スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2015年の市場動向と2016年のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2015-2016」。
今回は、位置情報連動型ゲーム『ステーションメモリーズ!』が好調のほか、電鉄会社や自治体との協業など、O2O による地域復興イベントの実績が注目された、モバイルファクトリーの代表取締役 宮嶌裕二氏にインタビューを実施。2015年は東証マザーズ上場、また、位置情報というビッグデータを通して、ゲーム課金以外での収益化を目指すなど、益々の成長を見せる同社に話を伺ってきた。
■位置ゲームの成功で急成長 モバイルファクトリーの強みとは
モバイルファクトリー
代表取締役
宮嶌裕二 氏
――:本日はよろしくお願いします。はじめに2015年を振り返りゲームアプリ市場の動向についてお伺いできればと思います。
ゲームに限らず、あらゆるアプリがユーザーさんの目に届き、触れてもらう機会が益々難しくなった一年でした。日々たくさんのアプリがリリースされ、まさに群雄割拠の時代と言ってもいいでしょう。そのため、昔からある定番アプリが強くなり、新作アプリは知ってもらうまでに莫大なコストがかかるうえ、開発費の高騰も話題になりました。
――:数が増えたことはもちろん、どのアプリもクオリティが高く一歩抜け出すのが難しくなっている印象でしたね。
我々としてもクオリティは追求しなければいけません。弊社の場合は、完全なネイティブアプリではないため、他のアプリに比べればコストはかかっていないと思います。ですが今後はネイティブの比率を上げていけるよう、ステップアップしているところです。
私たちが持っている資産の中でどう戦っていくかと考えたとき、1本のアプリを作るにも数億規模のコストが発生します。それが失敗したときのリスクを考えると厳しいですし、同じ世界での勝負はしないでいこうと決めました。だから、展開するジャンルもRPGやパズルではなく、4年前からノウハウを培ってきた位置ゲームに専念しているのです。
――:一歩抜け出すために、戦い方を差別化したと。
そうですね。特に2015年は『駅メモ!』(正式タイトル:『ステーションメモリーズ!』)が大きく成長した一年でした。『駅メモ!』は2014年6月にコロプラ版を、11月にネイティブ版をリリースしたのですが、本格的な広告出稿は2015年7月からです。それまではどうやって盛り上げてくか試行錯誤の連続でしたが、広告出稿を境にグッと伸びていきました。
※『駅メモ!』のゲーム概要:本作は、日本全国の駅を集めてまわる駅収集位置ゲーム。位置登録を利用して駅を手に入れ、「でんこ」と呼ばれるパートナーを駆使して、プレイヤー同士でその駅をどれだけ長く保持できるか競い合う。また駅を集めることで称号を得たりできるほか、駅を集めた数などで競い合うランキングモードなどもある。
――:しかし、盛り上がる以前の下地があったからこそのヒットだと思います。配信当初にはユーザーからどんなフィードバックが上がっていたのでしょうか。
当時はO2Oなどのオフラインイベントを積極的に開催していたわけではないので、Twitterのエゴサーチがメインでした。その中では、登場キャラクター“でんこ”の人気が日々盛り上がっていくのを感じていましたね。キャラクターへの愛着は、以前から運営していた『駅奪取PLUS』よりも強いのは間違いないですし、ゲームシステムは同じでも、キャラクター性でここまで楽しみ方が広がるのかと驚きました。
また、水面下では細かいバグ取りや安定性の向上、快適さを整えることに時間をかけました。ユーザーさんの継続率が順調な推移を見せているのは、このあたりの影響もあると思います。
――:広告を出稿するまでの8ヵ月間は、慎重に慎重を重ねて運営されていたのですね。
ユーザーさんの目には見えない裏側では、地道な作業の繰り返しでした。そう考えると、リリースの仕方は昔ながらと言ってもいいでしょう。最近のアプリは、リリース時にプロモーションを打ち、クオリティも充分なものに仕上がっています。我々はまずリリースして、ユーザーさんからの意見をしっかり聞きつつ、良いものに仕上げていきました。
――:『駅奪取』と『駅メモ!』を比較して、ユーザー層に違いは見られますか。
『駅メモ!』は学生がより多くなっている傾向がありますね。もちろん課金をしてくださっているのは30代以上のユーザーさんが多いですが、継続率という点では学生層からも良いデータが出ています。通学との相性の良さと、広告の出稿先が2ちゃんねるやNAVERまとめ、ニコニコ動画といった、サブカル的なメディアが多かったのも影響していると思います。
