【インタビュー】『ヘブンバーンズレッド』の大ヒットはこうして生まれた…Wright Flyer Studios×Keyによる「構想5年」の真相が明らかに


2022年2月10日より、iOS/Android向けアプリとして配信が開始された、Wright Flyer Studios(株式会社WFS)とKey(株式会社ビジュアルアーツ)のドラマチックRPG『ヘブンバーンズレッド』。

本作は、『AIR』『CLANNAD』『リトルバスターズ!』『Angel Beats!』などを手掛けたことで知られる麻枝 准氏が、15年ぶりに原案・メインシナリオを担当した完全新作ゲーム。作中に登場する50人を超えるキャラクターデザインは、『アトリエ』シリーズや『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』を手掛けたゆーげん氏が担当。主題歌・劇中歌のボーカルにやなぎなぎ氏を起用するなど、リリース前から大きな話題を呼んでいた。

■Wright Flyer Studiosとは
グリー<3632>の子会社であるWFSのゲームブランド。2014年に設立され、第1弾タイトルとして『消滅都市』をリリース。「新しい驚きを、世界中の人へ。」というビジョンのもと、『アナザーエデン 時空を超える猫』や『転生したらスライムだった件 魔王と竜の建国譚』(配信:バンダイナムコエンターテインメント)など、スマートフォン向けゲームでオリジナル・IPの両面から続々とヒット作を生み出している。4月27日にはスクウェア・エニックスとの協業である『聖剣伝説 ECHOES of MANA』もリリースされた。

■Keyとは
ビジュアルアーツのゲームブランド。1999年に発売された『Kanon』を皮切りに、『AIR』『CLANNAD』などPC向けゲームで続々とヒット作を生み出し、”泣きゲー”と呼ばれるジャンルを世に普及させた。また、『Angel Beats!』を始めとしたオリジナルアニメにも力をいれており、今も熱烈なファンが付いている。2022年4月からはKey初のクロスオーバーワールドアニメ『かぎなど』のシーズン2を放送・配信中。同年7月よりアニメ『プリマドール』をTOKYO MXほかにて放送することが決定している。


そんな2社が初となるタッグを組んだ『ヘブンバーンズレッド』は、リリースされるや否やApp Storeセールスランキング(ゲームカテゴリー)でTOP5入り(関連記事)、リリース3日目には100万ダウンロードを達成する(関連記事)など、破竹の勢いでファンの注目を集めた。さらに、リリースから1ヶ月と経たずにメインストーリー第三章「作られた指と稲穂の海」を実装し、その勢いのままApp Storeセールスランキング(ゲームカテゴリー)で初の首位を獲得(関連記事)。現在も、各キャラクターを深掘りしていくストーリーイベントの更新や、新たな試みとなる「スコアアタック」イベントを期間限定で開催するなど、話題を欠かさず好調を維持している。

そこでgamebiz編集部では、Wright Flyer Studiosのキーマンとなるプロデューサーの柿沼洋平氏と、開発統括・ゲームデザインを担当した下田翔大氏の2名にインタビューを実施。本プロジェクトが立ち上がったきっかけから、開発時に紆余曲折あったというエピソード、リリース後の反響をどのように受け止めているかや今後の展望に至るまで余すことなく話を伺ってきた。

柿沼 洋平

(かきぬま ようへい)

WFS Business Development本部 本部長。『ヘブンバーンズレッド』では、プロデューサーを務めている。

下田 翔大

(しもだ しょうた)

WFS Studio本部 Produce室 室長。『ヘブンバーンズレッド』では、開発統括/ゲームデザインを務めている。



――:まず始めに、お二人の経歴や現在の役割を含めて自己紹介をお願いいたします。

柿沼洋平氏(以下、柿沼):『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)のプロデューサーを務めている柿沼です。ひとえにプロデューサーと括っても世の中にはさまざまなタイプの方がおられるかと思うのですが、私は主にビジネスプロデューサーという立ち位置になります。WFSのBusiness Development本部という社外交渉を一手に引き受ける部門の本部長を務めておりまして、『ヘブバン』では座組みを決めるところから、本企画をどういった形で進めていくかというきっかけ作りを行っています。また、Keyさんや、イラストレーターのゆーげんさんとのやり取りなどを含め、対外ビジネスの部分も担当しています。

