【CEDEC 2019】『シャドウバース』が目指すのは「ゲームで食べていける世界」…総合エンターテインメント化へ向けたこれまでの取り組みとは

 
コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、9月4日~6日の期間、パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2019」(CEDEC 2019)を開催した。
 
本稿では、9月4日に実施された講演「Shadowverseのeスポーツ展開 -ゲームがつなぐコミュニティと地域活性化について-」についてのレポートをお届けしていく。
 
本セッションには、Cygames・メディアプランナー マネージャーの松本竜也氏が登壇。同社が開発・運営を手掛ける、本格スマホカードバトル『Shadowverse(シャドウバース)』が目指すところや、リリースからこれまでに実施した施策内容やイベント・大会による地域やコミュニティへの波及効果に関する紹介を行った。
 

■ES大会など地方でのコミュニティ形成の取り組み事例も

 
まず松本氏は、本講演の概要を改めて紹介。大きな催事は都心部での開催が多く、”様々な地域”でゲーム大会が開催され盛り上がる方法を模索したという。『シャドウバース』はスマートフォンがあればどこでも手軽に対戦できるという利点があるため、各地域のお店、学校などと協力してイベントや大会を実施するイベントサポートという仕組みを作った。これにより現在は、イベントサポートの仕組みとコミュニティリーダーの協力によって地域色の強いイベントが各地で開催されており、集客はもちろんコミュニティ形成にも寄与できている。これらの事例を元に、ゲームが地域の活性化に貢献できることについて論じていく。
 

▲Cygames・メディアプランナー マネージャーの松本竜也氏。2015年12月に入社し、『シャドウバース』の立ち上げ時のプロジェクトマネージャーのほか、PC版のリリースや、関連サイト「ShadowversePortal」・Twitter・公式サイト運用、IPコラボ、攻略本などのグッズ作成を担当してきた。2017年1月にはメディアプランナーチームを立ち上げ、Cygamesの各ゲームタイトルを盛り上げるために奮闘している。
 


▲続いて『シャドウバース』の概要を紹介した。2016年6月にリリースされた本作は、全世界2100万DLを達成。現在はスマホ、PCなど4プラットフォームで展開している。
 
●Shadowverseが目指すところ
ここからいよいよ本題へ。まず松本氏は、『シャドウバース』が目指すところとして、開発コンセプトに関する話を展開した。
 
発端となったのは、従来のリアルなカードゲームはとても面白いが「物理的なカードが必要になる」、「対戦相手を探さなければならない」などの障壁の高さである。そこで、スマートフォンでこの体験をゲーム化できるのであれば、手軽に対戦ができてより多くの人にこの楽しさを届けられるのではないかと考えたのが開発のきっかけだと話した。
 

 
また、『シャドウバース』で実現したかった世界として、ゲームとの接し方も以下のように変えたいと考えていたと語る松本氏。
 
面白いゲームを作り上げる前提で、そのゲームの中で
・ゲームが上手い(特徴がある)と人気者になれる(注目度がある)
・ゲームが上手い人が大会で活躍、賞金を得られる
・定期的に大会を実施することで解説や実況を仕事として成り立たせる
・面白かったり、注目度がある人が配信や番組で活躍
 
上記が達成できれば、ゲームが総合エンターテインメントとして求められる時代になる。そこから目指す先として、『シャドウバース』からスーパースターを生み出し、「ゲームが上手かったり、詳しいとゲームで食べていける世界の実現」ができるのではないかと述べた
 
次は「コミュニティへの考え方」について。Cygamesは、『シャドウバース』を10年、20年と長く続くタイトルにしていきたいと考えていると話す。そのためには、文化していく必要があり、そのうえで最も大切になってくるのはコミュニティ形成”だとの考えを示した。これを実現するにあたって「店舗をベースにしたカードゲームコミュニティ」や「昔よくあったゲームショップでのゲーム大会」を参考に、各地でみんなでワイワイゲームを楽しめるコミュニティを目指したのだと順序立てて説明を行った。
 

▲『シャドウバース』が目指すのは総合エンターテインメント。本講演では、これを実現するために実施したさまざまな仕掛けについても紹介を行った。
 
●お客様の楽しみ方と各種施策
『シャドウバース』を楽しんでいるプレイヤーは、重複するケースを含め、大きく分けて以下の4種類となる。
 
A)生活しているプレイヤー:配信、解説、プロプレイヤー
B)大会に参加するプレイヤー:RAGE参加やES大会、オンライン大会に参加して楽しむ
C)ゲームで遊ぶプレイヤー:ランクマッチ、デッキ構築など
D)ゲームを見て楽しむプレイヤー:配信を視聴して楽しむ
 
