NUBEEといえば、スマートフォン向けのソーシャルゲームの開発会社として有名だ。福岡で家具のECサイトを運営するベガコーポレーションの子会社としてシンガポールに設立され、以来、「Japan Life」や「コインパイレーツ」などアジアや北米で大ヒット。現在までのアプリの世界累計ダウンロード数は1500万件を超えている。いわば、日本企業に先駆けて世界でヒットしたタイトルを提供している会社ということになる。
NUBEEは、さらに今年1月、六本木ヒルズに東京オフィスを開設し、新タイトルもリリースした。今回、Nubee Pte.Ltd. 開発責任者で、NUBEE Tokyo取締役の桑水 悠治氏に世界大ヒットタイトル「Japan Life」のヒットした秘訣とともに、東京オフィス開設の狙いについても話を聞いた。
■「Japan Life」のヒットの秘訣
---: 「Japan Life」が引き続き好調のようですが、現在のダウンロード数はどのくらいまで伸びたのでしょうか。直近ですと、500万件突破したリリースがあったかと思いますが。
桑水氏: まず、説明的で少し不自然なセリフになるでしょうが(笑)、「Japan Life」の紹介をしておきますと、友だちと協力しながら、日本ならではの魅力的な観光地を発展させていき、プレゼント交換や限定アイテムなどでより個性的な街を作っていく育成ゲームです。2011年7月にリリースし、すでに700万ダウンロードを突破し、その後も引き続き伸びています。特にアジアで評価されており、当社一番のヒットタイトルです。開発チームの体制を維持しながら、運営を継続しています。
---: 「Japan Life」がヒットした要因はなんでしょうか?
桑水氏: まず、テーマが"日本的な町づくり"ということで、日本好きなアジアの人たちに刺さったと思います。また、シンガポールで日本人と現地のアーティストのミックスで開発しましたので、アートスタイルについてもたくさんのアジアの人にとって親しみやすいものになったと思っています。
---: 収益の上げ方について工夫されている点はありますか?
桑水氏: 他のソーシャルゲームと同じく、基本的にはアイテム課金による収益が一番多いですが、実は広告収益もかなり重視しています。例えば、「Japan Life」には、ビデオADを設けており、ユーザーがビデオを見るとインセンティブが出ます。1日何回もみられるとさすがにリワードは出せませんが、この1ビューあたりの収益が大きいのです。数字を示すことができないのが残念ですが、広告収益の比率は他社よりもかなり高いはずです。
---: それはいわゆる焼畑農業的なビジネス展開を避けるという意味があるのでしょうか?
桑水氏: そうです。当社では、ユーザーにアグレッシブに課金を促すことは長期的に見て、マイナスになると見ています。遊んでくれているユーザーを大事にして、長く遊んでもらえるようにすることが重要です。というのは、スマートフォン向けソーシャルゲームは今後、競争が激しくなるでしょうから、広告による獲得単価が上がっていくことは避けられないでしょう。そうすると顧客基盤の価値は飛躍的に上がり、競争を勝ち抜くうえで重要な意味を持つはずです。現在いるユーザーに長く遊んでもらうことを考えると、短期的な視点で収益最大化を図るやり方は避けたいという判断です。100万人集めて5万人しか残らないという状況はまずいですよね。
---: プロモーションについては、どういった形でされたのでしょうか。
桑水氏: 特にコストをかけていないんです。クロスプロモーションやソーシャルメディアを使いましたが、コストを掛けてブーストをかけるようなことはしていません。「Japan Life」は、もともと口コミを意識した作り方をしていましたので、その狙いどおりになりました。「App Annie」(http://www.appannie.com)でチェックしていただくとわかりますが、本当にじわじわとランキングで順位を上げてきたことがわかるかと思います。リリース後から2週間くらいかけて最高位に上がりました。
■ユーザーの立場からコンテンツを考える
--- いわゆるブーストの類は余りやらないと。
桑水氏: いえ、全くやらないわけではないです。Androidアプリについては特にやる理由はないですが、iPhoneは様子を見て、ちょっとだけ、やることがあります(笑)。しかし、現在のApp Storeはまだちゃんとしたゲームを提供していたら、ランキングが自然に上がっていく健全な状況にあります。競争が激しくなってきたら、きちんとプロモーションを行うことになるだろうと思います。
---: すいません。先ほど「口コミ」を意識して、とおっしゃいましたが、どういうことでしょうか?