『ヘブバン』を担当する以前、グリーに入社した当初は、グリープラットフォームのサードパーティーに向けて営業を行っていました。そんな中、業界の流れで合弁会社が多くなったときにサイバーエージェントさんと合弁会社グリフォンを立ち上げ、そこで3年半ほど取締役を務めていました。その後、グリーへと戻りネイティブゲームを作っていたのですが、『ヘブバン』を作るためにWright Flyer Studiosへ出向したという流れになります。

下田翔大氏(以下、下田):Wright Flyer Studiosには立ち上げメンバーとして参加し、『消滅都市』というオリジナルタイトルでディレクターを務めました。その後、スタジオの副部長・部長として『ららマジ』『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナザーエデン』)などを担当し、今はProduce室の室長をしながら、現場の最前線に立って『ヘブバン』の開発統括/ゲームデザインを担当させていただいています。

――:そもそも、『ヘブバン』はどういった経緯で今の形に至ったのでしょうか?

柿沼:元々『ヘブバン』は他のスタジオで開発を行っていたのですが、状況の変化もあったため、物作りに真摯に向き合っているWright Flyer Studiosで開発を進めるのが最善ではないかという話になりました。そのタイミングで、いち開発会社としてWright Flyer Studiosが担当するだけではなく、事業プロデュースまで一気通貫でできるよう事業の主体・責任・人材を全てWright Flyer Studiosに移しました。

――:プロジェクト自体は柿沼さんがWright Flyer Studiosに合流する前からスタートしていたんですね。

柿沼:そうなります。それが5年ほど前の話で、Keyの麻枝さんとグリーで何か作品を作ろうと話していた段階でした。2018年以降はWright Flyer Studiosとしてプロジェクトを進めています。

下田:確か、今の基礎となる企画書をKeyさんと書かれていましたよね。

柿沼:実は最初はタワーディフェンスのようなゲームの企画だったんですよ。

――:今と全然違うじゃないですか!?

柿沼:はい、そもそも当時は予算や規模も今よりずっと小さかったんです。しかし、この企画を麻枝さんに見せたところ「十数年ぶりの復帰作になるのであれば、しっかりとしたRPGを作りたい」というご提案があり、プロジェクトとしてそちらに舵を切ることにしました。先ほど話した、私がWright Flyer Studiosへ出向するタイミングとも重なり、このスタジオなら大規模な企画を実現できるんじゃないかという想いを強く持てたという部分も大きかったです。

こうして麻枝さんのシナリオとゆーげんさんのキャラクター、Wright Flyer StudiosのRPGを併せて最高のスマートフォンRPGを作ろうと掲げて本プロジェクトがスタートしました。最初は10人ほどで企画を練っていたのですが、1~2年経ったところで、原石としては良いものがあるが、この企画をゲームとしてまとめあげるためには責任を持って開発を統括ができる人間が必要だと感じました。そんな折、下田と出会ったことをきっかけに、ゲームづくりの最初から最後までを統括できるポジションとして「一緒に作らないか?」と声を掛けて入ってもらって今の体制になっています。

――:それが今から4~5年前となると、下田さんはまだ『消滅都市』のシナリオを前線でバリバリ書いていたタイミングですよね?

下田:書いていました。また、当時は第1スタジオの部長として『消滅都市』や『アナザーエデン』、いわゆるオリジナルIPタイトルの組織を横断的に見ていました。そんな中、『ららマジ』を見てほしいという話もあり、一時期はそちらにがっつりと身を寄せていたこともあります。これがまた数奇な縁だったのですが、柿沼のチームには元々『ららマジ』に関わっていたメンバーが何人か在籍していたんです。そのメンバーたちとは既に関係性もあったことから、この人たちのためにも、この座組みをしっかりと成功させなければいけないと強く思い、合流することを決めました。

その後、私は第1スタジオ部長の座を譲り、Produce室という場所を持たせていただきました。ここでは、コンセプトアーティストやテクニカルアーティスト、サウンドデザイナーなど、スタジオ全体のコアとなるチームを自身の下に組織させていただきつつ、『ヘブバン』には開発を統括する立場としてガッツリと関わらせていただいています。なので、当時は『ヘブバン』の企画や仕様を書きながら、同時に『消滅都市』の終盤のシナリオとも向き合っていました。


――:そうなると、柿沼さんと麻枝さんが最初に出会われたきっかけも気になります。その辺りはどういった経緯があったのですか?

