【CEDEC 2020】「グラブルフェス」から見た最高のリアルイベントの作り方 『グラブル』の世界を完全再現するために必要なこと


コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月2日~4日の期間、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2020」(CEDEC 2020)をオンラインで開催している。

本稿では、9月4日に行われた講演「ゲームの世界を完全再現する -グラブルフェスを支える技術とプランニング-」についてのレポートをお届けしていく。

本講演には、Cygames・メディアプランナーの間宮小百合氏と堀亜理紗氏が登壇。大規模イベント「グラブルフェス」の事例を通じて、リアルイベント開催におけるコンテンツ制作やクオリティ管理の知見について話を展開した。


堀亜理紗氏
株式会社Cygames
メディアプランナー

2016年5月よりCygamesに入社。グランブルーファンタジーチームにてプレスリリース・ブログなどの情報公開や攻略動画制作などのメディア・プロモーション管理を担当。2017年の立ち上げよりグラブルフェスに参画。現在はステージ・生放送関連の統括・後進育成を中心に、アトラクションやグッズ制作など多数の企画を担当している。

間宮小百合氏
株式会社Cygames
メディアプランナー

2016年4月よりCygamesに入社。プランナーとして『グランブルーファンタジー スカイコンパス』の開発に携わったのち、2017年の立ち上げよりグラブルフェスに参画。グラブルフェスでは『グランサイファーライド』や『スペシャルショー -蒼の軌跡-』のプランニング・ディレクションを担当。

「グラブルフェス」は、『グランブルーファンタジー』(以下、『グラブル』)が毎年開催している、年間総動員数8万人を超える超大規模リアルイベントで、SGIでも毎年レポート記事を掲載している。

●関連記事
【イベント】「グラブルフェス2019」をレポート!四騎士と濃密なひとときが過ごせるVRコーナーや、騎空艇に乗って観光が楽しめる大型アトラクションが登場!

本講演では、そんな「グラブルフェス」を作るうえで最も大切にしていることや、各コンテンツの制作フロー、制作時に得た知見を、ステージコンテンツと体験コンテンツの両側面から紹介していくという。



毎年12月に開催している「グラブルフェス」を中心に、仙台・名古屋・大阪・福岡で展開する「グラブルEXTRAフェス」を含めて年5回開催している。この「グラブルフェス」のビジョンは、『グラブル』の世界を完全再現すること。スマホの中にある『グラブル』の世界を、見て・触れて・体験できる場となっている。


▲そもそも『グラブル』はブラウザゲームの限界を超える圧倒的なクオリティで作られており、その世界を完全に再現することに全力を尽くしている。

まずは、そんな「グラブルフェス」が大切にしていることを4つ紹介した。



▲キャラクターをモチーフにした創作物は、造作としての美しさだけでなく、キャラにまつわるシナリオや、キャラの性格・特色などもデザインや小物に反映できるよう最大限調整を行っている。



 

■施策紹介:ステージコンテンツ


ここからは堀氏がステージコンテンツに関する具体的な施策を紹介。グラブルフェスのメインステージでは、下記のようなコンテンツを展開している


▲ライブステージでは「音楽の体感」、オフィシャルキャストステージでは「キャラクターを現実世界に」といった意図がある。また、トークステージは「開発者の声を届ける場」としてや「未プレイ層へのリーチ」「来場者だけでなくユーザー全体に向けた盛り上がり作り」などを目的としている。

ステージは全て配信でも視聴可能とし、2日間で全12ステージ、約20時間実施。期間中、生配信の総視聴者数は420万人以上となり、Twitterトレンドの1位~上位が関連ワードで賑わった。

今回は、こういったメインステージのコンテンツの中から、イベントステージの花形である「トークステージ」と、Cygamesの技術を結集して作った3DCGライブ「キャラクターライブ」の事例を紹介した。

●トークステージ
ここでは、トークステージの各コンテンツを魅力的にする3つのポイントを紹介した。

まずは幅広い層にリーチする「バランス感覚」。その中のひとつが、会場と配信のバランスになるという。

会場にいる人にとっては公開生放送となり、せっかくなので会場にいるからこその体験をしてほしいという想いがある。一方で、会場には来られなかったけど配信で楽しんでいる人もないがしろにしてはいけない。そこで、双方が楽しめる要素を散りばめていると説明した。



