
アピリッツ<4174>は、2026年1月期 第3四半期累計(25年2~10月)の決算を発表した。売上高は前年同期比18.1%増の76億1900万円と、引き続き高い成長率を維持した。一方、Webソリューション事業における大型不採算案件の影響により、営業損益は1億2400万円の赤字となった。
同社は赤字要因を一過性のものと位置付けており、プロジェクト管理体制や人材構成の見直しを進めるとともに、推しカルチャー&ゲーム事業では協業開発から受託開発への戦略転換を打ち出し、収益の安定化を優先する姿勢を鮮明にしている。

■不採算案件が利益を圧迫、解消は視野に
第3四半期単体の売上高は24億6300万円(同110.3%)と堅調だったが、原価は同22.0%増と売上の伸びを上回った。成長投資に伴う販管費の増加も重なり、利益面では厳しい結果となった。

特にWebソリューションセグメントでは、大型案件2件が不採算化し、各四半期で継続的に利益を圧迫してきた。ただし、そのうち1件は第3四半期中に終了しており、残る1件も翌期初までに完了する見通しだ。会社側は「原因と対応策は明確になっている」としており、同セグメントの利益は段階的に回復するとしている。

■推しカルチャー&ゲームは高成長、構造改革も進展
推しカルチャー&ゲームセグメントの第3四半期売上高は11億5700万円と、同37.7%増を記録した。今期から、従来はデジタル人材育成派遣セグメントに含めていた一部売上(約1億3900万円)を同セグメントに移管しているが、これを除いても基調としては右肩上がりの成長を維持している。

セグメント営業利益は6700万円と黒字を確保した。第2四半期には、タイトル終了に伴う未消化ポイントの収益化という一時的な特需があったため、第3四半期は反動減のように見えるが、事業の実態としては安定的に推移している。

■協業開発から受託開発へ、戦略の軸足を転換
今回の決算説明で注目されるのが、推しカルチャー&ゲーム事業における戦略転換だ。
同社はこれまで、自社ゲーム開発に加え、他社と共新作を開発する「協業プロジェクト」を成長ドライバーとして位置付けてきた。しかし決算説明では、こうした協業型開発について、
・初期投資負担が大きい
・収益化までの期間が長い
といった課題があることを認めた上で、投資負担の大きい新規開発から、着実に収益が見込める受託開発へと方針を転換したと明確に説明している。
同社が強みとするのは、エンタメ領域における大規模会員基盤、課金システム、Webサービス開発力であり、これらを活かせる受託案件の引き合いが増えているという。協業開発からの転換は、成長性を放棄するものではなく、事業リスクを抑えつつ収益の確度を高めるための判断といえる。

■不採算案件は「再発」、再発防止策の実効性が焦点に
なお、Webソリューション事業における不採算案件については、前期(2025年1月期)にも同様の事象が発生し、業績悪化の要因となった経緯がある。同社の主力である受託開発ビジネスでは、案件規模の拡大や要件変更などにより、原価超過が発生しやすい構造的リスクがある点は否定できない。
一方で、今回の決算はそうしたリスクが再び顕在化した「再発事例」であり、市場が注視するのは「不採算案件が起きたこと」そのものよりも、再発防止策が実効性を伴うかどうかだろう。
同社は対策として、シニア層をプロジェクトマネージャーに据えた体制への転換や、ミドル層・海外リソースを組み合わせた開発体制の再構築を進めている。従来の若手中心・製造偏重型の体制から、要件定義や進行管理に強い人材を前段に置く体制へ移行する狙いだ。
これらの施策は理論上、再発防止につながる内容ではあるものの、実際に不採算案件を抑止できるかどうかは、今後の大型案件の進行状況を通じて検証される局面に入ったと言える。次期以降、Webソリューション事業の利益率が安定的に回復するかどうかが、同社の成長ストーリーを支える重要な判断材料となりそうだ。
■人材ポートフォリオ改革で大型案件対応力を強化
不採算案件の反省を踏まえ、同社は人材構成の見直しにも着手している。これまで若手エンジニア中心だった体制を改め、シニア層をプロジェクトマネージャーとして配置し、その下にミドル層、開発の一部を海外拠点に委託する体制へと移行。1億円超規模の案件にも耐えうる組織づくりを進めている。
加えて、HCD(人間中心設計)に関する社内教育を強化し、資格保有者は100名に到達。Webソリューション事業の原価要員の約3割が資格を持つなど、付加価値の高い開発体制の構築を進めている。


■安定配当を維持、回復局面は次期以降に
配当については安定配当方針を維持し、期初計画通り年間28円(中間14円、期末14円)を据え置いた。
足元では赤字決算となったものの、問題は限定的かつ解消時期も見えている。ゲーム事業における戦略転換、人材ポートフォリオ改革が進展すれば、売上成長を維持しながら利益回復を実現する局面は、次期以降に訪れる可能性が高い。