次に松本氏は、「リアルイベントを実施する意味と効果」についても言及した。これは周りからも聞かれることも多い質問で、まず答えとして、いきなりゲーム内のKPIが上がるようなものではないと話す。賞金制の大型大会がTVで取り上げられ、新規登録者数が多少伸びることはあるものの、それは狙ってできることではないと述べる。逆に、リアルイベントを実施するメリットとして「他のゲームとの差別化」や、目指す大会があることで「長期で見たときの継続率に影響がある」という点を挙げた。
 
そのほか、Cygamesではこうしたリアルイベントで得られる体験や経験を重視しているという。運営チームの狙いとして、ドキドキする経験や新しい交流、ゲーム内の活性化、コンテンツに厚みを持たせられるというメリットが大きいと語った。
 

 
ここからは、6つの点で『シャドウバース』を総合エンターテインメントにするための仕掛けを紐解いた。
 
1.アプリリリース
まだ記憶にも新しいが、アプリをリリースした結果、『シャドウバース』は瞬く間に大ヒットし、現在も非常に多くの学生・社会人など幅広い層の人が本作を遊んでいる。デジタルカードゲームは、当時まだニッチなジャンルであったため、リリース前は全国を回って少しずつファンを獲得していく必要があると考えていたと明かした。
 

▲こちらのアンケートは2019年4月に実施したもの。
 
2.定期的なアップデート 追加カードの実装/バランス調整
『シャドウバース』では、3ヶ月に1回の大型アップデートでカード追加を行っているほか、アップデートの合間にも「アディショナルカード追加」で対戦環境に変化を促している。ゲームバランスの調整に関しては、カードゲーム世界大会優勝者を始めとした上位プレイヤーによるバランシングが行われていると明かした。また、調整の際は実装予定のデータを紙に記して物を作り、リアルなカードゲームのようにしてシミュレーションを行っているのだという。
 

▲カード追加はコストが掛かる部分でもある。こちらの軽減手法については、9月5日に実施された講演「Shadowverse流開発手法 ~QAコスト削減と堅牢性強化を実現するプランナーによるテスト駆動開発~」で紹介された。
 
3.デッキコード機能(ShadowversePortal
3つ目に紹介された取り組みは「ShadowversePortal」のデッキコード機能について。そもそも、40枚のカードを用いてデッキを構築することは難易度が高く、全てのユーザーが行うには難しいと考えていると松本氏は話す。そのため、デッキコード機能で他の人が作ったデッキを試せるWebサービスを開発することで、すぐに流行に乗れる仕組みを作ったのだと説明した。
 

ShadowversePortal(シャドウバースポータル)



▲大会とも連携しており、上位入賞者が使用したデッキを公開してコードを発行できるようにもしている。また、他の人が作ったデッキをベースに数枚を入れ替えて楽しむなどできるようにすることでデッキ構築の障壁を下げているのだという。
 
4.大型大会など公式大会運営
CyberZとエイベックス・エンタテインメント、テレビ朝日の3社で協業して運営するeスポーツイベント「RAGE」では予選とGRAND FINALS(決勝)を別に開催しているほか、各国から大会の上位者に参加権を付与して『シャドウバース』の世界一を決める「World Grand Prix(世界大会)」は優勝賞金の高さからもかなり話題となっている。また、大会を開催する価値はさまざまあるが、「全国高校生シャドバ甲子園」に関しては友達と思い出を作ってもらうという経験していただきたいとの想いを語った。
 

 
5.見る楽しさ、配信を快適なものにする
さらに松本氏は、トッププレイヤーだけでなく”見る側”が増えなければみんなで楽しめないと考えていると述べる。映像を楽しめるものにするため、配信では派手なライトアップや選手の見せ方にも注力している。また、幅広い層が楽しめるよう実況・解説などで補足を行い、”見て楽しむ”・”見て学ぶ”を定着させていきたいと展望を語った。
 

▲これまでの実績として、世界大会やRAGEは1大会200万回以上視聴されている。また、その際の選手紹介や大会演出を見れば、選手の見せ方に注力しているという点も頷けるだろう。この辺りに、エイベックス・エンタテインメントやテレビ朝日と協業している強みが顕著に表れている。
 