桑水氏: ちょっと抽象的でしたね。例えば、こういう機能を入れたら、こういうレビューが書き込まれて盛り上がるんじゃないかとか、wikiができたら、こういうことをいうユーザーが出てくるだろうから、ここはあえてチュートリアルで説明を省こう…など、リリース後に実際に遊んだユーザーが何をコミュニティやレビューで話すのかをイメージしながら考えていました。
---: ユーザーの反応を意識して企画したわけですね。あと、他のメディアなどで、ECサイトのノウハウがどういう形で生きたという話をみたのですが、どういうことでしょうか? ピンと来ない部分があるんですが。
桑水氏: これもユーザーの気持ちを考える点では同じです。例えば、ユーザーの立場から、視線の動き方やキャッチコピーの受け止め方などを考えることです。ECサイトでは結局、ページを一番下までスクロールして買い物カゴに入れてもらう必要があるわけです。チュートリアルを1つずつクリアしながら最終的に購入につなげていくところはソーシャルゲームと共通する部分が大きいのです。プロモーションの画像やApp Storeのスクリーンショットなどは、どれだけカッコイイかというよりも、どれだけ説得力があるかが重要になります。その違いをわかっていることが強みでしょうね。…とはいえ今年になってやはりいろいろと分かったことがたくさんあって違いも感じています。昨年のように自信をもって「家具もゲームも同じです!」とは言えなくなってきました。家具とゲームは違います!(笑)
■シンガポールだからこそできる高品質なローカライズ
---: もうひとつ複数の国にまたがってリリースするときに注意することは何でしょうか?
桑水氏: とにかくローカライズには気を使っています。ローカライズする範囲ですが、さすがに画像までは行なっていません。ゲームの翻訳は、本当に特殊ですから、言語のクオリティに力を入れていますね。これまで英語ベースで開発されたゲームを日本語化した際、提出されたテキストを相当直しました。
---: 例えば、どういうことでしょうか?
桑水氏: 翻訳で一番重要なのは、言いたいことがきちんと伝わることですが、それだけではダメです。例えば、ゲームでは言い回し次第で、ユーザーのテンションや楽しさが大きく変わります。「レベルが上がりました。」よりも「レベルUP!!」のほうが楽しいですよね。そういうことの積み重ねです。幸いシンガポールは、色々なバックグラウンドの人が集まりますから、そういう作業がスムーズに進みます。欧米向けだとヨーロッパの人に聞いたり、中国語だと中国系の人に見てもらったり…ということはすぐにできます。そういうことを通じて、ゲームの世界や幅が広がって、世界的にヒットするようなコンテンツを生み出していきたいですね。シンガポールの面白さは、とにかく色々な文化がミックスされているところで、NUBEEのコンテンツにも反映されています。
---: 今後は「Japan Life」と同じジャンルのコンテンツをリリースしていくのでしょうか。
桑水氏: そうですね。「Japan Life」と同じようなジャンルは出したいですが、全く違うタイプのゲームも用意しています。この点は乞うご期待です(笑)。自分でも遊んでいますが、本当に楽しいです。自信があります。業界の流れを作れるゲームになると見ています。もう少し時間がかかりますが、ぜひご期待ください。
■東京オフィス開設は日本市場を取るため
---: 非常に好調なことは理解できたのですが、東京オフィスを開設した経緯はなんでしょうか? 傍目には、このままシンガポールから海外向けに注力してもいいのではないかと思ってしまうのですが。
桑水氏: まず、シンガポールから開始した経緯をお話しますと、NUBEEが設立された2010年11月の時点では、日本はまだフィーチャフォンが主流で、スマートフォンのマーケットは大きくありませんでした。スマートフォンの市場は、将来的に大きくなることはわかっていましたが、市場が大きくなるまで待つよりも、初めから海外も含めて広い地域の市場を取りに行く必要があると考えたんです。どのみちスマートフォンで勝負する場合、海外市場は避けて通れない道ですから。そうしてシンガポールに本社ができたわけです。近年、日本のスマートフォン市場が大きくなってきましたし、当社もヒットタイトルが生まれて、日本国内でも知名度ができて、人材も集まるようになりましたので、東京支社を出すことにしたわけです。
---: ということは、東京オフィスは、日本市場を攻略することがミッションというわけですか。
桑水氏: そうです。各国のApp Storeの売上ランキングを見た時、韓国やフランスなど国内に強いゲームディベロッパーがある国と比較しても、日本市場は、国内企業の上位占有率が非常に高いです。素直に考えて、日本人しか日本人に受け入れられるゲームがつくれないと判断しました。もちろん、ローカライズはそれほど難しいことではないですから、開発したタイトルは海外向けにもリリースします。当社は、作った場所に関係なく、クロスプロモーションをかけますので、海外のユーザーさんにも国内のタイトルを遊んでもらえます。
---: 東京オフィスはプロモーションやPR活動なども行うのでしょうか?
