【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第68回 世界NFTブームを牽引したAxie Infinityは、なぜ今ファンベースを大事にするのか?

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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■Web3業界に革命を起こした始祖タイトル、Axie Infinityの創業者インタビュー

今あるブロックチェーンゲーム(BCG)企業の多くは2018年に設立されている。それは2017年11月にリリースされた「CryptoKitties(以下CK)」にインスパイアされ、世界中のゲーム会社がWeb3×ゲームとはこういうことだと目の前でそれを実感し、自らも作ろうと一気呵成にスタートした時代だった。

そして2022年、NFTの大ブームが起こる。2020年に約0.8億ドルしかなかったNFT取引市場は、2021年に突然200倍の16億ドルになり、22年に22億ドルになった。このWeb3大合唱時代の発火点となったのは、BCG「Axie Infinity」である。ベトナムのSky Mavis社AxieもまたCKの半年後2018年5月にスタートしたBCG第一世代の数多くある1社に過ぎなかったが、2020月に導入していたスカラーシップ制度(初期数十万円かかるゲームアセットを『貸し出し』で無料で始め、あとから売り上げを折半する)がちょうどコロナの時期に重なり使われ始め、2021年4月にETHから自社開発チェーンRoninに移行し、6月にYGG(Yield Guild Games)などフィリピン人がギルドを組んでAxieで稼ぎに行く胎動が起こり、Axieの取引額は一気に1000億円以上にも膨れ上がったのが2021年8月の話だ。

 

出典)CoinGecko; CryptoSlam; Statista

 

Sky Mavisはその勢いにのせて1.5億ドルの資金調達を発表、投資家はホロヴィッツのa16zから、 Web3業界の先端投資家であるAnimoca、世界最大の暗号通貨取引所Binance、米国メディア界の大物Mark CubanにSamsungまでもが加わり、その時についた時価総額はなんと30億ドル!設立2年の200名足らずのベトナム企業が、任天堂(53億ドル)やEA(40億ドル)に次ぎ、一気に世界で5本の指に入るゲーム会社に成ってしまった。

フィリピン政府はすぐさまAxieの収入は所得税対象となることを発表し、過当しすぎた熱狂に冷水を浴びせかけた。累計取引額$40億ドル(約6000億円)は今もなおBAYC含めた世界中のNFTプロジェクトのなかでは最大実績であり、Sky Mavisの売上は最高13億ドル(約2000億円)。最高額での取引されたゲーム内モンスター(Axie)は81万ドル(約1.2億円)、アクシーランドの土地一区画が250万ドル(約3.7億円)、Discordでの登録者規模はFortniteや原神、Robloxに次ぐ。とにかく記録・記録・記録づくしで、Web3バブルがAxieをきっかけとして2021~22年に生まれたのだ。

 

▲衝撃的だった、Sky Mavis社(Axie Infinity)が世界トップのゲーム会社と並んだ図

 

あの大ブームのスタートからちょうど2年。鎮火後のAxieは現在どうなっているのか。今回創業者のJeff(Jeffrey Zirlin、共同創業&Chief Growth Officer)が日本メディアのインタビューに答えるのは初めてのことだ。そこに、アクシーYouTuberの高木アルバート(Axie Ambassador Japan Lead)と岩瀬純太郎(Senior Growth Manager)の3人を招いて、Axie Infinityの現状についてお伺いした。あのとき世界中の視線を牽引したAxieが今何を目指す組織になっているのかを取材した。

 

【目次】

任天堂とポケモンで育ったアジア系米国人たちがCryptoKittiesの影響で作ったAxie
コロナで食えなくなったミュージシャン、YouTuber転身でつかんだドリームチケット
入社初日に6億ドルの北朝鮮ハッキング・パニック、「男をあげた」迅速なSky Mavisの対応
再興するAxie Infinityの未来。ファンベースが導くBCG業界の将来性

 

■任天堂とポケモンで育ったアジア系米国人たちがCryptoKittiesの影響で作ったAxie

――:Jeffさんは2015年までYaleの学生でしたよね。そこからSky Mavisを創業する2018年3月までどのようにキャリアを辿ったのでしょうか?