柿沼:まず背景として、2017年頃はPC向けゲームプラットフォームとしてSteamが台頭してきた時代でした。その流れで外部の企業と組んでPC向けゲームを作ろうという話が出たのがそもそもの発端になります。そこで、私の前任がビジュアルアーツさんにお話をしに行ったのですが、それがちょうど麻枝さんがご病気を克服して復帰されるタイミングでした。「グリーとビジュアルアーツで協力するなら、麻枝さんの企画で進めよう!」となり、そこで一度規模を大きく見直しました。PC向けゲームからスマートフォンで大型ゲームを作ろうという話に変わっていったというわけです。

――:先ほどのタワーディフェンス風企画に続き、最初はPC向けゲームという構想だったというのもかなり驚きです……。

柿沼:改めて時系列を順に追って説明すると、2017年初頭にビジュアルアーツさんへと赴き、最初はPC向けやタワーディフェンスのような企画だったのが1年かけてスマートフォンゲームの企画へと変化していきました。私が合流したのは2017年秋ごろの話で、2018~2019年は「企画を練る」、「初期のキャラクターデザインを描く」、「コンセプトを考える」、「大まかなプロットを作る」など、要は素材作りのフェーズになります。ゆーげんさんがキャラクターを描き始めたのがこのタイミングなので、時間をかけた分、量も質もかなり良いものに仕上がっていますし、それは今の結果にも表れていると思います。

下田:その後、2019年12月辺りから私も本格的にこちらのチームに参加しました。

柿沼:本格的に下田が入ったところで最初にゲームデザインの再構築をしたのですが、今まで作ってきた素材は壊さず、活かして作り上げる姿を見て凄いなと感じたのを覚えています。下田は自分でゲームデザインができるので、過去に縛られることも、壊すこともなく、確実に大事なところを掬い上げて、そのうえで「ここはもっとこうした方が良い」と繋ぎ合わせて昇華してくれました。



――:具体的にはどういった作業工程があったのでしょうか?

下田:当時、シナリオは既にあり、ノベルシーンとバトルシーンの連続で構成されていました。ただ、チームメンバーも含めて「フィールドを歩きたい」「そこで物語を体験したい」という想いが強く、それを実現するためにはどうすればよいかをずっと考えていました。前職でRPGを作ってきた経験や、『アナザーエデン』に関わった経験などから、RPGを作るためにどういう組織づくりをしなければならないのかの強いイメージが自分の中にありました。でも、それまでの開発で採用されていた技術と、自分がイメージする組織がどうしても結びつかなかったんです。

ここは非常に感覚的な話になってしまうのですが、ゲーム体験とそれを実現する組織、採用する技術は非常に密接な関係にあります。やがて拡大していくチームをイメージしたとき、スクリプト言語を採用すべきだろうと考えました。

そこで、Wright Flyer Studiosの技術開発を横断的にサポートしているTechnical Directionチームと共に、『アナザーエデン』で採用しているLuaを『ヘブバン』が求める形に再設計して入れ込みました。Technical Directionチームとしても、LuaをWright Flyer Studios全体に広めていきたいという想いがあったことから、良い社内循環ができたと思います。 

あと、当時グラフィックは2Dで進行していたのですが、シナリオの中で起きている物事の大きさを2Dでは表現しきれないと感じたので、部分的に2D的なよさを残しつつも、表現を3Dに置き換えました。

そのほか、バトルも一から作り直し、5ヶ月ほどでプロトタイプとして今の第1章Day8辺りまでを作りました。その後、Keyさんに「こういう形にしたいと思います」とプレゼンをしに行きました。ゲームの仕組みを大幅に変更したことから、結果的には麻枝さんにシナリオの書き直しをお願いすることになってしまいましたが、出来上がったものを見ていただいて、納得もしていただけました。