――:マネタイズという点では、『駅メモ!』はキャラクターガチャとスタミナ、どちらがメインになっているのですか。
※『駅メモ!』マネタイズについて:パートナーである「でんこ」や彼女たちの衣装をガチャで入手できるフィルムガチャチケット(各500円<税込>)のほか、効率よく駅収集ができるレーダーなどのアイテム購入。
他のゲームに比べるとガチャの比率は低いです。『駅メモ!』は既存アプリのアンチテーゼのような作品であり、合成もなければキャラのレアリティも存在しません。私たちとしては、あくまでも位置ゲームを楽しんでもらいたいという想いがあり、そうなると作業的になる要素は極力排除したかったのです。その代わり、一人ひとりのキャラクターを丁寧に作り上げています。
――:では、課金の中心はブルーライセンス(30日間位置登録が取り放題 - 500円<税込 >)・イエローライセンス(24時間位置登録が取り放題 - 200円<税込>)になってくると。
特に30日間チェックインし放題のブルーライセンスはかなりお得で、購入アイテムの中心になっています。私たちは昔から、月額324円の着メロサイトを運営していました。その文化が残っていたこともあり、月額課金の仕組みを取り入れることにしたのです。また、『駅奪取』を運営しているときから、「このほうが長く遊んでもらえるのでは」という仮説もありました。ブルーライセンスは500円で販売していますが、課金をこれだけにとどめることで、ユーザーさんの気持ちが燃え尽きないようになっていると思います。
――:完全に興味本位ですが、すべての駅をチェックしたユーザーはいるのでしょうか。
『駅メモ!』に限らず、弊社のゲームすべての合計だと100名以上います。特別な称号が与えられるだけではあるものの、特に鉄道ファンには挑戦していただいているみたいです。また、ライフログを残せるだけでも、ファンにとっては嬉しいことなのだと思います。
――:先日は都電荒川線で『駅メモ!』『駅奪取』初のオフ会も行われました。
『駅メモ!』に関しては広告から入ってくる人はもちろん多いのですが、それ以上に口コミ、周囲からの評判を聞いてダウンロードしてくださる方が多数います。そういった背景もあり、広告だけでなくさまざまな場所へ出て行く必要があると常々考えていたのです。
キャラクターを利用した多メディア展開も候補に挙がりましたが、まずは一番早くできるオフ会を開催することになりました。都電荒川線でのオフ会は、私自身は現地に行っていませんが、ユーザーさんと運営チームが交流する場を作ることで、絆ができるなと強く感じました。
――:かなり熱心なファンが集ったんですね。
相当な高さの倍率の中で当選した20名のファンに来ていただきました。ユーザーさんとの直のコミュニケーションという貴重な体験ができたと同時に、『駅メモ!』『駅奪取』というタイトルと、“でんこ”をもっと見せる機会を増やしていきたいと感じました。
――:また、先日は岩手県とのO2O施策も発表されました。これまでもO2Oの例はありましたが、連携協定締結までするのは初めてですよね。
岩手県の担当者様とお会いしたのは『Ingress研究会』が『ゲームノミクス研究会』に変わったときで、それから現在までに両者で内容を詰めていきました。これまでも、ゲームを活用して県外から来ていただくことまでは出来ていました。
しかし、行ったあとに現地で料理を食べたり、観光したり、おみやげを買ってもらったりなどの行動をしてもらわないと、弊社としての取り組みとしては意味が薄くなってしまいます。それはもちろん岩手県の方も同じで、駅を通過されただけでは意味がありません。
しかし、行ったあとに現地で料理を食べたり、観光したり、おみやげを買ってもらったりなどの行動をしてもらわないと、弊社としての取り組みとしては意味が薄くなってしまいます。それはもちろん岩手県の方も同じで、駅を通過されただけでは意味がありません。
出来るだけ駅から降りてもらい、さらに岩手県の良さを伝える仕掛けを作りたいという思いから、今回の連携協定締結に至りました。
具体的には、岩手県に構える、地元企業にもご協力いただけるよう話を進めており、指定の店舗に行くとオリジナルのアイテム、ノベルティがもらえるといった内容を予定しています。また、岩手県から名産品をご提供いただき、抽選でプレゼントする企画もあります。
▲岩手県とモバイルファクトリーによる連携協定締結式(関連記事)
