
グリーホールディングス<3632>が開示した人的資本・人材戦略を見ると、同社が人材を単なる「現在の事業を支える戦力」ではなく、事業ポートフォリオの変化に対応するための重要な経営資源として捉えていることが分かる。
同社は人材戦略の基本方針として、「挑戦できる」「成長できる」「称えあえる」「社会貢献できる」という4つのキーワードを掲げている。社内公募制度「GOJP」や1on1・MBOによる目標管理「GPCP」、表彰制度「GAWP」などを通じて、従業員が新たな領域や役割に挑戦できる環境を整えている。
一見すると、こうした取り組みは企業の人的資本開示でよく見られる「人材育成」や「働きやすい環境づくり」の一環にも見える。しかし、グリーのこれまでの事業展開と重ねてみると、少し違った意味が見えてくる。
■SNSからゲームへ、そしてスマホゲームへ
グリーは2004年の創業以来、インターネットを取り巻く環境の変化に合わせて事業の軸を変えてきた。SNS「GREE」から始まり、フィーチャーフォン向けのソーシャルゲーム市場の拡大とともにゲーム事業を成長させ、その後はスマートフォンの普及を受けてスマホゲームへと事業基盤を広げていった。
つまり、同社の成長は一つの事業モデルを長期間にわたって維持してきた結果というより、その時々の市場環境に合わせて成長領域を移してきた歴史と見ることができる。そして現在は、ゲームだけにとどまらず、アニメやIP、ライブエンタメ、VR・メタバース、AIなどへ事業領域を広げている。
今回の人的資本開示で特に注目したいのは、同社が「継続的な成長実現に向け、エンタメ、AI領域へのシフトを図っていく」と明記している点だ。そのためには「高い専門性を有する多様な人材を確保するとともに、一人ひとりがその能力を高め、新たな領域や役割に挑戦できる組織づくり」が重要だとしている。
ここには、これまでのグリーの事業展開を支えてきた考え方が表れているように見える。
■「成長事業を変える」なら、人材も変わらなければならない
企業が新しい事業へ進出する場合、必要な人材も変わっていく。SNSの時代とゲームの時代では必要な能力が異なり、フィーチャーフォン向けゲームとスマートフォンゲームでも求められる人材は異なる。さらに、ゲームとアニメ、ライブエンタメ、AIでは、それぞれ異なる専門性が必要になる。
こうした変化に対して、すべてを外部採用だけで対応するのは難しい。そこで重要になるのが、現在いる社員が新しい領域に挑戦できる仕組みだ。
グリーHDが社内公募制度「GOJP」を人材戦略の中に位置付けていることは、その意味で興味深い。新しい事業領域が生まれたときに、外から人材を採用するだけではなく、社内の人材が新しい役割へ移っていく余地を持たせている。これは「人を採用する」という人材戦略よりも一歩進んで、「人材を社内で循環させる」ための仕組みと捉えることができる。
グリーがこれまで何度も成長領域を変えてきたことを考えれば、こうした柔軟性は事業戦略とも整合する。
■メタバースも「次の事業」から「収益事業」へ
この点を考えるうえで、メタバース事業の存在も興味深い。グリーがメタバース領域(REALITY)への投資を始めた当初は、将来の成長領域としての意味合いが強かった。しかし現在では、同領域も事業として収益を生み出す段階に入っている。
ここにグリーの事業ポートフォリオの特徴がある。
既存のゲーム事業などで収益を確保しながら、新しい領域へ投資する。そして、新しい領域が成長すれば、それを次の収益源として育てる。その一方で、さらにその先の領域へ投資していく。
つまり、「既存事業を捨てて新規事業へ移る」という単純な新陳代謝ではなく、既存事業で稼ぎながら次の成長領域を育て、事業ポートフォリオそのものを徐々に入れ替えて広げていくという形だ。
そう考えると、現在の「エンタメ、AIへのシフト」という方針も、これまでのグリーの経営の延長線上にある。
■「事業ポートフォリオ」だけでなく「人材ポートフォリオ」も動かす
ここで今回の人的資本開示に戻る。グリーHDは、人材戦略について「採用・育成・登用及び活躍環境の整備」を経営戦略の実現に必要な重要施策と位置付けている。
また、給与についても従業員の役割・職責、能力、成果を踏まえて決定し、外部労働市場の水準も勘案したうえで、グレード制度や半年単位の評価を通じて処遇する考え方を示している。
さらに、従業員持株会や企業型確定拠出年金、育児や介護などに対応する「GREE Family Support」なども整備している。
これらを単独で見ると、福利厚生や人材育成に関する一般的な施策にも見える。
しかし、グリーの事業の歴史と重ねると、もう一つの意味が見えてくる。事業ポートフォリオを柔軟に動かすためには、人材ポートフォリオも柔軟に動かす必要がある。「挑戦できる」「成長できる」という4つのキーワードのうち前半2つは、まさにそのための組織づくりとも読める。
■「変わり続ける会社」を支える人材戦略
グリーの歴史を振り返ると、同社はSNS、ソーシャルゲーム、スマートフォンゲームと、その時々の成長市場へ事業の軸を移してきた。そして現在は、ゲームを基盤としながら、メタバース、アニメ、IP、ライブエンタメ、AIへと事業領域を広げている。
その過程では、当然ながら会社に必要な人材も変化してきたはずだ。だからこそ、今回の人的資本開示で示された「新たな領域や役割に挑戦できる組織」という考え方は、グリーという会社の歴史と非常に相性がいい。
成長領域を一つに固定するのではなく、その時々で新しい市場を開拓する。そして既存事業から得た収益を新しい領域へ振り向け、新たな収益の柱を育てる。
その経営を続けるのであれば、社員にも「今の仕事を続けるための能力」だけではなく、「次の仕事に移るための能力」が求められる。グリーHDの人的資本戦略は、まさにそうした「変わり続ける会社」を支えるための人材戦略として見ることができる。
今後、エンタメやAIへのシフトを進めるなかで、実際にどのような人材を採用・育成し、社内でどの程度人材を動かしていくのか。その結果として新たな事業がどれだけ収益の柱へ成長していくのか。
人的資本の開示についても、こうした「人材投資→人材の変化→事業成長」というつながりが数字で見えてくれば、グリーHDが次の事業転換をどのように進めているのか、より具体的に見えてきそうだ。
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会社情報
- 会社名
- グリーホールディングス株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 最高経営責任者 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高571億1100万円、営業利益48億6000万円、経常利益37億6000万円、最終利益11億9400万円(2025年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632