PFNが開発するAI(深層学習)技術を活用し、ゲームクリエイティブ制作の自動化、生産性向上を図るとともに、外部のゲーム会社、クリエイター向けツールとして提供、さらにゲームクリエイティブ制作以外の他分野への進出などを進めていくというものだった。
今回、フーモア社長の芝辻幹也氏(写真右)と取締役の斉藤隼大氏(写真左)にインタビューを行い、PFNとの提携内容と、目指していること、そしてクリエイティブ制作におけるAIの活用について話を聞いた。
―――:まずフーモアさんのご紹介をお願いいたします。
芝辻氏:主にゲーム系のキャラクター制作、2Dや3Dのゲームアニメーション、マンガを活用して企業の製品、社内外や広報・IR情報などをマンガとして制作するサービスなどをやってきました。そして、2011年の創業から8年半が経過し、これまで蓄積してきた制作能力・ノウハウを生かして、大手企業様のアセットを掛け合わせた共同ビジネスなどを行っています。
会社としては、世の中のトレンドの変化や技術の進歩に合わせ、自分たちの制作能力、そしてビジネスをどう進化させていくかも重視しています。以前、マンガを使ったネイティブアドを取材していただきましたが、当時はマンガアプリ自体が新しいメディアでしたので、ただマンガを制作するのではなく、技術とトレンドを掛け合わせてマネタイズ方法として導入した経緯があります。
―――:当初はイラスト制作のイメージがありましたが、だいぶ変わったんですね。
芝辻氏:イラストを描ける人はマンガも描けますから対応は可能でした。マンガのビジネスを世界に広げていこうと考えで始めた会社ですので、マンガに関しては何度かチャレンジをしています。ゲームイラスト、マンガなどエンタメクリエイティブの制作会社ですが、資金調達など色々なチャレンジをしているという意味では変わった会社かもしれません。通常の制作会社は、粛々とイラスト制作を行うイメージですが、北米向けのノベルアプリ「StoryMe」で変わった座組で原作を開発していたり、今回PFNさんと行っているAIを使った取り組みなど「攻めている会社」と言えるかもしれません。
―――:今回のPFNとの提携についてもう少し詳しく教えていただけますか。
芝辻氏:現在、AIが注目されていますが、それを弊社のコアであるゲームクリエイティブ制作 にどう使うかが当社の経営課題としてありました。制作領域やエンタメ領域でできることとなると、単純な作業の代替や、イラストを描けない人がふとイメージしたものをAIが代わりに描いてくれる、といったことを思いつく人が多いかと思います。
PFNさんと組むことになったのは、たまたま紹介していただいたことがきっかけです。まず初めに、一番ニーズが高そうで、かつわかりやすい領域から取り組もうということで始めたのがモーションツールでした。モーション作成の際、パーツ分けは、比較的単純な作業の割に工数が必要な作業でしたので、ニーズが高いと考えていました。
当社の斉藤が中心になってPFNさんとコミュニケーションを取りながら、2019年の冬のコミケで発表しました。PFNさんのキャラクター自動生成プラットフォーム「Crypko(クリプコ)」で生成したイラストを自動でパーツ分けして、さらにエムツーさんのE-mote(エモート)と連携してモーションを付けるツールをPFNさんの技術を使って作りました。イラストの動かす部位を自動認識してパーツに分解し、不足している部分をイラスト生成技術により補完して、髪を自然に動かす、目を閉じたときにまぶたを自動で彩色する、などができます。
AIを活用してクリエイティブの制作のイノベーションを起こせると考えています。イラストの自動着色「Petalica Paint」や「Crypko」などはPFNさんがすでにやっておられますが、もっと広く、クリエイティブ制作全般で共同で取り組んでいきます。
斉藤氏:当社の事業収益は、イラスト制作が全体の半分で、3DやSpine、Live2Dなどモーション系、そしてプロモーションマンガ制作やIPを活用したエンタメクリエイティブ制作、アプリなどのプロダクトの収益が残り半分を占めます。クリエイティブの制作工程では、必ずしも人間がやらなくてもいい作業が結構あります。それに割り当てる時間をもっとクリエイティブな仕事に使えたら、という問題意識がずっとありました。
これまではそういった部分を外部の方にお願いしてきましたが、その究極系といえるものがAIとなります。こうした作業領域は、おそらく全体の工程の30%、領域によって40%はあるかもしれません。例えば、キャラクターデザインやラフは人間がやったほうがいいですが、モーションにおけるパーツ分けなどの作業部分はどんどんAI化、機械化していきたいです。
プレスリリースでの記載は、幅広くぼんやりした内容と受け止められたかもしれませんが、当社では、クリエイティブ制作の全般において自動化の可能な領域をどんどんAI化していこうと考えています。いま検証し始めている段階です。そのなかでAIを使ったモーションツールがわかりやすいですし、最も成果が早く出たので発表することにしました。
―――:去年、コミケに出展されてからの反響はいかがでしたか。
芝辻氏:まず、ブースでは、実際にご覧になって驚く方がとても多かったですね。Twitterでも反響が有りました。会社のHPにも掲載したところ、様々な会社からお問い合わせをいただきました。予想以上に反響が良かったという印象です。
斉藤氏:ブースでは、特に海外の方に興味を持っていただけたと感じています。自分たちの国で使えないのか、APIのような形で使えないかといった質問から、具体的な案件での利用までご相談を受けました。また、個人的にいらしたクリエイターの方が興味を持たれるケースも多かったです。決まって、「クリエイターの仕事はなくなるのか」と聞かれました。
―――:なくなってしまうんですか?