――:年末年始や春休みを利用して訪れるユーザーも多そうですね。
この時期だと寒いですが、冬の岩手も魅力的ですからね。特にヘビーユーザーの方には、ぜひ足を運んでもらいたいです。また、2月頃には今回のO2O施策と絡めたリアルイベントも予定しています。
――:岩手県のメリットは計り知れないと思いますが、一方でモバイルファクトリーにはどのようなメリットがあると考えていますか。
まずは新規ユーザー獲得のPRです。ボリュームとしては多くないものの、地域に密着した濃いユーザーさんが獲得できると考えています。また、各地にて様々なイベントを開催することで、既存ユーザーさんへのコンテンツ満足度向上にも繋がります。
ゲームを活用して地方に人を呼ぶことができれば、世間から見られるゲーム自体の印象も一層良くなると思っています。最近はガチャによる重課金が問題視されるなど、風当たりが強くなっているのも事実です。しかし私たちは、このサービスを拡大することで、ゲームのポジティブな面を広められると自負しています。経済的合理性だけで動いているわけではありません。
――:過去のO2Oの施策とは、力の入れ方がまた違いますね。
過去2年ほどは様々な取り組みを繰り返してきて、ここへきてようやく自治体が反応してくれました。これまでだと鉄道会社さんがメインでしたが、それも最初は大洗や豊橋、三陸といった地方からのスタートでした。ただ、様々な鉄道会社さんとの取り組みを通じて、「人が動いて喜ぶのは鉄道会社さんだけじゃない」ということを実感しました。宿泊や飲食、そしてなにより自治体のみなさんが喜んでくれます。岩手県さんにアプローチをしたのも、より多くの人に喜んでもらいたいと思ったからです。
加えて、弊社は2015年3月に上場し、企業の社会的意義を問われる場面も増えました。それに答えるためにも、自社の利益だけでなく、日本を良くすることに繋がっていくのだと示していきたいですね。
――:今後の取り組みとして、岩手県以外からも話が挙がれば面白そうですね。
そうですね。ただ、岩手県さんの場合は、過去に『Ingress』を活用したオフラインイベントを実施していました。そのため、ゲームが人を呼ぶ力を持っていることを事前に知っていたおかげで、スムーズに話が進んだ側面もあります。だからこそ私たちは、今回のO2Oを新たな成功例にして、今後のきっかけに繋がればと考えています。
――:とはいえ、安定した利益も当然求められると思います。
位置ゲームはなかなか利益を上げにくいジャンルですが、だからこそ競合も少ないと思います。ジャンルとして見ると、当社の位置ゲームはツールとゲームの中間に位置しており、課金要素も自然と薄くなりますからね。2016年に配信が予定されている『Pokémon GO』はIPの力が絶大ですし、成功すると思います。
▲2015年12月期第3四半期決算説明資料より
――:ただ、ツールとしての側面もあるからこそ、継続率が高いのではないでしょうか。
ツールとして見ると、5年後でも利用していただける可能性がありますし、継続率の高さは位置ゲームの特徴ですね。安定性と継続率の両立と考えると、結局今のブルーライセンスを500円で販売する方法が最適だと考えています。
■「ユーザー体験が外に飛び出す」…オフラインの魅力
――:2016年には『Pokémon GO』(関連記事)も配信予定のため、競合他社がさらに増える形になりますが、これについてはどう捉えていますか。
『Pokémon GO』が配信された瞬間に、多くのユーザー、特に昔『ポケモン』を遊んでいた方がとりあえずインストールすると思うんです。そこでどう思うかですよね。恐らく位置ゲームを初めて遊ぶ人もいるでしょうし、「すごく面白い!」と絶賛する人もいれば、「こういうゲームか…」と驚く人もいるはずです。
しかし、どんな反応であっても私たちにはチャンスがあると思っています。現状『駅メモ!』も調子が良いですし、『Pokémon GO』きっかけに「リアルと連動したゲームが面白い」と感じていただければ、他の作品に手を伸ばしてくれる可能性も大いにあります。だからどちらかというと、脅威よりもチャンスのほうが強いですね。
――:『Pokémon GO』が市場を広げてくれると、期待感を持っているのですね。
すごいと思います。ポケモンのIPパワーは他に例がないレベルじゃないですか。まだゲームシステムは分かりませんが、課金のシステムを含めて興味はつきません。
――:そういえば、御社でも新作を用意されていますよね。
