【インタビュー】「こんなのローグじゃない」から始まった『ブレイブリーゲート』開発秘話 試行錯誤を経て辿り着いた指先ひとつで遊べるダンジョン探索



サイバーエージェント<4751>は、2015年4月末にAmeba統括本部より、スマートフォン向けネイティブアプリ『ブレイブリーゲート~時の妖精と不思議な迷宮~』を配信開始した。

本作は、スマートフォン向けローグライクゲームアプリ。物語は、中世ヨーロッパの世界を舞台に、過去から未来への時空の流れを変える「扉」が開いたことにより始まる。時の流れが破壊され、破滅に向かう世界を救うため、プレイヤーである主人公は「時の戦士」として、過去・現在・未来を行き来し、お目付け役のように傍にくっついている妖精「リップ」と共に「扉」を閉じる冒険に出て行く。

プレイする度に形が変化するランダム生成ダンジョンのほか、キャラクターと武器・防具の組み合わせで強さが変化する仕様など、ローグライクゲームの醍醐味をスマートフォン上で表現。コアなゲームファンのみならず、初めてローグライクのジャンルを遊ぶプレイヤーには、新感覚の体験として楽しまれている。

今回「Social Game Info」では、同作の開発陣にインタビューを実施。開発経緯やゲーム上でこだわった部分など、様々な視点からお話を聞いてきた。

 

■前代未聞のローグライクゲームのマルチプレイも検討中



株式会社サイバーエージェント
『ブレイブリーゲート~時の妖精と不思議な迷宮~』プロデューサー
小針 良太

『ブレイブリーゲート~時の妖精と不思議な迷宮~』アートディレクター
平山 大祐


――:本日はよろしくお願いします。はじめにおふたりの開発現場における役割を、自己紹介も兼ねてお願いします。

小針良太氏(以下、小針):本作ではプロデューサーとして、企画の立ち上げから開発のディレクション、数値管理など、ゲーム全体を統括しています。

平山大祐氏(以下、平山):私は『ブレイブリーゲート』でアートディレクターを担当しています。イラスト、シナリオやボイスの監修など、世界観を崩さないようにゲーム全体のクリエイティブを見ています。


――:それでは、『ブレイブリーゲート』の開発経緯についてお伺いしたいと思います。

小針:もともと私自身が、ローグライクゲームが大好きで、かつ当時はスマホでも同ジャンルのゲームが少なかったこともあって企画しました。実際にプロジェクトが立ち上がったのは、2014年4月頃になります。


――:「不思議なダンジョン」シリーズに代表される“ローグライクゲーム”ですが、あまりスマホでは前例がないため、開発はなかなかご苦労があったかと思います。スマホに落とし込む際に、何かコンセプトはあったのでしょうか。

小針:移動したり、攻撃したり、アイテムをロストしたり、実際のローグライクゲームをプレイする時はやることが多く、結構忙しいので、スマホゲームでローグライクゲームを実現しようとした場合、プレイヤーの負担は大きいものがあると感じていました。

そこをスマートフォン向けゲームとしてどう成立させていくのかが、開発における課題でした。とはいえ、コンシューマゲームで味わうことができるローグライクゲームの楽しさも生かしたものにしたいという考えもあったため、機能や表現など「これはスマホゲームでプレイするローグライクゲームとして適切なのか」…と試行錯誤しながら、開発していきました。


――:良い意味でスリム化を考えなければなりませんよね。機能を削ぎ落とす部分と、そうでないところ、かなり開発において葛藤があったのではないでしょうか。

小針:ありました。ただ、幸いにも開発チームには、過去にコンシューマのローグライクゲームを手掛けていたメンバーがいるんですよ。メンバーの知見も活かしながら、一度ローグライクゲームで必要な要素を整理して、スマホゲームとして成り立つのに必要な機能追加やゲーム性を追求していきました。

たとえば、コンシューマ向けローグライクゲームでは、30F、40Fとレベルが進めば当たり前のように階層が伸びていきますが、それだとプレイヤーは数十分も拘束されてしまうので、1ダンジョンの攻略にかかる時間を縮め、電車のひと駅ぶんの時間内で遊べる範囲のダンジョンを用意し、かつそれを片手のみで遊べるようにするなど、きちんとスマホでもローグライクゲームの魅力が損なわず楽しめるようにこだわりました。




――:なるほど。何かこのほかにありますか。ダンジョン中にお腹が空くとか、従来のローグライクゲームにはありますよね。 

小針:そこもスリム化のため、導入しなかった仕様のひとつですね。また、ダンジョン内での武器・防具の装備も、スマホ上で操作が複雑化すると判断したため取り入れていません。その代わりにキャラクターが切り替えることができ、状況に応じた戦いが求められた時に、ローグライクゲーム特有の戦略性を味わうことができます。


