D2C Rが開発するART Analyticsは、アプリ向けの広告効果計測ツールで得たデータをグラフや表で可視化するダッシュボードだ。同社が提供するアプリ向けDMP「ART DMP」に新たに追加された新機能で、これまでデータを蓄積することはできていても、それを上手く活用できていなかったアプリ運用企業に向けて今後普及が期待されるツールである。
そんなART Analyticsをいち早く導入しているのが、『にゃんこ大戦争』などで知られるポノスだ。同社はART Analyticsで可視化されたデータを元に施策の成否を判断、次の施策へとつなげている、早くもツールを最大限活用している企業と言えるだろう。
そんなポノスでマーケターとして活躍する佐藤佑介氏と、ART Analyticsの開発・運用に携わるD2C Rの久原博喜氏にインタビューを実施。スマートフォンアプリにどのような好影響を及ぼすのか伺った。
■手間のかかる分析が直感的に、分かりやすく
ポノス株式会社
マーケティング室
デジタルマーケティング局 チームマーケター
佐藤佑介氏(写真左)
株式会社D2C R
メディア本部
運用部 マネジャー
久原博喜氏(写真右)
――まずはお二人がどのような業務に携わっているか教えてください。
久原氏:D2C Rの久原と申します。弊社が開発するアプリ向けプライベートDMP「ART DMP」の開発責任者をしています。以前は親会社のD2Cで広告商品の開発や営業サポートをしておりまして、D2C Rに入社したのは2015年のことです。それからは運用型広告の担当としてアプリのプロモーションを行ってきました。今は運用型広告の運用チーム、入稿やレポーティングを行うオペレーションチーム、そしてDMPを用いて分析を行い、アプリの既存ユーザーの利用率を高めるリテンションチームのマネジャーを務めています。
佐藤氏:ポノスの佐藤と申します、よろしくお願いいたします。担当業務としては、弊社が運営しているタイトルのデジタルマーケティングです。主に運用型広告を担当しているのですが、弊社では広告媒体社と直接やり取りを行い、クリエイティブ制作も内製で行うインハウスの体制を取っております。その際にART DMPを使用していて、その一環としてART Analyticsも先行して提供していただいています。
――そのART Analyticsがどんなものなのか、あらためて説明していただけますか。
久原氏:ART Analyticsは一言で言うと、アプリ内のKPIを可視化するダッシュボード機能です。まずART DMPの説明をすると、AdjustやAppsFlyerといったアプリ向けの広告効果計測ツールのパートナーとして、それらがトラッキングしたデータ、例えばインストールや課金、起動などの数字を蓄積することができます。
これまでは主にリテンションマーケティングを行うためのセグメント生成が主な用途でしたが、今回開発したART Analyticsによって、蓄積したデータを可視化・分析できるようになりました。
――可視化するということは、分かりやすくなったということですか?
久原氏:そうですね。グラフなどを使ってより直感的にデータを見ることが可能となりました。
――そんなART Analyticsをポノスさんが先行して利用しているとのことですが、この取り組みにはどのような背景があったのでしょうか?
久原氏:私たちにはART Analyticsを作ろうと考えた狙いが2つあり、ポノスさんはその2つに合致するお客様であったため、先行利用をお願いし、ご意見をいただきながら開発を進めてきました。
1つ目の狙いは我々がプロモーションを担当しているお客様へのさらなる価値提供です。広告代理店として、よりお客様と同じ目線で現状や課題を考えたいという思いがあります。もちろん広告効果計測ツールだけでも課題を見つけることはできますが、分析しづらい指標があるのも事実です。それを可視化して、ともにアプリを成功へ導く活動がしたかったのです。
2つ目はインハウスの企業、つまりプロモーションを自社で行っている事業者にART DMPをもっと活用してもらいたい思いがありました。インハウスの企業様のお話を聞くと、分析のためのレポーティングの部分に課題があるという声をよく聞きます。なので、分析をサポートする機能を作れば、ツールとしての価値を高められると考えました。
――佐藤さんはART Analyticsに対する第一印象はいかがでしたか?
佐藤氏:ART Analyticsは前身となるサービスのころから利用していたので、ART Analyticsとしてリリースする話を聞いたときも興味が湧きましたね。実際に提供していただいたときは、画面の見やすさに驚きました。それまでは分析を行う際、数字をExcelに落とし込んで、見やすく整理整頓する必要があったのですが、ART Analyticsだとそれが最初からできているんです。一手間がなくなるので、便利さはすぐに実感できました。
――以前はどのように分析を行っていたのでしょうか。
佐藤氏:外部計測ツールをいくつか使っていて、データをCSVで落として分析するという流れでした。これまでのツールだけでもテータ自体は取れるのですが、手間がかかっておりました。そういった億劫な作業を省き、見るだけで情報が分かるようにしてくれたのがART Analyticsです。
久原氏:広告効果計測ツールのパートナーとして、ツールで得たデータをより分かりやすく、より活用しやすくというのは、我々が目指しているところです。
――特に役立ったと思ったエピソードはありますか?
佐藤氏:直近だと施策の分析に使用させて頂きました。今まで施策の分析は手間がかかることが多く、継続率の分析をするのにも時間がかかりました。ART Analyticsだとそれがひと目で分かり、どの施策が効果的だったか、そこに法則性があるのかも分かったんです。
久原氏:リテンション分析の機能では、とある日に打ち出した施策が、効果を発揮したのかが色の濃淡で判別できるように設計されています。インストールしたユーザーが数日後にもアプリを遊んでくれているのか、復帰は促されているのか、数値が上がっていれば何かしらの施策が影響を及ぼしていると分かります。
▲リテンション分析のデモ画面。
この画面では2/16に行われた施策によってユーザーの定着・復帰が促されていることがわかる。
この画面では2/16に行われた施策によってユーザーの定着・復帰が促されていることがわかる。
――マーケティングだけでなく、ゲームの運営に影響はあったのですか?
