【体験レポート】歴史ある映画館で生まれる“自分たちだけの物語” 『僕たちの映画館』が挑む「選択」ではなく「対話」で紡ぐ世界線

山岡広樹 gamebiz編集者
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1960年代から数々の作品を上映してきた歴史ある映画館を舞台にした体験型エンターテインメント『僕たちの映画館』。本作は、参加者自身が物語へ介入し、その選択によって世界の行方を変えていく“世界線選択ゲーム”だ。

一般的なイマーシブシアターのように、目の前で展開される物語を鑑賞するだけではない。キャストとの会話や参加者同士の議論を通じて、自分たち自身が物語の一部となり、その公演でしか生まれない世界を作り上げていく。

今回、メディア向け先行体験会に参加し、企画・プロデュースを手掛ける物語体験企画ユニット「櫓」、脚本を担当した「ディズム」氏へのインタビューを交えながら、『僕たちの映画館』が提示する新たな体験の魅力を紹介する。

※本記事にはネタバレが含まれます。


▲1960年代から続く歴史ある映画館を舞台にした『僕たちの映画館』。

■50年以上の歴史を持つ映画館から始まる、もうひとつの世界

会場となるのは、長い歴史を持つ実在の映画館だ。

参加者は客席へ案内されると、まずは案内人との会話を通じて物語への入口へと誘われる。

「ハッピーエンドは好きか」「好きな映画は何か」――。

こうした問いかけに答えていくことで、参加者は単なる観客ではなく、これから始まる物語の一員として自然に世界へ入り込んでいく。


▲案内人との会話を通じて、参加者は物語の世界へ誘われる。

一般的な舞台や映像作品では、観客は基本的に受け手として物語を楽しむ。しかし、本作では最初の段階から自身の言葉が介在するため、「この世界に参加している」という感覚が強く感じられた。

そして、スクリーンでは“最後の上映”が始まる。


▲歴史ある映画館のスクリーンで始まる物語への入口。

ここで描かれるのは、GGG表情管理局と呼ばれる組織が管理する世界。ある仕組みによって人々は監視され、皆が等しく笑顔を浮かべている。

果たして、それは本当に幸せな世界なのか。物語は架空の世界を描きながらも、参加者自身へ問いを投げかけるように展開していく。

本作の企画・プロデュースを担当する櫓によると、そもそもこの映画館を舞台にしたきっかけは、偶然の出会いだったという。

「元々こういった体験型のものを作ろうとしていましたが、その時点ではストーリーや構想が具体的にあったわけではありませんでした。知人経由で素敵な場所があると聞いて、実際に見に来たことが始まりでした」

当初は別のスペースを使用する予定だったものの、映画館の持つ空間や建築の魅力に惹かれた。

さらに、その場所が歩んできた歴史を知る中で、「最後にもう一度、多くのお客様に来ていただける場所にしたい」という思いが生まれたという。

「市民シアターとして愛された場所だからこそ、もう一度お客様にたくさん来ていただく最後の店舗にできるといいなと思いました」

映画館という場所は、単なる舞台ではない。長い年月をかけて人々が映画を楽しんできた空間で、もうひとつの世界へ入り込む。その体験の入口として、この場所自体が大きな意味を持っている。



■映画を見る側から、物語へ介入する側へ

スクリーンで世界観を提示された後、参加者自身もその世界の中へ足を踏み入れていく。

GGG表情管理局の局長の指示によって、参加者は複数の班に分かれ、それぞれ異なる場所へ移動する。

訪れる部屋には、それぞれ異なる人物や出来事が用意されており、どこへ向かうかによって得られる情報や体験も変化していく。


▲訪れた場所や交わした言葉によって、参加者ごとに異なる体験が生まれていく。

もちろん、物語の大きな流れはキャストが導いてくれる。

一方で、自由に行動できる場面も存在する。気になる人物を追いかけるのか、まだ見ていない場所へ向かうのか。その判断は参加者自身に委ねられる。

この自由度は、イマーシブシアターならではの魅力だ。


▲演者との距離の近さも本作ならでは。会話を通じて世界への没入感が一層深まる。

しかし、本作がさらに特徴的なのは、単に「好きな場所を見る」だけでは終わらない点にある。キャストとの会話を通じて、自分自身の考えや価値観を言葉にする場面が用意されている。

脚本を担当したディズム氏は、普段からTRPG作品を手掛けている。その経験を本作にも落とし込んだ。

「TRPGは、単なる選択肢というよりは、自分が発言した内容が物語に強く反映・取り込まれ、あたかも自分ごとのように話が進んでいく体験ができるゲームだと思っています」

本作で目指したのは、単純な分岐構造ではない。

「分岐しているように見えて、同じものを選んでいるようでも、自分の気持ちが反映されているかどうかをより深掘りすることに挑戦した物語です」

プレイヤーが何を選んだかだけではなく、なぜその選択をしたのか。そこまで含めて物語になることが、『僕たちの映画館』の大きな特徴だ。


▲「何を選ぶか」だけでなく、「なぜそう考えたのか」を問われる場面も多い。

■「選択」ではなく「対話」で物語が変わる

本作を体験して強く感じたのは、タイトルにもある“世界線選択”という言葉が、単なる分岐システムを意味していないということだ。

重要なのは、参加者同士、そしてキャストとの対話である。物語の中では、参加者自身が世界の行方について考える場面が訪れる。


▲参加者自身が世界の中へ入り、キャストとの対話を重ねながら物語を進めていく。

その際、単純な多数決で決めるわけではない。櫓は、本作の制作において最も苦労した点として、「多数決ではない形での集団的な意思選択」を挙げた。

「最大24人という参加人数なので、どうしても多数決のような集団的な意思決定になってしまいます。それを、多数決ではない形でどうエンタメに落とし込むかという部分に相当苦労しました」