柿沼:下田が行ったことで良かったのは、広げるところと狭めるところを明確に決めたことだと思います。

まず、広げるところとしては”キャラクター数”を一気に増やしたことです。私は元々『ヘブバン』を、キャラクターひとりひとりにフィーチャーできる作品にしたいと考えていたため、ゲームデザイン上に必要なキャラクター数として24人としていました。しかし、ゲームデザインの経験がある下田から「きちんとこの世界に没入する体験を作るためには、48人必要だ」と助言がありました。プロモーションとしてもリリース前にしっかり全員を紹介しきることで、うまくお客様に受け入れてもらえることができたと思っています。

逆に、狭めたのは”フィールド”です。元々の構想では、基地は今よりずっと広いものを用意する予定でした。しかし、広いうえに24人しかキャラクターがいなかったので、密度がかなり薄まってしまっていました。今考えると、当時は「どこまで歩けばキャラに出会えるの?」という状態だったと思います。それが、フィールドを狭めてキャラクターを増やしたことで、各所でキャラが歩いていたり喋っていたりと画面が賑やかになりました。世界のバランスが取られ、『ヘブバン』が生き生きと動き出した瞬間だったと思います。


▲現在の"基地"では、部隊員たちが賑やかに喋りながら歩いていたり、カフェでお茶していたり、生活している様子が見て取れる。

下田:フィールドを狭めるという決断に関しては、『ヘブバン』のシナリオがキャラクターを深掘りしていくものだったというのが大きなポイントです。広く冒険をすることとキャラクターを深掘りすることを両立させようとすると、物量がとんでもないことになってしまいます。そこで、「このゲームで何を大事にしていくか」を考えたときに、やはり魅力的なキャラクターが欠かせないだろうと。そのキャラクターたちが生き生きと動ける空間はどういった広さであるべきかを考え、今の形に至りました。

とはいえ、見せ方を変えているだけで物量としては実は『アナザーエデン』と同等の量を用意しているんです。『アナザーエデン』ではフィールドが横に広がっていますが、『ヘブバン』は時系列ごとにいくつもの街が作られているというイメージです。時系列ごとにキャラクターの行動や台詞を変えることで、よりキャラクターを生きた存在にすることができました。積み重ね方の発想を「”基地”というフィールドを時系列ごとに作る」という風に変えただけなので、Luaのコード数を見ると『ヘブバン』にも『アナザーエデン』と同じ量が詰まっています。

――:なるほど、シーンごとに細かくキャラの反応が変わるのはそのためですね。

下田:そうです。なので、Luaの構造もそういった形に合わせて作っています。

▲例えば、第一章Day7では逢川めぐみと楽しく話している國見タマ(写真左)も、第二章Day9では訓練に疲れてぐったりしている様子が見られる(写真右)など、同じキャラでもその時の状況やタイミングによって異なる反応が見られる。

――:リリース前に48人のキャラを紹介しきったという話もありましたが、その辺りを完遂できた要因はどこにありますでしょうか?

柿沼:『ヘブバン』はオリジナルIPということもありますので、浸透させていくためにも、忘れられないためにも常に情報を出し続けることを意識していました。 宣伝プロデューサーが「動画に勝るプロモーションはない」と強く主張していたこともあり、そこを中心に、ゆーげんさんに部隊ごとのコンセプトアートを描いていただき、各部隊のPVを作成しました。生放送も、当初は2週間に1回と聞いていたのですが、リリース前後は気付けばほぼ毎週放送していました(笑)。

▲ゆーげん氏が描いたコンセプトアート。ハイクオリティな美麗イラストが部隊ごとに計8枚も用意されている。


――:リリース前にはCBTも実施されていましたが、その際の反応はいかがでしたか?

