のタイトルですと、『メイプルストーリー』、『アラド戦記』、『テイルズウィーバー』などがPCゲームをモバイル化している事例に当てはまりますね。

 
――:これからも日本のゲーム市場に韓国の開発会社が数多く進出してくるでしょうか?
 
ヨンスク氏:ネクソンだけでなく、数多くの韓国にあるパブリッシャーが海外進出を積極的に展開していようとしています。
 
『HIT』の日本サービスを運営して、凄く近い国なのにユーザーが求める体験や好みがかなり違うと感じました。ご存知の通り、ネクソンは日本にも会社を持っておりますので、その中でローカライズやカルチャライズの部分で努力をしてApp Store売り上げランキングのTOP10にも入ることができました。これまでも間接的には日本市場が大きなものだという認識はございましたが、こうした一連の成果を通じて改めて世界でTOP3に入るほど大きな市場だということを感じることができました。なので、ネクソンはこれからも日本ゲーム市場への進出は今後もチャレンジを続けたいと思います。

 
――:韓国でトレンドとなっているゲームジャンルを教えてください。やはり、MMORPG、MOBA、FPSなどコアなジャンルが人気なのでしょうか?
 
ヨンスク氏:MMORPGについては先ほどもお話しさせていただいた通り、今後3年は韓国のモバイルゲーム市場を牽引するメインジャンルになると思われます。サブカルチャーと融合した収集型RPGも2年は脚光を浴びるジャンルとなるでしょう。
 
一方、MOBAやFPSのトレンドについては疑問を抱くところがあります。弊社の『スペシャルソルジャー』こそ良い結果を残せていますが、他のFPSジャンルでは大きな成果が挙げられておりません。さらに、MOBAに至っては多くの失敗事例が発生しています。

 
――:逆に日本から輸入されたタイトルで有名なものはありますか?
 
ヨンスク氏:『神撃のバハムート』や『拡散性ミリオンアーサー』は、日本のゲームが韓国で定着することに大きく貢献したタイトルだと認識しています。2017年~2018年現在、韓国で成功を収めている日本のタイトルを見ると、IPを活かしたバンダイナムコのタイトルなどが筆頭に挙げられます。やはり文化の違いがありますので、日本から韓国に輸入される際にもローカライズの質が成否を大きく左右しているのだと思います。
 
一方、日本で大成功を収めている『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』、『Fate/Grand Order』といったタイトルは韓国では日本ほど大きく成功しなかったと理解しています。これは、決してクオリティの高いゲームが韓国市場に定着できないということではありません。個人的な好みも含めて述べますと、魅力的な世界観や独特なゲームシステムを持っているというところでは、ポケラボの『シノアリス』などは韓国でも成功する可能性があるのではないでしょうか。韓国ユーザーの好みをキャッチできる日本のゲームは他にもあると思いますので、良いパブリッシャーを見つけて上手く韓国向けにローカライズできればいろんなジャンルのゲームが愛されるようになると思います。

 
――:日本ではモバイルゲームの売り上げはガチャが多くを占めているのですが、韓国におけるガチャの認識はどのようなものでしょうか?
 
ヨンスク氏:韓国でも、日本と同じような問題がなかったわけではありません。弊社を始めとした各企業が、ガチャに対する問題を根本的に解決しようと努力しています。既に実施されているところでは、ユーザーへの確率表記が行われています。
 
ガチャというシステムでは、必ずしも自身が望んだ結果にならず、良くない結果を得ることになってしまう場合もあると我々は認識しています。そういったケースについては、確定している商品やマイレージシステムを取り入れるといった方向で喪失感を味わってしまっているユーザーへの配慮を考えています。
 
実際、売り上げの100%をガチャに集中するより、他にゲームを楽しめるものを数多く提供することでゲームに集中してプレイできるシステムをいろいろと工夫しているところです。

 


■関連サイト
 

NDC公式サイト(韓国語、英語のみ)

株式会社ネクソン
http://www.nexon.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ネクソン
設立
2002年12月
代表者
代表取締役社長 イ・ジョンホン(李 政憲)/代表取締役CFO 植村 士朗
決算期
12月
直近業績
売上収益4233億5600万円、営業利益1347億4500万円、最終利益706億0900万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3659
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NEXON Korea(ネクソンコリア)

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