その結果、本作では主要人物がそれぞれ参加者の意見を受け取り、それをもとに判断を下す構造が採用されている。つまり、参加者一人ひとりの考えが集約され、物語の変化につながっていく。

「『僕たちの映画館』というタイトルの通り、『僕たち』が体験したこの回だけのストーリーになっているというところを発生させたい部分でした」

同じ公演であっても、参加する人が変われば生まれる物語も変わる。それこそが“世界線選択ゲーム”としての魅力だ。


▲「選択」ではなく「対話」によって、その回だけの物語が生まれる。

■人との摩擦やコミュニケーションを考える体験へ

『僕たちの映画館』で描かれるテーマは、遠い未来の架空世界だけに閉じたものではない。

ディズム氏も、本作で描かれる世界について、参加者自身の日常と重ね合わせながら体験してほしいという思いを語る。

「あまり現実から遠いと他人事に思えてしまうかもしれませんが、人間はある物語に対して他人事であっても自分の問題かのように取り込める脳みそや能力を持っていると思っています。『もし本当に自分がこうなったらどうなるんだろう』と没入していただきつつ、『普段の自分も、意外と現実でこういうことあるよな』と体験として感じていただけたら嬉しいですね」

本作では、架空の世界を舞台にしながらも、そこで描かれる出来事や登場人物との関わりを通じて、参加者自身の価値観や日常を振り返るきっかけを提供している。


▲物語の節目ではキャストが参加者を導きながら、次の展開へと誘っていく。

また、櫓は本作を通じて「人との関わり方」について考えるきっかけを作りたいと語る。

「今回のテーマとして選んでいるのは、人とのコミュニケーションや円滑さ、摩擦といったところです」

現代では、できるだけ摩擦を避け、円滑なコミュニケーションを求める場面も多い。

しかし、本当に摩擦がないことが幸せなのか。本作の世界観は、そうした問いを参加者へ投げかける。

また、櫓はAIやテクノロジーの発展についても触れる。

「AIなどの技術が発展し、さまざまな問いに答えを得られる時代ですが、そういったシステムに依存しすぎた先にどうなるか。改めて人が集まり、人だけで答えを出すことの意味を問えるといいなと思いました」

便利な技術が発展する一方で、人同士が向き合い、議論する価値。それを体験として届けることも、本作が目指したもののひとつだ。

■自分たちが選んだ世界線を、最後に映画館で見届ける

物語の終盤、参加者は再び映画館の客席へ戻る。

そこで待っているのは、単なるエンディングの鑑賞ではない。自分たちが選択し、歩んできた世界のその後を見届けることで、体験は一つの映画を観終えたような余韻へと変化していく。


▲自分たちが作り上げた物語を最後に見届ける。

また、本作では没入感を支えるテクノロジーも導入されている。

館内には、参加者の行動や表情を読み取り、体験後の演出へ反映する仕組みも導入されている。

櫓によれば、こうした仕組みの開発にも多くの工夫が必要だった。

「体験したものをどう返していくかというギミックとシナリオの組み合わせには苦労しました」

実際に体験を終えた後には、「自分たちが確かにこの世界を歩んだ」という感覚が残る。


▲会場には至る所に表情管理システム「GGG」が仕込まれている。

■本音と建前の間にある、自分自身の選択を見つめ直す

『僕たちの映画館』は、イマーシブシアターとTRPGの魅力を融合させた、新たな体験型エンターテインメントだ。

ただ物語を見るのではなく、ただ選択肢を選ぶのでもない。

ディズム氏が目指したのは、プレイヤーが「正解」を探す体験ではなく、自分自身の価値観と向き合う時間だ。

「本音と建前、嘘と本当といった部分は、普段生きている中では表に出すと疲れてしまうので、あまり考えないようにしていると思います。こういった非現実的な場所だからこそ、たまにはそういうことも考えてみるかと思えるような、そんな機会になるといいなと思っています」

対話を通じて、自分自身の考えが物語へ反映され、その瞬間にしか生まれない世界線を作り上げていく。


▲体験後も余韻を残す、映画館ならではのエンディング演出。

今後の展開について、櫓は「他の人と行ったらどうなるのか」「別の人が体験したらどうなるのか」といった可能性にも触れた。

「主体的に選んだり考えたりすることを通じて抜けていくようなエンタメに挑戦していきたい」

歴史ある映画館から始まる、たった一度きりの物語。

『僕たちの映画館』が提示するのは、「正しい答えを選ぶゲーム」ではなく、自分たちが何を考え、誰と向き合い、どんな未来を描いたのかを持ち帰る体験なのかもしれない。

(取材・文 編集部:山岡広樹)





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