【特集】『推しエコノミー』中山淳雄氏インタビュー 米中のアンチテーゼだった日本の換骨奪胎文化、そこからアニメとゲームが生まれた
エンタメ領域のプロデューサーとして、そしてエンタメ社会学者として活躍する中山淳雄氏が先月上梓した『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』が好評だ。アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷が決定した。当サイトでも「推しもオタクもグローバル」を連載している中山氏だが、出版記念特集として、著者インタビューとともに新型コロナで変質したエンタメ業界の現状と展望を語ってもらった。今回は、日本におけるサブカルチャーについて語ってもらった。
――:極めてざっくりした話になってしまいますが、日本におけるサブカルチャーの歴史ですが、どのように捉えていますか?
少し大きな議論になってしまいますが、日本は敗戦の後、無個性の時代になりました。われわれは汚れてしまった、汚してしまった民族として自信のない時代があった。いかに日本人らしくないかが重要視される一方で、アメリカに対して憧憬しすぎた国とも思います。1960-70年代の日本は、アメリカのものをいかに取り入れていくか、それが善ととらえられました。
それ以前でも、中国から様々な文化を取り入れており、その一つとして仏教があります。日本人はそれを神道とハイブリットさせて普及させていきました。ある種の転換装置といったらいいでしょうか。日本のアニメも、アメコミあってこそです。アニメやアメコミなどのアメリカ文化が一気に入ってきて、それを受け入れた上で自分流にアレンジしていくことは2000年にわたって行ってきました。
アメリカのカウンターカルチャーが入ってきて、ブレンドされた面白さが花開いたのが1980年代、1990年代だったと思います。常にオリジナルとは違い、モディファイしていました。1000年前の話であれば、仏像なども日本で独自に進化したものがあります。中国だと仏像が禁止されていた時代もあって、全体的に無骨な感じがするんです。日本だけ独自派生しがちなんですよね。急に浄土真宗が生まれ、宗教もアートとなりました。アニメとゲーム、マンガも、アメリカから受け取りました。
アメリカのカルチャーをいったんはどの国も受け入れますが、それを独自にアレンジした日本のカルチャーを受け入れる国も多いんです。日本は、大国のアンチテーゼとして君臨してきたサブカル大国ではないかと思います。
――:そういえば、手塚治虫先生もアメリカの影響を受けて独自の作品を作っていったといいますよね。
ええ、「ダンボ」を20回見たとか言われてますね。アメリカの映画が大好きで、それを取り入れたマンガ手法と、アメコミをハイブリッドした手法を生み出しました。日本のアニメなんてアメリカで2億円、3億円かかるものを、300~400万円という驚くような低予算でリミテッドアニメを作りました。
リミテッドアニメとは、口しか動かないようなアニメのことで、アメリカにおいては、「これはアニメではない」とさえ言われました。おそらく日本の漫画もコミックではないと言われたと思います。ある種の換骨奪胎の文化があります。このあたりは今後の研究で定式化していきたいなと思っています。
――:家庭用ゲームも諸説ありますが、もともとアメリカだといわれていますよね。
はい。日本のゲームは、アメリカの家庭用ゲーム市場が崩壊したことで得した部分が大きいかと思います。よく知られているように、1983年のアタリショックの影響ですね。当時、3000~4000億円規模だった市場が200億くらいに急激に縮小したといわれています。いわばバブルが崩壊して市場がなくなったと言われました。
そのきれいになった市場に任天堂が「ファミリーコンピュータ(NES)」を開発して送り込みました。当時の世界のゲーム市場を見ると、日本が世界の9割くらいを占めていた時代になりました。まさにタイミングがバッチリでした。何かが損なわれている時代にしか、大ヒットは生まれません。「君の名は。」や「鬼滅の刃」で我々がそれを見てきたように…。
エンタメ業界においては、大ヒットする商品は環境要因によるところが大きいです。ヒット作品が出ると色々な要因分析が出ますが、「たまたま」あるいは運によるところも少なくありません。そのためにコンテンツを作って大成功を目指して色々な動きをとっているのがエンタメ産業の特徴だと思います。ゲームでは大成功を収めており、アニメはこれからですよね。
■中山淳雄氏略歴
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷も決定した。
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場