【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第十五回「就職活動にみられる地方格差」


 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。

 

■第十五回「就職活動にみられる地方格差」


わたしが人材に関する仕事をしていて、一番感じたこと、そして、業界として、わたし自身も全力で取り組んでいかないといけない問題と考えていることを今回はお話したいと思います。それは、ゲーム業界における、地方格差の話です。
 
記念すべき、活人研の第一回でも少し述べさせていただきましたが、
 
ゲームを教えている学校、特に専門学校は、全国いたるところに存在しているのに対して(ゲームを授業や学科名に取り入れて教育している大学は、まだまだ限られている。ここはまた別の課題として、述べたいと思います)、ゲーム会社は、東京、大阪に大半が存在し、札幌や福岡といった大都市にまばらにあるかな…それ以外の都市には、あまり多くの企業が存在しないというのが実情です(昨今は、スタートアップ企業も増えてきていますし、インディーゲームとして開発されている皆さんもいらっしゃるので、一概に「ない」とは言いきれないのですが、就職活動の際に学生さんを精力的に「毎年採用」されている企業という観点で今回は述べさせていただきます)
 
現在もですが、わたしは、北は北海道から、南は沖縄まで、全国をゲーム業界目指す学生さんを求めて旅がらす生活をしております。どこの都道府県に行っても、ゲームに対して夢をみて、わたしに半ば怯みながら、半ば目を輝かせながらゲームに関していろいろと聞いてきてくれる学生さんがたくさんいます。

ですが、その子達が全員ゲーム業界に入って仕事に携われているか?というと、なかなか厳しい現実が待っています。専門学校、大学を卒業したあと、なんらかの仕事に就業することは、大半の皆さんができているようですが、夢であったゲームの仕事に、正社員、契約社員といった社員として直接雇用で入社できている学生さんは、平均すると50%いないと思います。
(100%正確なデータを集めたわけではありませんが、全国回ってヒヤリングをしていった結果です)
 
専門の学校にいっているのに、なぜ、こんなことが起こるのでしょうか?
もちろん、要因にはいろいろあると思います。
 
①本人が、途中で学校にこなくなってしまった(おまけに退学した)
②本人が、あまり就職活動自体をしなかった
③本人が、早い段階で業界を諦めてしまった
など

 
があげられると思います。
①は、家庭の事情や経済的理由がない限りは、少ないようです。
学校で担任の先生方の頑張りが、この数を少なくしています。つまり、中学、高校の生活指導の先生のように、学校を無断で休んだり、あまりこれなくなった学生さんに対して、電話や、SNS、自宅訪問してのコミュニケーションなど、先生方は学校で教える以外にも学生さんの未来を想い学びの機会をやり遂げてほしいと、全力でむきあってくださっている方が多いです。
(もちろん、人間なので、個人差はあると思いますが)
 
ただ、その分、先生たちの仕事はなかなか大変で、本当に学生さんに愛情を持っていないとできない仕事だと思います。ただ、昨今では、この先生方の高齢化の問題もでてきています。つまりは、少子化が進んでいると同時に、専門学校の先生になる若手も減ってきているのです。

ゲームの専門学校で、ゲーム開発経験がある先生は、どうしても、ある程度の年齢以上になってしまう傾向があります。理由は簡単です。誰しも若かりし時は、ゲームをつくる夢をもって業界に足をふみいれているわけです。そんな中で、20代のうちに第二の人生でゲームを教える仕事に転職するというのは、まだまだ早いと思う人が大半だと思います。決して、学校の先生という仕事がNGなのではなく、大事な仕事であることは、皆わかっているのですが、やはり、つくるおもしろさが上回ってしまうということでしょう。

なので、20代とは言わず、ゲーム業界の30代、40代の皆さん! 地元に戻っての第二の人生を考えるときに、ゲームの専門学校の先生という仕事もありますよ! 選択肢の1つに考えて見られてはいかがでしょう?どうすりゃいいの?と思われたら、わたくしまで、気軽にご相談ください(笑)。
 
