ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
■第三回「若手のチャンスとキャリアパス」
今回は、ゲーム業界でいわゆる「若手」と呼ばれる人々にフォーカスをあてて話をしたいと思います。大前提として、「若手」というのは、どのあたりまでを指すのか? という定義が必要になると思います。この業界、精神的に若い、幼い人も多いので(笑)、いつまでたってもベテランの意識のない人もいると思います(わたしも、偉大なる先輩が数多くいらっしゃるせいか、まったくもって、ベテラン感が自分の中ででてきませんが…(苦笑))
いったん、ここでは、
「座芸夢 ~若手ゲームプランナー育成塾~」
https://www.facebook.com/groups/377312002472114/
でも定義している、32歳以下!(くらい)を対象に、つまりは、業界10年以下くらいの人をそう定義して話をすすめたいと思います。ただし今後、学生さんを含めた「若手」について語る際には、そう明記します
■ゲーム業界に入る、がGOALではない
これまでの2回でも述べてきましたが、ゲーム業界の求める人材像は、定義は曖昧、且つ、何を学べばいいのか? もわかりづらい状況にあるのに、高い「質」が求められます。
理工系学部などのように教授推薦で、「就職が決まった!」というような話も、あまり聞いたことがありません。需要も供給も多いが、要件が不明瞭で、実際の質と理想が乖離しているために、入ること自体が、超難関!となっているというのが今の実情です。
大学受験もそうですが、超難関を突破すると、そこで安心してしまう人もいるかもしれません。この業界、入るまでが難関なのは現状否定できませんが、入ったあとは更に大変な業界であることを認識していただきたいです。(もちろん、それは、どの業界でも変わらないことではありますが、ゲーム業界はやや特殊で且つ、歴史が浅いので尚更です)
まず1つには、企業側に、明確なキャリアパスを用意できていないことが多い、という課題があります。それは、ゲーム業界が歴史が浅く、これまで定年退職する人が出るまではいたっていませんでした。また、黎明期に比べ、現在は時代も終身雇用の時代でもありません。欧米では比較的プロジェクト制で雇用→リリースが行われていたりもします。果たして、どういう形のキャリアが描けるのか? 皆さん、なかなかイメージできないところがあるのだと思います。
このキャリアパスというのは、大きく分けて2つあると思います。
①どうやったら、お給料(役職)があがっていくのか?
※この「役職」というのは、社内の肩書き、等級といったものをさします
②どうやったら、開発ラインでの役割があがっていくのか?
※この「役割」というのは、プロデューサー、ディレクター、リーダーといったものです
給与や役職のUPは、各社によってルールが異なると思います。年功序列でベースアップが毎年あり、それとは別に社内で定められた「等級」のようなものがあり、それに応じて給与が決定されるというものです。(企業によってここは異なると思います。年齢による年次昇給がない会社もあるでしょうし、等級のようなものが非常に曖昧に設定されている企業もあることでしょう)
・会社に一定の期間以上勤続していること
・会社に貢献すること
・等級をあげる試験?のようなものをクリアすること
など
で、あがっていくような設定をされている企業が多いのではないでしょうか?
これに比して、「ゲームの開発ラインにおける役割」は、どうやっていったらあげることができるのでしょうか?
担当者 → チームリーダー → セクションリーダー → ディレクター (→プロデューサー)
例) バトル班 企画員 → バトル班リーダー → リードプランナー → ディレクター
非常に大雑把ではありますが、企画であれば、こういった形でゲーム開発チームの中での役職がステータスアップしていくことがあると思います。(バトル班というのは、あくまでもバトルがあるゲームです。企画が「班」が分かれていない開発チームもあると思いますので一例として捉えて下さい)
これらは、
・同じチームで継続することで、信頼を得て、より責任のある立場になっていく
・結果(売上や第三者的評価)を出して、社内価値を高め、より責任のある立場になっていく
のように、「評価」「信頼」を得ることでキャリアを積んでいくことができるはずです。ただ、「ものをつくる」能力の積み上げで、得られるとは限らず、その先に求められる責務も、これまたクリエイティヴな能力とは必ずしも一致してないところがあり、難しいところがあると思います。
■「つくる」能力と「マネジメント」能力
特に、ディレクターや、リーダーというのは「マネジメント」能力も、ある程度求められます。昨今では、
・ディレクター は クオリティを責任を持って担保する
・チームのマネジメント・管理は、別途プロジェクトマネジャー(PM)が管理する
ことも増えてきました。餅は餅屋にやらせよう、切り出せるものは切り出して、ゲームとして何が面白いのか? を責任もってつくりあげてもらおう! ということなのだと思います。これは、良い流れだと思います。
なぜならば、クリエイティヴな能力を発揮できる人と、マネジメントの能力を発揮できる人は、異なることが多いからです。ゲームに限りませんが、現場での能力が高い人が必ずしも人を管理してチームでの業務を遂行する能力が高いとは限りません。ですが昔のゲーム業界は、マネジャーがプロデューサーやディレクターを兼任していた会社が多かったと思います。また、PMをおかずにゲームディレクターにマネジメントもさせていたと思います。
