昨今のゲーム開発現場においては、ユーザーの動向をつかむためのデータ分析が欠かせなくなっている。あらゆる開発会社において、分析専門の部署を設立している会社も年々増えている。
ゲーム開発や運営におけるデータ分析のあるべき姿とはどういったものなのか。今回、ゲーム業界でデータ分析に従事する人をフォーカスするべく、分析会社リーン・ニシカタの協力のもと、ミクシィ解析グループマネージャーの石川祐輝氏との対談を行なった。
多くの人に楽しまれている『モンスターストライク』や先日リリースされた『モンストドリームカンパニー』(以下、『モンパニ』)を手がけるXFLAG スタジオのデータアナリストが持つ分析における考えとは。本稿ではその対談内容を紹介していく。
株式会社ミクシィ
モンスト事業本部
解析グループ マネージャー
石川 祐輝 氏(写真右)
SNS「mixi」の機能改善や分析業務を経て、解析グループの元となる業務に立ち上げから参画。現在はモンスト事業本部解析グループのマネージャーを務める。
株式会社リーン・ニシカタ
代表取締役
西方 智晃 氏(写真左)
株式会社ディー・エヌ・エー在籍中、分析基盤構築、大規模データ集計、機械学習などの分析業務を手がける。2018年に株式会社リーン・ニシカタを創業し、今は分析×マーケティングを活かしたモバイルアプリへのグロースハック支援を行う。
西方:今回、9月6日にリリースされた『モンパニ』にてお仕事をご一緒させていただいたこともあり、対談が実現しました。本日はよろしくお願いします。まずは、改めて石川さんのご経歴からお話していただけますか。
▲『モンストドリームカンパニー』
石川:よろしくお願いします。新卒として入社し、SNS「mixi」の開発部門にアサインされましたが、1年ほどでSNSのデータ分析チームに異動になりました。その後、2014年1月から『モンスト』のチームに入り、今に至ります。
西方:石川さんは、学生の頃から分析に興味があったんですか?
石川:そういうことでもないんです。色々な業務をこなしていくなかで、作ったものがどのように使われているのかを考えるようになりました。
西方:XFLAG スタジオ(以下、XFLAG)の解析グループのメンバーは新卒の方も多いですよね。今は新卒と中途でどれぐらいの割合になっているのでしょうか?
石川:丁度半々ぐらいですね。最近は新卒でデータサイエンティストを志望する方が増えました。今は学生の段階でビッグデータや、整った設備を使えるようになっていますから、新卒でも知識のある方もいます。その技術を実際のサービスデータで試したいという若手が多いです。中途の方は、これまでにデータ分析を経験されたことがある方が主になります。それでメンバー構成は半々といった感じです。
西方:さらにXFLAGの分析メンバーについてお話をお聞かせいただきたいのですが、チームを作り上げていくうえで苦労されたポイントはありますか?
石川:最初は一人でしたし、何もなかったので大変なことばかりでした。サーバーにログは溜まっているし、データベースもあるんですが、それ以外何も無い状態からのスタートで、とにかく時間がかかりました。集計できる状況さえ作れれば、SNSのチームで培った技術を活かせるんですが、そこに行きつくまでがちょっと大変でした。
西方:XFLAG解析グループの基盤は石川さんが作り上げたんですね。
石川:今では、その頃の影も形もないですけどね(笑)。
西方: 0のものを1にできるというのはすごく大事なことです。ですが、0からとなると、周りを巻き込んでいくのも大変ではありませんでしたか?ましてや分析となると、すぐに成果を見せることが難しく、協力も仰ぎづらいと思いますが。
石川:そうですね。0を1にする作業というのは、周りの人も意義を読み取りづらいですし、意味を理解されないことが多いです。「なぜそんなことをやっているの?」といったようなことを言われることもあります。
ただ元々はSNSのチームで一緒だった人間がエンジニアの方をやっていたんです。なので、コミュニケーションはとりやすかったです。基盤さえできてしまえば、あとは、SNSの頃にも積み上げてきた集計作業でしたからね。
西方:石川さんご自身が分析において重視していることは何ですか?
