
転職に関する情報は世の中にあふれているが、その多くは常識として語られている一方で、実際のところ本当なのか間違いなのか、分からないまま語られているケースも少なくない。 そこで本連載では、転職にまつわる素朴な疑問や噂について、現場を知る弊社の人事担当者にヒアリングを実施。エンタメ業界に特化した求人を扱う立場から、業界ならではの視点も交えつつ、実際のところはどうなのかを紐解いていく。
“自分の言葉”が重要になる理由
今回のテーマは、書類に書く「志望動機」について。転職活動で応募書類を書く際、「給与が高い」「自宅から近い」といった現実的な理由を書いても問題ないのか、気になったことがある人は多いのではないだろうか。生活や働き方に直結する部分だけに、本音として重視している人も少なくないはずだ。
では実際のところ、人事担当者はこうした内容をどう見ているのか。まず前提として、人事側は「条件面を重視すること」自体を否定的には捉えていないという。
ただし、「そもそもの話になりますが、『給与が高い』『家から近い』といった内容は、“志望動機”というより“応募理由”に近いのではないかと思います。」とも言われてしまった。
「自分が求める条件に合っているか」を見るのは当然のことだが、企業側が志望動機を確認する目的は別のところにある。それは、企業側が志望動機を知りたい理由は、突き詰めると「なぜ数ある企業の中でうちなのか」を知りたいからだ。
つまり、「給与が良い」「通いやすい」という理由だけでは、“応募した理由”は伝わっても、“その会社を選んだ理由”までは見えにくいというわけ。条件面だけで終わってしまうと、“応募理由”は伝わっても、“その会社を志望する理由”までは見えづらくなってしまう。
もちろん、条件面を重視すること自体がマイナス評価につながるわけではない。ただ、人事側としてはそこに加えて、「その会社で何をしたいのか」「なぜその企業に魅力を感じたのか」といった部分まで知りたいというのが本音のようだ。
一方で、転職活動では、「少しでも良く見せたい」という気持ちから、綺麗に整った志望動機を書こうとする人も多い。しかし「あまりにきれいすぎると逆に嘘っぽく見えるのでは?」と不安に感じることもあるだろう。
この点について人事担当者に聞くと、まず前提として、感じ方には個人差があるとしたうえで、次のように語った。
「綺麗な言葉を並べるよりも、ある程度「本音」が混ざっているほうが、その人らしさやリアリティを感じることは多いと思います」
特に志望動機は、“正解らしい文章”を目指そうとするほど、似たような表現になりやすいという。これはエンタメ業界でも同様で、たとえば「感動を届けたい」「人を笑顔にしたい」といった言葉は、もちろん嘘ではない。しかし、それだけでは他の応募者との差が見えづらくなってしまう。
そこで重要になるのが、その人自身の体験だという。たとえば「学生時代に触れた作品がきっかけで業界を志した」「イベント運営を経験して裏方の仕事に興味を持った」など、自分の実体験と結びついた内容があると、文章にリアリティが生まれる。
人事担当者は最後に、こんなポイントも挙げていた。
「完璧な文章を目指すよりも、“自分の言葉で書かれているか”のほうが、読み手の印象に残るケースは多いと思います」
もちろん、誤字脱字や極端に砕けた表現は避ける必要がある。ただ、“綺麗に見せること”ばかりを意識するよりも、「なぜそう思ったのか」を自分の言葉で書くことが、結果的に印象に残る志望動機につながるのかもしれない。
「好きな作品に関わりたい」はアリ? エンタメ業界ならではの見られ方
エンタメ業界の志望動機では、「昔からこの作品が好きだった」「このIPに関わりたい」といった内容を書く人も多い。
実際、ゲームやアニメ、音楽などが好きだからこそ業界を目指したという人は少なくないだろう。では、人事担当者はこうした“作品愛”をどのように見ているのか。
人事担当者はまず、「その作品への理解や熱量が実務に直結するポジションであれば、プラスに働くケースはあると思います」と、職種によっては十分プラスに働く可能性があると話す。特に、ユーザー目線やコンテンツ理解が求められる仕事では、作品への強い関心が武器になることもあるという。
一方で、注意したいポイントもある。それが、「その作品にしか興味がない」と受け取られてしまうケースだ。
エンタメ企業においては、複数タイトルを横断して担当したり、将来的に別ジャンル・別部署へ関わる可能性もある。そのため、特定作品への熱量が強すぎると、「柔軟に動けるだろうか」と懸念される場合もあるという。
さらに、エンタメ業界ならではの特徴として、「好き」を持った人材が集まりやすいという点もある。単純に「好きです」と伝えるだけでなく、「なぜその作品に惹かれたのか」「自分はどのように仕事へ活かしたいのか」まで踏み込めると、より説得力のある志望動機になりやすいのだろう。
人事は志望動機のどこを見ている? “完璧さ”より重視されるポイント
ここまで、「現実的な理由はマイナスになるのか」「綺麗すぎる志望動機はどう見られるのか」といったテーマを聞いてきた。
では実際に、人事担当者は志望動機のどこを重視しているのだろうか。
今回、「志望動機を見る際、特に重視しているポイントはどこにありますか?」という、より実践的な質問も投げかけてみたが、返ってきたのは、「書類段階で完璧な志望動機を求めているわけではない」という回答だった。
そのうえで、人事担当者が特に目に留まりやすいと語ったのが、「自分の言葉で書かれているかどうか」だ。
たとえばエンタメ業界では、「作品に感動した」「今度は自分が届ける側になりたい」といった志望動機は珍しくない。ただし、そうした想いを持つ人が多いからこそ、内容が似通いやすい側面もあるという。
そこで差が出るのが、「その人自身の経験」が見えるかどうかだ。「どの作品に影響を受けたのか」「どんな出来事がきっかけで業界を目指したのか」「なぜその会社に惹かれたのか」といった背景まで語られていると、一気に“その人らしさ”が出てくるという。
もちろん、文章の上手さや綺麗さもまったく不要というわけではない。ただ、それ以上に重要なのは、「自分の経験や感情を、自分の言葉で語れているか」。人事担当者の話からは、そんな“リアリティ”こそが、書類選考で印象に残るポイントであることが見えてきた。
「ちゃんと考えて応募している」と感じる志望動機とは?
最後に、「この人はしっかり考えて応募している」と感じる志望動機には、どのような特徴があるのかも聞いてみた。
人事担当者はまず、企業理解や業界理解はもちろん大切だと前置きしつつ、それ以上に「自分自身の言葉で語られているかは大きいと思います」と回答。
転職活動では、インターネット上の例文やテンプレートを参考にしながら志望動機を書く人も多い。しかし、その結果として“どこかで見たことのある文章”になってしまうケースも少なくないという。
一方で、印象に残りやすいのは、自分の経験や価値観が具体的に語られているケースだという。
・なぜその業界を目指そうと思ったのか
・どんな経験が価値観に影響したのか
・その企業のどこに共感したのか
といった背景が見えることで、文章に説得力やリアリティが生まれる。
そして、人事担当者は最後に、今回のテーマ全体にも通じるポイントを挙げていた。
「上手な文章を書くことよりも、“自分の言葉で書くこと”のほうが、結果的に差別化につながるケースは多いと思います。」
志望動機を書くとき、「正解」を探したくなる人は多い。しかし実際には、綺麗なテンプレートをなぞることよりも、「自分がなぜその会社を選んだのか」を、自分自身の経験と言葉で語れるかどうか。そこにこそ、人事担当者が見ている“その人らしさ”が表れるのかもしれない。





