【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」


 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。

 

■第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜」

 
年末の活人研では、「自己の成長につながる企業選び」を考えなくてはいけない、という話をしました。もちろん、自身での努力、啓蒙は、とても大切です。それなくして、成長はありえません。ですが、自分だけでやれることには限界があり、
 
・良き先輩
・良き環境
・適度な試練
・低リスクでできる挑戦

など
 
企業、組織には、良いところがたくさんあります。あ、ちなみに「低リスク」というのは、
 
・それで命が奪われるわけもない
・自身では10万円という金額すら投資できない人も会社であれば100万円を使うことができる
 

というレベルの意味です。だから、ポジティヴにどんどん提案⇒挑戦をしていってほしいと思います。ですが、逆に、無責任に、適当に振り返ることもなく何度も同じミスを繰り返しているのに「挑戦したい」といっても誰も振り向いてくれませんし、安直に会社のお金を溶かしまくるのもNGです。やはり、目標を設定しその達成に向かっての挑戦でなくてはいけません。
 
さて、話を戻して、今回は、自分が成長する上で、必要な要素とはなんなのか? を明示してみようと思います
 
 
1、自分がなにをしている時が「楽しい」のか?を発見しよう
 
これ、言葉で説明しろと言われると案外難しいのではないでしょうか? 曖昧な言葉でよければ、定義できます。「ゲームをつくっているとき」とか、「本を読んでいるとき」とか…でも、なぜ、ゲームをつくっているときは楽しいのでしょう? なぜ、本を読んでいるときは楽しいのでしょう? この「楽しい」をある程度まで分解したいところです。

 

「本を読むのが楽しい」は、おそらく、その本から様々な知識や情報を得ることができることが楽しいのでしょう。つまりは、コンテンツの内容が、知的欲求を満たすところが、楽しいというところもあるでしょうし、ある意味、多くの知識を得るということは、他者に対してのアドバンテージにつながるところもあるので、優越感を得るようなところもあるかもしれませんね。(「優越感を得る」だけを見るとネガティヴにうつるかもしれませんが、目的は別にしても、結果、自身に圧倒的なINPUTをしているのならば、わたしは問題ないと思います。ただ、他者と触れるときにそれを勘づかれないだけの社会性があることを望みますが笑)

また、知識欲だけではなく、ストーリーの秀逸さや、感動をおぼえる、喜怒哀楽を味わえるなど、「ためになる」こと以外でも「満たされる」「癒される」ことがあると、それをひとくくりにして、楽しいと呼んでいると思います。

本というメディアは、決して双方向でないので、本からなにかを享受することで、満足感をおぼえ、それで楽しんでいるということが言えるでしょう。(享受するものは、その本によって、その人によって、異なるということですね)
 
次に、「ゲームをつくるのが楽しい」は、もっと多くの要素を包含している可能性があります。まず、1人でつくるのか? 2人以上でつくるのか? 前回の活人研でも書きましたが、わたしがゲーム業界に魅力を感じたのは、この「2人以上で1つのものをうみだす」ところでした。1人で考えて、作り出せるものは、たかがしれています。ですが、2人以上で考え、苦しみ、たどりついた。気がしたけれど納得がいかず、また壊して、積み上げて…といった試行錯誤を複数の価値観と視点・視座から議論しあい、うみだすこと、これが、わたしにとっては至福の楽しみであったわけです。

ですので、就職氷河期でしたしゲーム業界以外にも、この「集団でうみだす」をやってそうだな、と思えた会社さんを受けた記憶があります。まあ、今となっては、たいていの仕事や企画なんて1人だけでやることはないんですけどね(笑)。

自身を振り返っても、学生というものは情報収集があまり得意でなかったり、自分で決めつけて動いてしまいがちであったりすることは、ある程度仕方のないことだろうと思います。でも、だからこそ、我々「おとな」がちゃんと伝えていきたいところです!

しかも、いまは、ネット上に情報もゴロゴロしていますし、SNSなどを通じて、おとなたちと接することもしやすくなってきています。経験を事前に積むのは難しいにしても、情報を仕入れること自体は、そんなにハードルが高くない時代にはいってきていると思います。あとは、自分で、やるか? やらないか? だけだと思います。
 
さて、話を戻すと、1人でつくることもNGではありません。極論どこまでいっても、自分のこだわりを100%発揮してものをつくることができますし、仕事でなければ時間も無制限です。ただ、仕掛りと、プロトタイプくらいまでたどりつけたときは楽しいと思いますが、そうでないところはストイックに1人でやらなくてはいけないので、不安になることもあれば、ひとりよがりになりがちでもあります。開発中になんらかの他者評価を受けたいところではあります。

・頭の中のイメージが組みあがっていく楽しみ
・様々な価値観に触れ合える楽しみ
・正解ないものをつくって他者評価を受けられる楽しみ(苦しみ、悲しみもあるが)

などなど

ゲームをつくっていく楽しみは、ディテイルまで掘り下げていけば、もっともっと語れるものがあると思います。このように、自身が「楽しい」と感じているものは何なのか? を分析して、書き出して、自分自身に向き合うこと、これこそがすごく大事なことだと思います。
 

 
2、夢は持たねば実現せず、夢に期限はない
 
「夢は持たねば実現せず」は、わたしが大学に入り最初に所属したゼミの先生がおっしゃっていた言葉です。つまりは、なにか目的、目標を設定しないことには、ふわっとした絵空事でしかなく、GOALできないことをさしておられると思います。