石川:”思いやり”でしょうか(笑)。分析依頼に対して、依頼してきた人のバックグラウンドまで読み取るように意識しています。
例えば、企画の方から「年内のユニークユーザー数を教えてください」と依頼されたとしても、それを集計する必要があるという判断に至った理由などを聞き取っていくことで、表層上の数値だけでなく、より深くまで理解できるデータが出せるんです。本当にそのデータだけがすぐに欲しいパターンもありますから、相手の求めるものが何なのかに気を付けることですね。
西方:たしかに、依頼した人でさえ、それが本当に必要な情報なのかがわからないケースも少なからずありますし、一言でデータを取り扱うといっても難しい問題ではあります。
石川:さらに、そのデータを使ってほかの誰かに説明することになると思うのですが、その相手が誰なのかによってまた理解が変わってきます。開発やマーケティングの方と関わっていく中で、難しいところではありますが、今のところはやれていると思っています。思いやりというのはそういう意味ですね。
西方:とにかくデータがすぐに欲しいという場合もあるし、話を聞いてみると、依頼されたデータだけではやりたいことができないのではないかと思うこともあります。どこまでのデータが必要で、どこからのデータは不要なのか、依頼によって変わってくるニーズの汲み取り方が、石川さんは上手な印象がありますね。
石川:新卒の方に、大事なのはコミュニケーションですと言っても、なかなか理解を得られないところだったりもするので、”思いやり”と言うことで汲み取ることに意識してもらうようにしています。
西方:相手の背景も知ったうえで先手を打てれば出戻りも少なく済みますから、重要なポイントですね。石川さんが思いやりを必要だと思うようなったのは、XFLAGの解析グループを立ち上げてからですか?
石川:SNSの分析チームにいたときは、会社の部門がSNSの機能ごとに分かれていた時期があって、その部門をユニットと呼んでいました。そのユニットの中には分析を担当する人はいなかったんです。人数も足りていませんでしたし、あらゆる部門を平行して担当していたので、自然と相手の立場に合わせた考え方をするようになっていきました。
西方:色々な方とコミュニケーションを取っていくうちに、自然と染みついていったということですね。分析は様々な立場の方から依頼されることになりますけど、XFLAGではマーケターや企画の方からどういった流れで依頼されて、業務を進めいくのでしょうか?
石川:割と大きいコミュニケーションとしては、ゲームのコラボ企画の時にキャンペーンをやるとか、ちょっと力の入ったアップデートがあったりとか、そういったときのデータを普段から調べてフィードバックしていく様にしています。こうしたフィードバックは、毎月行なうようにしています。小さいアップデートであればすぐに解決できますし、中規模のものならプロジェクト管理ツールで集計依頼をもらってお返しするといった流れです。
西方:たしかに、他社でもチケットで依頼を管理することは多いですね。ただ、このやり方だと運営・開発の"現場感"から、分析班が切り離されてしまうという課題が残ると思います。立ち位置が完全に外の人になってしまい、分析からの示唆を開発側で受け入れてもらいにくくなりがちになってしまう状況ですね。
そんな中、石川さんはこの現場感をつねに持たれているという印象があります。色々な人と関わっていくのであれば、それぞれがどんな仕事をしていて、直近で何が問題だと考えているのかを分かっている必要があります。
そういうことを理解し合える関係を築くことが、連携の第一歩になると僕は思っています。石川さんはその辺りを意識されていて、上手に入られていると思います。
石川:そこまで意識しているつもりはないのですが、そうなのでしょうか(笑)。自社のゲームはかなり遊んでいますので、特に意識はせずとも連携がとれているかもしれません。
西方:他社さんのケースをみていると、そう感じますよ。もちろん、開発の方と同じ言語で話すには、専門用語も知らないといけない。サービスへの理解も必要にはなります。スマホゲームは時代とともに移り変わっていきますから、今はどんなユーザーがどんな遊び方をしているのか、そういった変遷も把握できていないと、開発メンバーとのコミュニケーションで齟齬が発生しがちです。
開発の方はゲームが好きですから 自分のタイトルも遊んでいる方が多いですし、そういった人たちと話し合うには、同じぐらいやり込んでおいたほうがやっぱり有利なんです。XFLAGの解析グループの方々は、すごくゲームをやり込まれているので、開発チームとのコミュニケーションが円滑なのではないでしょうか。
石川:解析グループに限らず、XFLAGでは本当に皆でやっていますよ。 『モンスト』は協力プレイで遊ぶ機能がありますし、みんなでワイワイ楽しむというのが根底のコンセプトとしてあります。周りに同じゲームをしているプレイヤーがいるわけですから、誘いやすいということもあって、結構頻繁に協力プレイで遊んでいたりします。本当に仕事しているのかと思われることもあったりもします(笑)。
西方: SNS運営の知見と『モンスト』のコンセプトが、解析グループの考えにも根付いているんでしょうね。ゲームもプレイして、そこの一喜一憂をお手軽に共有していくところから始めるのも大事だと思います。
西方:多くの関係部署とのやりとりがあるなかで、アウトプットをどういう風にしないといけないのかを工夫されているかと思います。分析データのアウトプットについて、より見やすくなるように工夫されている部分などはありますか?
