スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2014年の市場動向と2015年のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2014-2015」。
■2014年は幸せな1年だった
株式会社 Aiming
代表取締役社長
椎葉忠志 氏
代表取締役社長
椎葉忠志 氏
――:本日はよろしくお願いします。まず2014年のアプリ市場についてどうご覧になっていますか。
2014年のゲームアプリ市場は、非常に良い年だったと思います。スマートフォンが一段と普及しましたが、売上ランキングの50位平均で月1億円以上あると思いますし、100位平均でも3000万円以上はあると思います。いろいろな会社が多様なゲームを出していて、どの会社もある程度儲かる状況です。
CPIが高騰するなどといわれましたが、広告を出すとそれなりに人が来る状況にあります。スマホの第一次の成功としては幸せな年だったと思います。3Dやリアルタイム通信を駆使したリッチなゲームも成功を収め、カジュアルなゲームで成功するものがありました。またリリースしてからしばらく経過して数字を伸ばしたタイトルも出ていますし、非常にバランスがとれていました。
――:マーケットしてはまだ伸びていると。
新タイトルが続々と出てくる、ここから3カ月くらいは注視する必要がありますが、市場規模は拡大しています。MobageやGREEでも見られたことですが、単に人が増えるだけでなく、顧客単価が伸びる時期があると思いますので、そういう意味では市場規模が増えているという印象を持っています。
端末でゲームを遊ぶ人が増えましたので、うまくプロモーションしたり、目立つタイトルが出たりすると、瞬間的にものすごいペースでダウンロードされます。『乖離性ミリオンアーサー』のようにタイトルが有名で、スクウェア・エニックスさんが提供するタイトルとなれば一気にダウンロードが伸びます。またコロプラさんの『白猫プロジェクト』も見た目が良くて、新しい遊びを提案しました。総論として市場はまだまだ伸びていくでしょうが、お客様に対して新しい価値を提供できないと大きな成功は難しいでしょう。それ以外で伸ばせるのは、IPやブランドを使って良いゲームを作ることです。『ONE PIECE』や『ジョジョの奇妙な冒険』の成功が記憶に新しいですね。
――:先ほど第一次の成功とおっしゃいましたが、どういうことでしょうか。
マンガでは『ドラゴンボール』が大成功を収めたあと、それに匹敵する成功を収めた作品はありません。ゲームでも月商100億円というタイトルがでていますが、今後はこれを超える成功を収めるタイトルはなかなかでてこないと思います。『妖怪ウォッチ』などのように突然流行して一気に広がるものもありますので、全く可能性がないとはいいません。しかし、今後は10億円~20億円規模のゲームが成功と言われるようになり、これまでのようなケタ違いの成功は限られてくるのではないでしょうか。
――:2014年で気になったジャンルの作品はありますか。
やはり3Dを使ったタイトルが目立ってきました。特に時間をかけて少しずつ伸ばすようなタイトルが目立っていると思います。例えば、アソビモさんの『アヴァベルオンライン』や、KLabさんの『天空のクラフトリート』、Com2usさんの『サマナーズウォー』などは広告費をかけながらも堅実に数字を伸ばしているように見えます。当社の『ヴァリアントレギオン』なども去年の12月にリリースしたタイトルですが、アプリストアのランキングでは100位以内にいるように、1年経過しても伸ばすことができています。
――:リッチとは少し異なるかもしれませんが、キャラクターボイスを入れることが当たり前になってきましたね。
そうですね。Aimingは、他のゲーム会社とは違った面白いゲームを作りたいという気持ちが強くて、そちらにはあまり力を入れてきませんでした。ただ、そろそろ使ったほうがいいかなと考え始めています(笑)。ゲームを立ち上げて声が出ると、ゲームらしさがすごく上がると思いました。声優さんのファンはお金を払うという人もいますが、そんな人は他のコンテンツにもお金を使っていますので、ゲームにどれだけ使うのか疑問です。声の有無が成功要因にはならないと思いますが、特にゲームの序盤でボイスが付いているとゲームへの没入感のようなものが高まるのではないでしょうか。
■中国・韓国のゲームアプリが熱い