下田:非常に良かったです。CBTの反応を見て、ロンチのタイミングでTVCMを放映することが決まりました。ただ、対応しなければならない貴重なご意見も多くいただいたので、作る側としてはかなり大変な時期でもありました……。

――:少し話は逸れますが、TVCMやPVに関しては物語の核となるシーンが入っていたのも印象的でした。この辺りのこだわりについてもお聞かせください。

下田:かなり議論はありましたが、結局これが『ヘブバン』にとって1番良いという結論に至りました。新規IPである『ヘブバン』を多くの方に知っていただくためには、この物語を象徴する強い絵がどうしても必要だったんです。

柿沼:今、本当に多くのゲームがリリースされていて中々上手くいかないことも多い中、出し惜しみをしている余裕はないなと思いました。

スマホゲームはユーザー同士のコミュニティも非常に大切なので、知り合いにオススメする際に自信を持って「面白そう!」と言えるカードを渡してあげたかったという理由もあります。あそこで当たり障りのない内容にしてしまうと「これどこが面白いの?」と聞かれてしまい、説明する側にも負担がかかります。そうではなく、「これ泣けるから見てよ!」と超直球の全力勝負をして広がってくれることを期待しました。

ファイナルトレーラーのラフを社内公開したとき、確実に社内のみんなの期待感が上がったこともあり、この方針で行くべきだと背中を押されました。

【『ヘブンバーンズレッド』ファイナルトレーラー】

――:CBTに関しては私も遊ばせていただいたのですが、リリース版はCBT版よりかなり遊びやすくなっているように感じました。どの辺りを工夫して今の形になったのでしょうか?

下田:CBT以外にもユーザーテストを実施していて、そのサイクルの中でみなさんに意見をいただき、どんどん分かりやすく改善していけたのが大きいですね。もちろん、リリース時期を2021年内から2022年2月に延期して時間を取らせていただけた(関連記事)ことも大きな要因です。そうしてアリーナの自動周回が生まれ、チュートリアルなども改善していけました。

柿沼:敵が強いというお声に対するアプローチも良かったと思います。単純に敵を弱くしてしまうのが最も簡単な解決方法ではありますが、それではゲームとしてのやり応えがなくなってしまう。そこで、経験値を得やすくして相対的に強敵を倒しやすくすることで、ゲームとしての楽しみも損なわずに解決できました。

――:今仰っていただいた「分かりやすく改善した」という部分で他に具体例を挙げられる点はありますか?

下田:フィールドのオート移動や、スワイプでの移動追加などですね。

柿沼:あとは、「ATTACKER」や「HEALER」といった役割の表示に加えて、バフのかかり具合や敵の弱点を表示するなど、バトル画面のUI情報を整理してストレスが少ない形にしました。


▲現在の『ヘブバン』の戦闘画面。先のアップデートでは、どのスキルでバフを掛けたかが分かるようになるなど、より分かりやすく改善が進められており、ますます遊びやすくなっている。

――:リリースまでにかなりの紆余曲折もあったことが伺えたのですが、そんな中で今回、特に力を入れた点はどこになりますか?

柿沼:Wright Flyer Studios × KeyでオリジナルIPを作ることを考えたときに、これを成功させるには麻枝さんの良さを引き出しつつ、我々としてもしっかりと世に届けるためのゲームデザインとプロモーションを行わなければいけないと考えました。今は、ビジュアルアーツの馬場社長からも「麻枝さんのシナリオの良さをそのままに、Wright Flyer Studiosのゲームデザインでうまく料理している」というお言葉をいただいています。

今まで麻枝さんが作られてきたゲームはアドベンチャーなので、シナリオを読みながら選択肢を選ぶことで物語が進んでいく形式でしたが、『ヘブバン』はここにRPGのゲーム体験を付加しています。シナリオに加えてフィールドを歩けるようになったことでキャラクターに活気が出ました。これは、WFSがオリジナルIPにこだわって作り続けてきたからこそ実現できたのだと思っています。細部まで作り込んでいるので、ぜひ『ヘブバン』の世界を隅々まで楽しんでほしいです。

下田:私は、麻枝さんのシナリオを読んだ際に「茅森月歌」という主人公を如何に自分自身だと思えるかが非常に大事なポイントになると思いました。よくあるRPG的な寡黙なタイプの主人公ではなく、作中でも個性が非常に強い。周囲のキャラクターと同レベルに主人公が目立っている状態でしたので、茅森=主人公だと自然と感じられるようにするためにもしっかりとプレイヤーの指先で「茅森月歌」を動かしてもらうのが重要だと考えました。麻枝さんのシナリオに寄り添えるよう、どのタイミングにフィールド移動のシーンを入れれば、プレイヤーの気持ちと主人公の気持ちが合致するかに関しては、かなり気を遣って作りました。

――:現在、Keyさんとはどのように連携を取られているのですか?

