【インタビュー】初の長崎開催となった「SPAJAM」、次世代クリエイター発掘とともに地方DXやIT振興の起爆剤としても期待集める 主催者に聞く

国内最高峰のアプリハッカソンイベント「SPAJAM2022」が終了した。第9回目となる今回は、オンライン予選と一部リアル予選を開催する形になったほか、今回初めて長崎県で本選を開催した。本選は、これまで関東地方でのみ行っていたことを考えると、大きな変化があったといえよう。

長崎県副知事や長崎市長が来場したほか、テレビ長崎をはじめとする地元メディアの取材、長崎企業の後援なども目立っており、当地での注目度や期待度の高さもうかがえた。地方で行ったIT関連のイベントを超える位置づけであると感じた次第だ。

今回、SPAJAM実行委員長の越智政人氏と、一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)専務理事の岸原孝昌氏(写真左)にインタビューを行い、長崎開催の経緯や狙い、第10回目を迎える次回への展望を語ってもらった。


――:今回、SPAJAM本選を関東以外と実施したのははじめてになるかと思うんですが、どういった経緯だったんでしょうか。

越智氏:SPAJAMの立ち上げにも関わった、元ドワンゴの川下勝也さんからオファーを頂いたのがきっかけです。川下さんは、ドワンゴを退職した後、長崎の活性化に個人で取り組んでおられるので、その一環として誘致していただきました。

岸原氏:そういえば、伊王島でハッカソンを実施しようというお話も以前来ましたよね。VRハッカソンをやろうとしていたという話で、新型コロナの影響で無期延期で現在に至っています。

越智氏:実はそこでの開催も考えていたそうですが、予定していたそのリゾートホテルがものすごい人気で、いまでは押さえることが非常に難しいらしいです。そのため、今回開催したホテルに決まったんですが、こちらの長崎あぐりの丘高原ホテルもグランピングや屋外ジャグジーなどの設備が充実していて参加者も満喫しながらハッカソンに取り組んでくれています。

 

岸原氏:長崎でIT産業を活性化するために、ハッカソンを刺激にしたい、きっかけにしたいというお考えもあったようです。長崎の方々に24時間という限られた時間でアプリを開発する様子を見ていただいて、「自分たちでもできるんだ」「こういうことをやればDXが実現できるんだ」と感じてもらいたいという考えもあったそうです。


――:長崎でやるといっても移動する人が多いですし、事前の準備が必要ですから、そう簡単にはいかないですよね。

岸原氏:はい。誘致したいというご相談を受けたとき、参加者の長崎までの旅費等の負担のお願いをさせていただきました。関東でやるより大変ですが、地方開催のノウハウがないわけでもありませんでしたから。そこでテレビ長崎さんが「私たちがスポンサーを集めます」と覚悟を決めて、その後、すぐに会社の役員会を通してスポンサー集めが完了し、開催にこぎつけることができました。

 
――:お話を聞くと、すごいスピード感だったんですね。

岸原氏:そうです。我々も驚きました。長崎は素晴らしいところですし、実際にやってみて本当に良かったと思います。オブザーバー参加した「NITKC」というチームがありますが、こちらは1ヶ月前に長崎で実施したハッカソン「Love Tech Nagasaki」の優勝チームなんです。

長崎ではハッカソンはまだ縁遠い存在みたいで、「ハッカソンってなに?」「私達にできるの?」といった反応が多かったです。中にはコードをかけないチームもありましたが、こちらからメンターを派遣してノーコードで開発できるツールを紹介してプレゼンまでできるようにしました。

そんななか、参加した長崎大学の女子学生にいたっては、それまで全くコードを書いたことがなかったそうなんですが、いきなり「私、コードを書きたいです!」と言い出してハッカソンの最中に始めたそうです。そこで「Swift Playgrounds(スイフトプレイグランド)」を紹介したんですが、メンターに色々と質問をしてタブレットでコードを書いていったそうです。これには驚きました。ハッカソン期間中で動くものができていましたね。


――:タブレットでコードを書くとは驚きですね。いいきっかけになったんでしょうね。初日に長崎県の副知事がいらして、最終日には長崎市長がいらしたのはびっくりしました。長崎県としても注目しているんでしょうか。

岸原氏:今回の大会が長崎でIT産業を活性化させるための起爆剤とご期待いただいているのではないかと思います。長崎県と長崎市は、Love Tech Nagasakiの後援をやっていますが、SPAJAMについてはこれまで行政の支援を仰いできませんでした。行政の縛りを受けず、民間で自由にやりたいという考えからですが、今回、長崎県と長崎市からぜひバックアップしたいという申し出をいただいたので、お願いした次第です。

越智氏:そういう意味でも新しいスタイルの開催にもなりましたね。こちらから参加したメンバーやスタッフにもすごく刺激になって良かったと思います。

 

岸原氏:今後は、IT産業を活性化させるための起爆剤として、他の地域でも水平展開できたら良いのではないかと思いますね。全く同じ形で開催するのは難しいかもしれませんが、ハッカソンを開催したいので支援してほしいというオファーがあれば前向きに対応したいですね。

はじめのうちは、MCFからスタッフやメンターを派遣して支援するでしょうが、その後は地元だけで開催できるようになるのが理想です。そのモデルケースになるのが、沖縄で行われたParadise Jamです。こちらははじめの2回まではこちらから支援しましたが、その後はベトナムとの合同ハッカソンを開催するまでに拡大しているそうですよ。