6.食べていける環境(プロリーグ、レギュラー番組)の整備
目指すところのひとつである「食べていける環境」を実現するため、プロリーグを設立し、プロ契約で毎月固定給を支払っている。現在は、日本テレビ・au・読売巨人軍・おやつカンパニー・マリノス・吉本・サッポロビール・ソフトバンクといった名立たる企業がプロチームを所有している。そのほか、プロチームに所属することで関連番組への出演や大会での実況・解説、自身の配信を行った際に視聴者がつきやすいとったメリットから徐々に環境が整備されつつあるという。
 

 
では、実際に食べていくためには何をすれば良いのか。まずは「ゲームが上手くなる」ことが大前提となるとのこと。そこから仲間を見つけて一緒に大会に出場したり、議論を交わして戦略をブラッシュアップさせていくことが必要となる。注目度が高い賞金制の大型大会で好成績を収めると選手にスポンサーが付いたり、プロ選手になれたり、番組に呼ばれることもある。
 

 
ここで松本氏は、これら6点は「地盤として必要なもの」だと考えていると述べた。常にゲーム内の環境は変化していき、大きい大会やプロリーグがあり、ゲームが上手いとそこを目指すことができる。視聴する側として見て楽しい配信があり、良いデッキがあれば真似をできる。ただ、都心部およびオンラインのみで完結せず、ここから各地域での盛り上がりに波及していく”ことが何よりも重要であると今後の展望を明かした。大型大会は最終目標であるため、そこに至るまでに腕を磨ける場所や情報交換ができる場所を各地域のコミュニティに作ることが日々のゲームプレイに影響するのではないかと考えているという。
 
●各地域の特色のあるeスポーツ展開
『シャドウバース』では、全国でイベントを開いてもらうためにイベントサポート(ES大会)という仕組みを提供している。これにより、ゲームで地方創生までいかなくても地域活性化を目指しているのだという。コンセプトとしては、昔いろいろなところで開催されていたゲーム大会を実現するもので、魅力的な大会があれば他県からでも遠出をしたくなるなど地域のメリットにも繋がる。生活圏を移して住人を増やすというところまでは難しいが、「みんなで集まってゲームをすると楽しい」、「週末いつも集まる場所がある」、「上手い人に聞ける環境がある」という体験から各地域に人を呼ぶことは徐々にできているため、地域活性化にはなっているのではないかと話した。さらに、こういったコミュニティがあることでゲームがより楽しくなるのではないかと説明した。
 


▲松本氏が手にしているのは、参加者にプレゼントしているリアルプロモーションカード。これは、大会を実施する店舗に対してCygamesが提供している。
 
先ほど紹介された公式大会はほとんどが大きく派手なものになるが、日々遊ぶ場所・ゲームをプレイする仲間がいる場所・身近な店舗での大会の方が接している時間は長い。現実的で身近な目線のeスポーツというところで、「eスポーツ」とは何も派手な大会だけを指す言葉ではない。参加者35人以下の『シャドウバース』の大会は日本全土で毎月350以上も開催されているというから驚きだ。この領域に関しては、ゲームパブリッシャだけではどうにもならないと松本氏は話した。
 

▲ES大会開催のイベントサポートは上記の流れで行われる。こうしたイベントではまず人が集まることが大事だと捉えているため、告知を重視しており、参加者の募集は『シャドウバース』の大会用Twitterなどでも支援を行っている。
 

▲大会開催後は、実施店舗より届けられたレポートから運営事務局にて不正チェックなどのログの確認を行っている。リアルプロモーションカードやバッテリーを目的に大会を開催しているよう偽ることはできないようにしているとのことだ。ただし、バッテリーの渡し方については店舗に任せており、じゃんけん大会などで配布して必ずしも上手いプレイヤーのみにプレゼントしなくても良いようにしている。これにより、イベントによって店舗ごとの特色が表れるとの話だった。
 
続いて、2019年6月の実績からES大会が盛り上がっている地域を分析。大阪や東京などの都心部では店舗や学校の数が多いため開催が多いことはもちろん、目立つところでは富山が独自の広がりをして、コミュニティが定着したことなどが紹介された。また、現在は80%以上の都道府県で月1回以上ES大会が開催されているという。
 

 
次に、イベントの模様や主催者から届けられた声をいくつか事例として紹介した。
 
・Osaka esports basement.(大阪)



 
・カード王(大阪)



 
・HOKKAIDO ESPORTS FESTIVAL(北海道)



 
・岡山サタデーナイトカーニバル 桃太郎カップ(岡山)




