
日本および海外で活躍するインディーゲームクリエイターに焦点を当て、その創作哲学・開発背景・作品世界を掘り下げて紹介するインタビュー連載企画「インディーゲームクリエイター列伝」。今回は、育成シミュレーションゲーム『しあわせ文鳥LIFE』を手掛けたPOYOLANDの代表・Poyo氏に話を伺った。
文鳥への愛を詰め込んだゲーム

――本日はよろしくお願いいたします。まず、本作を作ることになったきっかけを教えていただけますか。
poyo氏:
よろしくお願いいたします。きっかけは、私が幼い頃から実家で文鳥を飼っていたことです。実家は静岡で、小さい頃から家族の一員として可愛がってきました。
上京して一人暮らしを始めた際、文鳥を連れていくことができず、とても寂しい思いをしていたんです。ゲーム会社に就職してからも忙しく、文鳥を迎える余裕がないまま、長い時間が過ぎてしまいました。
最近ようやく生活が落ち着き文鳥を迎えることができたのですが、自分と同じように、事情があってペットを迎えられない方は多いのではと感じています。病気で難しい方や、忙しい一人暮らしの方など、さまざまなケースがあります。
そこで、スマホアプリで文鳥を迎えて楽しめる育成ゲームがあれば、同じ思いをしている人たちにも喜んでもらえるのではと思い、本作を作ろうと決めました。
――今回、私もプレイしたのですが、文鳥が3Dで表現されていて、とてもリッチな作りになっているのは驚きました。実際に作ってみての苦労はいかがでしたか。
poyo氏:
本当に文鳥らしさを表現するのは難しかったです。文鳥って、行動に合わせて体が伸び縮みするんですよ。伸びたり、寝るときはお餅のように丸くなったり。その独特の動きが文鳥の魅力でもあるので、3Dモデルや骨格で再現するのはかなり大変でした。
それに、文鳥はとても気まぐれで、甘えていたと思ったら突然怒ったりと、喜怒哀楽がはっきりしています。その個性をゲームシステムにどう落とし込むかも悩みました。機械的な動きではなく、本当にそこに文鳥が生きているように感じてもらいたかったので、AI部分は何度も作り直しながら試行錯誤しました。
ようやく「これだ」という挙動にたどり着いても、次はゲームバランスに課題が出てきました。実際の文鳥のように気まぐれで野菜を食べないことがあるのですが、ゲーム上は野菜を食べてもらわないとライブが成功せず、コインも稼げない。そうした辻褄を合わせるのがとても大変でした。
――文鳥がライブをするというのも、面白い発想ですよね。
poyo氏:
そうですね。育成ゲームとして遊ぶだけでももちろん楽しいのですが、それだけだとどうしても飽きが来てしまうかなと思ったんです。せっかく着せ替え機能があって、文鳥にいろいろなお洋服を着せられる仕組みがあるので、着替えさせて終わりではなく、そのコーディネートを活かせる場が欲しかったのです。
そこで、文鳥が自分のコーディネートでステージに立ち、ライブで踊るという要素を入れれば、何度も繰り返し楽しんでいただけるのではと思いました。さらに、ゲーム内で3羽をお迎えすると、違ったポーズや演出も楽しめるので、ライブの見応えも増します。
また、ローカライズして世界中の方に『しあわせ文鳥LIFE』を楽しんでいただきたいという気持ちもありました。ライブというステージ表現は、どの国でも分かりやすく、受け入れられやすいコンテンツなんです。日本ならアイドル、アメリカならスーパースターといった形で、ステージで歌ったり踊ったりする文化は共通して人気があります。
そうした、見て楽しい要素を広げたいという思いから、ライブの要素を採用しました。文鳥がステージで輝く姿も含めて楽しんでもらえたら嬉しいと思っています。
――実際に文鳥を飼っていて、その経験がゲームに生かされた部分はありますか?
