CEDEC運営委員会、「CESAゲーム開発技術ロードマップ2021年度版」を公開

CEDEC運営委員会は、「CESAゲーム開発技術ロードマップ2021年度版」を公開した。「CESAゲーム開発技術ロードマップ」は、ゲーム開発者に様々な技術における最新動向と、近い将来に活用する可能性のある技術等を編さんしたもので、2009年から毎年公開している。

今回、CEDECでのセッションの傾向などから、近い将来のゲーム開発において重要と思われる技術テーマを選び出し、簡潔かつ判りやすく表現することで、概要をいち早く理解し、調査、研究、議論に活用できる内容となっているという。


■エンジニアリング分野

一般
<最新>
- 世代を跨いだクロスプラットフォームを実現する技術(各種スマートフォン、各世代コンソールといったハードウェアの差など)の進展
- エンターテインメントコンテンツにも活用できる程度にブロックチェーン技術が進捗した
- 従来のUGCの域を超えて、ユーザーがゲームシステムを作成してオンラインで共有できるプラットフォームが複数登場した
- アセットのサイズ肥大化に伴い高度な圧縮アルゴリズムやプロシージャル生成の重要性が増した
<数年後>
- ユーザーの生体データのゲームへのフィードバック
- 5Gによってモバイルでも十分な帯域が得られるようになり、より大サイズのアセットが一般的に用いられるようになる

コンピュータグラフィックス
<最新>
- VRやARも画面品質で勝負する世界になり、レンダリング技術のキャッチアップが進む
- フォトリアル(PBR)を基盤とした、現実を超える表現、アートスタイルの発展
- リアルタイムレイトレーシングがエフェクトで活用されるように
- HDRテレビの対応のために広色域対応がほぼ必須化
<数年後>
- テクスチャやメッシュ、モーションなどアセット生成への機械学習の実践
- より複雑な表面物性を再現するためにDisney Principled BRDFからの脱却
- 構造色、蛍光色などの複雑なマテリアルの再現
- リアルタイムレイトレーシングがゲームメカニクスにも活用される

AI
<最新>
- MOBAなどの複雑なルール上のキャラクター同士の協力を実現するマルチエージェント的AI
- 強化学習により生成されたAIを用いた、膨大な試行範囲、試行回数をカバーするゲームバランスの事前調整
- プランニング、シミュレーション予測を用いた、広大で複雑なゲーム空間でのキャラクター制御
- Transformer系PLMによる、多彩な話題に対応するオープンな対話生成
- テクスチャの超解像化、地形作成など、機械学習によるアセット制作の補助
- QAやデバッグを効率化してくれるAI(異常検知、自動プレイテスト、プレイログデータ解析、テスターのアシスト)
- ユーザーレスポンスから学び、プレイヤーの代行や、ゲームプレイのアシストを行うAI
- 対戦ゲームにおける倒すべき目標としての高度な戦略、戦術を持つAIを強化学習、模倣学習で実現
<数年後>
- メタバース上における人種、言語を超えたコミュニケーションをサポートするAI
- プレイする人によってゲームの内容を変化させるAIと、その体験の共有
- 能動的に、提案や話題提供を行う対話生成AI
- AIによる補助によって、UGCの範囲、自由度が拡大する
- 現実世界の人々のデータ化された挙動、思考を元にしたデータドリブンAIによるNPC
- 対話的なインターフェースを使用したAIによるアセット制作
- 地形情報による事前計算を必要としない、強化学習を活用した中長距離の目的地への移動
- ニューラルレンダリングによる画面生成

アニメーション
<最新>
- キネマティクス処理とモーションAIの双方向通信による高度な連携
- カメラ画像解析等によるキャラクターアバターのユーザー入力モーションの活用が一般化(フェイシャルなど)
- データベース型手法とプロシージャルアニメーション、ディープラーニング等の様々な手法を組み合わせ多様で滑らかなモーションを実現
<数年後>
- 筋骨格モデルをベースとした人体物理アニメーション
- 機械学習による、タスクや環境の動的な変化にも対応できるアニメーション生成
- カメラ画像解析による全身のユーザー入力モーションの活用が一般化