▲若い客層を呼び込み商店街を活性化させるために、お祭りの中で、競技人口が多い『シャドウバース』の大会を実施。有名選手が大会への参加を表明したことで一気に十数名から参加の応募があり、大会も非常に盛り上がったとのこと。
 
また、先ほども目立った特徴として挙げられた富山県の事例もいくつか紹介された。
 
・JOYN(富山)



 
・ワタナベ美容室(富山)


 
・フルノ化粧品店(富山)


 
次に、富山県のイベントをスポンサードしている方からの声も紹介した。
 
・第1回eスポーツ 海王杯 海王温泉(富山)




 
これらの事例を基に、松本氏は富山でコミュニティが広がった理由について次のように説明した。
 

 
さらに、『シャドウバース』の大会を活用した新しい取り組みも行っている。
 


▲Cygamesでは、大会を活用して学生にeスポーツや業界の魅力を伝えるイベントを実施。こちらのイベントの詳細レポートは、下記の関連記事にてお届けしている。
 
【関連記事】
【イベント】『シャドウバース』の学生向けe-sports交流会をレポート ゲームを通じて未来を支えるユーザーたちに業界の魅力を伝える
 
そのほか、ES大会からRAGEへと繋ぐ仕組みとして、下記の通り店舗と協業した全国展開を行っている。
 



▲こちらの取り組みは、各地域からRAGEに参加できる取り組みとなっており、ES地方大会で優勝すればRAGE予選大会DAY2に参加できるほか、移動費や宿泊費の提供もある。
 
●Shadowverse ES大会の海外事例
ES大会は国内だけでなく、海外でも日本と同じようなコミュニティが形成されているという。特に、台湾ではイベントサポートも実施しており、毎日数万人のユーザーが『シャドウバース』を楽しんでいる。こういった盛り上がりから、最近では台湾の方が日本へ旅行で訪れた際に日本のES大会に参加するようなこともあったのだとか。
 

 
●Shadowverse ES大会が地域活性化に貢献できる事とこれから
最後のテーマでは、まずES大会(コミュニティ)に参加することでユーザーが得られるベネフィットが紹介された。
 
・交友関係が広がる
何回か通うことで、友達ができたりするなど交友関係が広がっていく。
 
・対面での対戦ならではの刺激が味わえる
ゲームをオンラインで効率的に遊んでもらうこともゲームとして大事な部分ではあるが、人と向かい合う楽しさも味わってもらえる(初めて勝利する高揚感や対面する緊張感、一手間違えたときの後悔など)。
 
・ゲームプレイの上達
対戦が終わったあとの感想を言い合う時間などを設けてゲーム上達に繋がることが多い。
 
・店舗としてのメリット
また店舗としても何度も足を運んでもらうことで、顔なじみになり相談しやすくなるなど、商売の面からもメリットが生まれる。
 
先ほど事例として紹介された通り、地域の盛り上がりに関しては、コミュニティリーダーやコミュニティに依存するところが大きい。そのため、名物店長や運営をしっかり行ってくれる方がいるほど大会が盛り上がる。新しく来た方を大切にしたり、自分たちの地域の代表者に大会で勝ってもらうため、みんなで組み手をするなど、さまざまな形でコミュニティが盛り上がれば、ゲームの楽しさがより大きくなると考えていると松本氏は語った。
 
さらに、各地域で大会やイベントに特色が出れば、遠くの県からゲームを目的に新しい地域を訪れ、新しい友達ができてその地域の名産を食べるなど今までできなかった経験をしていただければ、それほど嬉しいことはないとの想いを述べた。
 
松本氏は「トッププレイヤーが集う場所があっても良いし、身近なメンバーが毎晩のように集まる場所も大事ですし、誰もがふらっと寄れるような場所があるのも大切だと思います」とコメントしたうえで、形には捉われず、各地域でコミュニティリーダーが”それぞれの想い”を持ってリアルイベントを開いてもらいたいと伝えた。
 

▲講演や本記事でES大会に興味が出た方は、『シャドウバース』公式サイトをチェックしてみよう。松本氏は、この盛り上がりを体感してもらうためにも、一度大会に参加してほしいとオススメした。
 
最後に松本氏は、数人のイベントでも立派な大会であるため、店舗や学校など集まる場所があれば基本的に誰でも『シャドウバース』の大会を開催することが可能だと述べた。イベント運用マニュアルも用意しているほか、Cygamesでもサポートを行っており、オープンな募集が可能であれば会社の事業所などでも開催できるので是非、イベントの開催を検討してほしいとして講演の締めとした。
 


 
(取材・文 編集部:山岡広樹)
 
 
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