【インタビュー】スマホゲームUIデザイン事情…DeNA、ElEngineが語る今のUI/UX開発とは

今では多くのサービスにて、重要とされているUI/UX。そして、スマートフォンゲームにおいては、継続率やARPUに直接的に繋がることから黎明期より力を入れられてきた。

しかし、昨今の競争激化や長期運営状態においては、どのようにUIデザインを考え、取り組んでいるのか。またどのような課題があるのだろうか。

今回gamebizでは、株式会社ディー・エヌ・エーと株式会社ElEngineの2社にインタビューを実施。UIデザインにおいても取り組みや昨今の動向について話を聞くことができた。

 

総合力が求められるUIデザイン

(写真右から)
株式会社ディー・エヌ・エー
北林 達也
竹内 愛

株式会社ElEngine
代表
山崎 健士
ディレクター
名嘉 高志
エンジニア
屋比久 清吾

 
――:これまで多くのUIデザインを手がけてきたと思いますが、昨今のスマートフォンゲーム開発動向についてどのようにみていらっしゃいますか。

屋比久:昨今ではスマートフォンゲームでもコンソールのように開発費や求められる技術が高くなっている傾向は引き続きみられます。

スマートフォンのスペック自体が高くなっており、より工夫されたグラフィックや表現も求められていて、私たちのようなエンジニアも常にキャッチアップしないといけません。

エンジニアに限らず、どのポジションでも技術への理解や工夫が求められていて、複雑化は進んでいますよね。

名嘉:複雑になっていくと、チーム内のコミュニケーションも重要でご相談いただく案件でも、その点に課題があるケースも多いです。

個人的には、うまくいっているゲーム開発というのは、発信する人とキャッチする人がすごくスムーズにできているからだと感じます。

逆にうまくいってないところは、齟齬やエラーが発生して、開発が遅れてしまっているので、スキル以上にそういった組織としての総合力も求められているように感じます。

竹内:UIに関して言うと、スマートフォンでできるUI自体はある程度限られています。

タップや長押し、スワイプするかぐらいしかユーザーができるアクションはありません。UIで表現できる幅がコントローラーに比べると小さい中で、コンソールのような表現ができるゲームが出てきているというところことは、UIに関しては難易度がすごく高くなっているということだと思います。


――:確かに、よりハイエンドになり、求められる敷居は上がっているが、できる選択肢は限られている訳ですね。

名嘉:デバイスが変わっていけば、UIで求められることもまた変わっていきますが、スマートフォンである以上はどうしても制限はありますね。

屋比久:また、昨今ではUXも重要視され、押したときの体感の気持ちよさも求められます。

そこまでくると、技術応用が必須にはなるので、エンジニアとしては「そんなのできない」と否定するのではなく、極力寄り添って、「それだとできないけど、こういう手段なら…」という形で取り組むのが、業界全体としても、うまいUIの表現につながっていくんじゃないかと感じます。

名嘉:エンジニアにも、デザインスキルが求められるようになってきますよね。


――: UIデザインっていうと、その名前のとおり、デザイナーさんが、みたいなところはあるんですけども、エンジニアやプランナーが一緒に取り組まないと難しい敷居になってきているのですね。

名嘉:それこそ企画段階から、UIをこうデザインしようという議論は出てくるので、もう、デザイナーやエンジニアだけの話でなく、企画や事業全体に浸透というか、全員が念頭に入れてやる時代になってきているなと感じます。


――:DeNAさんでは開発してきたゲームの中で、UIデザインや考え方はどういうふうに変わっていったのでしょうか。

竹内:フィーチャーフォンの時代では、UIはもっと2Dの、平面だけの話でしたので、プランナーが、Excelなどでワイヤーフレームを描いたりして、「ここの真ん中に『進む』ってボタンがあれば良い」といった感覚から、だんだんスマホにシフトしていくにつれて、考える事項は増えましたよね。

動画で、ボタンを押したときに反応するのか、手を離したときに反応するのか。手を離したときにエフェクトが出るのか、押したときにエフェクトが出るのか。

その違いだけでも体感が変わるんだということを、地道に浸透させていった開発現場だと思います。

要は、すでにプランナーやデザイナーだけでUIが完結するというのは困難になったんですよね。

2Dのワイヤー自体からもうデザイナーと相談して描いてもらい、Unityに組み込むときに、エンジニアさんとも相談します。

Unityに組み込む際も、デザイナーとも相談して、本当に押すときにどう出るかみたいなところも煮詰めていかないと、ページによって印象が変わって統一感がなくなってしまいます。

そういった、どんどん気にするところが増えてきているのを、ブラウザからアプリにシフトしていくにつれて、格段に増えたかなと思います。


――:確かに手触りとかで、離脱するユーザーも多いですからね。

 
北林:実際に、もっさりするなとか、印象悪いなという時は、エフェクトの出方が気持ちよくないとか、結構些細なところが要因だったりします。

そこで、ゲームの中身を楽しむ前に離脱されてしまうと、やっぱりもったいないと思うので、気を付けたいところですよね。

山崎:ですから各社様からUIに困っている、デザイナーがいなくて困っているという相談は増えている印象がありますね。

 

UIデザインの作り直しはなぜ起きるのか?

