コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月4日~6日の期間、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2019」(CEDEC 2019)を開催した。
本稿では、9月5日に実施された講演「こっそり教えます!エフェクトデザインのイ・ロ・ハ」についてのレポートをお届けしていく。
本セッションには、ポケラボ・クリエイティブ部 アートチーム エフェクトアーティストの池田博幸氏が登壇。エフェクト制作を人生になぞらえ、制作の魅力やプロダクトの世界観に合わせた柔軟なエフェクトの作成手順、エフェクトデザインの普遍的な考え方を紹介した。
▲ポケラボ・クリエイティブ部 アートチーム エフェクトアーティストの池田博幸氏。スクウェア・エニックス、サイバーコネクトツーなどを経て、現在はポケラボで主に『SINoALICE -シノアリス-』(以下、『シノアリス』)や『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』のエフェクト制作を手掛けている。
■エフェクトデザインとは人生設計である
講演が始まってまず池田氏が来場者に見せたのは、以下の写真だ。
▲CGデザイナーを100とした時のエフェクトアーティストの職掌分布は僅か5%になるという。体感としては業界内に1~2%しかいないようにも感じると語る池田氏。
※CGWorld調べ:https://cgworld.jp/interview/201801-jobsnews.html
今回の講演は「絶滅危惧種」とも揶揄されるエフェクト分野の裾野を広げる機会でもあると話す池田氏は、こうした希少性の高さこそデザイナーとしての武器になり得るのではないかと語る。まず、高まる需要に対して供給が追いついていない現状があるため、競争人口が少ない。そして、そもそも人口が少ないことから上位ランカーを狙いやすく、将来を考えても生き残れる確率が高い。いざという時の懐刀としても必ず役に立つと力説した。
さらに、エフェクト制作は最終工程になるため他のメンバーの業務がより見えやすいというメリットがあるという。連携業務も多いため学習できる項目が多く、プロジェクト全体を見通す大局観が鍛えられるとの話だった。
そんなエフェクトアーティストの魅力を、本講演では「イ:姿(ルック)」「ロ:道(ベクトル)」「ハ:死(デス)」の3部構成で話を展開した。さらに、「エフェクトは人生と同じなんです」と述べる池田氏。どんな容姿で生まれて、どんな道筋を辿って、どんな死に方をしていくのかを考えるのがエフェクトデザインにおける人生設計なのだと語った。
●イ:姿(ルック)
最初のテーマでは、まず「表現には理由が必要」であると話を切り出した池田氏。自分たちの作品が商用制作である以上、他者に納得してもらえるだけの理由を付けて説得をする必要があると話した。では、エフェクトにはどのようなものが求められているのか。
ことスマートフォン向けに配信されるゲームにおいては、”誇張表現”が求められる傾向にある。理由は下記の3つだと池田氏は述べる。
▲クロスメディア展開を考えているためアニメや漫画的な表現が好まれやすい。低等身と誇張表現の相性が良い。PCや家庭用と比べて写実的で高度な表現が必要にならないため表現コストが低くなるといった理由があるとのこと。
また、誇張エフェクトには「手描き調」「鋭い輪郭」「ちぎれる」という3つの特徴があるという。続いては、これらの特徴についての説明を行った。
▲上記はそれぞれの特徴を表したもの。池田氏は、こういったシンプルな絵ほどツールで作るが難しく、記号に近い表現になると話した。
誇張エフェクトの特徴を理解したところでいざ制作へ……と思ったがまだ議題はそこに入らず。先も述べられた通り、エフェクト制作は最終工程である。そのため、予め外の世界の特徴「表現の外側」を知っておく必要があるのだという。
▲ここで来場者に問題が提示された。上記のイラストから、アニメの質感表現における大きな特徴を2つ答えよというものである。
