【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。
今回の担当:安藤武博氏
■第26回「スクエニで最もプレゼンがうまいと言われたおれが極意を教えよう」
タイトルから軽くうぬぼれてみました(笑)。私のほかにもプレゼンが上手い人はたくさんいますし、良いプロデューサーは皆そうです。私もスクエニに在籍した18年間のあいだ、多くの同僚・部下・上司から「安藤はプレゼンがうまい」とよく言われました。どうしてそういったプレゼンができるのか? 分解すると簡単ですので、今回はそのことを書きます。
■人間はだいたい自分のことばかり考えている
プレゼンで最も大事なのは「相手にちゃんと伝わるか」「相手は何を聞きたいのか」「相手は何を判断する人なのか」など、「相手のことをいかに考えるか」につきます。ところが多くのプレゼンテーターは「とにかく自分の企画を通したい」「自分が書いた提案書の順番通りに進める」「自分のテンポで話す」「自分で勝手に良し悪しを判断して押し付ける」など……相手のことを考えない人ばかりです。
今回審議される内容、判断をくだす人間が誰なのか。その人はどのように企画を読むか、事前に徹底的にイメージできるかどうかが大事なのです。これを怠っている場合は意識してみてください。そうすればおのずと書類の内容、話すべき中身、スピードとテンポ、などが変わってきますよ。企画書の枚数も一枚にまとめた方が良い場合もありますし、分厚ければ分厚いほど良い場合もあります(ナンセンスですが)。
突っ込まれそうなところをあらかじめ想定して、返答を考えておきなさいと指導される方がいるのも相手のことを考える習慣づけの一環です。プレゼンは相手によって生き物のように変わりますから、それを読んで臨機応変に対応することが必要です。難しくはありません。相手と会話するように自然にやればよいのです。物言わぬ壁に向かって、朗々と順番通りに書類を読み上げるような儀式にならないように心がけましょう。
■プレゼンとは過去現在未来のストーリーである
多くの人が「他人は自分の状況のことをよくわかっている」と勝手に思い込んでいます。全然違います。プレゼン相手のほとんどが、あなたが現在おかれている状況のことを全然知りません。
「現在」の状況を把握してもらっていると勘違いして「未来」に関することをプレゼンするので、相手に全然届かない。「現在」のことをよく知ってもらうためには、そこに至るまでの経緯、来し方、つまり「過去」の説明が絶対必要なのですが、これをしない人がいます。こういった人はプレゼンが下手くそです。
これは例えると漫画を2巻から読ませるようなものです。読んでいる方は、なんで主人公はこの人と戦っているんだろう? という状態。そこから「これからこの作品はこうなっていきます」「おもしろいでしょう?」と言われても、何のことやらさっぱりわからない。2巻にも「これまでのあらすじ」「主な登場人物」が載っていますよね。あなたのプレゼン資料には、それが足りていますか?
■最初からプレゼンが上手いやつなんていない
私をプレゼン上手と言う人によく言われることがあります。「安藤さんは喋りがうまいから、プレゼンがうまい。」その通りです。喋りがうまいに越したことはありません。でも厳密にはこうです。「安藤は“練習して”喋りがうまくなったから、プレゼンもうまくなった。」
今や私も「口から産まれた」といわれるくらいですが、最初はうまく喋れませんでした。なぜできるようになったか? 「たくさん相手に伝える機会を持つようにした。」からです。
プレゼン資料を作った段階で頭の中では、ある程度どのように話すかが固まっていると思います。しかしいざ、それを口に出して話してみると、全然思っていたようにいきません。プレゼンが下手な人はプレゼンの時に、はじめて口に出して喋っている人が多いのです。
これは練習計画書だけ作って、練習せずに試合に臨んでいるようなもので、うまくいくはずがないですよね。プレゼン本番(試合)でやることは、書類を使って「話す」ことです。本番まで一回も声に出さないなんて負けるに決まっています。書類はあくまで「共有のための道具」だと思ってくださいね。
私は資料ができたら声に出して予行演習します。そうすると時間配分や書かなくても良いこと、書くとより伝わることが明確になり資料も磨かれます。身近な誰かにプレゼンをしてみたらいいのですが、恥ずかしければひとりで壁に向かってプレゼンの練習をすればいい。声に出した後も脳内で何回もしつこいくらい本番のシミュレーションをするのです。
あとはひたすらプレゼンの機会を増やすこと。
提案がないときもチャンスは無数にあります。おすすめは自分が好きなもの、興味を持っているものを友人や同僚に「どこがおもしろいのか」プレゼンテーションすること。アニメ・漫画・演劇・スポーツなんでもかまいません。相手に興味を持ってもらえるくらいにやろうと思うと、なかなかうまくいかないのが、やってみるとよくわかります。批評や批判は簡単なのですが、良いところを的確におもしろく相手に伝えるのは難しいのです。
しかしスクエニでもプレゼンが上手い人たちは、これも抜群に上手い。またこれも数を繰り返すことで後天的でも、だんだん良くなっていきます。また、なぜ自分が好きなのか? より整頓されるのでブレが少なくなっていきます。このことで自分が何をしたいのかが明快になるため、プレゼンが上手い人間はプロジェクトの途中でコンセプトがぶれないようになります。
チーム戦が基本のゲーム制作。会議提案でなくても相手に伝える「小さなプレゼン」の機会が多くあります。このプレゼンの積み重ねで最終的なゲームのアウトプットの品質は間違いなく変わってきます。
チームメンバーの多くがプレゼン上手である組織は、これからのヒット作を出すでしょう。またプロデューサーやディレクターのプレゼン力が高いことで、資金・人材などより良い環境が整えられるのもまた、間違いのないことです。お客様におもしろいと思ってもらえるものを伝えるのも、ある意味「作品や宣伝活動を通した」プレゼンです。意識して実践してみると、この苛烈な市場に立ち向かえる地力が身につきます。おたがいがんばりましょうね。それでは!
■著者 : 安藤武博
スクウェア・エニックス プロデューサー。同社ではスマートフォンゲーム事業に携わり、F2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。
公式ツイッター:https://twitter.com/takehiro_ando
公式Facebook:https://www.facebook.com/andot.official?fref=ts
■スクウェア・エニックス
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
■第24回「サバゲー人気の謎に迫る」 (岩野)
■第23回「心が折れそうなときに読む話」 (安藤)
■第22回「「がっこうぐらし」のニコ動再生数が異常な件について」 (岩野)
■第21回「打ち合わせや会議が増えたときに読む話」 (安藤)
■第20回「「ラブライブ!」の魅力ってなんだと思う?」 (岩野)
■第19回「良い作品をつくるために必要な三つのこと」 (安藤)
■第18回「スマホゲームにおけるプロデューサーの重要性」 (岩野)
■第17回「私はなぜスクエニの部長をやめたのか?」 (安藤)
■第16回「日本のスマホゲーム業界が危うい」 (岩野)
■第15回「サラリーマンクリエイターの働き方はすでに限界を迎えている」 (安藤)
■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」 (岩野)
■第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)
■第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)
■第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)
■第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)
■第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)
■第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)
■第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)
■第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)
■第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)
■第4回「IPを育てよう」 (岩野)
■第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)
■第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)
■第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)
企業サイト
■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー
■第25回「インディーズを軽視するものは敗れ去る」 (安藤)
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■特別対談
■DeNA執行役員・渡部氏による対談企画…前編『ミリオンアーサー』の誕生秘話とは
会社情報
- 会社名
- 株式会社スクウェア・エニックス
- 設立
- 2008年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 桐生 隆司
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)