石川:なるべくシンプルにまとめるようにしています。それひとつで分かるようなグラフが理想的です。ですが、これもあまり決まった形はなくて、相手に合わせて変えていますね。うちのメンバーが資料を作ると、ひとりひとりフォーマットが違うんです(笑)。求められているものが毎回違うので、どうしても毛色が変わってきてしまうんです。分析するメンバーが違うのであれば、そういった感覚の違いがあるというのも面白いと思っています。
西方:そこをシステマチックにしすぎると、色々な状況に対応しづらくなってしまいますしね。
石川:こちらからもお聞きしたいのですが、他社さんでは集計した数値はダッシュボードみたいに整理しているケースが多いのでしょうか?
西方:定点観測する項目はもちろんあります。何か予想と違う動きがあったときに ダッシュボードを置いて定点観測している部分に異常がないかを分析して、原因をはじきだせるようにしないといけません。これも場合によって形は違っていて然るべき部分だと思います。ここもゲームの作り手と分析官の相互理解が大事なので、これも”思いやり”のひとつというところですね。
石川:こちらとしても、企画チームから得られるフィードバックだけが、僕らが得られるものですから。お互いの協力は欠かせません。依頼する側だけでなく、依頼された側もゴールをしっかりと固めておかないといけませんね。かといって固めすぎるのもしんどいですよね。すべての項目を埋めなくてはいけなくなるので。
西方:それも確かにありますね。あらゆるケースを想定しすぎると収束しなくなってしまいます。データドリブンの世界でこんな表現をするのもなんですが、バランス加減やさじ加減といった感覚的なところも必要ですよね。
ただ、難しいのはゲームにおける面白い面白くないという感覚は、数字で割り切れるものではないという点です。データ的に良さそうだからやってみたというだけではユーザーが狭まってしまいます。データドリブンとは言っていますが、発端は面白いものを作りたいという熱意やアイデアであるべきで、それが万人に受けるかどうかというのを評価し、自分のイメージと違ったところを直していく部分をデータドリブンにするのが良いと思います。
石川:うちは言うなれば”ユーザー感覚ドリブン”なんじゃないですかね。ユーザーさんや社内でのフィードバックなどのリアクションを受けて、そのニーズを把握してから次を打つという流れが回す形なのかなと意識しています。
西方:理想的な分析の関わり方ですね。ゲームを作れる人と分析ができる人は使う能力が全然違っていますから、面白いものを作れる人と、それを評価する人は分けて考えるべきですね。
今回、『モンパニ』を通じて、一緒にお仕事もやらせてもらいましたが、実際にご一緒してみて、石川さんは弊社に対してどんな印象を持たれましたか?
石川:新卒から今のポジションに至っているので、他社さんにおける具体的な分析に入るまでの流れをあまり知らないんです。中途で入社してきたメンバーからある程度教えてくれたりもしますけど、実際に一緒にやることはなかったので、他社さんの動きが見えるのは面白い学びがあります。
西方:それについては私も同感ですね。我々は様々な企業さんに入らせて頂きますが、会社によって流れが違うので、現場の流れを壊さないようにつねに意識するようにしています。会社さんによっては、やり方が決まっているので、それに従ってほしいと依頼されるケースもあります。その制限の中で最大限の結果を出せるように努めていますが、XFLAGさんでは自由にやらせていただけおり、こちらとしてもすごく新鮮です。
石川:あと、西方さんは本当にコミュニケーションが上手だなと思います(笑)。開発からあがってくる「ログをねじ込んでくれ」といったような急な要望に対しての対応が上手だなと感じています。
西方:僕はエンジニアをやっていたというバックグラウンド的な部分が大きいかもしれません(笑)そのログを仕込む作業というのは、 サービスを作る側としてはゲームにあまり関係ないことなので本質的ではなく、彼らはもっとクリエイティブなものを作りたいと思っています。なので、優先順位はどうしても低くなってしまいがちです。こういうログを頼んでくるのは、関係ないところから情報を取らないといけないので、面倒くさいというのも分かりますから、このログがあることによって、どういうことができるのかを、きちんと説明して事前に膨らませられるように気をつけています。
石川:もともとエンジニアとしての経験があるからこそ、相手がどう受け取るかがわかるんですね。
西方:ただ、これについては石川さんもかなりしっかりやられてると思いますよ。
石川:やってはいますが、西方さんの方が上手だなと感じています(笑)。自然にやれるというのが重要なんだと思いますね。
西方:こういった問題は、依頼する側からしても頼みづらい部分はあると思うので、歩み寄りが必要ですよね。日々のコミュニケーション、”思いやり”が重要と言うのはシンプルながらも言い得ていると思います。
西方:ここまで、XFLAGさんの分析で大事にしていることをフォーカスしてきましたが、これからの分析官に必要な素養は何だと思いますか?