来場者に対しては、声優ステージで毎年恒例となっている描き下ろし漫画への生アフレコで来場者にモブキャラの声を担当してもらうなど、作品に参加できる体験を作っている。また、バラエティー企画では「どちらが多数派でしょう」といった内容でクイズを行ったり、来場者に呼びかける形でゲーム内の「超高難度コンテンツをクリアした人はいますか?」といったコミュニケーションを取るシーンを入れている。

対して配信ではそうした企画の際に会場の空気が伝わるよう客席を映すフォローを入れるほか、場内のアトラクションを声優に体験してもらう様子を生中継したり、ハッシュタグツイートで自身の発信した感想が配信に流れたり、出演者に拾ってもらえることで参加している感を作り出している。また、プログラム間の転換を最小限にして待ち時間を減らすほか、サテライトスタジオというサブ配信ブースを設けてインターバル中も別チャンネルで常に声優のトークを見られる環境を作ることで1日見ていても飽きない工夫をしている。

そのほか、会場と配信のバランスで気にしなければならないのが「画面割」だという。



グラブルフェスでは、メインスクリーンのほかに、遠くの人からも見えるようサブスクリーンを2つ設置している。ステージ上を直接見ている方に加えて、サブスクリーンを見ている人のことも考えて個々に最適な映像を映している。さらに、配信での見え方も気にかける必要がある。

例えば、新情報発表で新しいジョブのイラストを見せながら性能を説明する際、会場のスクリーンでは全てイラストを映して新規絵をじっくりと見てもらう。しかし、性能説明の間、配信画面がずっとイラストのみでは画面が固まったように見え、視聴者も飽きてしまうため最初にイラストを映した後はステージ上の様子に切り替えていく。さらに、この発表にリアクションしている声優陣を適宜サブスクリーンや配信画面でも映すなど、臨機応変な対応が必要になってくるという。

バランスに関しては、最後にもう1点気にしなければならないことがある。それは、ユーザーのプレイスタイルである。



『グラブル』は、初心者からコアなユーザーまで幅広い層が遊んでいる。また、グラブルフェスには友人の付き添いで来たという方も多く、ステージには人気声優が多数登壇しているため、声優ファンなど未プレイの人にも『グラブル』に興味を持ってもらえるチャンスとなる。これら全ての層にしっかりとリーチができるよう、以下のようなバランスを追及している。


▲多面的に各層へのフォローを入れることで誰が見ても楽しいステージ作りを行っている。

コンテンツを魅力的にする2つ目のポイントは、全スタッフを当事者とした「理解の徹底」だ。バラエティ企画でもゲームの要素を取り入れたり、実際にゲームをプレイする企画もあるため、全てのスタッフが『グラブル』に対する理解を深めたうえで仕事にあたる必要がある。

例えば、『グラブル』のキャラに扮してステージの上に立つ公式コスプレイヤー・オフィシャルキャストがキャラクターを把握することはもちろん、カメラマンは彼らを魅力的に映したり、新情報発表で出演声優の推しキャラが登場するとなれば、発表の瞬間にその人の表情を抑えられるかどうかはキャラや声優に詳しいかどうかにかかってくる。音響・照明・アテンドスタッフにも、理解しているからこそできる動きがあると説明した。



こうした「理解の徹底」のために、同社ではゲームプレイの推奨や、イラストやシナリオ台本などの資料共有のほか、事前リハーサルまで行っていることを紹介した。


▲本番約1ヶ月前のタイミングで数回に渡り、広い稽古場を使ってセット・小道具・返しモニター・音響など必要な機材を揃え、バミりも本番同様に行い、キャストにも最低1回は参加してもらうようにしている。

これにより、全スタッフが最低限抑えておくべき必要知識や、どのタイミングでどの人が活躍するという流れを把握しておくことで人的ミスを減らすことができるという。また、キャストの『グラブル』のプレイスタイル、やり込み度はさまざまであるため、このタイミングで企画やクイズの概要を説明しておくことでそれぞれが活躍できるタイミングを把握してもらい、ゲーム知識に不安がある方には事前にかみ砕いて説明する場にしている。

こうしてリハーサルを行うことで、事前に疑問点ややりづらい点など要望を聞くことができ、本番まで日数もあるため余裕をもって対応することができる。特に、MCは長時間に渡っレ大人数を仕切ってもらうため、少しでもやりやすいいよう台本形式やマイクの種類、返しモニターに何を映すかも個人でカスタムしている。ここまでする理由について堀氏は、「矢面に立つのは出演者だから」ということに尽きると述べた。