2つの新作を用意していて、どちらも位置ゲームです。また、そのうちの1本は他社との協業案件による作品になります。やはりジャンルを絞り、集中してリリースしなければユーザーさんを獲得できませんし、今いるユーザーさんを大切にしなければ生き残れませんから。新作では、まだまだニッチなジャンルである位置ゲームで、どんなことができるかを模索しています。今は駅だけに限定していますが、シチュエーションも拡大していきたいと考えています。
――:具体的な内容については、まだまだ先の話になりますか。
現在の予定は、2016年春に1作リリースし、さらにもう1作のリリースを予定しています。2016年春にリリースを予定しているタイトルについては、協業先との調整の上、しっかりとしたクオリティでリリースすることを決めました。ネイティブ化の比率もあがっているため、今後は頻度よく新作をリリースすることが難しいです。特に現在開発している作品はフルネイティブを予定しているので、どうしても工数がかかってしまうのです。
――:では、2016年の配信を楽しみにしています。
配信時期も『Pokémon GO』がどこでリリースされるかによって変わるかもしれませんね。ひょっとしたらどちらか1本が被ってしまうかもしれないので。とはいえ、被っても私たちのやるべきことをしっかりやるだけなので、戦略は変わらないです。
――:分かりました。御社として2016年の展望があれば教えてください。
『駅メモ!』についてはIPとして成長させていくため、アニメや小説、グッズといった多メディア展開を目指します。TVCMも考えているのですが、それにとどまらず、もう一段盛り上がれるプロモーションを練っていきます。エンゲージメントを増やしたいですし、なにより新しいユーザーさんとの接点が生まれますから。
――:2016年のスマートフォンアプリ市場は、どのように変化していくと思いますか。
VR(Virtual Reality)には注目しています。私も日本で展開する前から「Oculus Rift」と「Gear VR Innovator Edition」を購入して試していました。モバイルゲーム会社を中心に、各社力を入れている様子ですし、盛り上がると思います。
市場を見ると、今以上に大手のアプリ、そしてIP物が強くなるだろうと予想しています。新規オリジナルの作品ですと、相当なプロモーション費用がかかってしまいます。私たちは位置ゲームに注力していますが、「このジャンルならこのメーカー」という存在にならないと、ユーザーさんは選んでくれないと思います。新しいユーザーさんを創出するのは、かなり難しい1年になるでしょう。
――:確かに、1人のユーザーが継続的に遊べるタイトルは、だいたい3本が限界だと思います。そしてその3本も、ランキング上位のアプリが握っている状態です。
ですが、そういった世界で戦っていかなければなりません。先ほど話したVRが何故話題かというと、スマートフォンを使った、まったく新しいフィールドが出てくるからなんです。もしかしたら「Cardboard」の進化版とか、Gear VR用のアプリが登場するかもしれません。そうなるとユーザー体験が外に飛び出し全方位になりますし、新しいチャンスも生まれてくるはずです。
VRの進化に伴って、スマートフォン内にとどまらないユーザー体験を求める人が増えるのではと期待しています。そうなれば、スマートフォンの外へ飛び出すゲームである位置ゲームも、一段と注目を浴びるはずです。ユーザーさんがもっと面白いものを求めるがゆえに、自然と位置ゲームを手に取ってもらえたら面白いですね。
――:今まではスマートフォンの中で完結していたゲームが、外に飛び出していくと。
『モンスターストライク』がBluetoothで周囲のプレイヤーと遊べるのも、そのひとつだと思います。オンラインとはまた違った、オフラインの体験と上手く組み合わせたものが生き残れるのではと考えています。
――:本日はありがとうございました。
(取材・構成:編集部 原孝則)
(文:ライター ユマ)
(文:ライター ユマ)
■モバイルファクトリー
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会社情報
- 会社名
- 株式会社モバイルファクトリー
- 設立
- 2001年10月
- 代表者
- 代表取締役 宮嶌 裕二
- 決算期
- 12月
- 直近業績
- 売上高33億7000万円、営業利益9億4500万円、経常利益9億4000万円、最終利益ゼロ(2023年12月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3912