柿沼:毎週水曜日の夜に実施している”本読み会議”では、長いときには5時間ほど話していることもあり、コミュニケーションの場として大きく作用しています。その場では、私たちが作った基となる箱(フィールドやプログレスチャートと呼んでいる進行表)と、ビジュアルアーツさんのシナリオを合わせるのですが、当然、お互いに合わない部分が出てきます。「キャラクターをこう見せたいからフィールドを変えられませんか?」、「ここにバトルを挟みたいからシナリオが必要です」など、お互いの意見を擦り合わせながら作り上げています。

下田:本読み会議は、元々アニメ業界にある文化を輸入しています。これは自分が『消滅都市』でアニメ制作に関わっていたときの経験を活かしているのですがその日議題に挙がった案件が解決するまでとことん話し合ったり、多少脱線しても疑問点を解決する場にしています。その日はコアメンバーが必ず参加するようにしており、その他にも議題に関係する人は集まるようにしているので、今や20人以上のメンバーが参加することもあります。

――:その際は、やはりシナリオを軸に話を進めることが多いのでしょうか?

下田:いろいろなパターンがあります。例えば、ディスカッションをしたうえでKeyさんからまずシナリオプロットを出していただき、それをこちらで組み合わせて「こういう流れでいきませんか?」と進行表を作り、そこからシナリオを書いていただくこともあります。

――:実際に『ヘブバン』を遊んでみて、Wright Flyer Studiosの特色が各所で活かされていると感じたのですが、改めてWright Flyer Studiosの強みを教えていただけますか?

下田:その話、気になります。どういった部分で特色を感じましたか?

――:先ほどの話にもありましたが、フィールド作りで『アナザーエデン』の知見を活かされていることはもちろん、会話シーンでは『AFTERLOST - 消滅都市』で見られた演出が入っていたり、女性キャラのみが登場するゲームという意味では『ららマジ』で得られたノウハウも活かされているのではないかなと思いました。

下田:ありがとうございます。そこは相互のタイトルに関わっていたスタッフが在籍しつつ、各々が連携しているからという部分が大きいですね。そういう意味では、これまで真摯にゲームを作り続けてきたからこそ、今私たちがKeyさんと同じ目線で会話をできているとも感じています。物語を生み出す経験や苦しみ、お客様に受け取られたときの反応を含め、既に一度体験しているメンバーが多いことがWright Flyer Studiosの強みになっていると思います。

柿沼:確かに、私が合流した際にもWright Flyer Studiosの物作りへのこだわりは凄いと感じました。普段からギミックの細部にまでこだわって議論が交わされていることで、その場のクオリティを上げるだけでなく、今回のように麻枝さんやゆーげんさんと話した際にもお互いに言いたいことが伝わるのだと思います。クリエイターとしての共通言語が持てているからこそ、お互いの個性がぶつかり合ったときにズレが生じることなく、バランスを取って最後までやり切ることができるのがWright Flyer Studiosならではの強みですよね。

▲話し手の背後にカメラを置き、相手と会話するシーンを描くという構図は『AFTERLOST - 消滅都市』(写真右)でも見られた。ドラマ体験を追い求めた先に生み出した演出が今の『ヘブバン』にも存分に活かされている。

――:ある意味、『ヘブバン』はこれまでのWright Flyer Studiosの集大成にもなっているということですね。

下田:積み重なっているものは大きいと思います。ただ、これができたからこそ、次に繋げていけることも多いのではないかと思っています。アップデートでも新しい驚きを届けていきますし、スタジオとしても引き続き、成長していけたらと思っています。

――:『ヘブバン』をリリースしてユーザーさんからはどのような反応がありましたか?

柿沼:私が最も感じたのは、生放送の視聴者数が大幅に増えたことです。リリース前は同時視聴者数1000人前後で推移していたところ、リリース後には2~3万人になりました。嬉しい反面、それだけ多くの方々に目にしていただいている責任は感じていますので、初心を忘れず1人でも多くの方に満足していただけるよう今後も努めていきます。

――:現在の課題や改善していきたいポイントについても教えてください。

下田:先日の放送でもお話しました(関連記事)が、データを見ていて、上手く育成サイクルに導ききれていないと感じています。こちらが想定した育成フローに入り切っていないことから、お客様からは「第三章が難しい」という声も多くいただいています。ユーザーがゲーム内で自然に気付いて上手く育成フローに入れるようにするなど、ストレスが少なくなるよう改善していきたいと思います。

――:確かに実装当初、第三章のラストでかなり苦戦しました。どういった意図があって今の難易度でリリースすることを決められたのでしょうか?