Jeff:Yale大学を出た後何をしようか迷っていました。同期はだいたい卒業すると弁護士になるか金融・コンサルにいくか。それがつまらないと思って、友人とファンドを立ち上げたんです。何か新しいジャンルでExcitingなものを探していました。

――:まさに2018年11月にカナダVancouverにあったDapper Lab社が開発した「Crypto Kitties」がその始まりだったわけですね。

Jeff:はい、Crypto Kittiesに出会いました。Sky Mavisはトゥルン (Nguyễn Thành Trung、CEO)がドゥアン( Đoàn Minh Tú, Hồ Sỹ Việt Anh、通称“マサムネ"、アーティスト)が最初にスタートし、アレックス(Aleksander Leonard Larsen、COO)、アンディ(Viet Anh Ho、CTO)と私が後にジョインしました。私とトゥルンとアレックスとはCryptoKittiesのコミュニティの中で出会っているんです。3人ともホントに1ユーザーとしてこのゲームを遊んでいたんです。

――:Jeffさんが最初にやっていたKittiesのコミュニティってどのくらいの規模だったんですか?

Jeff:30人くらいですね。世界各地から先端的なプレーヤーがあつまっていて、何かトレンドになると思って、非常に興奮したのを覚えています。

――:最初の30人!それは凄いですね、、、!もはや伝説というか。Dapper Labのあるバンクーバーにも行ったりしたんですか?

Jeff:はい、僕は結構トップランカーだったんですよ。非常にレアな猫を集めていて、そこでチームをまとめてギルドを作ってました。ギルド名はGoldman Catsです(笑)

――:でもそうやってるなかでAxieを自分たちで作るんですよね。初期VerはCKの3か月後の18年2月、正式リリースが5月です。とても早かったですね。

Jeff:トゥルンとマサムネ、特にマサムネが日本の大ファンだったので(彼はスマブラのヘビーユーザーでもあります笑)、アートコンセプトもそれに近づけたんです。ポケモンとたまごっちのようなアートスタイルにしたいよね、と。2人はベトナムで育ったんですが、どちらも幼いころにポケモンカードをやって育っていて、自作のカードも入れながら独自でゲームを遊んでいた。そういった経験がつながっているんだと思います。

――:Jeffさんも日本のゲームは好きだったんですか?

Jeff:僕の場合は最初の衝撃が『ドンキーコングカントリー』(1994, 任天堂)でした。今も実家の地下室でプレイできる形で残ってますよ。友達の家にもっていって一緒にプレイするとお菓子をもらえたんです。だから僕の最初の“スカラーシップ"はドンキーコングだったともいえますね笑。

――:ではかなり「日本ゲームに影響を受けたメンバー」で作っていったんですね。そしてかなり懐かしいタイトルの数々・・・

Jeff:新しい技術は先端すぎると、受け入れられないです。新しくてExcitingなものと、少年時代を思い起こさせる懐かしいものを合わせて提供していくことがキーだと思っています。それこそWeb3はFear(恐怖)とExcitement(興奮)という相反する二側面が混在してますよね。AxieはそこにLove(愛着)とNostaligia(懐かしさ)を入れるようにつくっていったんです。

――:初期の運転資金はどう調達したんですか?

Jeff:ホント6-7人で始まって、もうみなでシューズぬいで入るようなホーチミンのアパートでした。Axieの3,000体を 900ETHで売ったんです。当時としては、なかなかのもので$600Kくらいの資金にはなっていたんですが、そこから暗号通貨の価格もどんどん下がってきていて、2018年12月ごろには我々の資金も底をつきて、残り30K~60Kくらいしかなかった。

――:ああ~当時はまだまだ相場が厳しかったですよね。

Jeff:最初は1000名くらいしかホルダーがいなかったし、実際に僕自身はリクルーターをやっていた過去もあったので、その1年くらいはずっとターゲットをしたユーザーにAxieを配ってコミュニティに参加してもらい、それをちょっとずつ育てる、の繰り返しでした。2018年10月にDecentralandとの提携し、Landを持っているユーザーにはFreeでAxieを配っていたりしました。

――:そんな初期からDecentaralandと一緒にやっていたんですね!?。2021年に革命的なムーブメントを興す企業群はその3年前からずっと地道な活動を続けていたんですね。

Jeff:当時はお金になるかどうかなんて見てなかったけど、「教育」して人々がそこに慣れていけば変わっていくだろう、と思ってました。

――:「教育」でいうと無料でも始められるスカラーシップ制度は画期的でした。Axieが最初だったんですか?