――:UI(ユーザーインターフェイス)や操作性についても熟考されたかと思います。

小針:ええ。これまでローグライクゲームを遊んだことのあるプレイヤーは、そのまま違和感なく遊んでいただくことができるように…。対して、初めて遊ぶプレイヤーにとっては完全に新しいジャンルに触れる感覚だと思いますので、既存・新規どちら側のプレイヤーの方でも楽しめるような操作性にするため、本当に時間をかけて試行錯誤していきました。操作性を検証するためだけに10案ほどモックアップ作って、最後は細かい微調整や、それこそ人間考学に基づいて「これは動きとして不自然ではないか」「操作しやすいのか」など、気を配りながら開発しましたね。
 


――:なるほど。たとえば、指を置いて左にこれぐらい動かしたらキャラクターも動く…といった感じの細かいレベルなど。

小針:そういうことです。開発当初は、タップしたところに移動したり、キャラクターを動かしたいところをなぞると軌跡が出てきて、指を離すとそこに移動したり、あとは単純に十字キーを置いたりといくつか案があったのですが、試行錯誤を経て今の形に落ち着きました。ローグライク好きの方、あまりゲームをやらない方など、多種多様なユーザー層が誰でも違和感なく遊べるような提案をしていきました。


――:デザイン面では、何か意識されたところはありますか。

平山:スマートフォン向けのローグライクゲームということで、間口が狭くなってしまうのを開発当初から危惧していました。そのため装備品やキャラクターにいたるまで、万人に受けいれてもらえるようなデザインを意識しています。

クリエイティブの視点で見た場合、世界観に関しては改善していきたい部分が多々あります。キービジュアルの一つである飛空艇にもっと意味合いを持たせる必要があったりと……。各デザインを組み合わせた時にもっと統一感を持たせ、さらなる演出面の強化が必要だと感じています。


――:そして、物語は現代・過去・未来と時を巡る壮大な内容になっていますよね。

小針:はい。物語の最初では、女の子を助けることになるのですが、過去に行くとその子のおばあちゃんが、未来に行くとその子の孫が……といったように、三世代に関わる血縁関係を持たせた内容を展開しています。そもそもローグライクゲームというのはコアジャンルのため、さらにそこに時代を巡る壮大な物語を付け加え、重厚さも表現できたのかなと思います。
 
 


――:当初は『ローグライクRPG(仮)』という仮題が長らく続いていましたよね。そこから正式タイトルを一般のユーザーから募集するといった、非常に面白い試みをやられていましたが、こちらの経緯について教えてください。

小針:じつは私、個人的にタイトルを決めるのが苦手で(苦笑)。そこでそのタイトル決めを、奇をてらった形で「企画にして公募してみよう」というところから始まりました。実際に集まった候補のなかから、ローグライクゲームならではの単語のエッセンスが入っている、“ブレイブリーゲート”と“時の妖精と不思議な迷宮”のふたつの候補を組み合わせて、現在のものに決めました。


――:2月末にはクローズドβテスト(CBT)も行ったとのことですが、当時の反響はいかがでしたか。 

小針:正直なところ、賛否両論がありました。CBTでは多くのローグライクゲーム好きな方に遊んでいただいていたのですが、「こんなのローグじゃない」「操作性が悪い」など、手厳しい意見も出てきました。ただ、それらの意見を真摯に受け止めて、目に付くところをすべて直して、アップデートを繰り返し行っていきました。

幸いにも遊んでくださるプレイヤーの方たちは、改善を行った直後に具体的な意見で指摘してくださるため、そこは大変ありがたかったです。CBTを経て、我々が思っていたローグライクの遊びかたが良い意味で覆されて、「こういう要素が必要なんだ…」という新たな視点にも気付くことができました。


――:寄せられた意見のなかで、なかでも印象的なものはありますか。

小針:「そもそもダンジョンに潜る目的がない」や「ダンジョンのどこかにレアな装備品が落ちているほうがいい」など、何度も繰り返し“ダンジョンに挑もう”というきっかけ作りがなかった部分に対する指摘はとてもありがたかったです。また、「攻撃のテンポが遅い」という意見に対しては、急遽キャラクターの動きを二倍速にして調整する等の工夫をしました(笑)。


――:“ローグライクゲーム”そのものが歴史あるジャンルだけに、反響もそれ相当あるということですね。とはいえ、ユーザーの声のおかげで、どんどん本作のゲーム性も研ぎ澄まされていったかと思います。平山さんのほうではいかがですか。