石川:アプリゲームでのデータ分析においては、集計分析といった作業はもちろんですが、基盤インフラも作れるようになった方がいいと思います。最低限、このふたつはやれるようになってほしいと感じます。
現場でも、基盤を定着させ、データ分析できる環境を作れるようになってほしいと言っています。このふたつさえできれば何でもできるようになりますし、そこからさらに、機械学習やデータインフラを極めるなど、スペシャリティを伸ばしていくといいのでないでしょうか。
機械学習ができたとしても、基盤にデータを出すことができず、サーバーや開発のチームとコミュニケーションも取れませんとなったら何もできません。それはただ無力に終わってしまいます。
西方:たしかにおっしゃる通りですね。せっかくの機械学習も方法論だけではあまり意味がなく、その裏側にあるシステムを理解し、自分のやりたいことを自力で実現しようという心構えが必要だと思います。開発規模が大きくなると、分業が増えてきますが、任された部分だけに集中するのではなく、その前後にあるものまで意識できないと難しいですね。
石川:XFLAGでは、サーバーの開発チームがそういう思想を持っています。インフラも作るし、ゲームも作る。自分たちのサービスは全般を手がけるんだという想いが強いです。
西方:実際にXFLAGさんのエンジニアの方とお話しさせていただくと、それぞれにサーバーやクライアントといった専門領域はありますが、そこだけに特化しているわけでもありません。サーバーもクライアントも分かるし、ビジネスの領域にも理解がある。知識の幅が広いという印象があります。こうした文化の背景はどういったところにあるのでしょうか。
石川:特別意識したというよりは、環境が良かったのかもしれません。分析を始めたばかりの時は、隣にプロデューサーがいて、目の前に社長がいるような環境で集計をしていました(笑)。あらゆる情報がすぐに入ってくるので、とても良い環境だったように思います。
西方:XFLAGさんぐらいの規模になると、そういった環境を作れる会社さんは少ないように思います。開発チームのメンバーですらプロデューサーとの距離が遠いこともあるぐらいです。
石川:プロデューサーとしばらく喋ったことないみたいな話を聞いたりしますからね。それはあまり良い環境ではないので、できればプロデューサーも巻き込んで話すようにしていました。
西方:冒頭のお話で、SNS時代は人が足りなかったために、全部のユニットを見なくてはいけないという話がありましたけど、ゲームの現場でも同じようなことが今後は起こってくると感じています。タイトルが増えれば、ひとつのタイトルに専属がひとりいるという環境を維持できなくなってきますよね。その際、どういった体制を作るのが理想的だと思いますか?
石川:それはそのチームに合わせるといった回答になってしまいますね(笑)。集計する集団が一箇所に集まっていた方が良いのか、それとも分散した方がいいのか。これはまた無限に話せそうな話題ですね。
西方:業界全体を見てもまだ最適解がない話ですからね(笑)。
石川:僕個人の意見としては、規模に合わせて専属の必要性を判断すればいいと思っています。最低限ボトルネックにならないようにすればいいのではないでしょうか。かといって、専属だから僕が全部やらなきゃいけないということもありません。別のメンバーがフォローしてくれればいいんです。
西方:どうマネジメントするかもポイントになりそうですね。人によってパフォーマンスも違いますから、リソースにどうしてもムラがでてきてしまう。特定の人に依頼が集中してしまいがちになり悩ましいです。
石川:僕はやる気のある人に依頼を渡していくようにしています。一定のパフォーマンスさえあれば、あとはやる気で次につながっていくでしょうし、ある程度周りも理解できると思います。やる気があるというのが一番重要でしょうね!
西方:それは確かに良い指標ですね。興味を持ってもらえないことには、どうしても受動的な仕事になりがちになりますから重要な要素だと思います。最後に一言頂いてもよろしいでしょうか。
石川:XFLAGの解析グループとしては、分析には方法論や知識といったものも必要ですが、相手が何を求めているのか感じ取りながら、今後もしっかりと現場感を押さえていきたいです。
また、先日『モンストドリームカンパニー』という新作がXFLAGからリリースされました!こちらも、みんなで考えてきた新しいゲームになるので、『モンスト』だけなく『モンパニ』も是非よろしくお願いします。
西方:今日はXFLAGさんや石川さんの考えやそのルーツも聞けて、同じ分析官としても新鮮でした。ゲーム業界で活躍する分析官にとっても良い話だったと思います。ありがとうございました!
