【特集】マーケティングの誤解はなぜ生まれるか…三者マーケティング対談「ゲームアプリのマーケティングって何?」(中編)

達川能孝 gamebizプロデューサー/TeeL合同会社代表
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マーケティングと聞いて、思い浮かべるものは何だろうか。広告やユーザー・クライアントとのコミュニケーション、サービス設計そのものなど、人によってそれぞれイメージは異なるだろう。

昨今の世の中はサービスやモノにあふれており、マーケティングの重要性は高まってきている。スマートフォンゲーム市場においても同様だと言えよう。

では、「マーケティング」とは何か。何をもって良いマーケティングと言えるのか。本稿では、書籍「いちばんやさしいアプリマーケティングの教本」の12月22日刊行を記念して、ブシロードの森下氏、Colorful Paletteの近藤氏、スパイダープラスの三浦氏の三者対談が実現。

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現在の立ち位置はそれぞれ違えども、ゲームアプリのマーケティングに従事してきた三人に、マーケティングとは何か。アプリゲームをヒットさせる為に考えていることなどそれぞれが考えるマーケティングについて話をしてもらった。

前編はこちら

マーケティングが誤解されるその理由

Bushiroad International Pte.Ltd.
Head of Mobile
森下 明氏(写真左)
2018年、株式会社ブシロード入社。デジタルマーケティングチームの立ち上げに参画し、自社IPのデジタルマーケティングを務める。現在は海外HQであるBushiroad Internationalのモバイル事業責任者として複数のモバイルゲームのマネジメントに従事している。また、「いちばんやさしいアプリマーケティングの教本」の執筆も行い、本特集ではファシリテーターも担当。

株式会社Colorful Palette
代表取締役社長
近藤 裕一郎氏(写真中央)
ゲーム開発会社にて、ディレクター・プロデューサーとしてアプリ・スマートフォンゲームの開発に従事。2018年 Craft Eggの子会社として、株式会社Colorful Paletteを設立。代表取締役社長に就任。これまでに『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、『ガルパ』)や『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(プロジェクトセカイ)』(以下、『プロセカ』)を手掛ける。

スパイダープラス株式会社
CMO
三浦 慶介氏(写真右)
2008年サイバーエージェント入社。ソーシャルゲームのプロデューサー・ディレクターを経て、マーケティング業務や新規事業開発にも従事し、セールスTop5入りのタイトルを始め多くのタイトルのマーケティング責任者も務める。
現在は、建築DXのスパイダープラス株式会社のCMOとしてマーケティングからプロダクト開発までを幅広く務める。

三浦氏(以下、三浦):今のコンテンツビジネスはやらなきゃいけないことが多いですよね。

近藤氏(以下、近藤):こういった場でマーケティングを語るのであれば、本当はもっと丁寧に話していきたいんです。

というのも、「マーケティング=プロモーション」みたいな感じの捉え方になってしまいがちなので気をつけないといけないのと、“何とかマーケター”みたいなちょっと怪しい人が多過ぎて、「マーケティング=無理やり売る、騙して売る」みたいな悪いものみたいな言い方や見え方になっていると思うんですよ。

三浦:まずマーケティングの定義がいろいろありますよね。

近藤:僕の好きな定義は二つあって、一つは価値を創り出すということ。もう一つが究極的な理想型であり、一切の宣伝活動をせずにプロダクトが市場に売れていくというもの。これがめちゃめちゃ好きなんです。

本質的には、もはやプロモーションとは無縁なところにマーケティングはあるはずなのに、プロモーションとマーケティングが同列に語られたり、“何とかマーケター”みたいなちょっと怪しい人が出てきているせいで、ゲームのマーケティングについて語りにくい、伝えづらくなっていると思います。

「マーケティングは〜」みたいな話をすると、なんか売り込もうとしているなと思われるのが、本当に嫌です。

森下氏(以下、森下):でも一方で、プロモーションだけを話しがちになる気持ちもわかるんですよね。

経緯はわからないですけど、プロダクトの部署と「マーケティング=プロモーション」になりがちな部署って縦割りになっているからだと思います。

僕自身、そういった部署にいたこともあったので分かるんですけど、ポジショントークになってしまうんですよ。その分野でしか話ができないからそうなってしまうんだと思います。

本来は、顧客に価値を提供することを通じて売上利益を得る。その利益をロイヤルユーザー中心にさらなる顧客価値提供のために投資するが正しいです。アプリマーケなのでアプリを通じた売上利益ですね。僕も書籍では、本来はある時間軸で、顧客に価値を提供することを通じて利益を最大化する行為をマーケティングと定義しています。

▲書籍「いちばんやさしいアプリマーケティングの教本」より
プロモーションはあくまでマーケティングの一つに過ぎないと書籍でも説いている。

でも、「マーケティング=プロモーション」と定義している人って顧客への価値を通じて売上や利益を最大化するということに無縁の人なんですよね。だから、そもそも顧客への価値提供とか結果としての売上利益って何のことか分かんないし、話すこともできない。結果、プロモーションだけの話しかできないので、そうなってしまうんだと思います。