Jeff:実は最初はDecentralandからユーザーを獲得するために実施した型だったんです。ちょっと少人数でやってみよう、フリーでスカラシップ使って慣れてくれれば、と思って導入したんです。あれもコロナになって徐々に使われるようになっていきました。

――:やはりコロナですよね。2018~19年と色んなものを導入されてきましたが、結局爆発したのは、コロナによってデジタルでのつながりを求める人々が大量に発生してはじめてBCGも活性化しました。

Jeff:Web3って本当に貢献価値ですよね。コロナになった2020年3-4月に僕のチームは皆で『あつまれどうぶつの森』をはじめたんですが、毎日毎日Tomnuk(たぬきち)のために働いていて、まさにこの構図がAxieでも実現したいことだよな~と思ってました笑。

――:たしかに、Axie含めたBCGの完成形はTomnuk(たぬきち)なのかもしれませんね笑。


【Axie Infinityの歴史】
■2017年12月:初期のチームメンバー達がCryptokittiesをプレイしながら出会う。Masamuneが最初のコンセプトアートやスケッチを制作。
■2018年2月:アクシーの初期バージョン、ジェネシスコレクションが発表され、これらはオリジンアクシーと名付けられる。最大供給数は4,088。
■2018年5月:アクシーのブリーディング機能がリリース。二匹のアクシーが交配することで、それぞれの親からの遺伝子を組み合わせた子供を産む仕組み。
■2018年10月:放置(Idle)型バトルシステムをリリース(バージョン1)
■2019年1月:デジタルランドのビジョンを公表し、初回のセールを開始
■2019年12月:アクシークラシック(バージョン2)をアルファ版としてリリース。リアルタイムバトルでブルランの際にフィリピンで伸びたバージョン。初日のDAUは250人。
■2021年2月:Roninメインネット立ち上げ。Roninは、元はアクシーを拡大するために開発したゲーム専用のスケーリングソリューションで、他社で構築できるチームがいなかったため、自社で作る判断をした。
■2021年4月:アクシーをイーサリアムからRoninに移行し、爆発的な成長が開始
■2021年11月:Katanaという分散型取引所(DEX)をリリース。AXSが160ドルに達し、アクシーの希薄化後時価総額(Fully Diluted Market Cap)は約4000億ドルとなり、ポケモンフランチャイズの価値の約半分に到達
■2022年4月:アクシーインフィニティオリジンズ(バージョン3)がアルファ版でリリース。
■2022年12月:アクシーインフィニティランドのゲームプレイがアルファ版でリリース。https://blog.axieinfinity.com/p/homeland
オリジンズのアンドロイドモバイル版を限定地域でソフトローンチ
■2023年5月:オリジンズのiOS版を限定地域でソフトローンチ

 

 

■コロナで食えなくなったミュージシャン、YouTuber転身でつかんだドリームチケット

――:日本初のAxie YouTuber高木アルバートさんにもお話伺いたいです。そもそも、配信者ということでゲームのキャッチアップは必須ですが、毎日どのくらいプレイ&配信されているんですか?

アル:今シーズンは42日間でしたが、毎日3~5時間くらいやりながら、時間がある時はYouTubeで生配信などもしています。日本コミュニティのメンバーにはDiscordでゲーム画面を映しながら、毎日最大で16時間くらい(ほぼ起きている間はずっと)常駐していて、配信しながら他のプレーヤーと話している人もいます。

――:かなり時間かけてますね。どのくらいのプレーヤーと実際にダイレクトな関係性をもつんですか?

アル:「Axie is Life」って言いながら、僕よりもアクシーを熱狂的に毎日プレイしている方々がいることには驚かされますね。普段からしょっちゅう話すプレーヤーは30人くらい、顔見てわかる人もいれるとだいたい150~200人くらいはいるような感じでしょうか?

――:日本ユーザーの特徴ってどんなところにありますか?