本番で裏方がミスをしても直接フォローできるのは壇上に立っている方だけである。段取りや流れが悪くて楽しいステージに水を差してしまえば出演者の顔に泥塗ってしまうことになる。だからこそ、スタッフは万全の準備で臨み、出演者にはやり過ぎなくらい快適な環境を用意して気持ちよく出演してもらいたいと考えているのだという。



ステージコンテンツを魅力的に見せる最後のポイントは「情報発表」である。

やはり、ユーザーが1番期待しているのはゲームの新情報となる。そこで、効果的に情報を発表し、魅力的に見せるためには、ゲーム開発チームや生放送以外の媒体との連携が欠かせない。ゲームプレイ企画や新情報発表などでは、ゲーム開発チームと常に連携を取り、プランナーやデバッカーと直接やり取りしたうえで細かな部分まで徹底的に理解したうえで台本に反映している。

また、グラブルフェスの運営チームは、平常業務として『グラブル』のプレスリリースやブログ、Twitter、TV番組、YouTubeなどの制作を担当している。そのため、生放送の発表と同時に各媒体で多面的に情報展開を行ったり、テレビ番組で情報の一部を先出しして生放送で詳細を発表するというような複数メディアで一連となる情報発表の流れを作るなど、よりドラマチックな流れの情報公開を演出することができている。

生放送中に新情報が発表された直後にTwitterで速報画像を出したり、生放送での流れを受けて急遽ツイートすることもあるという。また、発表情報を予めブログ形式にまとめておき、生放送終了後にすぐに新情報をまとめた記事を更新するなど、スピーディーにユーザーに情報を届ける施策を行っている。


▲トークステージを魅力的にするポイントのまとめ。以上のポイントを踏まえて、全ての方に楽しみを提供するコンテンツとなるよう制作している。

●3DCGライブ
続いては3DCGライブについて。こちらの企画意図は、「ユーザーに親しみのあるキャラクターソングの生演奏で会場全体が盛り上がれるライブを作ること」と「キャラクターを高度な3DCG技術で完全再現し、"キャラクターと現実世界で会える"体験を提供すること」であると説明した。


▲3DCGモデルを利用したキャラソンライブで、メインステージにて行っている。特徴は、高コントラスト映像を映し出すことができる透明スクリーン「ディラッドスクリーン」への投影によるバーチャルライブである。

また、3DCGライブを実現できたのは、Cygamesに次の3つの要素があったからだと堀氏は述べる。



こうして蓄積された技術やノウハウを足場にしながら3DCGライブで完全再現のためにこだわったのが、「リアル感の追及」であるという。ここでは、そのために取った手法を3つ紹介した。

ひとつ目は、先にも触れた「ディラッドスクリーン」である。



非常に薄い半透明のスクリーンのため、背景が透けて見えることでただのスクリーンに映像を投影しているのではなく、あたかもステージ上にキャラクターが立っているかのように感じさせることができる。投影される映像も非常に鮮明で、細かく作り込まれたキャラクターをしっかりと映し出すことができる。



上記は当日の舞台上の様子。ディラッドスクリーンは10mあり、この範囲がキャラクターたちがステージ上で動き回れるエリアとなる。さらに、両サイドにはバンドが控えており、迫力ある生演奏でライブの臨場感を高めている。

ちなみに、このスクリーンは通常のトーク時には来場者の視界に入らないよう天井に吊るしている。ライブの前後にスクリーンを昇降させるという大掛かりなことを行っているが、先ほどまで声優が立っていたステージにキャラクターがいるという感覚を与えられる効果もあるという。

リアル感を追及するために行っているふたつ目の取り組みは、ライブの前後でもキャラクターがその場にいるかのように感じさせる「アドリブMCパート」である。



舞台裏に声優が控えており、生アフレコの形で進めるMCでキャラクターが観客を指名して質問を投げかけるなど、キャラとの会話が楽しめる。指名された人が自分の名前を呼んでもらったり、ライブのパフォーマンスについて感想を伝えるなど、普段は体験できないキャラクターとのインタラクティブなコミュニケーションを取ることが可能となっている。

人によって会話の流れも変わるため、事前に100%の台本を用意しているのではなく、担当声優にその場でキャラとして話してもらいながら来場者とのコミュニケーションを成立させている。声優にとっては難易度の高いコーナーだが、『グラブル』が6年間フルボイスを貫いて声優陣もキャラクター性を十分に理解しているからこそできることだと堀氏は説明した。