 ――:エルエンジンさんは、ゲームのUIに特化してやっているというか、そういった中で、理由とか背景は、どういったところがあるんですか。

山崎:私自身がUIという概念が出てくる前から取り組んでいたというのもあります。普通のグラフィックデザインの一環として行なっていて、知り合いの会社から手伝って欲しいといろいろ手伝っていくうちに今の形になりました。


――:それだけ、本当にUIデザインの重要性が世間的に、ゲーム開発の中でも上がっていったんでしょうね。

名嘉:最近では新卒採用の学生たちに、UIもポートフォリオに入れるように、学校から言われることもあるそうです。UIも入れておけば、企業にもフックになるからと、学校側が言ってくるらしいんです(笑)。


――:それだけゲーム会社としても注力している分野なんですね。ちなみに、どういう悩みを聞くことが多いのでしょうか。

山崎:UIで困っているという相談でやっぱり多いのは、純粋にクオリティが低いから、クオリティを高くしてくれという相談ですね。


――:シンプルですが難しい注文でもありますよね。

名嘉:UIでご相談いただくケースだと、新規のゼロベースで作ってくださいっていうパターンと、山崎が話したデザインを改修してくださいっていうパターンがあって、最近はデザイン改修のご相談が多いです。

山崎:駆け込み寺のようにご相談いただくケースも結構ありますね。

竹内:昨今では開発終盤になって、やっぱり全部作り直したいというのはよく聞きますよね。


――:開発延期になってでも、ガラッと作り変えるというのは最近よく聞きますね。あちらってどういう事情が多いのでしょうか。

竹内:他社さんでもよく聞くので、恐らく「ゲーム会社さんあるある」なのだと思います。スタート時期に決めたコンセプトから、開発していくに従って、より想定よりも大きくなったりとか、少し仕様が変わったりすることによって、UIデザインが結果使いづらくなってしまったというパターンが一番多いかなと思います。

一番良くない場合は、仕様が増えていく中で、その仕様に合わせてキメラみたいなゲームになり、統一感がなくなってしまうケースですが、その事態になることは有り得ます。

開発が大規模になってきて、一つのチームが100人とかいるチームで作っていると、ページによって担当者が変わったりとか、プランナーも変わったり、エンジニアも変わったり、UIのデザインのほうも変わったりします。

そうすると、少しずつずれていってしまい、初めに立てたUIに関するコンセプトやテーマがズレた存在になるというのは発生しがちになるかなと思います。


――:最初のほうに作った画面と、最近作った画面で全然違う画面になっていると。

竹内:連載漫画とかでも、良くありますよね。初めの頃と20巻ぐらいで、ちょっと絵が違うな、みたいな(笑)。ですから、3、4年を、大人数で作っていると、どうしても発生してしまうと思います。

山崎:多人数で制作していると、デザイナーさんのセンスの部分で、ちょっとズレるというのはやっぱりあると思うんです。

配置が1ミリ、 1ピクセル違うだけで、気持ち悪いみたいなところが積み重なってくると、全体的に何となく違ってくるという印象につながります。

単体で見るとそこまで感じないですが、積み重なると違ってきますからね。

名嘉:一つのページを作るときに、前のページからどう来ているのかも確認します。前のページから来た時に「なんか1ピクセルずれているぞ」みたいなこともあります。

これが揃っているほうが、絶対、気持ちがいいですし、ユーザーにとってノイズになるものはやっぱり削ったほうが良いですよね。

北林:開発チームとしては、長くやっているから、気が付かないというか、長く慣れちゃっていて、チーム外の誰かが見たときに、「あれ、これおかしいんじゃない?」みたいなのが開発終盤で起きがちですよね。

屋比久:流行り廃りの問題もあると思います。長期開発していると、最初は当時の最先端ゲームを参考にしていたんですけど、開発している間に、もっと参考になるゲームが出てきて、「この要素、取り入れたいよね」とかってなってくると…。


――:キメラが生まれる訳ですね。スマホゲームでも、今だと2、3年以上かかりますのでトレンドも変わりますよね。

竹内:UIにはしっかりと論理構造があるので、仕様が増え、細かくなることによって、歪んでいくのが一番発生している問題かなと思います。

アウトゲームで例えると、武器強化の要素があり、その後に限界突破させたいとなったとします。

ただ、限界突破があるかどうかって、初めは決まってなかったので、後で限界突破を入れようとなると、武器強化の画面から、どうやって限界突破の画面に遷移させようかとなります。