・クリエイティヴで、現場スキルセットが優秀な人
・マネジメントやコスト管理などのスキルセットが優秀な人
の、キャリアパスを分けて用意する会社も増えてきたと思います。(マネジメントとスペシャリストという別のルートで)
「マネジメントをやるくらいなら、現場でバリバリ、ゲームを作っていたいから転職する」
という話を最近聞くことがあります。
でも、これは企業にとっては大切な戦力をみすみす流出させてしまう、残念な話です。確かに、1人でできる仕事「量」には限界はあるので、会社の仕事に貢献をしようと思った場合、少なからず人を管理して大きな仕事にあたる必要がでてきますし、そうしないと評価されづらいでしょう。
ただ、人間は、どう頑張っても1日24時間しかありませんし、24時間まるまる働くこともできません。時間を借りて1日を25時間以上にすることもできません。唯一できるのは、2人以上で仕事をして単位時間あたりに捌けるタスク量を増やすことです。
ですが、「量」ではなく「質」の仕事をする場合、たった1人でもインパクトを与える、パラダイムをかえるようなことができる可能性はあります。ゲーム業界においては、必ずしも、マネジメントスキルがなくても1人でコツコツと仕事することで大きく貢献できることはあるわけです。(それがゲームの魅力でもあります!)
であるが故に、マネジメントスキルと、クリエイティヴスキルを分けて、キャリアパスを提供することで、スペシャリストにも道を拓くことが、特に「正解のないもの」を開発している我々ゲームクリエイターにとっては、必要であると考えます。
■ 人事を尽くして天命を待つ? だったら…
問題は、キャリアパスが用意された後だと思います。
何を?
どうしたら?
いつ?
担当者 → チームリーダー → セクションリーダー → ディレクター (→プロデューサー)
の「→」の部分を進むことができるのか? が、いまひとつ明確ではないからです。ここは、客観的な明文化できるシンプルなルールを設定することは困難だと思います。たとえば、わたしの趣味の話でなんですが(笑)、宝塚歌劇団の男役さんであれば、
若手男役 → 新人公演主演 → 三番手スター → 二番手スター → トップスター
※これら全てのフラグを立てなくてもトップスターになることはあります
というように、各組の頂点である、トップスターに登っていきます。ただ、相撲の番付の上下のように、どれだけ勝ち負けをしたか? というような、あきらかにわかりやすいものであがっていくわけではありません。
ジェンヌさんたちの中にも、「チームをまとめるのが得意」な方もいらっしゃれば、「歌が圧倒的にうまい」「芝居で登場してくるだけで場が引き締まる」とか個別スキルがスペシャルな方もいらっしゃいます。
これは個人的な意見ですが、やはり、「集客できる」方と「華のある」方が、「タイミングがあえば」あがっていくように思います。「華」という曖昧なものと(でも、明確にあるのです!)、「集客」というゲームに置き換えたら「売上」という実績・成果にあたるところをあげて、且つ、「タイミング」があった場合にステップアップされるというものです。
つまり、やはり、ポスト、ポジションというものは、実力あるだけでは勝ち取れないものがあり、タイミングがあわないと足踏みすることもある、ということです。なぜならば、相撲の番付と異なり、宝塚も、一般の会社の役職、ゲーム開発内のポジションもなかなか、一度、上がったら下がらないからです。
新規タイトルを起こすことができるか否か? も、「タイミング」によるところがありますからね。人事を尽くして、天命を待たないといけない時があるということです。
なので、このタイミングを失しそうであった場合に、宝塚であれば「組替え」という、花・月・雪・星・宙の5つの組の中で入れ替えが発生することがあるわけです。ゲーム業界においても、部門を変えたり、チームを変えたりすることで、チャンスが生まれることもありますし、タイミングをみて、「転職する」つまりは、会社を変えることでこのチャンスを掴みにいく場合もあるかと思います。
このように、ゲーム会社におけるキャリアパスは、業界の歴史が深まると共に、整備されつつありますが、最大の課題は、それらを明確に、声に出して、
現場に宣言していない
企業が多いのかもしれません。それによって、先々に不安を感じて転職を検討したり、せっかく業界に入ったのに、業界から去ってしまう人がいるのもあるかもしれません。転職ならばまだ良いのですが、「業界から去る!」は、非常に大きな損失です。これはなんとしても業界全体の課題として回避していく努力をしなくてはいけません。このあたりもまた機会を見て、お話したいと思います。今回は、これまで!
■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー
■第二回「企業×学校×学生」
■第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
会社情報
- 会社名
- 株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
- 設立
- 1999年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 2432