poyo氏:
はい、すごくあります。毎日文鳥を見ていると、伸びをしたり、片足を隠して片足立ちでお昼寝したりと、さりげない仕草がたくさんあるんです。そうした細かい動きは、開発の会議でもモデルづくりの参考としてよく反映しました。
文鳥はメジャーな動物ではないかもしれませんが、毎日一緒にいるからこそ、かわいさを実感しますし、「この魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい」という気持ちがますます強くなりました。そういう意味でも、この子の存在には本当に感謝しています。
――ゲーム内だとエサの種類とかたくさんありますよね。野菜もあったと思いますが、あれも実際に文鳥が食べているものを参考にしているのでしょうか?
poyo氏:
そうですね。基本的には、文鳥が実際に食べられる野菜や果物だけをラインナップしています。架空の食材や食べてはいけないものはなるべく避けています。文鳥の生活をできるだけリアルに再現したいという思いがあるんです。
とはいえゲームなので、実際の文鳥とは違う部分もたくさんあります。ただ、このゲームをきっかけに「文鳥って何を食べるんだろう?」と調べてみたり、飼育本を手に取ってみたりして、文鳥という生き物を知る入り口になれたら嬉しいなと思っています。
実際に、最近は「小学生のこどもがとても楽しんでプレイしています」というメールを親御さんからいただくこともあって、作り手としてとても励みになっています。
ゲームを通して、文鳥を迎える選択肢を知ってもらえたり、少しでも身近に感じてもらえたりしたら、つくり手として大きなやりがいを感じます。
育成ゲームの原体験は?

――そもそも、なぜ本作のようなインディーゲーム開発に取り組むようになったのか、そのきっかけについても教えてください。
poyo氏:
もともとゲームが大好きで、『ファイナルファンタジー』や『マリオ』など、RPGからアクションまで幅広く遊んでいました。その影響もあって、ゲーム会社に入ってプランナーとして働くことになりました。会社ではさまざまなタイトルに携わらせていただきましたが、自分の中にはずっと「文鳥の育成ゲームを作りたい」という思いがあったのです。
ただ、会社の方向性と自分のやりたいことが必ず一致するわけではなく、企画として通すのは難しい状況でした。そこで、「自分の趣味として個人制作し、文鳥好きの方に届けたい」と思い、個人で開発を始めることにしました。
――育成ゲームを作ろうというのも最初から決まっていたのですか?
poyo氏:
はい、育成ゲームを作りたいという思いは最初からありました。ニンテンドーDSの『ニンテンドッグス』という作品があって、私の周りでもすごく流行っていたんです。犬や猫を飼いたい人はやっぱり多くて、でも飼えない人がゲームを楽しんでいたのだと思います。だけど私の家庭では犬や猫ではなく、ずっと鳥を飼っていて(笑)。
少し珍しいかもしれませんが、私にとっての「ペット」といえばやはり文鳥で、それが自然と育成ゲームとして形になりました。ワンちゃんや猫ちゃんももちろんかわいいですが、文鳥を主役にしたゲームがあってもいいのでは、と思ったことがきっかけです。
――育成ゲームだと、なにか影響を受けた作品はあるのでしょうか。
poyo氏:
子どもの頃、『ポストペット』というメールツールの中でペットを飼えるゲームがありました。それが育成ゲームの最初の体験だったと思います。メールを書くとペットが手紙を届けてくれたり、逆に相手のペットが来てくれて遊んでくれたりする仕組みでした。
私の場合、メールを送る相手が父親しかいなかったのですが、それでもその体験がすごく印象に残っていて、「自分がゲームクリエイターになったらどんなゲームを作りたいか」と考えるきっかけになりました。ペットをかわいがったり、部屋を模様替えしたり、着せ替えしたりすると、ペットから「ありがとう」という手紙が届くんです。それがとても温かくて、プレイする側も優しい気持ちになれました。
そういう優しい気持ちを届けられるゲームを作りたいという思いが、私の中で強く根づいていたんだと思います。そうした影響もあって、自然と育成ゲームを選び、今回の文鳥の育成ゲームにつながりました。
――会社でもゲーム作りに携わり、個人でも『しあわせ文鳥LIFE』を作ってと、二足のわらじだったわけですよね。