■『モンストドリームカンパニー』
■リーン・ニシカタ企業サイト
©XFLAG
ゲーム開発や運営におけるデータ分析のあるべき姿とはどういったものなのか。今回、ゲーム業界でデータ分析に従事する人をフォーカスするべく、分析会社リーン・ニシカタの協力のもと、ミクシィ解析グループマネージャーの石川祐輝氏との対談を行なった。
多くの人に楽しまれている『モンスターストライク』や先日リリースされた『モンストドリームカンパニー』(以下、『モンパニ』)を手がけるXFLAG スタジオのデータアナリストが持つ分析における考えとは。本稿ではその対談内容を紹介していく。
■SNS運用と『モンスト』にて身についた ニーズを先読みする”思いやり”の分析
株式会社ミクシィ
モンスト事業本部
解析グループ マネージャー
石川 祐輝 氏(写真右)
SNS「mixi」の機能改善や分析業務を経て、解析グループの元となる業務に立ち上げから参画。現在はモンスト事業本部解析グループのマネージャーを務める。
株式会社リーン・ニシカタ
代表取締役
西方 智晃 氏(写真左)
株式会社ディー・エヌ・エー在籍中、分析基盤構築、大規模データ集計、機械学習などの分析業務を手がける。2018年に株式会社リーン・ニシカタを創業し、今は分析×マーケティングを活かしたモバイルアプリへのグロースハック支援を行う。
西方:今回、9月6日にリリースされた『モンパニ』にてお仕事をご一緒させていただいたこともあり、対談が実現しました。本日はよろしくお願いします。まずは、改めて石川さんのご経歴からお話していただけますか。
▲『モンストドリームカンパニー』
『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)でおなじみのキャラクターたちが、それぞれの特徴や能力を活かした職業に就いた姿で活躍する公式スピンオフゲーム。家族や友だちとわいわい盛り上がることのできるカジュアルな「ひっぱりすごろくゲーム」で、モンストをプレイしたことがある方はもちろん、プレイしたことのない方でも気軽に遊べるようになっている。
石川:よろしくお願いします。新卒として入社し、SNS「mixi」の開発部門にアサインされましたが、1年ほどでSNSのデータ分析チームに異動になりました。その後、2014年1月から『モンスト』のチームに入り、今に至ります。
西方:石川さんは、学生の頃から分析に興味があったんですか?
石川:そういうことでもないんです。色々な業務をこなしていくなかで、作ったものがどのように使われているのかを考えるようになりました。
西方:XFLAG スタジオ(以下、XFLAG)の解析グループのメンバーは新卒の方も多いですよね。今は新卒と中途でどれぐらいの割合になっているのでしょうか?
石川:丁度半々ぐらいですね。最近は新卒でデータサイエンティストを志望する方が増えました。今は学生の段階でビッグデータや、整った設備を使えるようになっていますから、新卒でも知識のある方もいます。その技術を実際のサービスデータで試したいという若手が多いです。中途の方は、これまでにデータ分析を経験されたことがある方が主になります。それでメンバー構成は半々といった感じです。
西方:さらにXFLAGの分析メンバーについてお話をお聞かせいただきたいのですが、チームを作り上げていくうえで苦労されたポイントはありますか?
石川:最初は一人でしたし、何もなかったので大変なことばかりでした。サーバーにログは溜まっているし、データベースもあるんですが、それ以外何も無い状態からのスタートで、とにかく時間がかかりました。集計できる状況さえ作れれば、SNSのチームで培った技術を活かせるんですが、そこに行きつくまでがちょっと大変でした。
西方:XFLAG解析グループの基盤は石川さんが作り上げたんですね。
石川:今では、その頃の影も形もないですけどね(笑)。
西方: 0のものを1にできるというのはすごく大事なことです。ですが、0からとなると、周りを巻き込んでいくのも大変ではありませんでしたか?ましてや分析となると、すぐに成果を見せることが難しく、協力も仰ぎづらいと思いますが。
石川:そうですね。0を1にする作業というのは、周りの人も意義を読み取りづらいですし、意味を理解されないことが多いです。「なぜそんなことをやっているの?」といったようなことを言われることもあります。
ただ元々はSNSのチームで一緒だった人間がエンジニアの方をやっていたんです。なので、コミュニケーションはとりやすかったです。基盤さえできてしまえば、あとは、SNSの頃にも積み上げてきた集計作業でしたからね。
西方:石川さんご自身が分析において重視していることは何ですか?