桑水氏: いえ、完全に開発スタジオという位置づけですね。現在、在籍しているのは開発のメンバーだけで約30名です。オフィスにはまだスペースがありますので、80~90名までは増やせるかと思います。
---: 随分増やすのですね。どういう方を採用されてますか?
桑水氏: 良い人であれば、特にこだわりはありません。全体的には、サーバー関係はソーシャルゲーム業界にいた方が多く、クライアント側についてはゲーム業界にいた人が多いですね。イラスト関係は、ソーシャルとコンソール双方から入っています。あくまでそういう傾向があるだけで、ソーシャルゲーム業界から来た方がクライアント側を希望されても全く問題はありません。
---: 基本的にはネイティブアプリが中心になるのでしょうか?
桑水氏: そうですね。弊社ではスマートフォンらしさのあるゲームを追求していますのでネイティブでのゲームが中心となります。これからどんどんデバイスの性能が上がってくるので、その良さとソーシャルゲームの気軽さをいい塩梅でミックスしていきたいと考えています。
---: 募集している職種はなんでしょうか?
桑水氏: サーバーサイドのエンジニア、社内インフラ、2Dと3Dデザイナーなどです。このほか、マーケティングやデータマイニング、プロデューサー、プランナーといった職種も募集しています。
■英語ができなくてもシンガポールで働ける
---: 御社は、シンガポールにも本社がありますが、シンガポールで働くチャンスはあるのでしょうか?
桑水氏: そこはうちの売りなんです。シンガポールでも働けます。むしろ、どんどん行ってもらいたいです。最近、日本もこういう状況ですし、海外で働きたいと考える人が増えているかと思いますが、そういう人にこそぜひ当社に来て欲しいです。いまのうちに海外で働くことは将来、絶対にプラスになるはずです。
---: 語学要件が厳しんじゃないですか? 英語が無理という人でも大丈夫なんですか?
桑水氏: 大丈夫なんです! シンガポールでも英語が全く話せない人もいますが、きちんと働けています。実は、シンガポールでは通訳をするスタッフを採用していますので、そういう人からサポートを受けながら、すこしずつ言葉を覚えてもらっています。ですから、言葉はできなくても、実力のある人は力が出せる環境にあります。どんどんシンガポールで仕事して欲しいですね。100人のスタッフが在籍していますが、20カ国の人が集まっていますので、職場の雰囲気は明るいですし、公私ともにほんとうに充実して面白いですよ。
---: シンガポールに行きたい場合、どうすればいいんですか?
桑水氏: その場合、面接の時にシンガポールで働きたいと話してもらえれば大丈夫です。
---: 英語ができなくても大丈夫というのは、特定の職種だけですか? 例えば、プログラマーやデザイナーだけ…といった制限はあるんでしょうか。
桑水氏: 全職種で英語ができなくても大丈夫です!
---: 通訳を置くという会社は少ないんじゃないでしょうか?
桑水氏: そうでしょうね。仕事のある人に通訳やってもらう訳にはいかないですからね。あと、通訳で採用した人はそれだけをやっているわけではなく、ローカライズのチェックなどもお願いしています。
---: 海外で仕事をしたいという人は言葉の壁が大きいですからね。言葉を覚えてから行くのでは、いつになったらいけるのかわからないですよね。
桑水氏: 大企業だと特にそうですね。当社だと、渡航費用なども会社負担ですので、多少の条件はありますが、気軽に行けます。英語の習得はまだだけど、とにかく行きたいというチャレンジ精神が重要です。そうした意識だからこそ、海外に行っても仕事ができているんだろうと思います。もちろん、英語が習得できるまで、国内で仕事したいという方は東京で働くことができます。そういう方も歓迎です。