アル:とにかく考察力が凄いです。YUUさんという日本人トッププレーヤーがいるんですけど、Axieのシーズンが切り替わるオフシーズン期間中に「今シーズンはこれが強かったから、次は〇がくると思うんだよね」みたいな指摘を他の日本人プレイヤーと毎晩やっていて、ものの見事にそれを当てたりするんです。生まれ育ったゲーム経験値の高さを感じさせる、考察力・洞察力に優れたプレーヤーが多いことは日本の特徴かもしれません。

――:プロシューマー的ですけど、そういう「ユーザーさん」ってAxieのMeetupだけじゃなく、今回のIVSとかBtoBっぽいカンファレンスなどにも来たりするんですか?

アル:きてますよ!Non Fungible Tokyoでも10人くらいは来てましたね。ただMeetupしている100~200人を見ていると、意外にゲームプレイヤーじゃない人もいたりするんですよ。「プレイは難しいからあんまりしてないんだけど、かわいくてコレクションだけしている」という人もいますし。そういうなかでも20~30人くらい、いつも必ずきてくれているよねというコアユーザーさんはいる感じです。

――:毎回Meetupにくるコアユーザーってどういう属性の人が多いんですか?

アル:基本的には毎日ゲームを遊んでいるガチ勢の方が多いですが、アクシーをプレイした事ない初心者の方にも多く参加していただいています。年齢層としては、20-30代の方が多いと思いますが、意外に40-50代で引退している人もいて、娘が高学生になったので手があいた主婦の方や、アクシーのファンアートを描いてるVTuberの人もいたりします。毎回Axieのぬいぐるみやグッズを自作して、イベントのたびに会場を飾り付けして、販売している方もいますね。会社員も結構います。数週間前に行われたシーズン4で日本人として2位になったプレイヤーは普通のサラリーマンなんですが、40日間やりこんで12万円くらい稼いだっていってました。2年前に比べると大きな数字ではないのですが、ゲームを遊んでいるだけで得られた副収入だと考えるとなかなかのものですよね。

――:2021年夏はDAU270万という時代もありましたが、ただそこから一度9割が落ちたもののその後、ずっと安定してますよね。MAUで15万人くらいでしょうか。コミュニティ力が高いですよね。

アル:Axieで知り合ってカラオケいったり、皆でキャンプや沖縄旅行にいったりしている人もいますね。アクシーがきっかけでBCGや暗号通貨の世界に入り、酸いも甘いも一緒に経験しているからこそ気持ちが分かり合える人たちと繋がれたっておっしゃる方もいます。そういうみんなにとっての「居場所になっていく」という部分が現在でもコミュニティに残り続けている理由でもある気がします。

 

 

――:アルちゃんはどうやって今のポジションにつくことになるんですか?

アル:僕は日本・韓国のハーフなんですが、ニューヨーク生まれで3歳から日本に住んで小中高とインター校に通ってました。父の家系はほとんどミュージシャンだったりずっと音楽に触れていたこともあって、大学はカリフォルニア州立大学の映像学部に進学したんですが、ずっとジャズバンドでトランペットをやっていました。卒業してからはロサンゼルスで音楽プロデューサーとして楽曲提供をしたり、日本でも有名なアーティストのアシスタントなどをやってました。ただ、そういった仕事がコロナで全部なくなるんですよ。

――:コロナのダメージはアメリカのほうが深刻でしたよね。

アル:それで食うのに困って、2020年にYouTubeの配信はじめました。僕の場合配信したのは『DRAGON BALLドッカンバトル』です。

――:ええ!?バンダイナムコ&アカツキの?

アル:はい、もう最初から大好きで、こないだみたら僕2200日(6年強)ログインしてるんですよ。そういうモバイルゲームのYouTube配信をしながら、Axieに出会うんです。2018年ごろから親の勧めでビットコインやイーサリウムもちょっとだけ持っていたのもあって、ブロックチェーンの可能性自体に興味は持っていたんです。それが2021年に入って、「Axie Infinityがフィリピンの老夫婦の人生を支えている」という記事をみて、衝撃を受けました。

――:ありましたね!まさにPlay to Earnとはこのことか、と僕も衝撃でした。でもお金も苦しい時代によく投資しましたね!?初期のハードルめちゃくちゃ高いですよね。