リアル感の追及のための最後のポイントは、リアルタイムかプリレンダリングかという「レンダリング方法の使い分け」。どちらかひとつを選択するのではなく、その場に合った手法を選択しているという。

まず、激しい動きがあるダンスパートは、キャラクターが最も美しく見えるよう、揺れる髪や細かな手指の動きを調整している。ここで先ほど紹介された、独自のモーションキャプチャースタジオが活躍したとのこと。以下の画像のように、ファンタジーのキャラクターらしい魔法のエフェクトもここで付けている。



一方、ライブ前後のMCパートは、会話の流れに合わせて自然な動きができるようリアルタイムでモーションキャプチャーを行っている。ステージ裏にキャプチャースタジオを設営し、アクターが生アフレコの声優と息を合わせながら動きの演技を付けているのだとか。



▲当日のステージ裏の様子も公開。各シーンに応じてキャラクターが最も美しく自然に見える作り方を選択することで、自分の目の前で生きているようなリアルな感覚を作り出している。

ここまで紹介してきたように、『グラブル』のキャラクターをステージに立たせてリアル感を出すのに数々の努力がある。ひとつひとつは真新しい技術ではないが、全てが揃ったときに初めてユーザーが「キャラクターは実在する」と認識してもらえる存在になると話をまとめた。



また、ここまでの施策は来場者に対してのものとなるが、ここからは視点を変えて、配信で見ている人に対しての施策も紹介。そのひとつとして、ARライブを導入していることを挙げた。



配信では、ステージだけでなく観客席を含めた様子をクレーンカメラで縦横無尽に撮影し、AR技術を利用することで、その映像にディラッドスクリーンに投影しているものとは別のCG映像を載せている。現地では来場者の視点から見えるものが全てとなるため画角が固定されるが、配信ではさまざまなアングルからキャラクターの姿を捉えられるというメリットもある。観客がペンライトを振っている姿も映っており、視聴者にアーティストのライブ映像を見ているかのような印象を与えている。

また、ディラッドスクリーンに投影するという制限もないため、現地では実現できない奥行のある演出や、ステージの枠を超えたド派手なCG演出が入れられる。実際のステージには存在しない電飾やキャラクターに合わせたエフェクトを入れるなど、幅広い演出で見た目にも賑やかにライブを盛り上げているとのこと。


▲演出の差は並べてみると一目瞭然。現地の演出が寂しく見えるかもしれないが、実際に会場にいる人はキャラクターが実際にステージに立っているということを重視して演出しているため、実際の来場者の視点としては以下のようになる。


▲キャラクターに注目しているはずで、物足りなさを感じることはないという。また、配信はアーカイブで残るので会場でライブを見た人にとっても後から見返しても2度楽しめるようになっている。

配信用に個別で映像を作ることによって作業工数はかなり増えているが、全ての方に楽しんでもらうために必要なこととなるため、妥協せずにそれぞれにとって最高のものを作っていると話して、ステージコンテンツに関するポイントをまとめた。


 

■施策紹介:体験コンテンツ


体験コンテンツについては間宮氏が解説。グラブルフェスで体験できるものは、主なところで以下の4つとなる。今回の講演では、世界観を見て楽しめるコンテンツである「グランサイファーライド」と「スペシャルショー」について、如何にしてコンテンツを作ったかという話を展開した。


▲さらに、講演の終盤にはグラブルフェス2020で実施予定の「キャラクタートークスポット」についても言及した。こちらのコーナーはまだお披露目前で、キャラクターとの会話体験が楽しめるものになるという。

●グランサイファーライド

▲作中にも登場する空を飛ぶ船「グランサイファー」の甲板を再現している。

グランサイファーライドで作りたかったのは、『グラブル』の世界を追う「空の冒険」の体験であるという。空を飛んでいるという体験だけであれば映像と風の特殊効果を組み合わせれば実現することができるが、それだけでは『グラブル』の冒険の体験にはならない。騎空艇に乗って自由気ままに空を旅しながら、気候も風土も異なるいろいろな土地へ行き、強大な敵と邂逅して戦ったりすることが冒険の体験となる。

これを実現するために最初に考えたのは、いつ、どこにどんな「体験」を盛り込むかということ。映像が始まってから終わるまでの間、どの段階でどんな気持ちになって欲しいか、そのためにはどのような体験の仕掛けが必要かということを考え、『グラブル』の物語と舞台を当てはめていった。