――:気になったタイトルはなにかありますか。
国内では、これという作品が思いつかないんですよね。むしろ中国や韓国の市場を注視しています。中国のいくつかのゲームの中には日本のゲームよりも面白さやアイディアの面で優れており、遊んでみて新しい発見があるものが目立っていると感じます。例えば、『刀塔传奇-剑圣的觉醒』は、キャラクターについては色々といわれるところもあるんでしょうが、台湾や韓国でもヒットしています。ゲームとして面白くて新しいと感じます。社内では30人以上が遊んでいます。誰も中国語ができないんですが、楽しんでいます(笑)。
中国のアプリストアのランキング上位に出てくるのは、超巨大市場におけるトーナメントの勝者ばかりですからね。韓国はKakao一色、中国はWeChatが強いです。Tencentのゲームのなかにも良い作品がありますし、Tencent以外でも新しい遊びやアイディアのある作品が多いですね。最近では、日本のゲームのほうが多様性が薄いと感じています。
――:一時、中国市場というとパクリがどうのよく言われましたが、認識を改めなくてはならない、ということですね。
状況はかなり変わっています。他国のゲームをパクっただけで成功するほど甘い市場ではないということです。実際に遊んでみて面白いゲームや、新しい遊びを提供できているゲームが成功しています。また韓国では、G-STARでNCソフトの発表したゲームは、いろいろと言われていますが、グラフィックのクオリティは相当なものです。日本でこのクラスのゲームを作れる会社は一体何社あるのかと思います。韓国のゲーム開発力は、日本と遜色がないどころか、演出に関しては日本よりも派手ですね。
日本でスマホゲームを作っている人たちは、中国や韓国の市場をみて実際にゲームで遊んでみるべきでしょう。中国や韓国では小さい会社がどんどんゲームを作っており、新しい挑戦、新しい成功が生まれています。2年~2.5年前だと、日本のゲームを彼らがパクっていることが注目されたものですが、いまではそれは一面でしかありません。逆に彼らのほうが新しい遊びを備えた面白いゲームを小規模チームでどんどん作っている感じです。
――:アプリの開発費やマーケティングコストはいかがですか。
ゲームは、グラフィックを良くすることと面白さは必ずしも一致しません。グラフィックが悪くても面白いゲームはいくらでもあります。とはいえ、お客様に手にとってもらうためには、見栄えが良くて面白く見えなくてはならない。ここ20年にわたって続いたことですね。そしてグラフィックの良いゲームを出したとしても、毎週のようにイベント・キャンペーンを実施するカード型ソーシャルゲームのようなペースでコンテンツを追加しつづけなければならないわけで、これはもう大変です。
スマートフォン版『ログレス』には、130人のスタッフ在籍する大阪スタジオの半分が関わっています。この規模にならないと、イベント・キャンペーンを連発しながら、2週間に1回のアップデートは行えません。PCオンラインゲームは3ヶ月に1回、大きなバージョンアップがあればかなり早い方でしたから、開発をしている人間としては常に忙しくなっています。幸い『ログレス』は非常に好調ですので、すごくやりがいを感じてくれています。
■2014年は『ログレス』が成長、既存タイトルも伸長
――:御社の2014年の展開はいかがでしたか。
リリースしたのは2013年になりますが、2014年伸びたのは『ログレス』と『ヴァリアントレギオン』になるかと思います。『ログレス』は、初めの立ち上がりが厳しくて、リリースした2013年12月の売り上げは12月の70分の1くらいで、2014年2月でも10分の1くらいでした。すごくゆるやかに伸びていきました。App Storeの売上ランキングは年間で17位ですが、頑張って運営で伸ばしてきました。
――:アプリだと初動が重要とよくいわれますが、御社は全く逆なんですね。
あまり重要視していないですね。全て半年以上経過してから最高売上に到達し、そこから安定的に推移するタイトルが多いですね。セガさんとやっている『幻塔戦記 グリフォン』も半年くらいかけて最高になりましたし、『ヴァリアントレギオン』は1年以上かかりました。『ヴァリアントレギオン』は開始から半年くらい超低迷で、内心、いつやめようかと思っていましたが(笑)、11月は過去最高で、12月はその1.5倍になりました。