芝辻氏:いわゆる単純な作業は減っていくでしょうが、その減らした時間をクリエイティブな仕事に回すことができると考えています。より生産的なことができるので、クリエイターにとってプラスになると思います。創造の部分までAIがやるようでしたら、僕らは遊んで暮らせる世界になるでしょうから、いまはそこまで心配する必要はないと思います。
斉藤氏:工程を削減することが当社のメインですが、PFNさんはキャラを自動生成するなどクリエイティブなところにもAIを利用しているように思います。
―――:そういえば、モーション関係のセミナーに行った際、ボーンの入れ方などをよく話していたものですが、大変そうだなと思っていました。
芝辻氏:そうですね。キャラクターの関節などの可動域をよく理解して書き足す必要がありますし、フォルダー分けやファイルの命名規則もきちんとしなくてはなりません。緻密な作業を求められます。一昔前ですと、多少ぎこちない動きがあっても大丈夫でしたが、ユーザーさんの目が肥えていますから、求められているクオリティも上がっています。
斉藤氏:クリエイティブの難易度が上がって、作るのに時間がかかり、いろいろな人の手が必要になっています。当社のモーション制作もアニメ制作かと思うくらいの工数になってきています。必要な時間が増えコストが上がっていく一方で、消費する側は色々なコンテンツが提供されて短期間で消費している状況にあります。
作った作品の価値を上げていく必要があります。手間ひまかけて作ったものは価値が高くてお金を払うべきとなりますが、それでも徐々に限界が来ているように思います。そうなると、対抗手段は割と単純で、作る速度を高めるしかありません。
当社でもそういう部分を人力でなんとかしようとしていましたが、制作フローが固まってきたところ、PFNさんとご縁があり、そのナレッジを全部自動化していこうとなりました。
―――:工程を標準化された上での取り組みである、と。
芝辻氏:そうです。ゲームアニメーションについては生産性が5%程度上がったという結果が見えてきました。より一層の時間の削減効果が見込めることもわかっています。1日8時間、月に20日働いたとすると、8時間削減できますよね。その時間をより生産性の高い作業に回すことができれば大きな成果が得られます。
斉藤氏:いわゆる「ちりつも」ですね。パーツ分けの作業ですと、1体1体は大した手間ではないので、人に教えて任せる時間があったら自分でやってしまう人が多いです。ただ、それが100体になると、積もり積もって多くの時間を費やすものになります。自動化ツールを1度作ってしまえば、標準化できますので、いろいろな人が使えます。どんどん事例を積み重ねてワークフローの標準化に入れていきたいですね。
―――:今回の提携は全くゼロからではなく以前から取り組みはあったんですね。
芝辻氏:はい。それ以前から一緒にコミュニケーションをとってきてやってきました。ある程度成果が出てきて、もっとやれることがみえてきたので、しっかり組みましょうとなりました。協議自体はスムーズに進みました。PFNの担当の方もゲーム会社出身で、ゲーム領域への知見が豊富だったことも大きな要因かなと思います。
斉藤氏:AI分野で、ディープラーニング自体の技術も大事なんですが、何を学習させるか、学習データの精度はどうか、どのくらい学習データを集められるかも同じくらい重要です。
クライアントワークをやっている当社との相性の良さもそこにありまして、他社からお金をいただいてクリエイティブを作るだけでなく、そのクリエイティブを学習にも使うことができます。そして、もちろん、無断でやるわけにはいきませんが、発注する側にとっても工数削減につながってコストが安くなるんだったら、と快諾いただけます。関係する会社全員が幸せになれる座組になりやすいんです。
―――:仕組み自体は開発できるものの、学習素材の収集で苦労している話はよく聞きますね。
斉藤氏:例えば、自動着彩などの場合、いろいろなところから持ってきたデータを学習させると、なんとも言えない色付けになってしまいます。目的をはっきりさせて、このゲームのタイトルの塗りを再現させようというベクトルをもって学習させていくと、かなり精度の高い着彩が可能になります。すでに運用しているスマホゲームやシリーズタイトルであれば、非常に役立つはずです。イラストのテイストや色塗りって、とても言語化しづらいです。運用しているタイトルのイラストを学習させていけば、こうした問題は解決されるはずです。
―――:プロダクトは何らかの形でできているのですか?
