【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第69回 日本最大の通信制N高校-日本の天才を育てる中高大一貫教育機関の野望

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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N高校-全校生がVR機器を被った入学式はまるでディストピアのようだった・・・。あれから8年、実はN高の学生数は飛躍的に増えており、現在生徒数2.5万人「日本最大の高校」になっている。プロスケーターやeスポーツ選手も所属しており、東大や海外有名大学への進学者も増えている。遠足は皆でオンラインゲームの『ドラゴンクエストⅩ』に入り、文化祭は企業や一般客がブースを並べるニコニコ超会議の中で開かれている。そして今度は2025年、ZEN大学として大学まで作ってしまった。“イロモノ"として見られがちなドワンゴ・KADOKAWAグループの教育事業の根幹「N高」は一体どんな教育を目指してきたのか。そのプロセスを推進してきたドワンゴ創業者の川上量生氏にインタビューを行った。

 

■「とんでもない事業をはじめてしまった」-リモート学生8割の日本最大の通信制高校

――:自己紹介からお願いいたします。

ドワンゴ顧問の川上量生(かわかみのぶお)です。

――:今回はN高校の実績についてお伺いしたいです。2016年創設から8年目、S高あわせて在籍学生数は2.5万人と「日本一の通信制高校」となっています。累積で2.2万人の卒業生を見送ってきており、2019年には初の東大生も出ましたし、直近でもボストン大学・トロント大学など有名大学に進学する生徒も増えてきています。着実に成果を上げているKADOKAWAグループの教育事業は、すでに売上100億円超、実は営業利益率も全社平均を越えてきており、IRをみても驚かされました。

 

――:N高はなぜこんなに成功できたのでしょうか?

やっぱりコンセプトがうまくいったんだと思います。「(不登校の学生のための学校ではなく)未来のエリート校としてネットの学校をつくる」ときっぱり言い切ったんです。全日制に行けない生徒のための第二の選択肢ではなく、第一の選択肢としてN高を選ぶ、そういう学校にしたかったんです。

――:そうはいっても、「信用」は一日にしてならずですよね。そうメッセージしても実際に新しいカリキュラムの通信制、で生徒は集まったんでしょうか?(初年度約1,500人というのはなかなかの数字だと思いますが)

はい、予想よりも苦戦しました。TVに取り上げられたり話題にはなるけど、資料請求は増えますが、すぐに入学者数につながるわけじゃない。やっぱり人生の大きな決断だから簡単には飛び付かない。

だんだんと見えてきたのは、学校というのはほぼ口コミ以外に効果はないんだ、ということです。学校入学という責任ある決断への影響因子は、保護者や生徒の「まわりのひと」の評判なんです。保護者と本人だけに訴求してもダメなんです。極めてターゲティング広告が効きにくい領域でした。

だからネットプロモーションは全部やめて、基本に忠実に中学校に営業していったり、授業の中身や卒業生の進路を伝えていき、さらに要望が強かった「通学制のキャンパスを整備する」ことに投資を傾けていきました。

――:通信制なのに、キャンパスが必要なんですね?(N高校は沖縄県うるま市、S高校は茨城県つくば市が本キャンパス)

通わなかったとしても、近くにフィジカルな「学校」があることの安心感が大事なんです。やっぱりきちんとキャンパスがあって、そこで先生や人が動いている。そういう「リアルがある安心感」によって募集したときの人の入り方が全然違うんです。現在は日本に43か所キャンパスがあり、通信制コースと通学コース(週1/3/5日)で生徒の希望にあわせた形式になっています。

ただN高がほかの通信制高校と圧倒的に違うのは、通学:リモートの割合ですね。2割が通学、8割リモートというのは普通と逆なんです。どこの通信制も、やはり通学ありきで7~8割が通学、リモートの学生は2割もいかないんです。

――:これは凄い比率ですね。調べたんですが、高校生の数は30年で半分(579万人→301万人)になっているのに、不登校は増えている。そして実は通信制の高校自体もこの20年かなり増えてきている(113→260校)。もはや高校全体の5%が通信制の学校になってきている。

時代のニーズですよね。工業高校や専門学校も減っていますし、単純に「全日・定時制が当たり前」ではなくなってきています。

 