アル:1体300-400ドルくらいでしたからね、ホントになけなしの全財産を突っ込んでAxieを3体そろえたのを覚えています。当時のルームメイトにも本当にそれは大丈夫なのかと心配されたこともありました。でも自分が実験台となり、ゲームをダウンロードして動画を載せたことで、それまで平均的に数十回再生のレベルだったチャンネルが一気に3~4000回再生までいったんです。すごい手ごたえがあって、そこからドッカンバトルなど色んなゲーム配信をしていたのを、Axie専門チャンネルに切り替えたのです。そこに至るまで600日間毎日動画を投稿して、サムネやハッシュタグを変えながら、どうしたら伸びるかなと日々工夫してしいた地道な期間があったおかげで、今のチャンネルがあるんだなと思っています。

――:ものすごい賭け方ですね・・・そこから実際にAxieに働くことになるのはいつごろなんですか?

アル:半年ほど配信していたなかでコロナ禍でも初めてロサンゼルスでMeet upをすることになり、2021年10月に参加したんです。カメラをもってJeffに突撃取材して、僕、配信者をやっていて、Axieで人生が変わりました!と挨拶しました。その日はそれで終わったんですが、あとでJeffから直接連絡をもらったんです、「明日もLAにいるから、ご飯食べにいかない?」と

――:おおーまさかの一本釣り!しかし21年10月といえばAxieがピークで全世界に注視されていた時期ですよね。よくもまあそのタイミングで突撃取材を・・・

アル:共通点も多かったんですよね。彼もアメリカ・韓国のハーフだったり、Jeffの母親と僕の父親が同じ職場(野村證券のNY支局)だったりとか。それで意気投合して、次は旅費だすからNYおいでよと言われてて行って。その次は、今度は僕の住んでるところおいでよと言われて彼のマンションで、一週間過ごさせてもらいました。

――:すごすぎないですか、その話笑。

アル:それでしばらく一緒に過ごして、お別れになる最終日にビールを飲みながらJeffが言うんですよ。「You passed!」って。いままでのは面接だったんだよって。それで貧しいフリーランスのミュージシャンから、一転して大ファンのAxie Infinityのために働き始めることができました

 

▲高木アルバート氏のチャンネル「Axie King Aruchan」:“アルちゃん"の愛称で知られる

■入社初日に6億ドルの北朝鮮ハッキング・パニック、「男をあげた」迅速なSky Mavisの対応

――:では2022年に入ってAxieがちょうどピークアウトしていくタイミングあたりでアルちゃんは入社していくわけですね?

岩瀬:ただ、最初が大変だったんだよね笑?

――:というのは??

アル:もどって準備してから2022年3月末に働き始めるんですが、実は就業初日のロサンゼルスでのMeetupが、まさにRoninが北朝鮮からハッキングされた直後なんですよ。

――:あ、そういえばAxieがハッキングされる事件ありましたね!?22年3月23日、(後でわかった)北朝鮮ハッカー集団がサイバー攻撃で約6億ドル(約760億円)をAxieから盗み出したと。※2021年世界全体の仮想通貨ハッキング被害が4億ドル、22年Sky Mavis1社で6億ドルという巨額の被害

アル:だから初日に開催を任されたMeetupではコミュニティが荒れる予感がしたんですよ。Discordでも非難や怒号が飛び交って、みんながパニックになっているところを逐一返事していって落ち着かせて。就業初日から膝から崩れるような事態でした。スペシャルゲストで来ていたJeffもこのままオフ会出ていったら身の危険がある、など非常にシリアスな状況でしたが、意外にも会場にきてくれたほとんどの人は、アクシーをサポートしてくれているファンの方が多かったので、救われました。

――:あれはなぜハッキングされたんですか?

アル:サイドチェーンのRoninのブリッジへのハックにより約6億ドルが盗まれました。9人のValidator(取引データが正しいか検証するノード)のうち5人の承認がないと資金移動ができないように管理していたんですが、ソーシャルエンジニアリングにより偽の採用面接を受けた上級エンジニア社員がスパイウェアにかかったことから突破されてしまった。そこから社として鎮火とユーザーさんへの対応に取り組みました。全てのユーザーさんの損失は、同年6月までに全額Sky Mavisが補填したんです。

――:ハッキングされた被害額は取り戻せたのですか?

