
東宝<9602>は、1月14日、2026年2月期第3四半期(2025年3月1日~11月30日)の決算説明資料を開示した。映画事業の好調とIP展開の拡大を背景に、営業収入・各段階利益はいずれも歴代最高を更新。国内映画市場での圧倒的な存在感を示すと同時に、海外・IP領域を軸とした成長戦略を鮮明にしている。
■映画事業が業績を牽引、東宝の“稼ぐ力”が鮮明に
今回の第3四半期決算において、東宝の業績を最も強く押し上げたのが映画事業だ。映画事業の営業収入は1485億円(前年同期比39.4%増)と大幅に伸長し、営業利益面でも全社業績を牽引した。
【第3四半期累計の決算】
・営業収入:2813億6600万円(同20.2%増)
・営業利益:600億9200万円(同13.8%増)
・経常利益:608億8000万円(同18.1%増)
・最終利益:465億8700万円(同36.5%増)
背景にあるのは、大型IPと話題作を安定的にヒットさせる配給・製作力である。「鬼滅の刃」「国宝」「チェンソーマン レゼ篇」「8番出口」など、アニメ・実写の両分野で強力なタイトルを揃え、幅広い観客層を取り込むことに成功した。
特にアニメ作品においては、単発ヒットにとどまらず、シリーズ性・IP展開を見据えた戦略が奏功している。劇場公開後のパッケージ、配信、商品化、海外展開までを一体で設計することで、作品ごとの収益最大化を実現している点は、東宝ならではの強みと言える。
■国内映画興行は暦年で過去最高、東宝の市場支配力が際立つ
2025年の国内配給作品の興行収入は1605億円に達し、暦年ベースで過去最高を記録した。これは単なる一時的なヒットの積み重ねではなく、東宝が国内映画市場において圧倒的な存在感を維持していることを示している。
特筆すべきは、興行収入100億円を超える作品が4本誕生した点だ。「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来」「国宝」「劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』」「劇場版『チェンソーマン レゼ篇』と、いずれも強力なIPを背景に持つタイトルが並ぶ。
これらの作品は、公開初動だけでなく、リピーター需要や長期上映によって興行収入を積み上げており、“当てて終わり”ではない興行設計がなされている点が特徴だ。TOHOシネマズを中心とした上映網、プロモーション、話題喚起の巧みさが、作品のロングラン化を後押ししている。
■映画館ビジネスも進化、体験価値で差別化
映画事業の底流には、映画館ビジネスの高度化もある。2026年3月には「TOHOシネマズ 大井町」が開業予定で、Dolby Cinemaの導入が決定している。高品質な映像・音響体験を提供することで、配信サービスとの差別化を図り、劇場ならではの価値を高める狙いだ。
また、同社は今後、映画企画段階からグローバル展開を前提とした作品開発を進める方針で、2026年4月には映画企画部内にグローバル企画専門部署を新設する予定としている。国内興行での成功を起点に、北米・欧州を含む海外市場へと波及させる体制づくりが本格化する。
■「映画を作る会社」から「映画で世界を動かす会社」へ
今回の決算は、東宝が依然として映画事業を中核とする企業であることを強く印象付けた。同時に、映画興行で築いた圧倒的な収益基盤を、IP・アニメ、ゲーム、海外展開へと拡張するフェーズに入っていることも浮き彫りとなった。
国内市場での確固たる支配力と、世界市場を見据えた作品・興行戦略。東宝の映画事業は今後も、同社成長ストーリーの“エンジン”であり続けそうだ。
■IP・アニメ事業は成長継続、海外展開を加速
IP・アニメ事業の営業収入は557億円(前年同期比8.0%増)と堅調に推移した。一方で、のれん償却負担の増加などにより営業利益は151億円と減益となった。
ただし、戦略面では大きな進展がある。
欧州向けIP展開を目的にTOHO Europe Limitedを設立し、英国のアニメ配給会社Anime Limitedを完全子会社化。北米ではGKIDSとの連携も進めており、アニメ・映画IPのグローバル展開体制が着実に整いつつある。
また、ゲーム分野では『怪獣8号 THE GAME』を2025年8月に全世界同時リリースし、1カ月でダウンロード数500万を突破。IPのマルチ展開が新たな収益機会を生み始めている。
■株主還元を強化、株式分割と配当増額を実施
株主還元策も強化された。期末配当金を20円増額し、年間配当金は105円(前期実績85円)となる見通しだ。あわせて、普通株式1株につき5株の株式分割を実施し、投資単位の引き下げを図る。株主優待制度についても見直しを行い、贈呈時期を年1回(8月末基準)に変更。分割後の株式数に応じた制度設計へと改定する。
■中計2028と長期ビジョン2032――「世界」と「つながる」東宝へ
中期経営計画2028では、「人」「企画」「世界」、そして顧客と「つながる」ことを重点指針に掲げる。FY2028までに営業利益700億円以上、ROE9%以上を目標とし、株主還元は年間85円配当を下限に、配当性向35%以上と機動的な自己株式取得を継続する方針だ。
成長投資としては、コンテンツ企画・製作やIP創出に3年間で約700億円、M&Aやシネコン投資などに約1200億円を投下する計画。中でもゴジラIPには約150億円、顧客基盤プラットフォーム「TOHO-ONE」には約50億円を投資する。
長期ビジョン2032では、海外売上高比率を現在の約10%から30%へ引き上げることを掲げ、IP・アニメ事業の営業利益を200%以上に拡大する野心的な目標を示した。
■国内トップから“世界の東宝”へ
第4四半期は映画事業の反動減を見込み、通期業績予想は据え置かれたものの、進捗は想定を上回る水準だ。国内映画市場での圧倒的な強さを基盤に、IP・アニメ、ゲーム、海外展開、そしてTOHO-ONEによる顧客接点の拡張へ――。東宝は今、単なる映画会社から、世界規模のIP企業への転換点に立っていると言えそうだ。
【26年2月通期の見通し】
・営業収入:3600億円(同15.0%増)
・営業利益:650億円(同0.5%増)
・経常利益:655億円(同1.6%増)
・最終利益:475億円(同9.6%増)
・EPS:280.77円
【通期計画に対する進捗率】
・営業収入:78.2%
・営業利益:92.4%
・経常利益:92.9%
・最終利益:98.1%
会社情報
- 会社名
- 東宝株式会社
- 設立
- 1932年8月
- 代表者
- 取締役会長 島谷 能成 / 取締役社長 松岡 宏泰
- 決算期
- 2月
- 直近業績
- 営業収入3131億7100万円、営業利益646億8400万円、経常利益644億5500万円、最終利益433億5700万円(2025年2月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 9602