――:昔の通信制のイメージって、「定時制(普通科)」の学校に併設した「通信制」があって、時間まちまちだけど皆通学はしていたんですよね。

いまもほとんどの通信制はそうですけどね。N高は基本リモートから始まって、希望者だけが通学できる仕組みにしたので、発想が逆なんですよ。Zoomはコロナで一挙に普及しましたけど、N高はコロナ以前からのヘビーユーザーでした。ここまで完全にリモートに振り切っている高校って、世界的にみてもN高くらいしかなかったですから。

――:世界ランキング1位にもなったアイススケーター紀平梨花選手が所属していたことが、生徒が殺到する分岐点になったとも、N高の取材本『ネットの高校、日本一になる。 開校5年で在校生16,000人を突破したN高の秘密』で拝見しました。2018年ごろですかね。

紀平さんはひとつの象徴です。イメージがつくことが大事ですよね。紀平さんも同じスケートの川畑和愛選手がきっかけでN高を知りましたし、テニスの望月慎太郎選手、女流本因坊の上野愛咲美さんみたいなプロ選手たちが、日中は練習や試合と折り合いをつけて勉強もするためにN高を選択してくれるようになりました。

ぼくたちが勧誘したんじゃなくて生徒から選んでくれるようになったんです。未踏ジュニアの高校生たちも半分ぐらいがN高生で占めるようになってきましたし。なにかに秀でた少年・少女たちが第一の選択肢として選んでくれる学校になろう、という目標に近づいている実感はあります。

――:Discord上で活動している部活動もすごい人数でしたよね?

現在eスポーツ部に3000人、美術部には2800人います。

――:2.5万人いて1割が部活入っているって凄くないですか!?親御さんたちの反応というのはどうなのでしょうか?高校選択というと、生徒本人だけでなく、親の意向が強いかと思いますが。

そもそも最初のコンセプトを打ち出して募集を始めた段階から、かなりのインパクトを感じる瞬間がありました。2015年に学校説明会をしていたのですが、まだ開学していない募集段階なのに、ご両親が説明会に来られて涙ぐみながらお礼をいわれたんです。「N高をつくってくれてありがとうございます」と。一体どういうことかというと、小学4年生のときから不登校で家からでなかった子供が、はじめて自分でN高のパンフレットを取り寄せて、ここに行きたい、と行ってきたんだそうです。そういう親御さんたちが1,2人のレベルじゃなくて、何十人と来たわけです。ほとんど同じ話を何回も聞きました。それで大変驚いたのと同時に、これはとんでもない事業を始めてしまった、と思いましたね。

――:やりがいがありそうですね、じゃあこれは成功するぞ!という感覚は最初から持てたのでしょうか?

いやー僕の場合はそれからは保護者と生徒と直接の接触をするのはやめようと思いました。保護者や生徒の直接の感情に向き合うと、今後の舵取りが間違えるな、と。生徒の全体を救わないといけない仕事ですから、ひとりひとりの生徒に感情移入しちゃ危険だなと思いました。

 

■ドワンゴがN高を始めた理由、KADOKAWAブランドを使った展開

――:N高についてお伺いしたいです。(Wiki情報ですが)2014年5月にMAGES.の代表であった志倉千代丸さんが構想して始まったとかいてあります。

それ志倉さんが書いてるんじゃないの?笑。まあ彼がドワンゴ取締役としてもってきた話ではあることは事実ですが、最初は奥平博一さん・中島武さんが提案をしてきたところからスタートしています。

※奥平博一:N高等学校校長、公立小中学校の教員から学習塾を経て、通信制高校の業務に関わるようになり、30年以上の教育関連事業の経験をもって2014年10月にドワンゴ入社、すぐに沖縄に移住しN高等学校の校長に就任。
※中島武:複数の通信制高校設立・運営に関わり、オンライン声優スクール設立を経て、2014年よりN高校発起人として参加。その後「クラスジャパン小中学園」を開講したり「地域特例校100校開講プロジェクト」を推進した李、自立型の学びのカタチを追求している。

――:なぜドワンゴだったのでしょうか?