途中で発生してしまうと、「じゃあ、ここに付けようか?」みたいな感じで、ちょっとずつ増えていくことが一番多いです。

そんな感じで、どんどん下層に深くアウトゲームが決まっていけばいくほど、UIの論理構造が崩れていき、進化した後に戻れないとか、武器を進化した後に、普通に防具を見たいとか、ジョブを見たいってなったときに、何回層も戻って見に行かなきゃいけません。

最終的にすごく使いづらいというのが、最終形態型になって、気付き始めてしまうんですよね。


――:なるほど。遊んでいるとたまにある、他のゲームとは限界突破ボタンの場所が違うなっていうのは、そういう事情もあるんですね。

竹内:多分、後で追加されたものでしょうね。

名嘉:もちろん、それぞれの事情があって変更ができない部分もあると思いますが、リリース後のことを考えたら絶対変えた方が良いですね。


――:素朴な質問なんですけど、全部出そろってから、UIを本格的に作るという進め方はできないものでしょうか。

竹内:それでも良いのですが、結構スケジュールが間に合わないことが多いと思います。

名嘉:あとは進めてみないと分からない部分もどうしてもあります。

ある程度、こういう構造になるよねっていうビジョンはあると思うんですけど、なかなか最初から情報設計を完全に構築して、このページがグッドかバッドかっていうのは、多分、判断がすごく難しいのかなと思います。

北林:全部、作り直すとしても、それまでに制作したものは、無駄ではないと思います。

竹内:デザインを変えずにページの論理構造やツリーを変えれば良いというケースももちろんあります。

確かに、初めに設計できていれば、より楽に開発ができるのにと思いますけど、作ってみないと分からない部分もあるので無駄ではないと思います。

山崎:この辺りが開発の難しさでもありますよね。それこそ、冒頭にて名嘉からも話したようなコミュニケーションなどの意思疎通の総合力が問われてきていると思います。


 

UIデザインのスペシャリストElEngineの強みとは

――:ElEngineさんとDeNAさんが取り組むことになった経緯はどういったところからでしょうか。

山崎:元々、前からのお知り合いで、いろいろな話をしていくうちに、タイミングが合ってご一緒させていただいた経緯ですね。

北林:実際に弊社でもUIを見直したい作り直さなきゃいけないという話があったので、それでご相談させていただきました。今現在、開発中のゲームになります。


――:現在、一緒に取り組まれていて、印象的だったエピソードはありますか。

 
竹内:課題だと感じていたところが、初めからぴったり合っていて、とてもスムーズにやりとりができたのかなと思っています。

UIの課題は、複数の問題があったりして複雑になりがちです。どこに問題があるのかをすり合わせるまでに、結構時間がかかったりすることが多いんです。

ただ、今回のケースに関しては、ここが課題だと思っている仮説を、われわれのほうも立てていて、すぐにご理解いただき、追加で「ここも考えられませんか」とご提案もいただけてありがたかったです。

制作現場の雰囲気とかも、きっと近いんじゃないかと思っていて、もしかしたら文化が近しいのかなって思えるほどにスムーズでした。


――:ElEngineさんから見るといかがでしたか。

山崎:課題に対する目線として、これまでに培った経験から揃っていたかもしれませんね。

竹内:そうですね。初めからぴったり合ったので、とてもやりやすかったです。

北林:私もすごくスムーズにいく会社さんだなと思いました。特にアクションも早かった印象です。

初めにお会いしたのが、コロナ禍だったので、テレビ会議という形で会議させていただいたんですけど、最初の会議から、エンジニアを含めたメンバーが全員出てきて下くださりました。

最初に話をする場合って、営業や上の方だけなところも多いですが、最初から現場の方々に入っていただいて、話を一気に始められたというのも、すごくよかったです。

名嘉:フットワークの軽さは弊社でも意識しているところです。UIに触れるのはかなり細かい違いも意識しないといけません。ですから些細なことでもレスポンスは早くすべきだと考えています。昨今のリモート環境の作業では動きが見えないと、相手を不安にさせてしまいますから。

お時間を頂く事項があったとしても、どのくらいかかるのかなど、細かく早くレスポンスするようには意識しています。

北林:それは確かに、すごく感じました。確かにおっしゃられて、なるほどっていうふうに思いました。本当に、レスポンス早かったですね。


――:レスポンスの早さや現場目線というところが、ElEngineさんの印象といったところですかね。

 
竹内:恐らく、「UIデザインができます」という会社さんはいくつかあると思います。ただ、やっぱりUIを2D平面だけの話だと思っていらっしゃる会社さんも何社かいらっしゃります。