シミュレーション
<最新>
- セットアップに頼らない破断、壊れ、変形などのリアルタイム処理
- クラウドコンピューティングによる大規模シミュレーション
- 布、剛体、流体などの異なるシミュレーション対象を統一的に処理できるソルバの登場
<数年後>
- VR環境に向けて、接地感のある手のシミュレーション
- ShapeMatchingや粘性変形の一般化
- 大規模な動的環境変化、および、それにランタイムリアルタイムで追従する強力な地形認識
- 多相物性を表現できるシミュレーションのリアルタイム化。例えば料理や化学変化
- 機械学習により、複雑なシミュレーション結果を事前に学習し、リアルタイムで処理できるようになる
- 機械学習により、画像等から抽出された特徴を元にシミュレーションを行えるようになる

ネットワーク
<最新>
- クラウドサービスの多様化、微細化による、それぞれの組み合わせと少ない実装でのエンターテインメントの実現
- クライアント端末や利用者側のアクセス回線(光回線や携帯網)でネイティブにIPv6が利用できるようになり、サーバー側で対応するメリットが増した
- 5GやWi-Fi6が立ち上がり、屋内外で高速無線通信が利用可能となる
- ゲームにおけるHTTP/3の利用
<数年後>
- 携帯網でのパケット通信制限緩和やキャリア固有サービスの拡充
- 超低遅延通信が可能な5Gの普及とともに、エッジコンピューティングの重要性が増す

新ハードウェアへの対応
<最新>
- IoTデバイスのセキュリティ問題、オープンデータによる著作権やプライバシー
に関する問題が発生する
- 様々なIoTデバイスが登場し、生活で使用する様々なモノがオンラインとなり、ゲーミフィケーション、エンターテインメントが介在できる機会が増加
- チェッカーボードに頼らない4K、8K
- FoveatedなVR向けレンダリング
- まずHDR向けに絵を作り、SDRはダウンコンバートする時代になった
- 超高密度描画を見据えたアセットワークフロー
<数年後>
- 大規模な屋外ARによる共有型のコンテンツの実現
- 様々なものがネットワークに繋がるようになり、それらのリアルなデータを活用した遊びやサービスが考え出される
- IoTのプラットフォームを形成し、データやインフラを社会全体で分野横断的に有効活用する

 

■プロダクション分野

一般
<最新>
- これまで社内に閉じていた自動ビルドやアセットパイプラインなどのプロダクションを支える技術のクラウド化が進み、多拠点での協働開発の連携が広まる。
- 同時並列処理で大量のハードウェアリソースを必要とする処理においてクラウド上のリソースを利用するサービスの採用事例が増える。
- 目的に応じてクラウドサービスとオンプレミスとのハイブリッドな利用が定着する。
- 開発者がデータの置き場所を意識する必要がなくなり、場所にとらわれない開発スタイルが可能になる。
- 開発環境のストリーミング化が浸透し、操作端末の場所やスペック等の環境にとらわれない開発スタイルが取り入れられる。
<数年後>
- リモートでのコミュニケーションの課題を解決するための、音声だけではなく身体表現も交えた仮想空間によるコミュニケーションメソッドが採用され始める。

プロセスマネジメント
<最新>
- 世代間を超えたコンソールや、スマートフォンとのマルチプラットフォームを見据えた大規模開発においてハードウェアスペックを意識しないスケーラブルなアセットワークフローが適用される。
- 機械学習やプロシージャル技術等を用いることにより、コンテンツ・アセット製作工程の効率化や、新しい表現への挑戦が可能になる。
- 働き方のハイブリッド化の浸透により、場所にとらわれない協業が定着する。それに伴いより多くの情報を共有することができるコミュニケーション手段が一般化し、各チーム文化に合わせて開発スタイルが多様化する。
<数年後>
- リモートワークの普及により、個人の働き方や裁量の多様化が進み、個々人の状況を考慮した業務マネジメントが求められるようになる。