不登校の学生がどんどん増えていたんですよ。少子化なのに行きたい高校がない。通信制という選択肢もあるけど、特に進学校に通っていたような生徒は不登校を理由に通信制に通っていると知られたくない。そういう不登校の生徒は部屋でネットに逃げているんです。そしてニコニコ動画を見ている。当時は全盛時代でしたから。だから「ドワンゴがつくる通信制の高校だったら、そういう不登校生も行きたいと思うんじゃないか」という彼らの提案だったんです。ぼくは確かに僕らだったら作れるかもしれないと思ったんです。

――:「教育事業」ということでてっきりKADOKAWAからはじまった事業かと思ってました。

ドワンゴ単体として検討していた事業です。ただ当然ながらグループとしての検討もしていたんですが、KADOKAWA側のほうが慎重でしたね。ぶっちゃけた話、反対されましたよ。学校経営って責任も重いですし、まず途中で辞められないですからね。予算もいくらかかるんだ、と。最終的には賛成してくれました。

企画はドワンゴのメンバーが主体として動かしていきましたが、「学校」という責任ある事業をおこなうにあたって、結果的に歴史あるKADOKAWAのブランドは重要でしたね。

――:どういう人材で学校を作っていくのですか?逆に学校関係者がいなかったりするのでしょうか?

いや、やはり学校事業をやっていた人は必要不可欠ですよ。教員経験者が中心となりながら、ふつうの学校でやってない新しいことをやる部分では、ドワンゴの企画チームを大量に投入しました。やっぱりカッコいいパンフレット作ったり、マーケティングという意味では出版経験者はウェブビジネスをやっていた人材が活躍してくれました。

――:2014年5月にドワンゴ・KADOKAWAの統合発表があり、川上さんは2015年5月に同社代表取締役社長に就かれます。ちょうど3年半ほど、2019年2月までグループのトップを担当されていましたが、これは川上さんが社長になる前提で一緒にやっていく共同事業ではなかったんですか?

結果だけ見ると、このN高がドワンゴとKADOKAWAの統合を象徴する事業になりましたね。それ以外で一緒にやれた事業ってそんなに多くないんですよ。僕が社長になったのはなりゆきです。もともとこういう大会社のトップやるタイプじゃないですし、統合したら角川歴彦さんにお任せできるという期待もあって踏み切ったくらいですから。

――:ドワンゴとKADOKAWの統合にあたって、どういうプロセスで進むんですか?

当初から会社文化が違いすぎて、とても難しかった。ドワンゴはもともと僕自身、創業者ではあったけど経営会議にすら出ない会社でしたからね。KADOKAWAとドワンゴで一緒に経営会議を開くようになるんですが、僕は当然ながら出ずに当時ドワンゴの社長・役員陣が出ていくわけですよ。ドワンゴ側はそれで全く問題がない。ただそうなると角川会長が「川上くんが出ないんなら、僕も出ないよ」というんです。そうなるとKADOKAWA側は大問題なわけです。角川会長がいないと経営会議の決定事項が決定事項にならない。

――:あー、なるほど。文化の違う経営統合って難しいですよね。

このままだと空中分解しちゃうなっていうので、雰囲気も悪くなっていってましたし、じゃあ僕がやりますよとKADOKAWA・ドワンゴの社長をやらざるをえなくなってしまったんです。ただ僕の就任時(2015年5月)の株主総会後の臨時取締役会は「第一号議案、川上量生の代表取締役社長への選任」とかだったと思いますけど、続く第二号議案の中身は、以下の社長の決裁事項37項目を全て以下の取締役たちに権限移譲します」というものでした。社長なんだけど社長の決裁権限を全部移譲しちゃいました。

――:いきなりの権限移譲!社長業のノールックパスですね笑。

ぼくはただのプレイングマネージャーなんですよ。僕はドワンゴ時代も代表権を持っているのが嫌で、何度かクーデーター(自分が代表取締役を外れるための)を起こしていますが、失敗しましたから。これはちょっと言っていいかわからないんですが、統合会社の社長3~4年やりましたけど、僕は代表印1回も押したことないですからね。全部権限移譲してるから、捺印する必要なかったんです。で、辞めるときに実は代表印を探したんですが、いつのまにかなくなっていたことに気づいたんです。

――:笑。逆クーデーターの話も含めて、川上さんらしいエピソードが面白すぎます笑。

とはいえKADOKAWAの社長時代はとてつもなく忙しかったです。僕の人生の中でも、あれが最も忙しかった時期のひとつですね。ニコニコ動画の新サービスもやってたし、テクテクテクテクのプロデュースも並行していて、さらにはN高もありましたから。

――:あれ、それは社長として会議出たり、外交的な動きとかではなく、、、?

社長としての社内決裁はほぼなかったですけど、まあ、でも、なんだかんだと会わなきゃ行けない人は増えて、それは負担でしたね。

 

■100億使えばブルーオーシャン、N高に投じた事業投資はニコ動クラス

――:着メロ、ニコ動など、川上さんは創業者でありながら「創ること」にかなり拘られ続けてきたように感じてます。そういうなかで教育事業というのは創業人生のなかでどういう位置づけなのでしょうか?

