【セミナー】女性向けゲームクリエイターの交流会「第5回GirlsGameMEETS」レポート…長く愛されるIPづくりの秘訣とは

 
ジークレストは、2月8日、女性向け作品に携わるクリエイター向けセミナー「GirlsGameMEETS」の第5回目を開催した。
 
今回は、コーエーテクモゲームス取締役でルビーパーティーブランド長の襟川芽衣氏、『金色のコルダ(以下『コルダ』)』『遙かなる時空の中で(以下『遙か』)』のプロデューサー松濤明子氏が、長く愛されるIPづくりをテーマに講演を行った。また、後半は『夢王国と眠れる100人の王子様(以下『夢100』)』事業責任者の礎考宏氏も加えてのパネルディスカッションが行われた。
 
本稿では、当日行われた講演の内容を中心にレポートをお届けする。
 
■GirlsGameMEETSとは
ジークレストが運営するイベント。女性向けゲーム業界の発展、女性向け作品に携わるクリエイターとの交流を目的としている。これまでもイラストレーターや、、シナリオライター、プランナー向けに開催された。
 
 

■女性向けゲーム誕生の経緯と歴史を紐解く

 
最初に、襟川芽衣氏が登壇。世界初の女性向けゲーム『アンジェリーク』が制作された経緯や、そのこだわりについて講演を行った。
 

▲コーエーテクモゲームス取締役、ルビーパーティーブランド長の襟川芽衣氏。
 

▲『アンジェリーク』は1994年にリリースされたスーパーファミコン用ソフト。
 
1980年代前半。既に活発にゲームが遊ばれていたとはいえ、そのターゲットプレイヤーは男性が主であった。そこに疑問を感じたのは現・コーエーテクモホールディングス代表取締役会長の襟川恵子氏。
 

▲襟川氏は、人類の半分は女性であるにも関わらず、女性向けのゲームがないのはおかしいと感じ、誰も作らないなら自らが作ると決めた。
 
こうして、女性向けゲームの企画が立ち上がった。しかし、前述の通りこの頃のゲーム業界は男性中心の世界であった。そもそも、女性の開発者がいない。そこで、まずはスタッフの採用から始まった。
 
1983年にはファミリーコンピュータが登場し女性もゲームをプレイするようになったことで、女性の開発者志望が徐々に増加。1990年に入る頃にはチームが固まり、ルビーパーティーが始動することになる。第一作目は、ピンクを多用したガーリーなビジュアルや少女漫画のような美しく上品な世界観、素敵な男性との恋愛など女の子が好きなものを沢山詰め込んだという。
 


しかし、恋愛・育成シミュレーションゲームとして制作していく上で、ゲームシステムが面白くならないという大きな問題が発生してしまう。プロトタイプ版をプレイしていた襟川氏も、当初は守護聖にパラメータを上げてもらい、建物ができるのを繰り返すことが中心で、たまに恋愛イベントが発生するというシステマチックなゲームになってしまっていたと語った。
 


問題を抱える中、ルビーパーティーブランドに『信長の野望』や『三国志』のプロデューサーであるシブサワ・コウ氏がチームに加入。シブサワ氏は女王候補にライバルを登場させ競い合わせるようにした。また、親密度によるキャラクターの行動変化などのシステムを導入するなどの施策で、ゲームが格段に面白く進化。シブサワ氏はチームにとってまさに守護聖様のような存在だったという。
 
チーム結成から10年、遂に『アンジェリーク』が発売。しかし、当時は女性向けゲームの市場がなかったこともあり、売り上げはそこまで伸びなかったという。また、ゲーム雑誌においても読者は男性ばかりで記事を取り上げてもらえなかったり、現在のようなSNSによる情報拡散もなく、そもそも情報が出回らなかった。だが、面白いゲームが出ていると一般誌が取り上げたことで少しずつ人気が広がっていったと振り返る。
 

▲漫画やアニメだと一方通行の想いだったものが、ゲームならキャラクターと双方向の関係性を構築できる。ユーザーに新たな感動体験を与えることができたのが『アンジェリーク』が人気になった理由だと分析した。
 

▲襟川恵子会長は、ファンに喜んでもらおうとキャラクターソングやドラマCDを発売。ゲームだけでは見えないキャラクターの新たな一面が見られると、大ヒットとなった。
 
ファンに喜んでもらえる、キャラクターへの愛情が深くなる、ビジネスもうまくいくのであればと、さらにコミカライズやアニメなどのメディアミックスを展開。人気を確立した『アンジェリーク』は二作目の製作を決定する。
 
二作目では主人公を変更しつつも、人気の守護聖たちは続投。しかし、一作目の主人公と守護聖の恋愛はファンの中で残っており、「新たな主人公と守護聖が恋愛するのは浮気のようなものだ」「一作目の主人公をないがしろにするのは可哀想すぎる」という意見を多く受けた。この事が、単に「ユーザーに喜んでもらいたい」という思いだけではなく、ユーザーニーズを把握した上でゲームに落とし込む必要があることを襟川氏は学んだという。
 