平山:「女の子のキャラクターを増やしてほしい」という声が多くありました。ローグライクというゲーム性を考え、女の子に偏るのではなく、お爺ちゃんがいたり、獣人がいたりと、キャラクターの幅を出していきたいと考えていて、そこはバランスを見ながらキャラクターを制作しています。

キャラクターデザインには、立ち絵キャラクターと、ダンジョン内で表示されるSDキャラクターの2種類用意しています。メインイラストでもある立ち絵はもちろん重要なのですが、同時に大事にしているのがゲーム中のSDキャラクターです。等身の低いSDキャラクターの再現度を高め、シルエットだけでも楽しめるようなデザインになるよう意識しています




――:実際にリリース後のユーザーからの評判はいかがですか。

小針:「初めて触るローグライクゲームが本作」という方が多くいました。きちんと操作面でも迷いがなく「戦略性があって面白い」とのお声もいただき、ローグライクの本質的な面白さを理解して、ハマってくれていたので安心しましたね。これまでローグライクゲームを遊んでいた方たちは、掲示板やツイッターなどで「ここはこの戦略で勝てるよ」といった積極的な意見交換をしてくれていて嬉しかったです

平山:また、ゲームのBGMを下村陽子さんにご依頼させていただいたのですが、「BGMとゲームの世界観がマッチしている」と高評価をいただいていて、嬉しかったです。


――:ローグライクゲームと言えば、まだまだコアなゲームジャンルかと思います。これから始める方に、何かおふたりから本作のアドバイスなどがあれば教えてください。

小針:本作には有償通貨のクリスタルというものがあるのですが、こちらはダンジョンをクリアしたり、ミッションを達成したりすることで、課金しなくとも多くのクリスタルを入手することができます。途中難しくて進めないことがあっても、ダンジョンに何回も挑んでクリスタルを手に入れ、様々なところで有効活用するのもひとつの手かもしれません。また、本作にはスタミナが存在しないため、じっくり自分のペースで楽しめることも魅力の一つかと思います

平山:じつはダンジョンでは、ピンチイン/アウトすると拡大・縮小ができるようになっています。SDキャラクターを拡大すると、結構細かいところの描き込み表現まで見ることができるので、ぜひ試してみてほしいですね。


――:『ブレイブリーゲート』における今後の展望について教えてください。

小針:直近で言うと、ローグライクゲームの本質的な楽しさをより味わえるような施策を、イベントでやろうと考えています。たとえば、レベル1からスタートして、自分で武器を手に入れて、それらを重ねて強くしてどんどん深いところに潜っていくなど…。それらをスマホゲームでもきちんと実現して、ローグプレイヤーの満足度を上げつつ、初めて遊ぶプレイヤーには新体験として楽しめるようなイベントにしていきたいです。

また、時期は未定ですが、マルチプレイの導入も検討しています。ローグライクならではマルチプレイを楽しめる内容にできたら、と考えています。

平山:いつか、プレイヤーの方々の意見をもらって、一緒にキャラクターをつくっていくコンペ等の取り組みもしてみたいと思っています。『ブレイブリーゲート』を遊んでくれているプレイヤーのみなさまは、我々にとって本当に大切なお客様なので、積極的に意見を取り入れ、我々もそれらの声に応えていきたいと思っています。
 


――:分かりました。また、現在御社では新しい人員を募集しているとのことですが、Ameba事業本部ではどのような人物像を求めているのでしょうか。
 
小針:やはり純粋にゲーム好きであることですね。先ほども申し上げたように、本作の開発チームには、ローグライクゲームが好きな人たちが集まっていて、それをキャリアとしている人もいるぐらいです。ジャンル問わず、ゲームの知識と情熱がある方はスピード感も全く違うので、まずはゲーム好きであることが重要だと思います。また、プロデューサー職で言えば、企画だけではなく最低限のクリエイティブの知識も必要だと思っています。きちんと完成系イメージを持っている方は、弊社で力が発揮できると思います。
 
平山常日頃から色々な事にアンテナを張っている方です。ゲームはもちろん、映画や小説など多くのエンターテイメントに触れて、それを自分のなかで変換してアウトプットできることは強みにもなります。また、私自身が全く知らないようなジャンルに詳しいなど、多趣味な方もいいと思います。そういう方の話を聞くと、刺激にもなりますし、クリエイティブにも活かせると思います。今の開発チームのメンバーとは、とにかく議論をたくさんするので、何か意見があれば臆せず積極的に話合いができることも大事ですね。

――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部  原孝則)
 

■『ブレイブリーゲート~時の妖精と不思議な迷宮~』
 

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■サイバーエージェント

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株式会社サイバーエージェント
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会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高8029億9600万円、営業利益418億4300万円、経常利益414億7500万円、最終利益162億4600万円(2024年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
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