ちょっと誤解される表現かもしれないですが、スピードという意味では教育って楽なんですよ、時間の流れが遅いから。入学から卒業までの3年で1サイクルじゃないですか。だからそんなにしょっちゅう手を入れるようなものではないんです。ただ社長辞めてヒマになったので、より時間を教育事業に割けるようになりました。最初の5年(2014~18年)よりも、最近の5年(2019~現在)のほうが関わってますね。

――:高校を作るというのはどういうところにコストがかかるんですか?

まずはバンタンの買収(2014)ですよね。あれはN高のために買収したようなもので40億円かかりました。そこに新しいカリキュラムの開発・システムがお金かかります。それが合計で20~30億はかかってます。

※バンタン:1965年に設立されたファッションやメイク、デザイン業界向けの教育機関「バンタンデザイン研究所」がもとになり、1991年から「バンタン電脳ゲーム学院(バンタンゲームアカデミー)」を開講してきた歴史あるクリエイター養成の専門学校。2014年11月に売上63億円、連結総資産143億円の株式会社バンタンをドワンゴが約40億円で買収し、完全子会社化している。

――:たしかにN高はカリキュラムがかなり特殊ですよね。企業・政府まで巻き込んで「官僚ドラマ教材制作」だったり「リアル脱出ゲーム制作」や、プログラミング・制作にかかわる実践的な授業も多い。部活も村上世彰さんが自腹でお金を出して投資を経験させる投資部があったり。高校って「卒業資格をとるためのもの」でもあると思います。いわゆる国理数社英みたいな「必要不可欠な教材」と「オリジナル教材」で、学生が受ける割合ってどのくらい違うんですか?

8:2くらいですね。N高だったとしても、やっぱり語学や学科など8割は義務教育の延長です。話題になりやすいN高オリジナルな授業は受けている時間でいうと20%足らずなんです。

――:カリキュラム開発に20~30億円というお話でしたが、その既存の「必要不可欠な部分」の開発コストはどのくらいかかるんですか?

ほとんどかけていません。2割もないと思います。だからN高の投資のほとんどは、この必須ではないオリジナル教材のほうに傾けられてます。バンタン40億円にシステムに20~30億円、その他この7~8年の運営赤字なども考えるとだいたい累計で100億円くらいの投資にはなっていると思います。

――:これは先生側にとってもどういう変化があるんでしょうか?雇用体系なども違うものですよね?

そうですね、もう最近は転職でN高に入ることを希望される先生方も増えてきましたが、基本的に新卒教員の基本給などの待遇はほかの高校よりは高い条件だと思います。ただ逆に「定年までいれば1,000万」みたいな固定したテーブルがあるわけではないです。教員の労働環境についてはブラックだと有名ですが、N高の場合はきわめてホワイトだと思います。

――:N高の年間損益分岐点としてはどのくらいの学生数が必要だったんですか?

単年度の損益分岐点は1.5万人というのがありました。2016年に開始して、そこに到達したのが2020年。想定よりはちょっと時間かかかったというのはあります。

――:それってすごい意思決定ですよね。普通だったら数億円~10億円みたいな、インフラのみの投資で先生だけ集めて学校を作ればいい話なのに、あえてその10倍以上ものお金を使ってM&Aもするし、教材も新規開発する、という。

僕の新規事業はいつも100億円なんですよ。100億使うような事業になれば、プレーヤーが少なくなって絶対勝てるなっていう感覚があります。ドワンゴ時代も着メロで100億、ニコニコ動画でも100億使ってきたので、うまくいきそうな事業の投資感は結果的にそのあたりになるんですよね。ベンチャーって集められても数億円~数十億円がいいところじゃないですか? 100億使えば競合がついてこれないブルーオーシャンになる、という意味ではN高も今そういった領域にさしかかったなと思います。

――:あ、もしかして2018年度に赤字が原因で社長業退任されてましたけど、あれってゲームじゃなくて教育事業の部分が大きかったんですか?