アル:いえ、、、FBIとも協力体制を敷いて、約3千万ドルは取り戻せたんですが大半はもう不可能でした。

――:ただあの緊急事態のなかで、対応は迅速でしたね。

アル:実はその数か月後、Google CloudがRoninのValidator(高い堅牢性を誇り、相当なセキュリティ体制を備えている企業でないと認められない)として参画することが決まりました。Googleシンガポールにて「Roninハック後、ユーザー優先で迅速に対応したことをリスペクトするよ」と言っていただけました。当時の損失は大きかったけど、Sky Mavisとユーザーとの絆も強固なものになりました。結果的には「一緒に乗り越えよう」という雰囲気が醸成されたと思います。就業初日のMeetupでもCNNニュースもさぞかしユーザーの怒号が聞こえるだろうと取材にきたけど、肩透かしにあっていましたね。インタビューしてもファンたちが結構理解を示したり落ち着いている状況になっていたので、あまりニュースになりにくかったようです。

 

■再興するAxie Infinityの未来。ファンベースが導くBCG業界の将来性

――:21年夏の月1000億をピークに、22年頭にはAxieの取引額は100億円、ハッキング事件などもあって月数億円単位まで落ちてはいます。BCGユーザー数でいうと半年前の数字ですが世界で6位、といたっところでしょうか。

岩瀬:ただここが「底」で実は、この10数万人のユーザーがずっと遊び続けている状況です。


 

出典)Raynor de Best, Nov 29, 2022

 

――:確かに売上としても相対的には下がりましたが、2023年にはいって「毎月2万人が1~2億円の取引をする」という状態自体はもうこの半年ずっと安定してます。

岩瀬:毎月10~20万人が遊び、1~2万人が実際にオンチェーンで取引を行って、1人1万円で1~2億円のNFT取引がある、というのはアプリゲームでもよくある「安定した状態」に入っているといえます。現在Axie Infinity OriginsというPCで遊べて、さらにモバイルでソフトローンチ中(東南アジア、南米の一部のみ配信)のゲームを運営しています。ゲームプレイを改善しながら、いまアクシーを支えてくれているコミュニティをどう維持し、未来の成長に繋げていくかというのが現在のSky Mavisがいる地点です。Roninブロックチェーンのゲーム企業さんへの展開も徐々に行っており、Axie運営からの学びを可能な限りお伝えできるよう基盤を準備しています。

 

 

――:岩瀬さんは古巣時代(DeNA Singapore、Facebook(Singapore))からお付き合いがありました。

岩瀬:2012年にモバイルゲームの業界に入りベトナムに渡り、DeNAのシンガポールでゲームデザイナーとして働いてから6年近くMeta(Facebook)のシンガポールにいました。中山さんがブシロードインターナショナルの社長だったときに、お取引先としてもお付き合いしてましたよね。

――:岩瀬さんは、日本人としてははじめてのSky Mavis社員ですかね?

岩瀬:ハーフのアルちゃんが一人目、僕が二人目ですかね。今社員は250名いますが、ほとんどがベトナムの開発者ですけど、今はシンガポール本社で3人で働いてますね。

――:今日、思ってみたら米国のJeffと、Los Angelesのアルちゃん、Singaporeの岩瀬さんと、相当レアな機会なんじゃ、、、

岩瀬:そうですよ!3人でこうやって直接会うのって一年に数回しかない機会ですから。創業者の1人のアレックスはノルウェーですし、ベトナムが中心ではありながら世界中にオフィスは点在してますね。

Jeff:僕も日本にきたのはしばらくぶりなんです。2018年のファンミーティングで来て以来なので、日本は相当久しぶりです。

――:アルちゃんのようなアンバサダー(Regional Leads)は他にもいらっしゃるんですか?

アル:僕とLATAM(中南米)、フィリピン、ブラジルで4人がフル活動してますね。

――:ソシャゲからアプリゲーム、プラットフォームのMetaまで一通りWeb2街道を歩んできた岩瀬さんはいつごろからWeb3市場をみていたんですか?

岩瀬:コロナが始まったころからDeFiの世界には注目してました。すでにモバイルゲーム市場は過熱していたのが明白で、もうこれ以上ここでゲームや広告で大きなイノベーションは起きないと思っており、Web3やDeFiがそれに次ぐ進化があるんじゃないかとみていました。

――:実際に投資を行ったり、NFT保有したりとかですか?

