フィンランドのゲーム開発会社・Supercellは、2015年9月17日(木) ~9月20日(日)にかけて開催された「東京ゲームショウ 2015」に初めてブースを出展し、ファンイベント「TOKYO CLASH 2015」を催した。『クラッシュ・オブ・クラン』(以下『クラクラ』)の大規模なファンイベントを開催するのは、今回が世界初となる。
「Social Game Info」では、Supercell日本支社の代表を務めるBUDDY MARINI(バディ・マリーニ)氏に話を伺うことができた。同氏に日本版『クラクラ』の現状やマーケティング施策の反響はもちろん、本国が掲げるゲーム開発の思想まで様々な視点からインタビューを実施。
■「普通に面白いゲーム」ではダメ…目標は「トップゲーム」
Supercell 株式会社
General Manager, Japan
BUDDY MARINI(バディ・マリーニ)氏
――:本日はよろしくお願いいたします。はじめに、今回御社が「TGS2015」に出展された狙いについて教えてください。
『クラクラ』は今から3年前にローンチしました。ユーザー数は世界的に見ても未だ伸び続けている状況で、日本も同様です。ユーザー人口が増えるにつれて、そろそろファンとのコミュニケーションを本格的に取っていきたいと考え、今回「TGS」に出展しました。
本作はオンラインで楽しむゲームですが、動画やリアルイベントをきっかけに外側から盛り上げていくのも重要であると感じています。それが最終的に新規ユーザーのプレイに繋がったり、長い継続率になったりと、様々なところで影響してくれることを考えています。
――:そもそも御社がここまでの大規模なリアルイベントを展開するのは、全世界に点在する支社から見ても初めてのことではないでしょうか。
過去にリアルイベントは海外でも何回か行っておりますが、ゲームショウに出展するのは初めてです。また、今回はニコニコ生放送をはじめ、YouTube、Twitch(英語)、AfreecaTV(韓国語)と世界各国にも配信したのですが、これも初めての試みです。
――:「TGS」に出展するにあたり、本社のリアクションはいかがでしたか。
非常に好意的でした。会場では、イベント限定仕様の5対5のクラン対戦を実施するのですが、やはりこれには『クラクラ』開発チームの協力もマストです。彼らとしても初めてのことですが、これは今後のノウハウにもなりますし、今回実施したことでユーザーさんからの反応も調べることができます。そういう意味では、「TGS」の出展はプロモーション効果やプレイヤーコミュ二ティの形成はもとより、今後の展開を見据えた実験的な施策でもありますね。
――:日本語版『クラクラ』もリリースから2年以上経過していますが、手応えはいかがですか。
好調です。日本のユーザーさんは、面白い作品であれば情熱的に遊んでくれる傾向があります。毎日遊んでいただいているユーザーさんがすごく多いため、我々としても良い作品を届けられている証拠なのかなと自負しています。
――:日本のモバイルゲーム市場の特徴について何か感じるところはありますか。
やはり全世界的に見ても市場規模は大きいです。それだけではなく、競争率も激しいし、ユーザーさんの趣味趣向も異なり、何よりもクオリティに厳しいです(笑)。当然ですが、良い作品ではないと遊んでくれないという難しい環境にあります。とはいえ、弊社としてもそうした環境は大歓迎ですし、実際に我々もゲームのクオリティには徹底しています。また、開発チームも任天堂さんのゲームを遊んで育ってきているので、日本に対する思い入れもありますね。
――:なるほど。
それにモバイルゲーム市場はまだまだ新しいです。そのなかで本当の意味でのグローバルカンパニーはまだ出てきてないと思っています。我々はモバイルゲーム初のグローバルカンパニーを目指しているので、そのことを考えると日本での成功は重要です。
――:そのためにもテレビCMをはじめとするマーケティング施策が大切になってくるかと思います。積極的に展開されている印象ですが、何か施策においてコンセプトや狙いはあるのでしょうか。
テレビCMやWEB・屋外広告は引き続き展開していきますが、『クラクラ』のゲーム内で言えば、日本で主流のインゲームイベントやコラボ施策はやっておりません。というのも、全世界で遊ばれているゲームのため、偏った報酬の配布や他国が不利益にならないようバランスを見極めなければならないのです。
――:たしかに。日本のゲームは他国と比べてイベントやキャンペーンの施策が主流です。ということは、世界的に見ても御社のタイトルはカルチャライズは考えていないのですね。