はい、僕の退任理由は、主にはN高の投資による赤字化なんです。報道とかでは皆『テクテクテクテク』の失敗(ドワンゴが開発したPokemon GO型のゲーム、2018年11月にリリースされ、約半年でサービス終了、18年10~12月で8億円ほどの損失が計上された)だと思ってますけどね。N高の赤字に比べればゲームのほうはだいぶ軽かったんですよ。まあそのおかげで自分が入ってN高をきちんとみてマーケティングできるようになったので、結果的によかったですが。

 

■N中→N・S高→ZEN大学、天才を育てる中高大一貫教育

――:これだけの赤字をだして引責辞任をしながらも、川上さんは2016年からN高を続けて来られました。2018年N中等部の展開、2021年S高校にも拡大、そして2025年にはついにZ大学として大学教育機関まで作られようとしています。川上さんは教育に対してどういった思いがあるんでしょうか?

純粋に今の詰め込み教育が若い人の貴重な可能性を潰していて、もったいないなと思いますね。僕も学校は行きたくなかったですもん。特に大学教育なんて、建前は研究者養成機関のはずなのに、実質的にはサラリーマン養成機関となっています。でも、サラリーマンに必要なスキルを教えているわけでは別にないという矛盾を抱えています。しかも研究者になろうとしても今度はポストがない。いろいろなんのためにやっているのかが分からなくなっている部分があると思います。

――:確かに。ただサラリーマンとしての技術に特化すると「専門学校」になってしまうけれど、そちらはそちらで会社から高く評価されているわけではない。

海外だと職業訓練学校の社会的地位は高いんですよ。日本の場合は専門学校は大学の下だと見られている部分がある。そこも大きな日本の教育の矛盾のひとつだと思います。

――:ZEN大学の構想は最初からあったのでしょうか?

いや、最初からは考えてなかったです。というかN高校の生徒たちが大学もつくってほしいという声が無視できなくなってきたんです。N高で学んだけど、今度大学を選ぶとなると先ほどいったような問題にあたる。ではN高の延長線上での学びを続けられる場所を作るべきなんじゃないかと。

――:なるほど。中山自身も佐渡島庸平さんとの「マンガの歴史」の講義でお呼びいただいて、そのご縁で今回川上さんへのインタビューとなりました。なかなか他の大学では学ぶことができない面白い講義になっているんじゃないかと思います。ZEN大学の目標の人数などありますでしょうか?

初年度で5,000人です。4年間で2万人くらいを目標にしています。

――:ちょうど青学とか立教を1個作るくらいの勢いですね笑。将来的にはN高自体もどのくらいまで増やしていく予定なのでしょうか?

どこかでブレークスルーが起きると思ってます。すでに300万人の高校生のうち、20万人がすでに通信制にいくようになっているわけですよね。どこかで、もう地元の中堅高校に行くくらいなら、リモートでN高にはいっちゃうほうがいいよね、になると思うんです。地方であまりよい選択肢がない生徒にとっては、全国一元的でかつ最新のカリキュラムでN高なら学べるわけですから。。

――:そしてその通信制高校のなかでもここまで教材にお金をかけている学校はN高だけだとすると、逆に通信制のなかでもN高だけという形になったりするのでしょうか?

いや、通信制高校で工夫しているいい学校も多いんですよ。N高が出てきてから特にこういったプログラミングとか海外とか芸術系とか特化してきている高校も現れて、通信制全体の質があがってきていると思います。通信制のなかでも競争は激しくなってくるでしょうね。

――:たしかに。通信制のなかでも大学進学率7割!(N高は3割)といったトライ式高等学校とか一ッ葉高等学校とか260校のなかでもバラエティがでていますよね。ちなみに海外、世界でこういったことをやっている学校は他にあるんでしょうか?

いや、大学進学希望者ばかり集めたら、N高だって進学率は自動的にあがりますよ。大学進学実績はN高が通信制高校の中ではダントツだと思います

N高のような例は海外でもないですね。大学までいくとアリゾナ大学とかミネルヴァ大学などいくつか事例はあるのだけれど、高校の段階でそれをやっているところは世界的にみてもほとんどない。わりと海外からもN高は注目されています。

 

■ゆとり教育は成功だった。未来のエリートを目指す教育事業

――:そもそもなんでこんなに不登校が増えてきたのでしょうか?ちょっと調べたら2000年代入ってからずっと増加して、特にコロナ前後のこの4-5年でさらに増えている。少子化なのに、なぜ「普通科」の高校を選べなくなっているのでしょうか?