岩瀬:シンガポールの同僚とWeb3のAcceleratorプログラムをはじめて、Web3のプロジェクトたちを支援してました。そうした中でTerraとかLUNAの崩壊(2022年5月に仮想通貨全体の下落の震源地となった案件)が始まって、当時そのプログラムの規模拡大を考えていたのですが、相方の心が折れてしまいました。せっかくWeb2を辞めて移ったのに、戻りたくはありませんでした。ベトナムホーチミンシティ旅行中にSky Mavisで働いていた友達と会い、そこで声をかけられたんです。それで「よくわからないけど賭けてみよう」と思って、2022年10月に入社しました。

――:これってちょっととんでもないグローバル組織だなと思いますが、入りたい!という日本人がいるときにどういった採用基準になるんでしょうか?

岩瀬:採用する役職によりますが、多様なバックグラウンドの人たちと働きたいと思っています。必要となるスキルがあって、Web3の独特のカルチャーやニュアンスへの理解、さらにユーザーとしてどっぷりやっていた経験があれば素晴らしいと思います。

――:BCGゲーム、再び人が殺到するものになりますかね?

岩瀬:BCGゲームの浸透には4つの要素があるかなと思ってます。①ゲームとしての面白さ、②オンボーディングの簡単さ/楽しさ、③ファンコミュニティの拡張(プレイヤー、e-sports、クリエイター、投資家)、④アセットのユーティリティと継続性。Axieだけでなく多くのBCGゲームがこの要素を全体的に盛り上げていって、世界的にも注目されている日本の優良IPでもブランド棄損せずにこのコミュニティに入っていけるようになれば(アプリゲームがそうであったように)、BCGの時代がくると思います。

――:今後Axieコミュニティはどうなっていくんでしょうか?

岩瀬:今も世界各所でイベントをすると200~300人という人数は集まってくれるんですよ。やっぱりBCG業界をひっぱってきたタイトルですし、支えてきたユーザー達の期待値も強いんです。このタイトルの一番の強みは10数万人のプレーヤーもそうなんですけど、それ以上に2500人のAxie/Roninを支援してくれる「コンテンツクリエイター」だと思います。コミュニティを率いて、YouTubeなどで作ったものを披露してくれたり。それは必ずしも「投資して儲けたい」というロジックだけで動いていない人たちですね。

アル:Meet upは世界中あちこちで開いているんですよ。日本だと最近は毎月あります。IRL(In Real Life)と言って皆がフィジカルなMeet upを開くんですが、提案書を送ってくれると部分的にファンディングしてSky Mavisとしても支援しています。海外だとクラブでちょっと飲みながら、くらいが多いんですが、とにかく日本は「プログラムがきちんと設計され、新規ユーザーにはAxieが配られ、歴史をふりかえるプレゼンがあって、かなりOrganizeされている」と、Meet upの質が高いのが特徴です。

――:改めてJeffさんにお聞きしますが、来週IVS京都もあります。Axieとして、Sky Mavisとして日本市場にどんな期待があり、今後どうしていきたいというのはありますか?

Jeff:日本はとにかく熱心なファンが多く、Axieの最初のMeet upも日本でした。我々のアートスタイルのオリジンでもあるし、日本市場を大切にしたいという気持ちがあるからIVS京都にも足を運ぶ予定です。

Sky Mavisとして今は1st PartyゲームのAxieだけでなく、Roninを繋ぎこんだ3rd Partyゲームも5本発表していますし、今後も集めていきます。コミュニティビルディングを支援するゲームも作っていますし、複数のゲーム同士でKPIをシェアしあうようなアイデアもあります。Axieそのものも、色々ゲームを進化させるアイデアがあって、合計で288以上もの部分から成り立っているAxieのボディパーツをアップグレードして、個体レベルでのレア度をあげていく予定などもあり、今より一段と無限のコンビネーションでカスタマイズができるようになっていきます。

 

▲左から高木アルバート氏(Axie Ambassador Japan Lead)、Jeffrey Zirlin氏(創業者&Chief Growth Officer)、岩瀬純太郎(Senior Growth Manager)

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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