考えていません。ゲームバランスや作品を進化させる意味では、我々のゲームにはマッチングしないですね。全世界のユーザーさんに「楽しい」と思っていただけるタイトルを作ることに注力しています。
――:御社には、『クラクラ』『ヘイ・デイ』『ブームビーチ』と主要3タイトルがあるかと思いますが、他社と比べてあまりゲームをリリースしていない印象があります。やはり御社でクオリティの基準値を掲げてるのでしょうか。
そうです。ゲームのクオリティを高めるのは、何よりも開発力が大事です。そこには膨大な時間とリソースが必要になりますが、あくまでも弊社の目標は「トップゲームを作る」ことです。「普通に面白いゲーム」ではダメです。よく新作タイトルはテスト配信を行うのですが、面白いという声をいただいても、それがトップになれるようなタイトルでなければ、配信を停止することもあります。
そもそも開発チームは小規模の人数で開発・運営を行っており、『クラクラ』も十数名で世界中のタイトルをまわしています。少ない人数だからこそ、自由度が高く、責任も重く、ひとりひとりがスケーラブルな仕事をしなければなりません。トップゲームにならなければ、それらをすぐに閉じて、また別の開発に臨んでいく形をとっております。
――:日本で言うところの少数精鋭ですね。ただ、企業として会社を大きくするという展望はあるのでしょうか。
もちろん売上を上げることも重要ですが、単純に人を増やしてたくさんのゲームを開発することが良いとは思っておりません。
――:先ほどの話に戻りますが、過去、何度かテスト配信中にも関わらず、配信停止を決断しているタイトルがありますよね。そうした姿勢を見ると、本当にクオリティを求めている企業なのだなと思わされます。
クオリティのこだわりは徹底していますね。我々のミッションは、ひとりでも多くの人に喜んでもらえるゲームを作ることに加え、一日でも多く長く遊んでもらえるようなゲームを作ることが条件です。いま『クラクラ』は3年目ですが、この先、5年、10年と遊んでくれれば本当の意味でのヒットになれると思っています。初期段階でそれが見えないと、配信停止にいたります。
ちなみに配信停止は、経営層が判断するのではなく、開発チーム自らが行っています。ローンチ後、『クラクラ』や『ヘイ・デイ』も開発チームがきちんと責任を持って、運営・開発を続けています。配信停止の基準もDAUやARPPUなどの細かいKPIではなく、純粋に長く愛されるタイトルになるか、トップのゲームになれるかで判断しています。そのためにもゲームを進化させていかないとなりません。
――:そういう意味では、御社は開発者中心で動いているのですね。
はい。恐らくこれまでの他のゲーム会社は、トップダウンで経営が進められているかと思いますが、弊社では開発チームが自由で柔軟にクリエイティブに臨めるような環境作りを意識しています。これは会社が大きくなっても変わることはありません。
――:マーケティングと言えば、『クラクラ』における動画プロモーションも他社より積極的にも感じます。
動画はユーザーさんからのフィードバックを得るためにも、とても大切な場所ですし、実際にゲームにも声を反映したこともあります。たとえば、当初『クラクラ』にはリプレイボタンを実装しておりませんでしたが、色々なご意見をいただいたあとに実装しました。ユーザーさんとのコミュニケーションはもとより、動画を通してどこにニーズがあるのかも調べることができます。動画は、日本より海外のほうが発展していますが、日本もこれから増えていくと思っています。
――:今や日本でも御社の企業名・タイトル、双方の知名度が上がってきているかと思いますが、マリーニさんとしてはまだまだであると感じているかと思います。今後さらに伸びていくために、足りない部分や展望などがあれば教えてください。
おかげさまで『クラクラ』の日本ユーザーの数は増えており、関連動画も多く投稿されていますが、まだまだプレイヤー・運営間のコミュ二ティを盛り上げられる余地があると思っています。そのための第一歩が今回の「TGS」です。『クラクラ』を一般層にも認知させ、抵抗なく友達に勧められる環境作りやブランディングに今後も努めていきます。
よく『クラクラ』はコアゲームと呼ばれるのですが、実際は本当に分かりやすく遊びやすいゲームです。ただ間口は広いのですが、入り込むとなかなかディープな体験を楽しめます。これから5年、10年先も遊んでいただけるよう、開発チームと連携をとり、ユーザーさんの声にも耳を傾けて、ゲームを進化させていきます。
――:本日はありがとうございました。
(取材・文:編集部 原孝則)
■『クラッシュ・オブ・クラン』
会社情報
- 会社名
- Supercell