【インタビュー】「スリリングな冒険に没頭できる3DダンジョンRPGにしたい」 ドリコム金山圭輔氏が本気で開発する『ウィザードリィ』新作構想

木村英彦 編集長
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ドリコム<3793>が10月29日、『ウィザードリィ(Wizardry)』の著作権と国内外での商標権を取得し、新作『Wizardry VA(仮)』を開発中であることを明らかにした。同社が取得したのは、『ウィザードリィ(Wizardry)』シリーズのうち、『Wizardry6』、『Wizardry7』、『Wizardry8』、『Wizardry Gold』の著作権、そして『ウィザードリィ(Wizardry)』の国内外の商標権となる。同社がどういったゲームを開発しようとしているのか。

今回、執行役員ゲーム事業担当で同タイトルのプロデューサーを担当している金山圭輔氏(写真)が当サイトの取材に応じ、権利の取得の経緯から現在の開発フェーズまでの流れを語りつつ、スマホゲームであること、そして、スリリングな冒険が楽しめるゲームにしたいと語った。『ウィザードリィ』のハードな要素については現代風にアレンジして実装していく考えも示した。


■金山圭輔氏プロフィール

株式会社ドリコム執行役員(ゲーム事業担当)。2011年にドリコム入社。コンシューマゲーム開発出身で、約20年にわたりゲーム開発に従事。ドリコムでは「ダービースタリオン マスターズ」をはじめとする数々のヒットタイトルにディレクター等として開発に関与。2018年より現職。



――:よろしくおねがいいたします。『ウィザードリィ』を取得した経緯からお願いします。発表を聞いたときは非常に驚きました。

最初は、3DダンジョンRPGというジャンルのゲームを作ろうと考えたのが出発点で、「『ウィザードリィ』を作ろう!」などと情熱的に願っていたわけではなく、ましてやIPを獲得することも考えていませんでした。スマートフォンでもスリリングな冒険を楽しめるゲームを実現するにはどうしたらいいのか、どうやったら手にとっていただけるのかと悩んでいました。

その企画を突き詰めていったところ、魅力が『ウィザードリィ』と共通する部分が多く、それならば、『ウィザードリィ』として3DダンジョンRPGを作ってみるのはどうか、と考えるようになりました。 そんな流れで昨年から、『ウィザードリィ』IPとしてのお話を進めていました。『ウィザードリィ』といえば、一定以上の年齢ならば多くの方が知っているビッグIPです。良くも悪くも、プレッシャーは大きくなってしまいますが。

また、弊社は、他社さんからIPをお借りしてゲームを開発することが多いのですが、新しいチャレンジとして、自分たちでIPを保有して新しいゲーム開発に取り組み、IPとしてももう一度発展させていきたいとも考えています。


――: 「今回取得した権利は、『ウィザードリィ』IPの一部でしょうか?」 

はい、そうです。『ウィザードリィ』の権利I~VとⅥ以降で分かれており、発表のとおり、Ⅵ以降を取得することができました。ひとつにまとまることがユーザーさんにとっては幸せなんでしょうけど…。I~Ⅴの所在については諸説ありますよね。あんなに有名なのに統一されていないのは不思議なタイトルですよね。
 



――:3DダンジョンRPGを作ろうとお考えになったのが出発点だったとはちょっと意外と思いました。

はい。当時 、弊社では定期的に社内で企画の公募を行っており、私自身もたまに企画を作って出していました。そのときにダンジョンRPGの企画を出したものの、シブすぎたせいか残念ながら落ちてしまったのです。ただ、「このコンセプトは何かできそうな気がする」とカンが働いて、さらに企画を練り込んで仕上げようと考えました。

私自身、幼少の頃からゲームに親しんできましたので、色々なジャンルのゲームが好きで、ダンジョンRPGもそのひとつでした。『ウィザードリィ』については、『ウィザードリィエンパイア 』などのころによく遊びました。あとはアトラスさんの『BUSIN Wizardry Alternative(以下、BUSIN)』にもはまりましたね。