これがオンラインゲームの良さです。お客様に長く遊んでいただけるため、少しずつ積み上げることで伸ばすことができます。遊んでくれるお客様のためにも継続して毎日反省と勉強をしながらゲームを良くしています。ゲームを良くすることでしか学ぶことはできないと思っていますから、多少数字が悪くても、Aimingとしては粘り強く改善を繰り返しています。この点は強みといえるのかもしれないですね。
ただ、うちは初動が悪すぎるんです。他社さんのように初動の段階で、WEBやテレビCMなどのプロモーションを全力で行うなんて怖くてできないです。この点は当社の弱みともいえます。
――:継続するか否かはどうやって判断されるのですか。
判断基準はもちろんあります。このゲームが面白いのかどうなのかで判断しています。自分たちがプレイして面白いということであれば継続しますが、ゲームの構想自体が間違っているのであれば早々に諦めます。
――:新作も出しましたね。
『スマホでゴルフ! ぐるぐるイーグル』と『ソードオブナイツ』をリリースしました。『ソードオブナイツ』は、開発しているうちに時代に遅れたと感じました。もう少し早く開発するつもりでしたが、出した時には古いゲームになっていました。『ぐるぐるイーグル』は、先日Android版をリリースしましたが、コロプラさんの『ほしの島のにゃんこ』くらいユーザーを集めなければならないタイプですので…。
――:ゴルフゲームとしてはとても良くできていて面白いと思いましたが。
そうなんです。楽しく遊べるゲームにはなっていました。ゲームの性質上、高ARPPU・高課金率にはならないのはわかっていたので、多くの人に手にとってもらいたいと考えていました。ただ、Aimingの得意分野とは少し異なっていました。世界的にもゴルフゲームは少ないですし、その中で見た目も面白さも一番いい出来と自負しています。もう少しアレンジしてまた挑戦できればと思います。
――:このほかの運営タイトルは。
『ロードブナイツ』は、2年半くらい運営しています。リリースから半年はいまひとつでしたが、徐々に上がり始め、ここ2年ほどは売り上げも安定しています。運営年数の経過したタイトルですが、いまでもプロモーションを行うと一定の成果があります。他にはないタイトルとなっているため、最近、スマホでゲームを始めた方には新鮮にみえるのかもしれません。他にも過去に私が関わった『ブラウザ三国志』や『戦国IXA』のセールスもいまだに好調ようです。
■2015年の展望 「競争は厳しいが面白いゲームを出せばヒットする」
―――:2015年の展望をお聞きしたいのですが。
――:どういったタイトルがヒットするとお考えですか。
斬新で本当に新しい面白さを創りだすのは本当に難しいですが、タイミングや見せ方も含めてお客様に「やってみたい」と思ってもらえるような、新しさや違いをいかに示すかが重要だと考えています。2015年にリリースされたタイトルで月商100億円、200億円を出すようなタイトルが出るかはわかりませんが、まだまだ無名の会社のゲームがいきなりヒットする可能性は十分あります。
今の市場はとてもフェアなので、面白ければ何とかなります。広告費もいきなりテレビCMをやる必要はありません。『ログレス』も、ミクシィさんの『モンスターストライク』もテレビCMをリリースからしばらくやりませんでした。マーベラスのゲームだから、ミクシィのゲームだから遊ぶという人はそんなに多くはなかったでしょう。面白いゲームであれば、少額でも広告を出せば伸びますし、そこで得た収益を再投資してさらに…といった形で雪だるま式に伸ばすことができます。そしてある程度の規模になった段階でテレビCMを行えば本当に伸びる局面に入ります。
いまはどんな小さいディベロッパーでも、あるいは初めてスマートフォンゲームを作る会社でもゲームが面白ければチャンスがあります。過去のゲーム業界に比べれば絶対にフェアです。しかし、競争が厳しくなりますし、かかる費用が大きくなるので、挑戦できる人が減っていくでしょう。徐々にイノベーションがなくなっていきますので、業界全体としてシュリンクしていく可能性があります。
ブラウザ系のソーシャルゲームの衰退の一因は、スマートフォンの普及に加え、IPを替えただけの同じようなカードゲームばかりとなったことがあげられます。家庭用ゲームも同じですね。PSの全盛期からPS2になったとき、ゲームとして新しい遊びの提案がどれだけあったでしょうか。
――:新しい面白さのゲームはなかなか作れないけれども、見せ方や遊び方でいかに差別化するかが重要ということですか。