▲空を飛ぶという体感に加えて、冒険らしい物語を味わえる仕掛けを行うことで、目指している「空の冒険」の体験が作れる。

また、映像を作った際の話も披露した。映像は、来場者が肉眼で冒険している体験として没入感を得られるように3DCGで制作することに。ここで最も気を付けたのが、『グラブル』の背景イラストの雰囲気を崩さないようにすることだったという。そもそも、『グラブル』の各舞台を描き出す背景イラストは、以下のようなテイストだった。


▲写実的でもなくアニメ的でもない独特の雰囲気を持つ背景となっている。このテイストを残したまま3DCG化することは非常に難しく試行錯誤を繰り返したと間宮氏は振り返った。


▲修正前は、丘の向きや高さが一様で作り物感が出てしまっていたところをバラつかせることで元イラストの印象に近付けた。また、『グラブル』の世界は雲の上にあるため、自分たちが空の下からイメージする雲ではなく、より霧や水蒸気に近い質感に調整している。さらに、中景~遠景の空気感を調整して景色に奥行とスケール間を出すなど、さまざまな工夫を行っている。

修正の過程としては、『グラブル』の背景チームにCGの上にレタッチを行ってもらいながらイメージに近付けるように修正していったと説明した。これを10種以上のシーンで行い、本番の前日まで調整していたと苦労を語った。

そして、完成した映像に合わせてそれぞれの島での体験を実際に来場者の五感で体感してもらうための特殊効果を入れていく。


▲これらの特殊効果は、映像やサウンドと共にタイムライン上に組み込み、リハーサルで実際に自分たちで感覚を確かめながら調整していったとのこと。

上記のようにこだわったコンテンツを最も良い形で届けるためにこだわったのが、ここからの世界観の中に入れて現実に戻さないようにするという過程となる。

まずは舞台装置の設定について。空の冒険を作り込んだ映像を会場の床の上や劇場風のセット見るのでは違和感が生まれてしまう。空を飛ぶためには、空を飛べる船に自分の足で乗り込むことが必要になという観点で使用している素材や小物に至るまで、精緻に再現したグランサイファーの甲板を作り、そこに来場者が立って映像を体験できるようにした。


▲他にも、上記のような工夫が凝らさされている。

以上の4点が「空の冒険」を作る際に重要なポイントになったとまとめた。



●スペシャルショー
次に、2019年に実施したスペシャルショーという体験コンテンツについて。

スペシャルショーは、メインステージ全面を使ったプロジェクションマッピングで、メインステージの上から天吊りしている「紗幕(メッシュ状のスクリーン)」を用いて立体的な表現や人の動きに合わせた戦闘エフェクトの表現などを行っている。シナリオのモチーフに合わせた舞台効果・照明効果も取り入れ、『グラブル』の世界を「現実」に再現したショーコンテンツとなる。




このスペシャルショーで作りたかった体験は、『グラブル』が5年間で重ねてきた物語の思い出を、見ている人みんなで共有するという体験であるという。3年目のグラブルフェスに向けて作られたスペシャルショーだったが、その頃には既にVR四騎士やグランサイファーライドといった体験コンテンツが登場していた。しかし、これらのコンテンツは体験できる人数が限られてしまうという制約がある。そこで、メインステージにいる人や配信を見ている人にも同じシナリオの思い出を共有しながら、笑ったり泣いたりできるコンテンツを目指して企画がスターチとしたと経緯を話した。

この体験を実現するためにポイントとなったのは「感情の設計」である。そこで、グランサイファーライドと同様に、感じてほしい感情の流れを考えることに。



1.引き込まれる、夢中になる:グラブルのメインシナリオ
ショーを始めから終わりまでしっかり見て楽しんでもらうためには、最初にショーの世界に引き込んで夢中になってもらう必要がある。そこでまず、これからステージで表現されるのは『グラブル』のストーリーの世界であるということが伝わるよう、『グラブル』の基本的なモチーフである空や青色の光を多く取り入れながら、メインシナリオのストーリーを追っていった。

2.楽しい、面白い:コメディ系イベントシナリオ
そうして概要を掴んでもらったところで楽しい・面白いと思ってもらえる演出を入れる。見せ場の前にショートして「面白くなってきたぞ!」と感じてもらうためにこのような設計にしているという。