ElEngineさんの場合は、さっき申し上げたように、『押す』の反応や、動画、エフェクト、エンジニアリングで組み込むところまで一気通貫してみられるという点が強みかなと思います。

多分、われわれゲーム会社が考えているUI、UXとほぼ同じ感覚を持っているというのが特徴かなと思いました。

本当に文化が近くて、一気通貫して全部対応できているところが、とても一緒にやりやすいと感じた魅力的なポイントだと思います。

北林:そうですね。デザイナーでもあり、プランナーでもあるというのが、すごいです。プランナー目線だけだと、気付かないようなところも拾っていただき、「そうではなく、ここも考えてみた方が良くないですか」みたいなご提案をいただけるのがUIデザインだと思いますし、実際にそこまでご提案いただけるのは大変助かります。

竹内:やり取りをしている中でも、論理構造やツリーがしっかり念頭に入っていらっしゃるので、先程の話で言う、「強化の後、普通に進化したいよね」とか、「強化でMAXまでいったときに、進化のレコメンドが欲しいよね」とかを「この順番のほうがいいんじゃないですか」という風に、ツリー構造自体を論理的に考えてご提案していただける方は、中々いらっしゃらないと思います。

論理的にゲームの仕様を理解して、その仕様に合わせてページのツリー構造を考えられるデザイナーさんにはとても少なく、そこを一緒に考えてくださるのがとても魅力的でした。

山崎:最高の褒め言葉ですね(笑)。


――:本当にUIデザイナー、本物のスペシャリストといった形なんですね。なぜ、そういうことが、ElEngineさんはできるんでしょうか。

山崎:うちのスタッフはデザインを作る商売道具の自分のマシンに愛着を持ってもらいたいと思っています。そこから良いクリエイティブが生まれるとも思っています。

なので、弊社のスタッフは自分の好きなマシンを用意してストレスなく作業をしています。Windows、Macともにその人が慣れたマシンを選んでもらい作業に当たってもらいます。

Windowsに関してはいつもFRONTIER様へお願いしてカスタマイズしたBTOパソコンをみんなが使っています。

カスタマイズの自由度も高くハイスペックのPCがお求めやすく購入できるのが大きな理由になります。

Macのパソコンに関してもAppleStoreからカスタマイズしたマシンを注文しています。

そこまで高額にならない程度にスタッフには気に入ったスペックのマシンを使って作業にストレスがない環境を作ってあげたいと思っているからです。できる限り良いUIデザイン作りに集中できるようにしています。

また社内にはペットの「たまお」ちゃんというチワックスの女の子がいます。スタッフの癒しになっています。

 

――:(笑)。ストレスなくクリエイティブに専念できる環境があるのですね。技術的な部分の他にも、ElEngineとしての特徴はどういったとこだと思いますか。

 名嘉:弊社の業務は先ほどもお話ししたように、「新規案件」と「改修案件」の2軸があります。

この二つの軸で蓄積したノウハウがありますので、「先でこういう問題が起こりそうだ」というのが、何となく分かるんです。

新規案件では、改修時に起きた事例を参考にしますし、逆に、改修案件で、新規の時にこうしておけば問題は起こらなかっただろう…、といったケーススタディを重ねていることが最大の強みだと思います。

――:多くの案件を経験されているので、共通項みたいなノウハウが培われていると。

名嘉:言語化や資料化するのは難しい部分もあるのですが、いろんなUIに触れる中で、必然的にノウハウや経験が、会社に累積していったっていうのはあるのかなと思います。

今後はノウハウの言語化や共通化をしていって、より多くの悩み事を解決していけるようにしていきたいですね。

山崎:数多くのケースを経験していますので、何かしらでお役に立てると思います。ですから、これからもお気軽にご相談頂きたいですね。


――:今後の展望についてもお聞かせいただけますか。

山崎:私たちも新しい技術には、すごく興味があるので、その分野におけるデザインも手がけていきたいですね。

最近でいったらメタバースやVR・ARが当たると思います。ゲームでも様々な形が出ていますし、リアルと仮想空間というのは、絶対融合してくるものですから。

屋比久:エンジニアとしても新しい分野の技術はキャッチアップして提案していければと思いますので、引き続き色んな会社さんと取り組んでいきたいですね。

山崎:UIについてお困りの人がいたら、まずは相談していただきたいですね。何でも構いません。

竹内:私たちも現在開発中になりますが、ElEngineさんには大変お世話になりました。皆さんもUIで困ったら、ElEngineさんにご相談してみてください。

山崎:ありがとうございます(笑)。引き続きよろしくお願いします。


――:ありがとうございました。