例えば、コロプラさんの『白猫プロジェクト』は、ゲームとしての新しさもありますが、「ぷにコン」という言葉を使って、新しいゲームだという見せ方をすごくうまくされていました。市場での競争は厳しくはなるでしょうが、ちゃんとしたゲームを作って、見せ方を工夫すれば成功することは十分可能です。
――:2015年で注目している要素はなんでしょうか。
2014年のコロプラの馬場社長のインタビューでリアルタイム性の高いゲームが…という話が出て話題になりましたが、その傾向はより進むのではないでしょうか。『白猫プロジェクト』もそうですし、『ログレス』をみても、感じるところがある人はいるでしょう。また擬似リアルタイムですが、『ドラゴンポーカー』の成功例もあります。今後、そういった要素を組み込みたいという人が増えるでしょうし、それをうまく見せた新しいタイプのゲームが出るでしょう。
――:ゲームシステムの複雑化よりもコミュニケーションを深めるといった流れでしょうか。
何か嬉しいことが起きた時に、掲示板などで後で褒められるよりもその場でリアルタイム褒められたほうが嬉しいというのが本質だと思いますし、チャットやみんなといっしょに遊ぶといった要素も重要です。その辺はゲームの革命的な面白さがない中で、今あるものを少しでも面白くしてより深くするには良い手段だと考えています。
■ストラテジーゲームとMMORPGで勝負 海外ゲームの日本展開にも着手
――:御社としての取り組みは。
MMORPGとストラテジーゲームを中心にラインナップを揃えています。毎年、この年は何本出しますとお答えして、そのとおり出せたことはないんですが(笑)、お話しておきますと、2015年は8本出したいと思っています。
新しい取り組みとしては、海外のタイトルを日本でサービスすることも2~3本は考えています。僕らはゲームの研究が大好きで、中国や韓国のゲームでもよく遊んでいます。その一環で面白いと思ったタイトルがあったら、開発会社に「日本で一緒にやりませんか」とお声がけしています。いずれもオンラインゲームです。
新しい取り組みとしては、海外のタイトルを日本でサービスすることも2~3本は考えています。僕らはゲームの研究が大好きで、中国や韓国のゲームでもよく遊んでいます。その一環で面白いと思ったタイトルがあったら、開発会社に「日本で一緒にやりませんか」とお声がけしています。いずれもオンラインゲームです。
――:海外にも拠点がありますし、椎葉社長ご自身もゲームオンでの経験がありますから信頼度は高いんじゃないですか。
はい。ゲームオン時代から、韓国のオンラインゲームを日本で提供したという実績とノウハウがありますから話を進めやすいですね。会社の中心メンバーのうち10人以上がゲームオン時代から一緒にやっています。日本の市場が変われども結果を出しているメンバーが集まっていて、開発力も持っていることが評価されています。特にオンラインゲームを作っている会社からすると、オンラインゲームを実際に作ったり、運営したりする大変さを理解していることも大きいです。
※このインタビュー後にTencent-Aimingの資本業務提携が発表された(関連記事)。
――:ところで上場準備もだいぶ進んでいるように見えますがいかがですか。
そう遠くないうちに(笑)。会社を設立した時から上場することが前提となっていましたから、当然、準備を進めています。時期がきたら、となるでしょう。ゲーム会社にとって上場することがいいことなのかはさておき、ひとつの成果になります。実は『ログレス』なしでも上場できる状況になっているのですが、『ログレス』が加わったことで会社の価値がより高まったと考えています。
――:ありがとうございました。
(編集部 木村英彦)
■Aiming
■関連サイト
©Marvelous Inc. Aiming Inc.
会社情報
- 会社名
- 株式会社Aiming
- 設立
- 2011年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 椎葉 忠志
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高181億9900万円、営業損益13億900万円の赤字、経常損益11億円の赤字、最終損益22億2700万円の赤字(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3911