3.カッコいい、ドキドキする:バトル系イベントシナリオ
そしていよいよ、第一の見せ場であるオフィシャルキャストの殺陣とエフェクトによるステージに入っていく。騎士同士の戦いなど、バトルをメインにしたシナリオを取り入れ、臨場感あふれる演出でカッコいい、ドキドキすると感じられるようにしている。

4.悲しい・感傷的:シリアス系イベントシナリオ
続いて、シリアス・ハートフルな泣けるシナリオを入れた。カッコいい、ドキドキと感じた後に悲しいという強い感情が加わることで興奮と感動の両方の感情をクライマックスに向けて高めていく。

5.大迫力・感動
こうして盛り上がった最後の締めとして、『グラブル』が3周年のタイミングで始まった3部作のイベント「どうして空は蒼いのか」のシナリオの世界観を描き下ろしイラストや照明効果はもちろん、会場に羽を降らせるなどの特殊効果もふんだんに使って表現し、クライマックスに相応しい迫力と感動を得られるようにした。

上記の流れを作った後は、さらに感情の起伏を盛り上げるための表現や効果を取り入れていく。


▲照明はもちろん、スノーマシンやファイアボールなどの舞台特効、オフィシャルキャストへのエフェクト投影がこれにあたる。以下では、その中でも試行錯誤したオフィシャルキャストのエフェクトについての話を展開した。

オフィシャルキャストの演出は、演者の手前にある紗幕にエフェクトを投影している。これは、演者がいる裏側からは投影されているものの状態が見えず、エフェクトと演者のタイミングが合わせずらいという問題があった。そのため、エフェクトにディティールにこだわるほどオフィシャルキャストの動きのタイミングがシビアになってしまう。

しかし、『グラブル』のバトルエフェクトは普段からチームのアニメーションデザイナーがこだわって作っている点であるため妥協はしたくない。そこで出した結論が、音を合図にするという方法だった。


▲剣のぶつかり合う音や魔法詠唱の音など本来必要な戦闘SEに加えて、動き始めのタイミングを掴むための合図音を仕込んだ。

最後に、ステージコンテンツと同じく配信に向けての工夫も行っている。しかし、ショーの特性上、舞台全体を使った演出や舞台特効については配信では伝えきれない部分があったという。

そこで、カメラの観点が入る配信だからこそ楽しめるように、演者の顔やキメの演出など、美味しいところだけをクローズアップするようにした。その際、映像や演出が良く見えるようカメラの彩度やコントラストをリハーサルで事前に調整している。

また、広報戦略も絡めた余談として、1日目は配信をしない選択をした。配信の絵で同じものを見た場合、2度目はどうしても見劣りしてしまう可能性があるという理由を挙げた。1日目の来場者が感想口コミを広げ、同じタイミングでショーの内容を少しだけ明かしたプレスを配信することで、2日目には期待値が上がった状態でショーを見ることができる状態になったと解説した。




●キャラクタートークスポット
キャラクタートークスポットは、キャラクターと来場者が会話を楽しむことができるコンテンツ。キャラクターが来場者に質問し、それぞれの回答に対してキャラクターが反応したり、キャラクターが来場者の要望に答える仕組みが取り入れられているという。



ここで目指しているのは「キャラクターとリアルな会話が楽しめる」ということ。

これまで、キャラクターとユーザーが会話できるコンテンツとしてキャラクターライブのMCが存在したが、そちらはステージで毎年1回のみの公演となっており、体験できる機会は非常に稀である。そこで、キャラクタートークスポットを会場内に複数設置することで、より多くの人にキャラクターとの会話体験を楽しんでもらおうというのである。

ここまでの総括として、体験コンテンツを作る際に大切にしているポイントを以下のようにまとめた。


▲体験は人間の感覚に深く結びついているため、少しでも違和感が生じると、どれほど優れたコンテンツでも体験として気持ち悪さが出てしまうという。

最後に、リアルイベントを開催する意義と成果について発表。




昨今は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という大きな問題もあり、リアルイベントの開催には厳しい状況が続いている。しかし、Cygamesはユーザーに最高の非日常を体験してもらい、『グラブル』を遊んでいて良かったと思ってもらえるよう最高のグラブルフェスを届けたいと述べて講演の締めとした。



 
(取材・文 編集部:山岡広樹)
 

CEDEC 2020

 
■『グランブルーファンタジー』
 

App Store

Google Play

ブラウザ版

AndApp版


©Cygames, Inc.