石川:”思いやり”でしょうか(笑)。分析依頼に対して、依頼してきた人のバックグラウンドまで読み取るように意識しています。
例えば、企画の方から「年内のユニークユーザー数を教えてください」と依頼されたとしても、それを集計する必要があるという判断に至った理由などを聞き取っていくことで、表層上の数値だけでなく、より深くまで理解できるデータが出せるんです。本当にそのデータだけがすぐに欲しいパターンもありますから、相手の求めるものが何なのかに気を付けることですね。
西方:たしかに、依頼した人でさえ、それが本当に必要な情報なのかがわからないケースも少なからずありますし、一言でデータを取り扱うといっても難しい問題ではあります。
石川:さらに、そのデータを使ってほかの誰かに説明することになると思うのですが、その相手が誰なのかによってまた理解が変わってきます。開発やマーケティングの方と関わっていく中で、難しいところではありますが、今のところはやれていると思っています。思いやりというのはそういう意味ですね。
西方:とにかくデータがすぐに欲しいという場合もあるし、話を聞いてみると、依頼されたデータだけではやりたいことができないのではないかと思うこともあります。どこまでのデータが必要で、どこからのデータは不要なのか、依頼によって変わってくるニーズの汲み取り方が、石川さんは上手な印象がありますね。
石川:新卒の方に、大事なのはコミュニケーションですと言っても、なかなか理解を得られないところだったりもするので、”思いやり”と言うことで汲み取ることに意識してもらうようにしています。
西方:相手の背景も知ったうえで先手を打てれば出戻りも少なく済みますから、重要なポイントですね。石川さんが思いやりを必要だと思うようなったのは、XFLAGの解析グループを立ち上げてからですか?
石川:SNSの分析チームにいたときは、会社の部門がSNSの機能ごとに分かれていた時期があって、その部門をユニットと呼んでいました。そのユニットの中には分析を担当する人はいなかったんです。人数も足りていませんでしたし、あらゆる部門を平行して担当していたので、自然と相手の立場に合わせた考え方をするようになっていきました。
西方:色々な方とコミュニケーションを取っていくうちに、自然と染みついていったということですね。分析は様々な立場の方から依頼されることになりますけど、XFLAGではマーケターや企画の方からどういった流れで依頼されて、業務を進めいくのでしょうか?
石川:割と大きいコミュニケーションとしては、ゲームのコラボ企画の時にキャンペーンをやるとか、ちょっと力の入ったアップデートがあったりとか、そういったときのデータを普段から調べてフィードバックしていく様にしています。こうしたフィードバックは、毎月行なうようにしています。小さいアップデートであればすぐに解決できますし、中規模のものならプロジェクト管理ツールで集計依頼をもらってお返しするといった流れです。
西方:たしかに、他社でもチケットで依頼を管理することは多いですね。ただ、このやり方だと運営・開発の"現場感"から、分析班が切り離されてしまうという課題が残ると思います。立ち位置が完全に外の人になってしまい、分析からの示唆を開発側で受け入れてもらいにくくなりがちになってしまう状況ですね。
そんな中、石川さんはこの現場感をつねに持たれているという印象があります。色々な人と関わっていくのであれば、それぞれがどんな仕事をしていて、直近で何が問題だと考えているのかを分かっている必要があります。
そういうことを理解し合える関係を築くことが、連携の第一歩になると僕は思っています。石川さんはその辺りを意識されていて、上手に入られていると思います。
石川:そこまで意識しているつもりはないのですが、そうなのでしょうか(笑)。自社のゲームはかなり遊んでいますので、特に意識はせずとも連携がとれているかもしれません。
西方:他社さんのケースをみていると、そう感じますよ。もちろん、開発の方と同じ言語で話すには、専門用語も知らないといけない。サービスへの理解も必要にはなります。スマホゲームは時代とともに移り変わっていきますから、今はどんなユーザーがどんな遊び方をしているのか、そういった変遷も把握できていないと、開発メンバーとのコミュニケーションで齟齬が発生しがちです。
開発の方はゲームが好きですから 自分のタイトルも遊んでいる方が多いですし、そういった人たちと話し合うには、同じぐらいやり込んでおいたほうがやっぱり有利なんです。XFLAGの解析グループの方々は、すごくゲームをやり込まれているので、開発チームとのコミュニケーションが円滑なのではないでしょうか。
石川:解析グループに限らず、XFLAGでは本当に皆でやっていますよ。 『モンスト』は協力プレイで遊ぶ機能がありますし、みんなでワイワイ楽しむというのが根底のコンセプトとしてあります。周りに同じゲームをしているプレイヤーがいるわけですから、誘いやすいということもあって、結構頻繁に協力プレイで遊んでいたりします。本当に仕事しているのかと思われることもあったりもします(笑)。
西方: SNS運営の知見と『モンスト』のコンセプトが、解析グループの考えにも根付いているんでしょうね。ゲームもプレイして、そこの一喜一憂をお手軽に共有していくところから始めるのも大事だと思います。
■依頼する側とされる側の相互協力が分析の価値を上げる
西方:多くの関係部署とのやりとりがあるなかで、アウトプットをどういう風にしないといけないのかを工夫されているかと思います。分析データのアウトプットについて、より見やすくなるように工夫されている部分などはありますか?