▲その後ナンバリングを重ね、2019年9月で25周年を迎える。IPを育てていけるだけのファンが今でもいることは幸せだと襟川氏は話す。
 

■長く続くIPに必要なこと3つ

 
続いて、襟川氏は長く愛されるIP作りに必要だと思うものを3つ挙げた。
 
・良い思い出として終わらせない
「あのキャラクター大好きでした」ではなく、今大好きなキャラクターとして挙げてもらえるように継続的に展開し、ファンの心を離さないこと。ただし、いつもそこにいるという安心感を与えてしまうと今度は飽きてしまう。程よい距離感とメリハリが大切だという。
 
・長く続けられる土台を作る
タイトルを長く続けたい、愛されたいと思うのであれば、一作目だけではなく二作目以降のことも見据えてストーリーや世界観を考えなければならない。また、タイトルが大きくなると全てを一人で作ったり監修するのは限界がある。万が一のことが起きても次の世代が安心してタイトルを守っていけるよう、誰が見てもわかりやすい設定資料を社内用に作っておく、自分と同じ意思や熱量を持つ部下を育てるというのも土台作りとして大事なことだという。
 
・ファンあってのIPであることを忘れない
当たり前のことだが、一生懸命になりすぎると疎かになってしまいがち。誰に向けて、何を感じて欲しくてゲームを製作しているのかを常に念頭に置き、ファンを大切にしていって欲しいと襟川氏は語った。
 

▲土台作りは、マネジメント職の襟川氏からすると一番やって欲しいことだという。
 
『アンジェリーク』とルビーパーティーの25周年となる2019年。家庭用ゲーム機を盛り上げる取り組みや、スマホタイトルの製作予定など今後の展開を話し、襟川氏の講演は終了した。
 

■歴史ファンと一般双方が喜ぶ要素とは

 
続いて、松濤氏が登壇。『コルダ』『遙か』を通して、長く愛されるIPの作り方について講演を行った。
 

▲『コルダ』『遙か』のプロデューサーを務める松濤明子氏。
 
1998年に開発を開始した『遙か』は2000年に発売され、現在までナンバリングだけでも6作品、派生タイトルや移植も含めると20作品以上となる。松濤氏がメインプランナーとして携わるようになったのはシリーズ3作目『遙か3』から。
 

▲『遙か』シリーズは過去の日本を舞台にしているため、時代考証には力を入れて製作している。
 
『遙か3』は、シリーズに触れていなかったユーザーにとって、魅力的な時代がモチーフであることがIPの拡大において重要だと考えていた松濤氏。そこで注目したのが、大河ドラマだ。発売の直後である2005年に放送予定の大河ドラマは「源義経」がメインとなることが決まっており、一般誌でも源義経が取り上げられる機会が増えるだろうと踏んでいた。そこで『遙か3』の舞台を源平争乱の戦の世に設定し、一般層を含める広いユーザーニーズに応えることを意識的に行うようにしたという。
 


『遙か3』は前作、前々作と比較して戦争のある時代であるというのがオリジナリティ。戦乱の世を舞台にすることで、『遙か』シリーズのテーマ「切ない恋」を歴史群像劇としても新しい切り口で語れるのではないかと考えたと、松濤氏は当時を振り返った。
 

▲一般的な女性が好きなものも、ゲームに落とし込んだ。
 
また、IPを拡大させていく戦略としてゲームとしてしっかり作り込むことも重視した。これまでのシリーズでは「アドベンチャーゲーム」「シミュレーションゲーム」「ミニゲーム」の要素が組み合わさったゲームサイクルだったが、『遙か3』ではより多くのユーザーニーズが見込める「RPG」要素を強化。さらに女性向けのゲームにはなかった、キャラクターによって異なる物語が展開する「キャラクタールート」を導入し、遊ぶたびにメインストーリーが変化するという新しい驚きを提供した。
 

▲『真・三國無双』シリーズから「強くてニューゲーム」の概念を取り入れた「運命上書きシステム」。シナリオとの関係性を深めたこのシステムは、ユーザーに支持された。
 

▲限られた開発費用を使う上で、新たな要素を取り入れるために重要な部分は何なのか見極めることが必要なのだという。
 
多くのこだわりで製作された『遙か3』は大好評。その後ストーリーやキャラクターが追加された『遙かなる時空の中で3 十六夜記』、新たなストーリーが楽しめる『遙かなる時空の中で3 運命の迷宮』といったファンディスクが発売され、『遙か3』と同等の売り上げを記録した。当時はタイトな開発スケジュールだったものの、ユーザーの気持ちがホットなタイミングでリリースできたことが良かったのだろうと松濤氏は分析した。
 