佐藤氏:もちろんありました。マーケター視点で良かった施策、悪かった施策を判断して、運営チームに報告することで実際の方向性にも変化が生まれます。もちろん良かった施策であれば、よりその方向性が強くなりますし、効率的な運営ができるようになったと思います。
――ART Analyticsの中にもたくさんの機能があるとは思いますが、特におすすめしたいものはありますか?
▲アクティブユーザー分析のデモ画面
久原氏:いろいろありますが、ひとつはアクティブユーザー分析ですね。例えばその日にゲームをプレイしたユーザーが、どういった経緯で起動したかがひと目で分かる機能となっています。新規のユーザーなのか、自然復帰なのか、広告経由での復帰なのかなどが判別できます。これによって、「ユーザーが増えました」で終わるのではなく、「何が影響して増えました」までが分かるというわけです。
またこの画面ではX日連続アクティブユーザー数(X日は可変)も算出しており、定着したユーザーがどれだけいるかも見ることができます。広告を出してユーザーを獲得したものの定着していないとなれば、それはプロモーションが上手くいってないということになります。逆にコラボなどを経てアクティブユーザーが維持できているのであれば、新しいコアユーザーを獲得できたことになります。
――推移が分からないと、闇雲に施策を打ち続けることになってしまいますからね。
■データに基づいたマーケティング環境を作りたい
――今後ART Analyticsはポノスさん以外のメーカーにも普及していくと思いますが、どんなアプリと相性が良いと考えていますか?
久原氏:弊社はリテンションマーケティングに力を入れており、スマートフォンゲームを運営する方が重要視するKPIなどに対応する形で開発を進めています。そういう意味では多くのタイトルで役に立つと考えています。
――現状の課題などは見えていますか?
久原氏:リリースしたばかりなので、これからは利用される方々の声を聞きながら改善点を見つけていきたいと思っているところです。その中で見つかっている箇所と言えば、継続率に関しては現状、日で分析できるものの週や月で見ることができないので、これは今後開発を検討しています。これ以外にも新たな機能を加えるだけでなく、より多角的な視点で見られるような改善は行っていくべきだと認識しています。また、お客様が独自に追いかけているKPIがあれば、ご意見いただきながら開発していきたいですね。
――佐藤さんをはじめ、ポノスさん側から要望を出すケースは?
佐藤氏:広告経由のユーザーと自然流入のユーザーの関係性を気にしています。どれだけ広告経由のユーザーを増やすと自然流入に影響が出るかを可視化出来ると便利だと思ったのでご相談しました。
久原氏:広告出稿と自然流入の相関性は私たちもテーマだと思っているところです。インハウス企業はもちろん、代理店の立場としても明らかにしたいデータです。
佐藤氏:業界全体が気にしていると思います。
久原氏:あと、ポノスさんからいただいた意見を反映した機能もあります。休眠復帰分析というものがあって、一言でいうと「どのくらいの期間アプリの起動を休むと自然には復帰してくれないのか」が分かる画面です。これはポノスさんと私たちがリテンション広告で協力する中で、作成したデータが元になっています。
――実際に導入する際、作業はスムーズに行えたのですか?
佐藤氏:スムーズだったというか、弊社が使用している計測ツールとART DMPが連携しているので、こちらとしては手間が掛からなかったです。
久原氏:これはぜひ強調したいポイントで、ART DMPを導入するのにアプリ内に弊社のSDKを入れるといった特別な作業は一切必要ありません。広告効果計測ツールのパートナーに認定いただいているので、そのツールの管理画面にIDを入力していただくだけで利用できます。
――導入というより、設定を変える程度の作業でしかないと。
久原氏:はい、アプリのアップデートも一切不要です。ART Analyticsのようなツールがなかなか普及しないのは、導入の難しさが要因のひとつだと思います。一般にアプリ向けのツールは開発やアップデートが必要で、ブラウザの世界におけるタグを埋めるだけという手軽さがアプリにはありません。我々はそのハードルがないツールを目指しました。
――今後はどういった領域に力を入れたいと考えていますか?
久原氏:やはりポノスさんのようなインハウス企業はこれからも応援したいですし、応援できるツールを目指したいです。インハウスに取り組まれる企業は増えてきましたが、苦労も多いと思います。
佐藤氏:広告を出すにも工数がかかるし、なによりスタッフの裁量によって良し悪しが変わってしまう面があります。場合によっては「代理店にやってもらうほうがよかった」となるケースだって考えられますよね。
久原氏:そうですよね。みんなが取り組みたいと思っていても、なかなか踏み出せないことです。そしてポノスさんが感じる難しさは、これからインハウスになる会社さんにとっても課題になると思います。そこで我々が先行してニーズを汲み取り、最初から便利なツールに成長させたいと思っています。
――最後に、読者へ向けてのメッセージをお願いします。
久原氏:アプリの世界ではマーケターがデータを使える環境が整っていないと思っています。私たちは少しでも、データに基づいたマーケティングができる環境を作りたいと思っており、今回のART Analyticsを開発しました。データの分析、取り扱いに課題を感じる方はぜひお声がけいただきたいです。
佐藤氏:「にゃんこ大戦争」はおかげさまで6周年を迎えましたが、まだまだ多くの方に遊んでもらいたいと思っています。マーケターとして、D2C RさんやART の力も借りながら尽力していきたいですね。
――ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- ポノス株式会社
- 設立
- 1990年12月
- 代表者
- 辻子禮子、辻子依旦
- 決算期
- 11月
- 上場区分
- 非上場