石川:なるべくシンプルにまとめるようにしています。それひとつで分かるようなグラフが理想的です。ですが、これもあまり決まった形はなくて、相手に合わせて変えていますね。うちのメンバーが資料を作ると、ひとりひとりフォーマットが違うんです(笑)。求められているものが毎回違うので、どうしても毛色が変わってきてしまうんです。分析するメンバーが違うのであれば、そういった感覚の違いがあるというのも面白いと思っています。
西方:そこをシステマチックにしすぎると、色々な状況に対応しづらくなってしまいますしね。
石川:こちらからもお聞きしたいのですが、他社さんでは集計した数値はダッシュボードみたいに整理しているケースが多いのでしょうか?
西方:定点観測する項目はもちろんあります。何か予想と違う動きがあったときに ダッシュボードを置いて定点観測している部分に異常がないかを分析して、原因をはじきだせるようにしないといけません。これも場合によって形は違っていて然るべき部分だと思います。ここもゲームの作り手と分析官の相互理解が大事なので、これも”思いやり”のひとつというところですね。
石川:こちらとしても、企画チームから得られるフィードバックだけが、僕らが得られるものですから。お互いの協力は欠かせません。依頼する側だけでなく、依頼された側もゴールをしっかりと固めておかないといけませんね。かといって固めすぎるのもしんどいですよね。すべての項目を埋めなくてはいけなくなるので。
西方:それも確かにありますね。あらゆるケースを想定しすぎると収束しなくなってしまいます。データドリブンの世界でこんな表現をするのもなんですが、バランス加減やさじ加減といった感覚的なところも必要ですよね。
ただ、難しいのはゲームにおける面白い面白くないという感覚は、数字で割り切れるものではないという点です。データ的に良さそうだからやってみたというだけではユーザーが狭まってしまいます。データドリブンとは言っていますが、発端は面白いものを作りたいという熱意やアイデアであるべきで、それが万人に受けるかどうかというのを評価し、自分のイメージと違ったところを直していく部分をデータドリブンにするのが良いと思います。
石川:うちは言うなれば”ユーザー感覚ドリブン”なんじゃないですかね。ユーザーさんや社内でのフィードバックなどのリアクションを受けて、そのニーズを把握してから次を打つという流れが回す形なのかなと意識しています。
西方:理想的な分析の関わり方ですね。ゲームを作れる人と分析ができる人は使う能力が全然違っていますから、面白いものを作れる人と、それを評価する人は分けて考えるべきですね。
今回、『モンパニ』を通じて、一緒にお仕事もやらせてもらいましたが、実際にご一緒してみて、石川さんは弊社に対してどんな印象を持たれましたか?
石川:新卒から今のポジションに至っているので、他社さんにおける具体的な分析に入るまでの流れをあまり知らないんです。中途で入社してきたメンバーからある程度教えてくれたりもしますけど、実際に一緒にやることはなかったので、他社さんの動きが見えるのは面白い学びがあります。
西方:それについては私も同感ですね。我々は様々な企業さんに入らせて頂きますが、会社によって流れが違うので、現場の流れを壊さないようにつねに意識するようにしています。会社さんによっては、やり方が決まっているので、それに従ってほしいと依頼されるケースもあります。その制限の中で最大限の結果を出せるように努めていますが、XFLAGさんでは自由にやらせていただけおり、こちらとしてもすごく新鮮です。
石川:あと、西方さんは本当にコミュニケーションが上手だなと思います(笑)。開発からあがってくる「ログをねじ込んでくれ」といったような急な要望に対しての対応が上手だなと感じています。
西方:僕はエンジニアをやっていたというバックグラウンド的な部分が大きいかもしれません(笑)そのログを仕込む作業というのは、 サービスを作る側としてはゲームにあまり関係ないことなので本質的ではなく、彼らはもっとクリエイティブなものを作りたいと思っています。なので、優先順位はどうしても低くなってしまいがちです。こういうログを頼んでくるのは、関係ないところから情報を取らないといけないので、面倒くさいというのも分かりますから、このログがあることによって、どういうことができるのかを、きちんと説明して事前に膨らませられるように気をつけています。
石川:もともとエンジニアとしての経験があるからこそ、相手がどう受け取るかがわかるんですね。
西方:ただ、これについては石川さんもかなりしっかりやられてると思いますよ。
石川:やってはいますが、西方さんの方が上手だなと感じています(笑)。自然にやれるというのが重要なんだと思いますね。
西方:こういった問題は、依頼する側からしても頼みづらい部分はあると思うので、歩み寄りが必要ですよね。日々のコミュニケーション、”思いやり”が重要と言うのはシンプルながらも言い得ていると思います。
■これからの分析に求められるものとは
西方:ここまで、XFLAGさんの分析で大事にしていることをフォーカスしてきましたが、これからの分析官に必要な素養は何だと思いますか?