プラクティス
<最新>
- ソフトウェアテストにおいて機械学習の利用が進む。
- タイトルを横断して活用可能にするため汎用化されたテスト SDK の作成、導入が進む。
- オンラインツールによるチームビルディングや開発者間の関係性強化への取り組みが進む。
<数年後> - クラウドによるスケーリング可能な自動テスト環境。
- ゲームエンジン内に QA 管理用機能やテストケース作成機能が組み込まれ、開発工程内での品質改善が促進されるとともに、QA 部門と開発部門の連携が強化される。

ナレッジマネジメント
<最新>
- ゲーム業界内コミュニティ活性化としての、技術ブログや勉強会、カンファレンスなど公の場を巻き込んだナレッジマネジメント。
- 社外でのインプットを社内でアウトプットする活動を積極的に行う開発者が増える。
- オンラインを前提とした、採用、研修、育成手法の試行錯誤が進む。
- 対面形式で開催されていたカンファレンスの、オンライン併用でのハイブリッド化。
- 企業や学術機関による、チュートリアル、研修、学習資料の共有化が進む。
<数年後>
- リモートワークや副業等、多様化された働き方に対応するため、評価軸や評価方法を適合させていく企業が増える。

 

■ビジュアルアーツ分野

グラフィックス周辺環境、課題
<最新>
- 2K SDR から 8K HDR まで幅広いユーザー環境への対応
- 非破壊かつスケーラブルなグラフィックス制作手法
- VR/AR/MR 向けに、人間の目をシミュレーションしたレンダリング
- AI を活用した効率的なビジュアルコンセプトの生成
<数年後>
- 新たな体験を得られるユーザーインターフェイス、入力デバイス
- あらゆる物理現象をリアルタイムにキャプチャーし、ゲームで活用

アセット、データ制作
<最新>
- レイトレーシング等オフラインレンダリング技術のリアルタイム化
- PBR をベースとしたスタイライズドレンダリング
- PBR や NPR にも通用する動画補間技術による中間動作の自動化
- 機械学習を活用したアセットやアニメーション等の作成
- 映像制作とゲーム制作間での共通オーサリングシステム
<数年後>
- AI による写実的なレンダリング
- 筋肉、骨格、皮膚の滑り等を考慮したリアルタイムアニメーション
- キャプチャー3D データから筋肉、骨格等内部構造の自動再構成
- メタバース環境下を視野に入れた、複数の環境をまたいで利用されるアセットのワークフローの確立

パイプライン、ワークフロー
<最新>
- 機械学習を活用したデータ作成・管理ワークフロー
- 映像のスタイライズ(手書き調、NPR など)の多様化とワークフローの開発
- あらゆる環境を繋げるファイルフォーマットの提唱
- 特殊な機材を必要としない、高精度なリアルタイムスキャンやデータキャプチャ
<数年後>
- DCC ツールとゲームエンジンの連携が進み(境界が薄まり)アートアセット作成からオーサリングまでのワークフローのシームレス化が進む
- AI を活用したデータ作成・管理ワークフロー
- あらゆるアセットのアノテーションを自動的に行うためのワークフロー

 

■サウンド分野

音響効果(音楽・効果音・音声・ミキシング等の技術・知識を用いた演出表現)
<最新>
- アニメーションに連動した自動化による効率的な発音制御
- ゲーム進行に合わせた動的なミキシング
- インタラクティブミュージックの定着と手法の細分化(複雑なイベント分岐、MIDI併用、ゲーム仕様との連動)
<数年後>
- ゲームAIによるリアルタイムの発音制御
- 周波数ドメイン制御が考慮されたリアルタイムミキシングの活用
- ゲームと連動したジェネレーティブな楽曲演出