答えは「背景は厚塗り」「人物は単色ベタ塗り」という部分である。異なる質感同士が共存しており、普通なら違和感を覚えるはずのところが、今のアニメ表現を行ううえでの事実上の前提条件になっている。しかし、表現によって当たり前を疑う姿勢は非常に大事であると池田氏は強く述べる。本来は違和感しかなかったはずの組み合わせも、時代を経て当たり前の表現になっていったのだ。
では、エフェクトの質感は背景と人物、どちらに寄せるべきなのか。池田氏は、エフェクトの馴染ませ方3原則として、以下の項目を紹介した。
1.等身に合わせる
アバターの等身を基準にしてエフェクトを付けていくという方法。等身が低ければディティールを減らし、等身が高ければディティールを増やしていく。例えば、2等身を基準にして5等身のエフェクトを作る場合、単純な算数で5÷2=2,5となるので2,5倍だけ情報を増やせば良いとのことだ。また、直近では昔と比べてアバターの等身が増えてきているため、今後はエフェクトにもより写実的な表現が求められるのではないかと先を見据えた。
2.規模感に合わせる
同じ「炎」の表現でも、蝋燭と山火事では表現が異なる。なので、表現の規模に比例して情報を増やすとエフェクトが馴染みやすくなるとの話だった。
3.発生源に合わせる
エフェクトの発生場所と同じ質感にすることでエフェクトを馴染ませるという調整を行う手法。上記では、アバター側からビームが発生しているため、エフェクトの質感をアバター側の質感に寄せている。また、これはあくまでも答えではなく考え方としたうえで、『シノアリス』では中間にあたる「なめパキ」を目指しているという話もあった。
さらに池田氏は、エフェクトは変幻自在であるため、一見パターンも無限にあるように思えるが、全てのエフェクトはたったひとつの究極の形に集約されると話す。それが”円”である。
▲フォトショップの基本ブラシも円であることから池田氏は、あれも数珠繋ぎのパーティクルでペイントしているようなものだと例える。
▲円を要素別に分解するとこのようになる。
また、円に次いで使用頻度が高い普遍体として”線”を挙げた。
▲円に比べて力の向きが左右のみであることが特徴となる
▲こうしてみると、先ほど紹介された誇張エフェクトの一例も全て円や線で成り立っていることが分かる。特に、力の向きに逆らわない相性を考慮した動きを意識すると、エフェクト、およびアニメーションのクオリティが上がるのだとか。
▲上記は輪郭やディティールの部分にどのような変化が生じているかを時系列に並べたもの。円や線そのままでは形が綺麗すぎるため、歪みやブラシで崩しを入れてから整えていくのだと説明した。
池田氏は「完全なるものを不完全なものにしていくという矛盾が面白いと思いませんか?」とエフェクト制作の魅力を語る。
▲エフェクト制作では、こうして普遍から無限のシルエットを生み出すことができるのだ。よく見るとエフェクトが惑星にも見えるという池田氏は「パーティクルから生命の息吹を感じる」と独特な表現でひとつ目のテーマの解説を締めた。
【第一部まとめ】
・スマホのエフェクトは誇張表現の需要が高い。
・異なる質感同士の共存を前提とした表現がある。
・本質はいつもひとつ。原型をイメージしながらさまざまな属性表現を行おう。
●ロ:道(ベクトル)
続いてはエフェクトの動き、エフェクトが辿る道筋について。
本題に入る前に池田氏は、ゲームエフェクトの依頼の9割は「攻撃演出」であると話す。特に「ヒットエフェクト」のニーズが多いとのことだ。この攻撃演出の雛型になるのが「花火」だという。花火にはパーティクル制作に関する基本が満載なのだとか。
▲花火の動きを要素として分けると、3つの点がそれぞれ「エフェクト」「パーティクル」「エミッタ―」の関係に割り当てられる。特にスマートフォンゲームの場合、エフェクトの要素を選び出す際は、必要なものだけを選んで他を捨てる勇気が大切になるという。
そのほか、エフェクト制作においては「発想が先」で「技術は後」だということも言及された。キービジュアルを確立し、それを再現する手段を考えていくということ正しい順序になるようだ。パーティクルはそのための手段のひとつであり、本質ではないと池田氏は述べた。例えとして、ケースバイケースではあるものの、10億個の粒よりもたった1枚の板切れの方が表現力の高い時があると説明した。