――:独自の発展を遂げているんですね。

岸原氏:Paradise Jamは、我々にとっても地方展開の雛形になる事例だったと思います。ハッカソンをやったことがない地方で開催するためのノウハウができました。我々としてはお金儲けを狙ってやっているわけではないので、最初だけは支援しますが、そこでノウハウを学んでいただき、地元だけでハッカソンを回せるようになってほしいです。そしてIT産業が活性化するきっかけになればと考えています。

越智氏:あのとき、川下さんもParadise Jamに参加していますから、それと同じ形で展開したいというイメージはお持ちだったんだろうと思います。

 


――:私もその後、佐藤慎吾さんにご招待いただいて沖縄に伺ったのですが、現地の方だけでしっかりと運営されていました。全チームがアプリを完成させてレベルも上がったと感じました。テレビ長崎さんが誘致に関わったというお話はちょっと意外に感じました。

岸原氏:テレビ局の方々は良くも悪くもIT産業とはちょっと遠いところにいるので、IT人材とは何かというところから共通認識を作っていくように務めました。長崎のIT産業活性に役立ちたいという思いはあるのですが、どういう道筋を描いていくべきかイメージしづらい部分があるようで、我々からも共通認識を持ちつつ、積極的に提案するようにしました。

越智氏:今回の本選の模様が年末にテレビで放送されるそうですが、いいきっかけになるのではないかと期待しています。今回のイベントをうまく活用いただいて、地元の方々にいい刺激になれば、と期待しています。


――:県関係者から別の県内の会場での開催誘致がありましたね。

岸原氏:さすがに次回も本選は長崎県というのはハードルが高いかもしれませんが、Love Tech Nagasakiは今後も継続的に開催されていくと思います。我々としても必要とあればお手伝いしていきたいと考えています。

越智氏:もし伊王島でなにかできるようだったら何か検討してもいいかもしれませんね。

 
――:SPAJAMは、地方でのIT産業の活性化という点からももっと注目されそうですね。

岸原氏:SPAJAMの最優秀賞の賞品のひとつとして、軽井沢のサードオフィスワーケーション体験というものがあります。現地のフォレストコーポレーションが運営している施設ですが、現在、軽井沢エリアのワイナリー等のDX化の地方創生のご相談を受けていまして、「Doma JAM(土間ジャム)」と銘打って、地元の方々が協力して1週間くらいかけてやろうと思っています。地元の方にお話を伺って、課題を確認したうえで、リモートで1週間くらいかけて作って発表するというものです。


――:それは面白そうですね。

岸原氏:はじめのうちはβとして開催する予定です。すでにZoomやSlack、VRなどを活用してリモートでテスト開催も行いました。まずは優勝者やスタッフだけでテスト開催して全体の流れを確認した上で、課題や問題の確認と改善策を考えています。ちょっとした新規事業を立ち上げるようなものですよね。


――:あと、今年からリアルでの予選も再開しましたね。

越智氏:そうですね。これまでオンラインで予選を開催していたので、いざリアルでの予選を始めようとなると、「これどうやっていたっけ?」といったことも少なくありませんでしたが、Slackなどのツールを使うことでリアルでの開催の効率化にもつながっています。食事の連絡や資料の提出の呼びかけなど、これまでは各チームに直接伝えていましたが、いまはSlackを使うことで簡単に完了します。


――:オンラインで開催したことがリアルにもプラスに働いているんですね。

越智氏:これは初日のセミナーでもお話しましたが、地方創生という観点からeスポーツを地方でやりたいというお話もいただいています。プロゲーマーに賞金をいくら出すといったお話ではなく、高齢の方や障害のある方向けに活用したいということなんです。たとえば、自分の部屋に閉じこもっている人がeスポーツを導入したことで、オープンスペースに出てくるようになった、といった話をよく伺います。海外とはちょっと違った形でeスポーツが根付くのではないかと期待しています。SPAJAMについてもParadise Jamの実績も加えてフォーマット化されることで、色々なエリアに横展開できると思います。

 
――:今回、女性の参加者が多いですよね。何か特別な取り組みはされたんですか?

岸原氏:たしかに多いですね。特に特別なことはやっていませんが、これは長年やってきた成果かもしれません。SPAJAMに出たいということで、女性がプロデューサーとして男性エンジニアをかき集めたという話を聞きましたし、逆に男性側からも「24時間入れる温泉でハッカソンが行われるので、一緒に参加しない?」などと声をかけやすいそうなんです。

越智氏:たしかに温泉に入れて、食事も出るというのは他のハッカソンではあまりみないですね。他のハッカソンにはない、高いレベルのものが提供できていると思います。


――:SPAJAMが面白いものだという認識が広がっているのかもしれませんね。

越智氏:これまで9年やっているなかで、卒業生も増えていますし、決勝に出られないまでも予選に参加した方もかなり増えているので、そういう認識がかなり浸透しているように思いますね。


――:学生さんは多いんですか?

岸原氏:2~3割ですね。予選は半分くらいが学生ではないかと思います。
越智氏:みていると、以前と比べると学生のレベルは上がってますね。以前は、プレゼンでも何を伝えたいのかよくわからないことがありましたが、社会人チームと遜色ないレベルのプロダクト、プレゼンになっていると思います。最近は学校でも作るだけでなくプレゼンの部分も指導しているんでしょうね。自分が作ったものを的確に伝えるのはとても大事なことですから。


――:次回は、記念すべき第10回となります。特別な取り組みはお考えですか?

岸原氏:第10回だからといって、なにか特別なことは考えていません。これまでと同じように淡々と開催していきたいです。SPAJAMは、誰かが決めるのではなく、みんなで参加するのが原則ですので、木村さん(インタビュアー)もぜひ考えてください。ご提案があれば受け付けます。


――:ありがとうございました。

一般社団法人モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)

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