あのスリリングさや没入感はいまの市場にないですし、なければ出したらいいんじゃないかなと思いました。私自身、ファミコンやスーパーファミコンで楽しめたものがいま手軽に遊べないのはもったいないと感じるんです。このあたりは『ダビマス』のときと同じ考え方です。 


――:開発はどのくらいですか。

まだ試作段階に近いですね。αフェーズのどこか、といった状況です。現在、ダンジョンを探索して敵と戦ってお宝を集めて進んだり、街に戻って回復したりといった、ベーシックな3DダンジョンRPGまでは仕上がっています。シンプルながらも遊べるようにはなっています。一見すると、それなりに出来上がっている状態と感じられると思います。

――:(動画を見て)1人称視点になっているんですね。

昔のRPGの良さと、今のRPGの良さって少し違いがあるように思います。かつてのRPGは、自分の冒険を楽しむゲームでしたが、だんだんゲームに登場するキャラクターの活躍を楽しむようなゲームが主流になっていると感じます。海外(北米タイトル)の場合は、依然として自分の冒険を楽しむゲームが多い印象なんですが、本作もそういった「自分だけの冒険」部分を大切にしたいと考えています。

3D系のダンジョンということで、基本は『BUSIN』に近いですが、ちょっと違っています。『BUSIN』の場合は、自分も味方キャラも1人称視点でした。今回は、自分のキャラのみ1人称視点で、仲間のキャラの活躍ぶりについては、自分自身が横から眺めるような形です。自分のキャラクターについて基本的には手しか見えません。

 



――:なるほど。

ゲームとしては、「自分だけの冒険」を楽しむがコンセプトです。好きな仲間――例えば、エルフやドワーフなどの種族、様々な職業でパーティを編成して冒険に挑んでほしいです。昔はよく仲間キャラに友だちの名前をつけましたよね。主人公は自分で、他の5人は友だちの名前をつけて冒険する 、といったことをやってほしいですね。

――:ソーシャルやオンライン的な要素はどうするのでしょうか。

その点は悩んでいます。競争的な要素があると、どうしても自分の冒険に没頭できないと思うからです。自分のペースで楽しめてこそです。『アナザーエデン』は、スタンドアローンに近くて、ソーシャル要素はほとんどありません。そういったゲームの一つの究極系といえるもので、よく振り切ったなと思います。しかし他方で、コンシューマ系のスマホRPGはPvPやギルドがあって、一定の成績を出しています。

本作の場合、おそらくお客様からは、「ソーシャル要素はいらないから1人で遊べるようにしてほしい」といわれるでしょうが、スマホで出すにあたって、どの程度のソーシャル要素が最適なのか、バランスを取りたいと思っています。別に大儲けしたいと考えているわけではなく、ただ「自分だけの冒険」に自分のペースで向き合うことができるような本格3DダンジョンRPGを提供して、皆さんに楽しんでほしい一心なのですが、ビジネス的に成り立たないと継続的にサービスが提供できなくなってしまうからです。


――:その点は悩ましいですよね。

子供の頃、クラスメートの友だちなどと同じゲームを遊んでいるとき、「ここまで進んだ」とか、「あそこにあんなアイテムがあった」とか、情報交換や競争がありましたよね。ああいう程度のつながりでもいいかなと思ってもいます。その意味で、『アナザーエデン』はすごいと思いますね。ソーシャル性についての選択肢は多いので、いくつか想定はしていますが、現在はまだ検討している最中というのが本音です。

――:キャラクターもガチャですか?

そこも悩んでいます。ガチャにするかは置いておいて、色々なキャラクターが出てきて、「この冒険者がほしい」といったところは課金要素の強いフックですし、売上を立てるための有力な候補にはなります。最近のタイトルでは、キャラと武器が多いですよね。本作については、「お金を使わないと、ゲームが進まない」といった状況にはしない方向で考えています が、悩ましい部分です。
 



――:PCオンラインゲームの『ウィザードリィ』では強烈なPKがありましたが、賛否両論があってPKのないサーバーがつくられました。こちらではなさそうですね。

そういう要素は入れないだろうと思います。あくまで「自分だけの冒険」を楽しんでもらうことがコンセプトなので、他のプレイヤーから強制的に干渉される要素 はあまり入れないでしょうね。アップデートで入れる可能性はゼロではありませんが、前向きではありません。可能性は高くないと思います。