下田:キャラクターをきちんと育成すればクリアできるようなバランスにはしているのですが、大変申し訳ないことに、そこまで導線が十分に引けていないのだと思っています。

一方で、メインストーリーをリリースしていくペースも決まっているので、そのスケジュールに対して、次の更新までにクリアしていただくことを考えたサイクルにしているという部分もあります。この点に関しては「次のメインストーリーがリリースされるまでに、こういった育成フローで、これくらいの期間をかけてクリアしてほしいという設計にしています」ということをきちんと説明していければ、より納得していただけるのかなと思っています。

あとは、「まだここに育成できる余地があるよ」と伝えたり、育成を促進させるコンテンツを増強したり、根本的なところでゲームをもっと分かりやすくして対応することで、ユーザーさんが第三章を迷いなくクリアできるところまで導ければと考えています。

ただ、だからといってメインストーリーの更新頻度が今のままで良いとも思っていません。お客様が求める理想の速度でコンテンツを追加していくために、採用を加速してチーム人数を増やし、みなさんの理想の速度でコンテンツを追加できるよう近付けていきたいと思っています。自分自身でも『ヘブバン』をプレイしていて「更新をもっと速めたい」と思っている部分があるので、そこはプレイヤーとしての感覚と、チーム規模を上手く合わせていかなければいけないと考えています。

――:ちなみに、開発からのお便りで「今後は戦力よりも戦術や戦略に寄った設計にしていきたい」とコメントがありましたが、この辺りに関してはどういった工夫を考えておられますか?

柿沼:戦力を基準にするとどうしてもインフレしてしまうので、それよりはキャラクターの組み合わせや、バフ・デバフ・回復の使い方など、遊び方の妙で楽しめる部分を増やしていきたいと考えています。強敵と相対したときも、単に戦力を上げるのではなく、「エンハンス」でしっかりとバフを2回かけて、そのうえでクリティカル率を上げて専用スキルで大ダメージを出すなど、自分の考えた戦略がハマったときの方が驚きや嬉しさがあると思いますので、そういった設計をしていければと。

下田:初心者の方でもゲームに慣れていきやすいようにという部分を重視して、コンテンツに対して「推奨戦力」を表示しているのですが、1万を超えた辺りから実際の強さとの相関性がだいぶ少なくなります。どういったスキルで戦うかが重要になってくるんですね。

例えば、期間限定で入手できるSスタイルのキャラクターは、レベル上限を限界まで突破させて能力強化も全て行えば、かなり強くなります。スキルの内容も特色のあるものが多くなっているので、みなさんの中に使えるキャラが少しずつでも増えていけばより楽しめるようになるかなと思っています。イベント報酬のSスタイルはぜひ活用していただければと思います。

――:AスタイルやSスタイルの初期レベル上限の引き上げなども行われましたし、今後はより多くのキャラクターが活躍できるようになりそうですね。

下田:今後もご意見を伺いながら調整を続けていきたいと思っています。





――:また、『ヘブバン』ではメインストーリーやストーリーイベントで披露される曲も非常に魅力的ですが、サウンドトラックの発売などは考えておられますでしょうか?

下田:曲を使ってどのように盛り上げていくか、ファンコミュニティをどのように盛り上げていくかに関してはKeyさんが長い経験をお持ちなので、音楽に関してはKeyさんに担当をしていただいています。そういった役割分担をしつつも、みなさんに盛り上がっていただけるよう両社で話し合いを進めています。

――:以前、下田さんが出演されていた生放送で「麻枝さんから、いきなりボーカル入りの曲を流すのではなく、その前にインストで曲の印象を植え付けてから大事な場面でボーカル入りの曲を流したい」という提案があったという話もされていた通り、やはり音楽に関してはKeyさんに一日の長がある感じでしょうか?