芝辻氏:社内で使うツールとしてはできあがっています。社内の制作工程で使っている状況ですが、ツールがよりブラッシュアップできて製品として出せると判断した段階で、何らかの形で外部に提供することになると思います。ただ、どういう出し方がクリエイターの方が利用しやすいのか考える必要があります。できるだけ多くの方に使っていただいたほうが結果としてハッピーになると思います。
斉藤氏:PFNさんのCrypkoは、いろいろなイラストデータを学習して自動生成してくれるわけですが、今後、特定のゲームタイトルのキャラクターを学習させて、MOBキャラを自動生成したり、絵がかけない人にキャラクターを作ってもらってコンテストに応募してもらったりなど、色々な使い方ができると期待しています。同じく自動着色のPetalica Paintも業務用で使えるのではないかと感じています。
スマホゲームのトップ絵のキャラクターが動くことで直接的な収益に結び付くか判断が難しいのですが、動いていることでゲーム全体がリッチになるため、コストを割くかどうか悩ましいところだと思います。
例えば、こういった汎用モーションの制作をこのツールで制作して、一つ一つのキャラクターのトップ絵をモーションで動かすことが出来れば、人的リソースを削減した形でゲーム全体をリッチにすることが可能です。この検証が現段階では一番進んでいて、現状エモートではある程度できるところまで来たので、Live2DやSpineなど他のモーションツールでも使えないか検証しているところです。
芝辻氏:昨今、ゲームの開発費が高騰しつづけていますので、アセット制作でもクオリティを維持しながらコストを下げられるとなれば、ゲーム業界にも貢献できるのではないかと期待しています。アートを作っている会社だからこそやれる領域なのではないかと思っています。
―――:機械学習に使える素材が豊富であるというのは良いことですね。
斉藤氏:はい。こういうAIを使ったツールの中には、ローンチされたものの、クオリティが十分ではなくて、ゲーム会社やアニメ制作会社から見向きもされないケースがあると聞きます。その多くは、そこで止まってしまうことが多いんですが、そこから粘ることが本当は大事なんです。最初は十分使えないことはわかっていても一度導入していただき、ツールで作ってみたものと、手動で制作したものの差分を学習させていけば、1年もすれば相当精度が上がるはずです。
本当に利用できるようにするには、そこまでやる必要があるのですが、できずにもったいないことになることが多いです。当社がファーストペンギンになって、自社で使っています(笑) 外部に提供できるようになると、学習データもどんどん蓄積されていき、精度も上がっていきます。ファーストペンギンになっていただける会社と提携してもいいですし、クライアントワークとして発注していただいてもいいです。クライアントワークの場合は何らかの還元も行います。
―――:ゲーム会社との提携で取り組むケースも考えられると。
斉藤氏:今後、当社のHP上に特設サイトを用意して、AIを使ったクリエイティブスタジオですと謳って、制作上の課題、例えば同じテイストのイラスト制作や着彩のコストを下げるといった課題を解決するため、一緒にやりませんか、といった形の協業もありうるかと思います。
―――:クリエイティブ制作でAIを活用していく場合に注意すべきポイントはどこだと考えていますか。
斉藤氏:当社も模索しているところですが、AIができることと、AIでやらなくてもいいことを分けたほうがいいと考えています。当社もアニメーション全体の工程をAIで代替しようとは最初から考えていません。パーツ分けだけやってくれればいい、塗りについても下塗りだけやってくれれば助かるといったスタンスで取り組んでいます。着地点を手前に置きながら、ちょっとずつ進めていくスタンスでいかないと、うまくいかないかもしれませんね。
―――:いきなり多くを期待してはいけないということですかね。
斉藤氏:人間も含めて一緒に学習していく姿勢が必要なのかもしれません。一定量を超えたら化け物のように役立つのでしょうけど、そこまでは地道に取り組んでいく必要があります。
芝辻氏:現状では、領域を特定してそこだけやらせるのが一番いいんだと思います。例えば、「イラスト」だと幅が広すぎます。当社でもモーションの特定の部分に絞ってやっています。「AIで将来的にこんなことができる。すごいことになりそうだ」という感覚で取り組むと継続しづらく、投資して成果が出てくることから少しずつ始めることで、ビジネスとして継続できると考えています。