石川:アプリゲームでのデータ分析においては、集計分析といった作業はもちろんですが、基盤インフラも作れるようになった方がいいと思います。最低限、このふたつはやれるようになってほしいと感じます。
現場でも、基盤を定着させ、データ分析できる環境を作れるようになってほしいと言っています。このふたつさえできれば何でもできるようになりますし、そこからさらに、機械学習やデータインフラを極めるなど、スペシャリティを伸ばしていくといいのでないでしょうか。
機械学習ができたとしても、基盤にデータを出すことができず、サーバーや開発のチームとコミュニケーションも取れませんとなったら何もできません。それはただ無力に終わってしまいます。
西方:たしかにおっしゃる通りですね。せっかくの機械学習も方法論だけではあまり意味がなく、その裏側にあるシステムを理解し、自分のやりたいことを自力で実現しようという心構えが必要だと思います。開発規模が大きくなると、分業が増えてきますが、任された部分だけに集中するのではなく、その前後にあるものまで意識できないと難しいですね。
石川:XFLAGでは、サーバーの開発チームがそういう思想を持っています。インフラも作るし、ゲームも作る。自分たちのサービスは全般を手がけるんだという想いが強いです。
西方:実際にXFLAGさんのエンジニアの方とお話しさせていただくと、それぞれにサーバーやクライアントといった専門領域はありますが、そこだけに特化しているわけでもありません。サーバーもクライアントも分かるし、ビジネスの領域にも理解がある。知識の幅が広いという印象があります。こうした文化の背景はどういったところにあるのでしょうか。
石川:特別意識したというよりは、環境が良かったのかもしれません。分析を始めたばかりの時は、隣にプロデューサーがいて、目の前に社長がいるような環境で集計をしていました(笑)。あらゆる情報がすぐに入ってくるので、とても良い環境だったように思います。
西方:XFLAGさんぐらいの規模になると、そういった環境を作れる会社さんは少ないように思います。開発チームのメンバーですらプロデューサーとの距離が遠いこともあるぐらいです。
石川:プロデューサーとしばらく喋ったことないみたいな話を聞いたりしますからね。それはあまり良い環境ではないので、できればプロデューサーも巻き込んで話すようにしていました。
西方:冒頭のお話で、SNS時代は人が足りなかったために、全部のユニットを見なくてはいけないという話がありましたけど、ゲームの現場でも同じようなことが今後は起こってくると感じています。タイトルが増えれば、ひとつのタイトルに専属がひとりいるという環境を維持できなくなってきますよね。その際、どういった体制を作るのが理想的だと思いますか?
石川:それはそのチームに合わせるといった回答になってしまいますね(笑)。集計する集団が一箇所に集まっていた方が良いのか、それとも分散した方がいいのか。これはまた無限に話せそうな話題ですね。
西方:業界全体を見てもまだ最適解がない話ですからね(笑)。
石川:僕個人の意見としては、規模に合わせて専属の必要性を判断すればいいと思っています。最低限ボトルネックにならないようにすればいいのではないでしょうか。かといって、専属だから僕が全部やらなきゃいけないということもありません。別のメンバーがフォローしてくれればいいんです。
西方:どうマネジメントするかもポイントになりそうですね。人によってパフォーマンスも違いますから、リソースにどうしてもムラがでてきてしまう。特定の人に依頼が集中してしまいがちになり悩ましいです。
石川:僕はやる気のある人に依頼を渡していくようにしています。一定のパフォーマンスさえあれば、あとはやる気で次につながっていくでしょうし、ある程度周りも理解できると思います。やる気があるというのが一番重要でしょうね!
西方:それは確かに良い指標ですね。興味を持ってもらえないことには、どうしても受動的な仕事になりがちになりますから重要な要素だと思います。最後に一言頂いてもよろしいでしょうか。
石川:XFLAGの解析グループとしては、分析には方法論や知識といったものも必要ですが、相手が何を求めているのか感じ取りながら、今後もしっかりと現場感を押さえていきたいです。
また、先日『モンストドリームカンパニー』という新作がXFLAGからリリースされました!こちらも、みんなで考えてきた新しいゲームになるので、『モンスト』だけなく『モンパニ』も是非よろしくお願いします。
■『モンストドリームカンパニー』
■リーン・ニシカタ企業サイト
©XFLAG
会社情報
- 会社名
- 株式会社MIXI
- 設立
- 1997年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 弘毅
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1468億6800万円、営業利益:191億7700万円、経常利益156億6900万円、最終利益70億8200万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2121
会社情報
- 会社名
- リーン・ニシカタ
- 設立
- 2018年6月
- 代表者
- 西方智晃