▲こちらは「Shuriken」の制作画面。初期値にある項目は重要なため常に表示されたままになっていると説明した。初期値の数値で生まれてくるパーティクルのほぼ全てが決まるのだという。
続けて、パーティクルには「大きさ(Size)」「角度(Rotate)」「位置(Position)」「色(Color[RGBA])」という4つの主要属性があると話す池田氏。これはどのツールでも同じことで、膨大なパラメータも必ずこの4つに集約されるのだという。なお、位置には「Speed(初速)、gravity(重力)、Velocity(速度)、force(力)」も含むため、ひとつの記憶術として活用してほしいと述べた。
▲パーティクル制作の流れを料理に例えて解説。自身がお客様、「Shuriken」がシェフ、キービジュアルをメニュー表とすると、このように説明できる。
パーティクル制作のより具体的な工程は以下となる。
▲ここで重要なのは、制限速度を設けなければ、動きが等速直線運動になってしまいアニメ的なけれんみが一切なくなってしまうのだとか。そこで、制限速度を設けることで緩急を付けることが大切になるとのこと。
▲ここまでの工程を経て完成したのがこちらのエフェクト。黒い背景では問題ないが、白い背景ではエフェクトが見えなくなってしまっている。原因は下地を敷いていないことで、画像がアルファチャンネルを持っていない場合は下地が必須となる。
このことから、「最高のエフェクトは最悪の背景で作られる」と続ける。エフェクトの再生環境が確定していれば問題ないが、そうでない場合は基本的にどのような状況下でも見えるように全体的な見栄えを調整する必要がある。
▲突き詰めると、エフェクトは光と闇の集合体である。闇の場合も同様に、下地を明るく調整して黒背景でも見えるよう、環境に依存しない屈強な見栄えに仕上げていく。
【第二部 まとめ】
・キービジュアルを決め、要素と動きを割り出そう。
・パーティクル主要属性は4つ。塊で覚えよう。
・最高のエフェクトは最悪の背景で作られる。
●ハ:死(デス)
最後はエフェクトの「死」について。ここでは、生み出したエフェクトの最後をどのようにして終わらせるか、という点を中心に話が展開された。このテーマについて池田氏はまず、一流のエフェクトは「消え方」がカッコいいものだと語る。エフェクトの死とは、つまり消え方のことを指しているのだ。
ある意味では、キービジュアルより遥かに重要しており、それはアニメや映画のカットシーンと異なり、ゲームのエフェクトは1シーン1カットであるためごまかしが効かないためだと理由を説明した。一度表示されたエフェクトは、カメラから消え切るまでをきっちりと表現してあげる必要があるのだと力を込めて語った。
▲池田氏は「一流のエフェクトは消え方がカッコいい」という点に関しては、一切の例外がないと断言する。では、上記の白い円はどう消えていくのがカッコいいのだろうか。その答えは無限にあると池田氏は答えた。
そんな中から、本講演ではエフェクトの消去法をいくつか紹介した。
・透かす
基調になる色を乗せてフェードアウトさせると、より滑らかに消すことができる。
・縮める
全軸は誇張された煙、軸別はレーザービームを消す際などに用いられる。
・動かす
マスクで区切った範囲内に重ね貼りした画像を移動させることで消していくため、指向性を持った状態でエフェクトを消すことができる。また、RGBAの相対位置のオフセットを移動させて消すという手法もあると紹介した。
▲これらの手法を全て組み合わせたのがこちらのエフェクト。フェードはほぼ使用せず、色を動かすことで指向性を保ちながら徐々にちぎれて消えていく様を実現している。
さらに、主流ではないが以下のような消去法もあるとして下記の3つを紹介した。
・にがす
エフェクトを画面外に出してしまうという手法。勢いのある表現を見せたい場合は、拡大でエフェクトを外に逃がしてしまった方が勢いを演出できることがある。また、移動は飛び道具などの表現に用いられることも多いという。さらに、表現に違和感がないことを前提としたうえで、消す表現を行うコストを減らす場合に用いることもあるとの話だった。