ただ、シリーズタイトルでは、ダンジョンを探索していると、他のパーティと出会うことがありましたよね。緊張感が高いですし、新鮮な体験になるので、もちろん何らか入れたいと考えていますが、その相手が他のプレイヤーになるかどうかはまだなんともいえないところです。

他のプレイヤーデータとして出てくるかもしれないし、NPCになるかもしれないです。『ウィザードリィオンライン』ではシビアさを売りにしていましたが、『ウィザードリィ』を知らない方にとっては大きな障壁になりえます。


――:シビアさといえば、キャラロストや石の中にいる、首を急に斬られて死ぬ、といった要素も入れるのでしょうか。

F2Pのタイトルでは理不尽な喪失は厳しいと思います。とはいえ、首をいきなり斬られたり、キャラクターをロストしたりといったシビアな体験は、シリーズの大切な要素とも考えていますので、現代に合う形で入れたいと思っています。現時点でお話できるのは、いわゆるプレーンな、やさしいRPGになることはない、ということです。

『ウィザードリィ』は、ゲームを進めていくと、キャラクターの年齢が上がっていきましたよね。高齢になるとパラメーターが下がっていくということもありました。こういった点についても現代仕様に置き換えないといけないと考えています。


――:原作を大事にしたい方も多くいらっしゃいますから、この点は気を使うのではないですか。

そうですね。本作については、『ウィザードリィ』のシリーズ本編というよりも、外伝的なタイトルと位置づけています。シリーズタイトルをプレイした方であれば、おそらく一度は遊んでいただけるのでしょうが、その際、「自分の遊んだウィザードリィと違う!」とお叱りを受ける可能性は十分にあると思っています。それでも今回は、本家『ウィザードリィ』にあった魅力を抽象化してスマホゲームとして再現したいと思っています。
 



――:バトルの形式はコマンド式ですか。

はい。しかし、少しだけ変えようと思っています。6人編成で前列と後列に分かれてコマンド式の戦闘という基本は押さえつつ、ターンが回ってくる仕様など、細かいところは現代仕様にしたいと考えています。6人の行動をすべて選択してバトルスタートとなっていましたが、スマートフォンで遊ぶことを考えるとテンポも大事にする必要があります。しかし緊張感は感じられるようにしたいと考えています。

――:ゲームの運用に入ったときのイメージはありますか。ダンジョンやフロアを追加していくものになるのでしょうか。

もちろん、結果的にダンジョンやキャラなどは追加していきますが、これまでのスマホRPGとは少し違ったことをやろうと考えています。運用途中からゲームに入った方も遊べるように、使い捨てのイベントはなるべく避けて、少しずつ世界観を広くしていくつもりです。どんな感じの追加になるかどうかはまだいえません。公開した映像に少し手がかりがあるかもしれません。

――:シリーズタイトルとのリンクや関連性は。

いまのところは直接的にリンクさせる考えはありません。別のものとしてやるかもしれません。体験の質だけをもってこられたらとは思っています。「MURAMASA BLADE!」の存在や、ボーパルバニーが首を狩りに来る、転送に失敗して石の中にいる、蘇生に失敗して灰になる…といった要素は何らかの形で反映させていきたいです。ただ、「ボルタック商店」をどうしても出したいとは考えていません。変えたいという強い意志もないんですが…。権利がすべて使えたら利用するのですが、そのへんはお察しいただければ幸いです。

――:ゲームはスマホのみの展開ですか。

はい。当面はスマホのみです。本作に限らず、『ウィザードリィ』のIP全体の展開も模索したいと考えていますが、現在開発しているタイトルについてはスマートフォンに最適化する予定です。映像でわかるかとも思いますが、縦画面なんです。メインユーザーは40~50代だと思いますので、忙しい中でも遊んでいただくには横持ちはハードルが高いかなと思っていまして…。
 