poyo氏:
おっしゃる通りです。最初に入社したときは、女性向けの乙女ゲームや海外向けの運営、イベント関連の業務に携わっていました。ただ、「もっと開発やシステム面のスキルを身につけたい」と思い、プログラミングを勉強し、ゲームプログラマーとしてのキャリアも積むようになりました。
そのうえで『しあわせ文鳥LIFE』の開発に取り組んだのですが、一番大変だったのは時間の確保でした。会社の仕事は必ず定時で終わるわけではなく、その後に開発を続けるという日々でした。土日や祝日も開発時間に充てていたため、自由に休んだり遊ぶ時間はほとんどありませんでした。
楽しいこともたくさんありましたが、一方で「やりたいことができない」「遊びに行けない」という苦しさもありました。さらに体力的にも、仕事が終わった後にまた開発をするという生活が続き、限界を感じた時期もありました。それでも文鳥のかわいさや、「届けたい」という思いがあったからこそ、乗り越えられたのだと思います。
――『しあわせ文鳥LIFE』の開発期間としては、どのくらいの時間をかけたのでしょう。
poyo氏:
最初は3ヶ月から半年程度でリリースできると考えていたのですが、実際には1年ほどかかりました。本格的に開発を始めたのは去年の夏、8月や9月ごろですが、開発を進めるうちに「あれも入れたい、これも入れたい」と要素が増え、なかなか終わりが見えませんでした。
――なるほど(笑)。とはいえ、やはりある程度はスケジュールを決めたほうが、作りやすさもある?
poyo氏:
はい、その通りです。開発期間を区切らないと、ついだらけてしまうこともあります。休みの日に遊びたいという気持ちが強くなって、開発が自然消滅してしまうことも珍しくありません。ですので、「この時期までに終わらなかったらリリースできない」といった具合に、自分で自分にプレッシャーをかけながら進めていました。
結果として、リリースは当初よりも延期になってしまいましたが、いいこともありました。10月24日は「文鳥の日」という記念日なのですが、この日に合わせてリリースすることができたんです。文鳥好きの方にも、まだ知らない方にも知ってもらえる日なので、この日に出せたのは非常に意味がありました。
また『しあわせ文鳥LIFE』は個人の小さなタイトルですので、大手タイトルと同時に出してしまうと埋もれてしまう恐れもありました。この日を選べたのは、このゲームが輝けるベストなタイミングだったと感じています。
――そこまでいくと、ゲーム作りを趣味にしないと、なかなか難しそうですよね。
poyo氏:
本当にその通りです。途中で「もうやめたい」と思うことも何度もありました。でも、1年前にX(旧Twitter)で「文鳥のゲームを10月24日にリリースします」と告知したところ、これが予想外にバズったんです。1日でフォロワーが2,000人増え、インプレッションも20万を超えました。
文鳥が好きな方たちがたくさん応援してくださって、「この人たちが楽しみにしてくれているなら、絶対に完成させなければ」と思い、支えられながら開発を続けました。大変ではありましたが、それだけに妥協のない作品にしたいという思いも強く、なんとかリリースまでたどり着けました。
ゲームづくりで大切なのは「独自のポジションを築くこと」

――実際にリリースしてしばらく経ちましたが、手応えや反響はいかがですか?
poyo氏:
正直に言うと、想像以上でした。リリース前から応援してくれる方がたくさんいたとはいえ、実際にプレイしてもらえるかどうか、不安はありました。ゲーム業界では「フォロワーがたくさんいてもインストールされるとは限らない」という現実もよく見ていますから。
事前登録していただいた方が5,000人だったのですが、リリース後の1~2日でインストール数が4,000を超えたんです。通常、事前登録の10%程度がダウンロードすれば良いとされていますが、本当に驚きました。
さらにApp StoreやGoogle Playでもシミュレーションカテゴリのランキングに入り、これも想定外でした。それだけ多くの方に情熱を持って応援していただいた結果だと、本当に感謝しています。これからも長く続けていくために、しっかり取り組んでいきたいと思っています。
――傾向としてはやはり、文鳥を飼っている人、もともと文鳥が好きな人が多い印象ですか?