三浦:以前、マーケティングに関するあるイベントでラクスルさんやマネーフォワードさんなどのマーケティング責任者が語る座談会があったんですけど、最初のテーマが、「皆さんマーケターを卒業したのはいつですか」から始まるという、エッジの立った内容だったんです。

事業グロースに責任を持たないで、“何とかマーケター”がまさに多過ぎると。それをやめましょうという内容でした。ちなみにその質問に対しては、みんな「PLと向き合ったときです」って口を揃えて言っていましたね。

そのマネーフォワードの方は元P&Gですが、P&Gさんという会社はすごいですね。マーケティングの考え方がみんなに根付いている印象です。

近藤:サイバーエージェントのゲーム事業部でも、ちゃんとしたマーケティングの考え方を取り入れようとなって、1年で結構変わったかなと思います。

「マーケティングをやるぞ!」となり、超スパルタで読書会とか勉強会とか1年やり続けています。今では内部で調査設計から実査・仮説検証までできるメンバーがようやく揃ってきたぐらいです。

三浦:普段の運営や開発をしている中で行ったのですか、すごいですね。

森下:継続してやれているはすごい。どういった形で進めているのですか。

近藤:例えば、いざ企画をしようとなったとき、大体みんなHowから考えるんですよね。Who・What・HowのHow。個人的には、エンタメに携わっているのであればそれ自体は別に悪いことではないと思っています。何となくいいこと思い付いたなっていうのは、自分の中での誰かにとっていいことであることが多いと思うので。

ただ、Howだけだとそれが本当に合っているかどうか、いけるかどうかというのは中々周りの人に理解されにくいですし、ネガティブチェックも不十分じゃないですか。だからチームで仕事するときはWho・What・Howと整理したほうが絶対に周りの協力や指摘を得やすく、結果的にいいものができやすいと思います。

ですが、いざやってみると意外とみんなHowから考えてしまう。Who・Whatがぐちゃぐちゃなんですよね。後付けでWho・Whatを付けてしまう。本来はWhoから考えた方がブレづらいのに。

森下:この場合、Whoってどれぐらいの粒度で求めているんですか。

近藤:粒度の度合いは求めてなくて、何でも良いと思います。ただ何となく言葉にしてみて、こういう人たちに向けて作っているんだとチームが分かればOKです。あといわゆる年齢・性別などを指すことではないと思っています。

森下:じゃないですよね。それだと形式的で相当やばいWhoになりますよね。

近藤:どちらかというとその人の行動特性とか、どういうことを今思っているとか、課題を持っているとか、そういうことをみんなで書き出す。

だからWhatはこういうことをしたいとか、なのでこの企画は刺さるよねみたいな整理をマーケティングの知識を通してできるようになってきたのが最近ですね。

一番難しいのがHowのクオリティアップや実際に良いクリエイティブを生み出すことで、Who・Whatの整理は勉強すれば半年か1年ぐらいで結構できると思います。もちろん、興味があり、きちんと学習すればという前提ですが。

そこから先は、Who・Whatが合っていれば、Howも多分ある程度は合っているんですよね。やってもいいんじゃないのかみたいなのが多くなってくると思います。そこからは費用対効果の判断に入ります。

ただ、「この企画、思い浮かばなかったぁ」みたいな特別な案を出すことができるのはもうセンスなんですよね。

ましてや、お金を使わないプロモーションのクリエイティブだとなおさら難しいじゃないじゃないですか。外部にお願いできれば、プロがいますが、お金が使えないと起用もできません。

三浦:今の話聞いて思ったのは、僕の中ではHowが分かんないんだったら、別にそこそこでいいんじゃないかっていう気もしています。

ちゃんと定義できた市場がある以上、最終的には相対的に選ばれるものなりますから。だからこそWhoとWhatのほうが優先すべきというのはおっしゃる通りかなと思いました。

近藤:そうですね。そして、結構無視できないのが、WhoやWhatは置いておいてHowだけでいいものを思い付いたという人がいて、そしていざやってみたら、本当に良いものだったこともあるじゃないですか。

Howを生み出すことに非常に強く、それだけで成功できる人も多分にいて、その人は本質的にきっと大衆とシンクロしているんですよね。クリエイティブにも強い人だったりする。

でも、そんな存在は珍しいので、組織として体系的にやっていくのは難しいかなと思っています。

三浦:またHowって結構マネされやすいっていう弱点があったりしますよね。もちろん内容にもよるんですけど。

例えば、携帯キャリアのCMでも、ソフトバンクの白戸家とKDDIの三太郎シリーズって本質的に一緒じゃないですか。物語調でずっとシリーズ化するという根本が一緒。

UQモバイルとLINEモバイルとワイモバイルも全部、みんなが知ってる曲の替え歌を好感度が高いタレントに歌ってもらうという、全部フォーマットが一緒なんですね。もちろんクリエイティブはそれぞれ独自の工夫をされていますが。