信号処理技術(音響表現の向上と開発効率化を両立させるためのDSP/シンセサイズ・波形生成・合成・解析など)
<最新>
- DSPを用いたリアルタイム処理のプロシージャル、グラニューラ、ノードベースなどを部分的に実装
- 音声合成エンジンによる発声利用や、サーバサイド音声解析による自然言語入力の実用化段階
- 音階抽出・テンポ同期・ラウドネスなどオーディオ解析情報のゲーム利用および制作ワークフローの短縮化
<数年後>
- より高次なDSPを用いたリアルタイム処理のゲームへの実装(ゲームならではのシンセサイズ、IR、物理ベース、音声再合成などの活用)
- 機械学習を応用した波形解析や自動生成や再合成など
- 音声認識時の感情や表現の検出、音声演技の幅を持つ表現技術の導入

空間音響処理技術(音の伝搬、3Dオーディオなど)
<最新>
- 空間音響を活用した音の伝搬表現(音の回折を考慮した仮想音源の配置、ゲーム内の地形情報を残響に反映、レイトレーシングによるリアルタイムでの初期反射など)
- イマーシブオーディオ技術の活用(ヘッドフォン及びスピーカーでの立体音響表現、ミドルウェアの機能充実化)
<数年後>
- 音響工学や建築音響などをベースとした、空間音響シミュレーションの活用(音源のリアルタイム再配置、遮蔽・残響情報のリアルタイム反映など)
- ユーザーの環境、嗜好への対応(HRTFのカスタマイズ・パーソナライズ、より高次のAmbisonicsの活用、動的トランスオーラルなど)

開発ツール・オーサリング環境
<最新>
- オーサリングツールとDAW連携強化によりサウンドデータ制作のプロセスが効率化
- ゲームエンジンとの連携強化による音源配置や残響設定の効率化・自動化
<数年後>
- 音情報の統計・ビジュアライズ化・学習などにより実装・デバッグがより効率化される
- グラフィックワークフローとの連動によって更なるサウンドパラメータ作成の効率化が図られる

 

■ゲームデザイン分野

ゲームシステム
アイデアの出し方、元になる要素、操作しやすいインターフェースの活かし方
<最新>
- リモート下におけるeスポーツの変化
- 動画配信と視聴者からのマネタイズを前提としたゲームデザイン
- クラウドゲームプラットフォームならではのゲームデザイン
- xR 技術を利用した現実に干渉するゲームデザイン
<数年後>
- クロスモーダルを前提としたゲームデザイン
- AI によるプレイヤー個別かつ自動継続的なレベルデザイン
- AI が出したアイデアを元に企画を自動構築するシステム
- AR 演出のリアルタイム合成技術を用いたゲームシステム

生産性と品質の向上
アイデアを活かすために生産性をあげる技術
<最新>
- ゲームデザインやクオリティーチェックへの AI の導入
- AI を利用したアセット自動生成技術の活用
- 5G の通信技術とそれを活かしたハードウェアの発展
- テレワークサービスの浸透と発展
<数年後>
- 日常的に使用されるウェアラブルデバイスによる作業
- ミドルウェアとしての統一化された AI 規格
- 現実との違和感を感じさせない AR/MR 技術
- 自動運転レベル4の実現と移動概念のパラダイムシフト

気にしなければいけない周辺技術
<最新>
- 細分化される販売規制や情報取扱規制などへの対応と次世代のマネタイズモデル
- 超高精細や形状変化など多様なディスプレイの進化と普及
- ビジュアル検索を使用した新しい検索チャネル
- フィンテック・ヘルステック・HR テックの浸透と定着
- IR 実施法案の成立に伴う業界への影響
- メタバースの実現とその影響
<数年後>
- 人体機能を拡張する Augmented Human の技術
- 脳活動測定を利用したレベルデザインへのフィードバック
- インプランタブル機器の実用化
- 触覚ディスプレイや味覚ディスプレイなど出力機器の多様化
- 量子コンピュータの実用化

 

 

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
https://www.cesa.or.jp/

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一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
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