poyo氏:
そうだと思います。ひとつ驚いたのは、台湾から700件のインストールがあったことです。台湾だと特に文鳥を飼われてる方が多いらしく、どこからともなくバズったみたいです。本作は最初から英語のテキストも収録しているので、それが良かったのかもしれません。
――ゲーム業界にいて、ゲーム業界を知っているからこその難しさもあったのでは? 未経験の人ならば、「まずはリリースするのがゴール」という目標でもいいと思いますが、業界を知っていると利益のこと、埋もれてしまうことが気になりますよね。
poyo氏:
はい、まさにその通りです。会社では女性向けゲームのディレクションや企画に携わっていましたが、スマホゲーム市場は特にレッドオーシャンで、リリースしてもうまくいかないことが多いという現実をよく知っています。
その中で、『しあわせ文鳥LIFE』がどれだけ生き残れるのかは本当に不安でした。それでも、「絶対に遊んでくれる人はいるはず」という確信がありました。私自身、上京して文鳥を迎えられず寂しかった経験があって、同じようにペットを迎えられない方はきっといるのでは、と考えていたからです。
結果として、その思いがきちんと刺さる形で届いたのだと思っています。文鳥が好きな方、ペットを飼えない方、育成ゲームが好きな方…そんな方々にちゃんと受け止めてもらえたのではないかと感じています。
――『しあわせ文鳥LIFE』で今後挑戦してみたいこと、あるいは将来的な目標はありますか。
poyo氏:
まず、『しあわせ文鳥LIFE』は、忙しいお仕事や勉強の合間に文鳥を通して癒されてほしいという思いで作ったゲームです。リリース時点では文鳥との生活やライブを楽しむ形で完結していますが、今後はソーシャルなつながりを広げていきたいと考えています。
たとえば、自分の文鳥をほかのプレイヤーに見てもらったり、友達の文鳥とお出かけさせたりして、その様子を写真に撮るなど、やわらかく交流できる仕組みを検討中です。そうした優しい交流の輪が広がっていくような機能を実装したいと思っています。
また、台湾や韓国など海外からの問い合わせも多く、日本以外の方にも楽しんでいただけるよう、現在ローカライズに注力しています。文鳥を通して、世界中の人がほっとした気持ちになれるゲームに育てていきたいです。
家具やお部屋のアイテムなども定期的に追加し、もっと自由に部屋のコーディネートが楽しめるようにもしていきたいですね。
さらに、「鳥フェス」という鳥好きが集まるリアルイベントにも出展を考えています。ユーザーの声を直接聞いたり、グッズを販売したりと、リアルの場でも『しあわせ文鳥LIFE』を広げていければと企画中です。今後もいろいろな形で、優しい文鳥の世界を届けていきたいと思っています。
――最後に、これからインディーゲームの開発を目指す人に、なにかアドバイスなどあればお願いします。
poyo氏:
インディーゲームの開発は、本当に茨の道の連続だと思います。時間をかけて理想のゲームを作ってもお客様に届かなかったり、逆に求められているけれど自分の作りたいものではなかったり……モチベーションを保つのが大変な場面も多くあります。
私自身も働きながらの開発で、体力面の限界を感じたり、資金面で不安になったりしました。そんな中でも続けられたのは、「文鳥のかわいさを世界中に届けたい」という強い思いがあったからです。
開発を続ける中でつらい時は、自分の心と相談して、「本当に自分がやりたいことって何だろう?」と何度も立ち返ることが大切です。その振り返りが、道を照らしてくれることがあります。時には、「本当にゲームという形で表現するのがベストなのか?」と問い直すことも必要かもしれません。
また、自分が作りたいゲームが本当に自分以外にも必要とされているかを客観的に判断する想像力も不可欠です。マーケットを調べたり、競合の存在理由を考えたりする冷静さも、夢だけでは足りない現実の部分です。
インディーであるからこそ、ブルーオーシャンを見つけ出し、独自のポジションを築くことが重要だと思います。市場分析やトレンドの把握など、バランス良く進めていく姿勢が必要だと感じています。
――ありがとうございました。