・さえぎる
エフェクトを他のオブジェクトで遮蔽してる間に消してしまうという手法。上記の画像では、カメラの周りに白い板を置いて透明度を上げ下げしている間に丸いエフェクトを消している。ブラックアウトやホワイトアウトを演出する際にも用いられる。また、下から波の画像を上げて真っ白になったところで消すという方法も。そのほか、舞台の幕やカーテン、扉、シャッターなど、実在するオブジェクトを組み合わせると色々な遮り方ができる。
▲こちらは「にがす」と「さえぎる」を組み合わせたエフェクト。画面外に逃がすことで勢いを出している。リアルな破砕表現をしてしまうとコストが重すぎるので、砕ける瞬間に煙や粉などの光で遮って石が破壊されているように見せている。
・なにもださない
最後に紹介されたのは「なにもださない」という消去法。エフェクトはあくまでも表現における手段であるため、それだけに捉われないでほしいと池田氏は述べた。垂直思考だけでなく、水平思考を併せ持つことで、状況次第では「モーション」や「ユーザーインターフェイス」、「SE」、「BGM」といった他の表現に委ねるという選択肢もあるのだと。場合によっては「無」を表現することも必要である可能性があるため、数ある手法の中から最も人間に響く表現を考え抜いてベストを追求してほしいと結論付けた。それが、エフェクトを含め全ての表現における本質であるとの話だ。
【第三部 まとめ】
・消去法を巧みに組み合わせ、エフェクトをカッコよく消そう。
・消去法は出現法にも転用可能。エフェクトの出現から消去までの流れを意識しよう。
・人間に最も響く表現を考え抜こう。
最後に池田氏は「エフェクトは人生だ」とコメント。「あなたが作り出すエフェクトは、どんな世界に、どんな容姿で生まれて、どんな道筋を辿り、どんな最後を迎えるか、それは素晴らしい人生だったか。永遠の一瞬をしっかりと考え抜き、効果的な人生演出をしてください。そして表現者たるもの、ゲーム演出だけに留まらず、自身の人生も演出してください」と話して講演の締めとした。
なお、池田氏はCEDEC 2018の講演「進化し続ける『SINoALICE -シノアリス-』バトル演出の裏側」、CEDEC 2017の講演「SPARK GEARを用いたスマートフォンでのハイクオリティなVFX開発事例とハイエンド向け新機能の紹介」にも登壇している。こちらに関するレポートも掲載しているので、本記事で気になった方は是非、下記の関連記事もチェックしてみよう。
【関連記事】
・【CEDEC 2018】「制約」を設けて制作するアバターとエフェクト…進化し続ける『SINoALICE -シノアリス-』バトル演出の裏側
・【CEDEC2017】『SINoALICE』&『CARAVAN STORIES』制作事例から見る、SPARK GEARを用いたハイクオリティなVFX開発
(取材・文 編集部:山岡広樹)
■『SINoALICE(シノアリス)』
©2017 Pokelabo Inc./SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
© 2015-2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Alim Co., Ltd.
■『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』
©Project シンフォギア
©Project シンフォギアG
©Project シンフォギアGX
©Project シンフォギアAXZ
©Project シンフォギアXV
© bushiroad All Rights Reserved.
© Pokelabo, Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社ポケラボ
- 設立
- 2007年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 前田 悠太