そうはいうものの、なかなか夢をもつ、ということも、上記の「楽しいことをやっている」と近く、全員が全員、定義して日々の生活を送っているわけではありません。かくいうわたしも、学生時代に夢というほどのものをもっていたかというと、甚だ怪しいですw

やっていた実験が面白いなと思ったので、大学院に漠然と行きたいと思い、大学院では、合意形成プロジェクトというものが立ち上がれば、本来やっていた人間工学、認知科学的な研究からそちらに移り気をだして移動してみたり…とフラフラしていたとおもいます。ただ、わたしは、1つの共通の関心事があった、ということに就活の時になって、自己を振り返って気づくことができました。それは、
 
わたしの関心は人間にむいている

ということでした。人間が好きで、人とかかわりたい、人を喜ばせたい、と思っていたということです。そのためには、人間をもっと知りたいという観点から、学生時代はさまざまなことをやっていたのだな、と。まあ、フラフラしていたのを自分なりに定義付け、自分で自分に納得したかったのだと思います。

ですが、ここで定義されたことで、自分が楽しめる状況と、関心があることを見出すことができたので、ゲーム会社にはいり、より大勢の人に自分の作ったゲームを遊んで欲しい、楽しんでもらいたい!と思い、必死にゲーム開発をすることに邁進できるようになりました。

つまり、自分で「ふりかえり」「自己分析して」「夢=道を定めた」のです。わたしは、たまたま短絡的にこのゴールにたどり着くことができましたが、そんなに単純なことではないとも思います。ですが、自身で自身の夢、進むべき道を見つける以外に、方法はありませんし、誰かに与えられるものでもありません。スタートや、きっかけは、あるかとは思いますけどね。
 
人間、自分自身のことは案外わかっているようで、わかっていないものですし、自身に対する評価はどうしても甘くなりがちです。就職活動(新卒、中途に限らず)は、人生の岐路に立っているわけですから、自分自身のポートフォリオを構築するためにも、可視化して棚卸しして、真摯に向き合って考えることが、大切だと思います。その際にはアバウトな言葉を排除していくことを心がけることで、就活時に語る言葉がないとか、入社後イメージと違った、などといくことを減らすことができるのではないでしょうか?
 
 
3、人間最大の財産である「時間」を無駄に使わないこと!
 
これは、気を付けないと誤解をうけるかもしれません。20代、30代、40代における、時間の流れ方は同じなのですが、重みは異なります。その「重み」は、「経験」でかわってきます。つまり、年代で違うと、上記したものの、実は、経験量によって大きく時間の重みの感じ方がかわってくるのです。
 
いろいろなことに対して経験の少ない20代は、無駄に時間を使わない、といっても、そもそも、なにが無駄か?をわからないのです。経験が不足しているので。だからといって、
 
・自分で一歩を踏み出す前から、「効率よくやりたいので、教えてください」
・「失敗を恐れて、やらない」

 
というのは、NGです。「自分で考えない」「やらない」ということ自体が、リスキーだからです。経験を積む、これだけは、自分でやらないとわからないことが多く、失敗しても取り返すことができるからです。なぜか? それは、時間があるからです。人生は、死ぬまで勉強だとは思いますが、心身ともに健やかで、馬力もあって、ことに向かえるのは、やはり、年齢的限界は少なからずあると思います。ですが、アスリートのようにフィジカルを使って勝負するのでない限りは、20代はまだまだその時間を「投資」に使っても大丈夫な時期です。

ただし、ただ、やるだけではなく、このコラムでは伝えてきているように、「振り返り」⇒「期限を決めてNEXT ACTION」をやっていかないと意味はありません。

なので、経験をつむために、リスクあるとわかっていても、チャレンジすることは大事ですと、同時に、心身ともに健やかで全力で働ける期限までが、まだ長く時間が残されている若者の特権でもあるのです! もちろん、30代、40代も、チャレンジはしていいと思いますし、わたしも常にチャレンジしています(笑)。ただし、「期限を切り」「より目的をはっきりさせて」チャレンジをしなくてはいけなくなる、ということです。漫然としたチャレンジは、年齢を重ねていくと大きなリスクにしかならないということですね。
 
なぜならば、時間は人間が持つもっとも貴重な財産、リソースだからです。お金は貸し借りできますが、時間は誰であっても貸し借りもできず、増やすこともできません。減っていくだけ、過ぎていくだけなのです。
 
なので、チャレンジは、ぜひぜひやっていきましょう! 生活には安定を求めるのもわかりますが、我々ものづくりをなりわいとしている人間は、仕事にまで、保守、安定に則していくと、つくりだす、生み出すことができなくなります。ただ、繰り返しますが、目的をしっかりもち、期限を決めてやらないと、結局時間の浪費につながります。自分の人生のロードマップをある程度引いて、見直しながら、行動していくこと、これはすごく大事だと思います。
 
 

今回は、ゲームというよりも、仕事をする上での、「楽しさ」「夢」「時間」についてお話しました。我々の仕事は、夢を、喜びを、楽しみを、お客様に提供する仕事です。そのためにも、まずは、自分が夢をもって、ただし、期限をきって、ことに向かっていきたいですね!!!
 
今回は、これまで。
 

■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

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「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」

 
 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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