下田:そうですね。例えば、曲をあててデータを渡した際に、「この曲はこう使いたい」とアドバイスをいただいたりもします。音楽演出や音楽プロデュースに関しては本当に凄いと感じています。

柿沼:音楽に関していうと、タイトル画面のBGMに「Before I Rise」を使用しているのですが、初出の際、フル尺が長かったことから麻枝さんに「イントロをカットしていただけませんか?」というお願いをしました。音楽プロデューサーに対して凄く失礼なお願いをしているかもしれないと思いながら、それでも麻枝さんは「こんなに直前で言うのはやめてくださいよ」と言いつつ対応してくれたのです。こだわりを持ちつつも、物事の用途に納得がいけば自らのクリエイティブを変えていただけることがありがたいと思いました。

下田:そもそも、このプロジェクトにとって曲が先にあるという状態が凄くありがたいことで、私が合流したときには既にたくさんの曲が用意されていました。このバトル曲ならこういう演出でいこうとか、イラストを描いているメンバーもずっと曲を聴きながら描いているなど、本当に曲がいろんなことの指針になってくれています。

――:今後の展開はどのように考えておられますか?

柿沼:今後もゲーム内外の両面から『ヘブバン』を盛り上げていきたいと考えています。まずは、ゲーム内でしっかりとメインストーリーを更新しながら、定期的にイベントも実施していきます。ただシナリオをリリースするだけでは、Wright Flyer Studiosの掲げるビジョンである「新しい驚きを、世界中の人へ。」には繋がらないので、さらに上を目指して「こんなことができるんだ」という驚きやゲームとして新しい体験を提供していきたいです。

ゲーム外では、まだ何を実施するかは決まっていませんが、アートブックやライブイベント、コラボカフェ、コンビニコラボなど、幅広い選択肢の中から日常の至るところで『ヘブバン』との接点が持てるような環境を作っていければと思います。さまざまな仕掛けをいろんな角度から楽しんでいただけるタイトルを目指していきます。

下田:今後はチームを強くすることが大事かなと思っています。人を増やすことはもちろん、人を増やしてもスピード感を落とさず意思決定ができるような組織体制にすることも必要です。そこで、今は組織をなるべく平たくすることを意識しています。例えば面倒な手続きを踏まずともメンバーがディレクターに確認を取るだけでリリースに繋げることができるなど、縦軸で確認や承認に時間が取られないよう、なるべく組織を縦に伸ばさないようにしながらリリース速度を上げることにチャレンジしています。 これからはさらにチーム全体の出力を上げていかなければならないですし、それがお客様の1番求めていることだと思います。なので、現在Wright Flyer Studiosは『ヘブバン』に関わっていただける方を含め人材を絶賛採用中です !

――:最後に読者の方々へメッセージをお願いします。

下田:まだお客様に100%の速度・内容で提供できているとは言い難い状況だと思っています。先ほども述べましたが、これからチームの人数を増やして出力を上げていかなければなりません。チームを強くして、どんどん面白いものを作り、届けられるようにしていきますので、どうかそこまで見守っていただければ嬉しく思います。

柿沼:まずは、無事に『ヘブバン』をリリースできたこと、多くの方々に遊んでいただけていることを非常に嬉しく思っています。今後もゲーム内や生放送を通じてみなさんに楽しんでいただける仕掛けをしていければと考えていますので、ぜひ末永く遊んでいただければと思います。気になることがありましたら、ゲーム内や公式Twitterから問い合わせていただければ生放送でもお答えしますので、これからも『ヘブバン』を楽しんでください。

――:本日はありがとうございました。

(取材・文 編集部:山岡広樹)



■『ヘブンバーンズレッド』


(c)WFS Developed by WRIGHT FLYER STUDIOS (c) VISUAL ARTS / Key

株式会社ビジュアルアーツ(Key)
http://visual-arts.jp/

会社情報

会社名
株式会社ビジュアルアーツ(Key)
設立
1991年3月
代表者
馬場 隆博
決算期
6月
直近業績
非公開
上場区分
未上場
企業データを見る
株式会社WFS
https://www.wfs.games/

会社情報

会社名
株式会社WFS
設立
2014年2月
代表者
柳原 陽太
企業データを見る