斉藤氏:こんなことをいうのもなんですが、クリエイティブ制作としてのバリューを出せていない部分について工数はかかってしまうからといった理由で費用を請求しなければならないケースが結構あります 。例えば、パーツ分けや線画は、難易度は決して高くはないのですが、工数が非常にかかる仕事です。そういう部分を技術で削減していきたいです。クリエイティブ制作会社 としては、やはり企画やディレクション部分でもっとお金を払ってもらえるようにしたいと考えています。
―――:制作している人からするとどうですか。
斉藤氏:やはりクリエイティブな仕事のほうが楽しいだろうとは思います。
―――:ところで、ゲーム以外にも組むことは可能なんでしょうか。
芝辻氏:ゲーム以外のところとも組むことは考えています。自分たちで考えたプロダクトを世に出すのもいいのですが、具体的な課題に対して取り組んだほうが世の中のニーズに応えられますし、物事が進みやすいです。例えば、広告クリエイティブを作っているところともかなり相性がいいです。あとは、Youtubeでマンガを使った動画広告が流行っていますが、こういうものも自動で動かすことができます。意外と近しい領域が多いんです。
斉藤氏:その他でいくとAIを使った広告クリエイティブを作り、また、AIでフォロワーの趣味趣向を分析して、それに対して合うクリエイティブを出すという取り組みもやっています。
―――:AIに関しては最終的にイメージしている目標を100とすると、現状はどのくらいにあるとお考えですか?
芝辻氏:現状は5くらいじゃないでしょうか(笑)
斉藤氏:個別のプロダクトで見ると、コミケに出していたアニメーションツールについては結構進んでいて、30~40に達しています。箱はほぼ出来上がっていて、学習させていくフェーズに入っています。当社の目指していることは幅広くそして膨大で、その構想を検証し始めている段階なので、全体の進捗度はどうしても5くらいになってしまいますね。
―――:今後の展望は。
芝辻氏:クリエイティビティの高いゲームに当社も貢献したいと思っています。クリエイター目線でいうと、すごい時間をかけて作っていたものが半分の時間で済むなら、より創造的な仕事に時間を費やすことで、個人の収入が増えるだけでなく、働き方も含めて良い環境を作れるのではないかと考えています。
こちらは少し違った話ですが、クリエイターを諦めた人でも、AIを使えば、イラストや漫画を作れるのではないかと考えていて、そうした分野にも取り組んでいます。当社が配信している「StoryMe」というビジュアルノベルのアプリがあります。ビジュアルノベルをクリエイター、パートナー企業と一緒に作っていますが、いずれ管理画面を開放したいです。
自分でシナリオが書ける人であれば、キャラクターをPFNさんの技術を使って自動生成して、UGC型のようにコンテンツ配信ができるようになると思っています。そんなことが近い将来できるようになるかもしれません。今ある技術でもある程度の価値を出せますので、そのあたりも模索している最中です。
―――:話は書けるけど、絵は描けない人は多いでしょうからいいかもしれませんね。
芝辻氏:はい。「なろう小説」で本当はキャラクターの挿絵をいれたい、という人は多いと思うんです。そういう部分も自分で調達できるようになればコンテンツももっと豊かになるだろうと思います。
斉藤氏:Twitterでかんたんな4コママンガなどを載せている人の中には、テキストでつぶやくような内容を絵にして表現している人もいます。僕は絵が描けないので、そういうことはできないのですが、たとえば「今日疲れた」などのつぶやきをすぐに絵に表現してくれるようなサービスもできるのではないかと思います。
―――:技術によって可能性が広がるんですね。
斉藤氏:かつて写真撮影は特殊技能でした。そもそもお金を持っていないと高価な機材が持てないですし、絞りや感度など設定が難しいですよね。いまはスマホで誰でも簡単にきれいな写真が撮れます。写真を撮る仕事はなくなりませんが、写真が撮れることを売りにした仕事はなくなっていくでしょう。インスタグラムなどで写真を公開するライトなカメラマンが増えていて、その中から新しい才能が生まれています。
クリエイティブでもそういった取り組みが大事で、芝辻が申し上げたUGCもそれに近いものです。これまで活躍しているイラストレーターの価値は落ちなくて、描けることが価値なのではなく、その独創性が価値として認められていくだろうと思います。クライアントワークでクライントの期待に応えつつ、システムの検証を行って徐々に外部に開放していくと面白い世界になると思います。
―――:これまで活躍できなかった人が表に出てくるかもしれないですね。
芝辻氏:そういう人はすごく多くなると思います。
―――:ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- フーモア