▲シリーズとして大事にしていたものを引き継ぎつつアップデートを行うには、コアなニーズに偏らない一般女性層に向けた感覚やリリースの速度が重要だとまとめた。
 

■お客様へおもてなしをするという感覚

 
市場は移り変わり、『金色のコルダ』シリーズの最新作を任されることになった松濤氏。
 

▲2003年に発売し、昨年15周年を迎えたルビーパーティーシリーズの『金色のコルダ』シリーズ。
 
『金色のコルダ』シリーズは、ヴァイオリニストの女子高生である主人公が、コンクールやコンサートを通じて演奏家の男子たちとライバルになり、競い合って恋を育む恋愛シミュレーション。
 
2010年当時の女性向けゲームの市場は、2004年と比べて非常に多くのタイトルがリリースされるようになっていた。『金色のコルダ』も、既存のファンを大切にしつつ、新しいファン獲得の努力をする必要があったという。
 


『金色のコルダ』シリーズは、最初から同じキャラクターでシリーズを続けていくことが設計されていた。当初より3部作が予定されており、ちょうど3作目でこれまでの物語を語り終えた段階。次は、新しいキャラクターでの展開が必要だった。
 

▲過去作から引き継ぐべきものを、綿密に話し合って決定した。主要な声優の引き継ぎも決定。
 

▲一方で、前作とまったく同じではマンネリ感が出る。そこで、前作では舞台として登場していない季節などを取り入れた。
 

▲声優引き継ぎの影響もあり、14名ものキャラクターが登場することになった。そこで、グループ分けをして覚えやすくした。
 
これまでシリーズを愛したお客様と、新しいお客様双方へのおもてなしが、長期で続くIPで新しい展開を検討する際に重要であると松濤氏。『金色のコルダ3』も、ifストーリーを半年に1本ペースでリリースする運びとなった。2019年2月14日には、シリーズのキャラクターが登場する最新作『金色のコルダ オクターヴ』が発売された。
 

▲長いIPは、既存のお客様を大事にし、新しいお客様をおもてなし、定着していただくための速度感のバランスが大切であるとまとめた。
 

▲シリーズの周年に向けて、今後もさまざまな展開を用意しているという。
 

■パネルディスカッション

 
講演の後は襟川芽衣氏、松濤明子氏、礎考宏氏の三者によるパネルディスカッションが行われた。
 

▲『夢100』事業責任者の礎考宏氏。
 
パネルディスカッションは、三者に質問する形式で行われた。「IPを広めるためにメディアミックスやプロモーションなど、ゲーム以外の部分での展開の思想を教えてください」という質問に松濤氏は、『遙か3』が舞台化したり、そのDVDが発売される予定となったりしていることを挙げ、そういったものからIPを知ってもらうのが重要になってくるのではないかと述べた。また、だからといってブランドイメージを損なうような、あるいはお客様をがっかりさせるような展開は、いかに広まるからといって簡単に飛びついてはいけないと注意も促した。
 
また、礎氏も『夢100』はファンに魅力と感じてもらっていて、社内でも大切に守っていきたい価値観を”コアバリュー”と定義しており、いかに”コアバリュー”を守って展開できるかを重要視しているという。また、今のトレンドにあった広め方を使っていくことができればいいが、ゲームとの連動性はかなり気にしていると語った。スマホゲームの展開なので、外の展開からゲームに戻ってきてもらうところを、意識的に繋げていきたいというのが、最近の考え方であるという。
 
「IPの監修の後任はどうやって育てていますか?」という質問に襟川氏は、単純な答えだが、作った本人が頑張って育てるしかないと回答。なぜなら、そのタイトルをどう作ったか、キャラクターをどういった思いで作ったかは、本人にしかわからないものであるからだという。後任者と見込んでいる人と一緒にゲームを作り、理解を深めていくことが大切であるとまとめた。
 

 
最後は、三者とも自身のタイトルで女性向け市場ナンバーワンを狙っているというライバル宣言で盛り上がる中、今回の「GirlsGameMEETS」は閉会となった。
 
 
(取材・文 ライター:岩崎ヒロコ)


【関連記事】
【セミナー】女性向け人気タイトルに関わるクリエイターの交流会「Girls Game MEETS」レポート…人気タイトルの運営ノウハウと繊細なキャラクター設定



■ジークレスト
 

公式Facebook

公式Twitter


(C)GCREST, Inc.
(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.
株式会社ジークレスト
https://www.gcrest.com/

会社情報

会社名
株式会社ジークレスト
設立
2003年11月
代表者
代表取締役社長 大辻 純平
決算期
9月
企業データを見る
株式会社コーエーテクモゲームス
https://www.gamecity.ne.jp/

会社情報

会社名
株式会社コーエーテクモゲームス
設立
1978年7月
代表者
代表取締役会長(CEO) 襟川 陽一/代表取締役社長(COO) 鯉沼 久史
決算期
3月
直近業績
売上高681億700万円、経常利益341億6600万円、最終利益268億5200万円(2023年3月期)
上場区分
非上場
企業データを見る