――:かなり出来上がっている印象でしたが、自社開発されているのでしょうか。

ここまでは自社開発になります。弊社は3DのダンジョンRPGに強いわけではないので、これからスタッフや、開発に協力していただける会社を集めていく必要があります。弊社のサイトでも大々的に急募する予定です。これから集まる方や会社によって仕上がりが左右されるかもしれません。

この業界にも『ウィザードリィ』を開発された経験のある方は多くいらっしゃると思いますので、そういう方々がニュースを見て「それならば」と力を貸していただければ幸いです。具体的な協力ではなくても、昔の開発裏話がお聞きできれば嬉しいです。


――:いつ頃出したいというお考えは。

すぐに出すのは難しいでしょうね。まだ決まっていません。開発の初期ですし、人数も少ない状況ですから、今後、先行きが見えづらい状況です。開発スタッフや協力会社が集まれば早くできるでしょうし、なかなか集まらなければ遅れることになるかもしれません。

――:スマホゲームでは、3DダンジョンRPGでヒットしているものは少ないですね。

はい。ヒットタイトルもですが、タイトルそのものが少ないですね。いくつか3Dダンジョンを取り入れているタイトルがありますが、ユーザーさんの受けが良くないのか、途中でオート機能を入れてしまい、重要な場所から追いやられてしまうことが多いように思います。ビジュアルもさきほどお見せした動画のようなテイストは少ないです。キャラクターは比較的アニメ調ですけど、それ以外は洋ゲーに少し寄っています。これは危ないかもしれません(笑)

――:いや、まあこういうゲームは出してみないとわからないですよね。『荒野行動』や『PUBG』がヒットすることを予想していた人は業界でも少なかったですよね。

そうですね。若い人たちがこうしたゲームにはまるとは思いませんでした。だんだんリテラシーが上がってきて、カジュアルに遊んでいたゲームユーザーがスリリングなダンジョンに挑む姿がみられるようになるかもしれません。

ダンジョンは完全オートにしてしまうなどカジュアルゲーム化しても誰も喜ばないと思いますので、この点は初志貫徹でいきたいと思っています。カジュアルゲームで楽しんでいた方も新しい体験として楽しんでもらえるようにしたいです。

 



――:振り返って思ったのですが、『ウィザードリィ』はスマホでも結構出ていますね。

10年くらい前にあった『ウィザードリィ』ルネサンスのころに出たコンシューマゲームはシリーズの流れを受け継いでいますが、携帯/スマホゲームの多くはソーシャル系、放置系やローグ系で、本作で目指すようなダンジョン探索がメインではありませんでした。

今回、スマホというと何かとソーシャルといわれますが、私としては、スマホについては、「すごく普及している携帯ゲーム機」と捉えています。『ウィザードリィ』をいわゆるソーシャルゲームのフォーマットに無理に載せたいというわけではなく、遊びやすいからスマホを選択しました。

発表時のリアクションが思ったよりも多くて、ドリコムだから不安という声も拝見しました。ソーシャルゲームや課金ゲームになってしまうのではないかと不安視する方もいたように思います。その不安、ごもっともです。この点は 、(数々のソーシャルゲーム、課金ゲームを運用している)ドリコムという名前が背負っている「業」といえるものですが、今後も定期的に開発中のプロダクトを出していきますので見守っていただければ嬉しいです。

まだ開発初期フェーズのプロトタイプなので、UIなど細かい部分については作り込んでいないため、普段この段階では、あまり映像を外部に出すことはないんですが、我々が本気でつくっていることを示したいと思いました。

ドリコムだからどうだというよりも、ゲームができあがっていく様子を今後少しずつお見せしていきますので、少しずつ期待を高めていただければ、という願いも込めて、ちょっと無理して外に出すことにしました。いまのところ少人数でやっていますので、これから完成度を上げるために仲間を募りたいと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。


――:ありがとうございました。


© Drecom Co., Ltd.

株式会社ドリコム
http://www.drecom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ドリコム
設立
2001年11月
代表者
代表取締役社長 内藤 裕紀
決算期
3月
直近業績
売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3793
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