純粋に親が子どもの不登校を許容するようになったんだと思います。今の不登校の子供って全然我々と違うんですよ。普通に友達もいるし、彼女もいる。では学校は行ってないんです。そして家庭も親がそれを許容できるようになっている。

 

――:これ、僕も共通した感覚があって、今1995年前後の「完全ゆとり教育で育った世代」の起業家とよく会うんですが、彼らって不登校だった比率が非常に高いんですよ。2011~13年から「脱ゆとり教育」で小中高がまた詰め込み型によせてきているのが現状かと思いますが、あのゆとり教育は一定効果があったんじゃないかと思っていて。

その通りだと思いますよ。昔に比べて、天才は増えている。ゆとり教育がまずかったという反動でまた詰め込みに戻そうという動きがあって、それがさらに不登校を助長してますが、僕はそもそもゆとり教育は正しかったと思っています。

今後も不登校の生徒はどんどん増えますし、N高・ZEN大学のような受け皿はもっと求められるようになっていくでしょうね。

――:不登校系の天才児の受け皿として、孫正義財団もあります。以前、AIエンジニアセミ研究者など取材もさせていただきました。

そうですよね、詰め込み教育ってむしろ頭悪くなると思いますよ。僕が個人的にやっていた塾があるんですよ。数理空間 “τόπος"(トポス)っていうんですけど。最近N高に移管しました。

中高生の数学好きを集めて、チューターで優秀な数学科の院生たちを呼んで現代数学を教えてあげるるんです。かなりの数学のできる生徒が集まっています。昨年の話なんですが、数学の研究論文を執筆して一流のジャーナルにも掲載されるような優秀な子がいたんですが、受験勉強全くしてないので共通試験の点数がとれなくて国公立はアウト、総合入試で慶應のSFCも落ちちゃいました。結果、しょうがないから、海外の大学受けてみたら、カルテック(カリフォルニア工科大学)に飛び級で「博士課程」で合格しちゃった。こういう生徒を受け入れる大学が日本になかったんです。

――:なるほど、もっている「定規」が違いすぎるという話ですよね。

日本の問題は小学校から受験勉強をさせていること。国家的損失ですよ、詰め込み教育で“エリート"のかさ上げをしている。でもそれが実際の効果に結びついていない。

――:これは川上さんのご経験も影響してるんですか?大学はまさにエリートの京大に現役で入られてますよね。かなり早期からプログラミングされていたとか。

僕は受験勉強はほどんどやりませんでした。高校3年の9月から受験勉強を始めて、3カ月で飽きてしまった。たぶん、今の時代に受験生だったら関関同立も受かっていないと思います。プログラミングは中学校のころからやってました。

――:N高の目指すところはどういったところなのでしょうか?2023年3月度で、約8000人の卒業生は国公立に約100名、有名私立大に1500名、美術・芸術に約70名、海外の大学に約20名。初年度入学者が最後に卒業する比率は8割。絶対数としては相当な成果であっても、「高確率で最高の進学先に」という比率で目指すとなると今度は受験特化になってしまうのかなとも懸念されます。

未来のエリート高校を作る、というところは目標です。今後も進学実績はどんどん作っていきます。特に総合型入試のところではN高生はかなり強いですよ。

進学実績は生徒数の母数が多いからあたりまえで比率が重要なんだという批判をするひとはいますが、それは同じ偏差値の生徒を集めている学校でしか意味のない指標です。N高はもともと大学進学するつもりのない生徒がたくさん入学していますから、大学進学比率をいうなら、N高の中でも大学進学したい生徒だけで測らないと意味がありません。むしろ高校では自分と同じ進路を目指す仲間が見付かることが重要ですから、重要なのは比率ではなくて絶対数のほうだと思います。

意識高い生徒はかなりN高に集まっていると感じます。Newspicksなどの大人向けメディアにいる高校生ってN高生の割合が非常に高いんですよ。受験対策的な勉強をバイパスして、高校生から社会で活躍する、そういう生徒がN高にはたくさんいます。

――:その意味では「意識高い高校生」が選択する学校になっているんですね。そう育っているともいえると思いますし。教育事業としても期待できるものなのでしょうか?

はい、KADOKAWAグループとしても十分に収益の柱になっていくと思います。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
企業データを見る
株式会社KADOKAWA
http://www.kadokawa.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社KADOKAWA
設立
1954年4月
代表者
代表執行役社長CEO 夏野 剛/代表執行役CHRO兼CLMO 山下 直久
決算期
3月
直近業績
売上高2554億2900万円、営業利益259億3100万円、経常利益266億6900万円、最終利益126億7900万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9468
企業データを見る