森下:フォーマットは一緒ですね。BtoBツールのプロモーション動画のフォーマットも一緒じゃないですか。王道といえば王道と言えますが。

三浦:BtoB分野はまだ競合していない同士でやってるからまだいいですけど、携帯キャリアは競合同士で同じことやっているんで大変ですよね。

森下:携帯キャリアみたいに市場規模が大きくて規制なども多い産業と考えると、ことスマホゲームに関しては、まだ色々とできる市場かなと思います。その分、よりサービスとの連携というか、サービスありきというところにはなってきますね。

三浦:そういえば、僕が担当していたゲームのCMは意外と誰もマネしてこなかったですよ。

近藤:実際のユーザーに語らせるってやつですか。

三浦:はい。だいぶセールスランキング上がったから、どこかマネするのかなと思ったんですけど、いませんでした。確かに、実際にプレイした人にインタビューして撮影するのも大変だからというのもあると思いますけど。

近藤:本当に好きな人に語らせないと意味がなさそうなので、本質を見れている人が少ないと、難しいのかもしれないですね。そもそも、そのゲーム自体の価値を明確にできていたからできたんだと思います。

三浦:あれも結局、「やったら分かる」というのがメッセージとしてあります。あれもルーツを辿ると確か1999年頃の『モンスターハンター』のCMで芸人のみなさんがやっている、という前例がありました。もちろん僕たちは『モンスターハンター』ではないから、こちらは身の丈に合った範囲でやろうとしていましたが。

近藤:結果ターゲットというか、Whoにとって、提供される人たちにとって新しければ別に二番煎じでも三番煎じでもいいという話だと思います。

三浦:他にも、ユーザーからの評判は悪いCMがありました。過去にないくらい、ユーザーから顰蹙を買ったんですが、その後セルラン上がったらその不満も激減しましたね(笑)。

森下:例えばどういった不満だったのですか。

三浦:「なんだこのCMは。もっとゲームのかっこいいPVを流せ」とかめっちゃ言われました(笑)。当時、僕も生放送で顔を出して「CMやります」って言っていたので、数字が動いてなかったら多分、ボロクソに言われていたでしょうね(笑)。結果、お陰様でセールスランキング4位でした、みたいな感じで終わりましたけど。

森下:古参のユーザーからしてもユーザーが増えてランキングも上がれば、ゲームも盛り上がるでしょうから、何も言わずになったのでしょうね。

三浦:当時はだいぶ胃が痛い案件でしたけどね(笑)。CM始まってからの数日間ずっと頭の中でグラフが離れませんでした。夢に出るってあるじゃないですか。ベッドの中でずっと案件のことを考えていて、寝付けなくて朝になっているみたいな。どこまでが現実だったっけ?みたいな(笑)。

森下:ゲームのことを考え過ぎているのか分かんないですけど、これって夢の中で考えたことだったのか、現実なのかって分かんなくなる時ってありますよね(笑)。

近藤:顧客を見るのは、手法というよりは執着だなという感じはしますよね。森岡さんを見ているとそう感じます。USJにてコラボを実現していましたが、『モンスターハンター』を999時間と『ドラゴンクエスト10』を千何百時間以上やったそうです。

※森岡 毅氏
P&G、USJにてブランドマネージャーやCMOを務め、「ヴィダルサスーン」の黄金期を築く他、経営再建などを手がけた。現在はマーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立し、「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進している。

三浦:あとリゾート再生案件では狩猟免許を取ったそうですね(笑)。

近藤:森岡さんは50歳ぐらいですよね。『モンスターハンター』とか『ドラゴンクエスト10』をやってみたとしても、分かりにくい部分も多いかもしれない。でもUSJに誘致するためにやるんですよね。

三浦:すごいですよね。実際そんなにやらなくとも誘致できそうな気がするんですけど。

近藤:その異常さが執着ですよね。顧客を理解するためにやる。結局は執着なんですよね。コレとコレをやれば顧客を理解できますよみたいな話は多分嘘だと思います。

手法は割と何でも良いと思います。別にTwitterをひたすら見るでもいいし、デプスインタビューをやるでもいい。ただ、それをどこまで執着してやれるか。「まだ分からない気がする。じゃあもう1人聞いてみよう」みたいな執着。そこだと思うんですけどね。

三浦:現職では建設業の現場管理システムを扱っているのですが、例えば壁の裏側に配線とかがあって、現場監督が記録するツールなどがあります。いわば建設業におけるPMの役割をするツールなんですが、社内でそれを仕様に落とす人が、顧客見るところの執着の塊みたいな人なんです。

例えば現場では数時間ぐらいでコンクリートが固まってしまうので、忙しい作業の中でUXがフィットしていないと使い物にならない。そこで、「ここは数値を事前入力しておけるようにすべきだ」など、コンクリートの固まる早さと現場業務のUXにおけるつながりを語れる人がいます。

でも、確かにそこまで理解していたら「何も言うまい、使います」と利用者も思ってくれるなと思いました。まさしく、宣伝をせずにプロダクトが市場に売れていくという理想型に近い形ですね。

最後となる後編では、マーケティングに必要な素養について話してもらった。後編(12月20日掲載予定)に続く。

前編はこちら


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