 

さて、話は戻ります。
 
①でないとすると、②と③が大きな原因となっているということになります。
②③は、よくある傾向としては、
 
1社目に、本命を受けて、落ちる
2社目、なんとか踏ん張って受けるも、落ちる
 
「ああ、もう自分は、ゲーム業界無理だわ」
 
と諦めてしまい、就職活動をしなくなってしまう…そして、遅い段階になって先生が薦めてくれる、ゲーム以外の業界を受けて、就職していくという感じか、もっと早い段階、つまりは、就職活動年が来る前に、授業を受けていて、周囲のほかの学生さんと比較して、
 
「ああ、もう自分は、ゲーム業界無理だわ」
 
とまた、同じように諦めてしまい、エンジニア志望の学生さんであれば、情報処理資格者試験などを受けて異業種のエンジニアとして就職していく、というのも、よく聞く話です。
 
前者は、就職活動の方法を変えることで陥らなくてすみます。それは、
 
本命を最初に受けない
 
です。
何言ってるんだ?と思われるかもしれませんが、人間誰しも面接や、試験に緊張しない人はいません。また、採用試験は、会社によって手法も全然異なります。一番最初に受けるときにある状況、それは、
 
想い:120%
経験:  0%
準備: 20%

 
のような感じになっていると思います。気持ちばかりで、経験と準備ができていないので、空回りして、自分の良さを伝えられないことが往々にしてありそうです。もっと、リラックスして受けていくのと、経験をつんで、準備をできないといけません。そのためには、
 
就活年前年度にある、夏休み企業インターンをゲーム業界、以外問わず2社以上体験する
インターンに限らず、企業主催イベント(例:座・芸夢)や社会人の参加するイベントを何度も体験する
①②をできなかった時、本命をいきなり受けるのをやめて、「経験」積むために、ゲーム業界以外から受ける
など
 
が対策として考えられます。①や②はちゃんと情報を集めて、エントリーして抽選や選考を突破しなくてはいけません。
③も、ゲーム業界目指してやっていても他業種を受けて、魅力的な出会いがあればそちらも選択肢に加えていいと思います。準備や経験をこうして整えていけば、比較的、
 
「いきなり本命を受けて失敗 挫折 やめる」
 
は減ると思います。
 
ここまでは、どこの出身かを問わずに起こりうることです。
問題は、②③で、出身が、東京、大阪、札幌、福岡のようなゲーム会社が多くある地域でないところ出身であるがゆえに、就職活動の目が摘まれている可能性がある人が大勢いるということです。
以前、わたしが北陸のある専門学校で講演をし、就職活動の指導をしていた時に、
 
「ゲーム業界は狭き門だから、20、30社受けるの当たり前!くらいでないといけない」
 
という話をした時に、
 
「馬場さんは、わかっていない。我々が1回就職活動のために、東京や大阪にでていくのに、高速バスで行ったとしてもいくらかかると思うんですか? 何度も何度も就職活動で往復できるほど資金がないんですよ」
 
と言われました。衝撃でした。たしかに大学時代神奈川県藤沢市に住んでいたわたしは、就職活動の際に、移動で苦労をしたことはありませんでした。関東の会社しか受けていませんでしたし。生活費のやりくりや、アルバイトを少しすれば就職活動に支障をきたさない範囲でやることができました。
ですが、確かに東京、大阪から離れたところに住んでらっしゃる方には簡単な話ではない、というのもあるというのも、ここで理解いたしました。そこで、頭をひねって彼らに約束をしたのです。
 
「わかった、俺が1日で10社以上1箇所に集めるから、みんな絶対にきてくれ」
 
とですね。これが、ゲーム会社合同説明会 HEAT の発足するきっかけとなったのです。
 
 
▲HEATの模様 (関連記事
 
第4回目となる、HEAT、
 
HEAT 4th 関西
 
が、4月10日(日)に、大阪は梅田で開催されます。今回は30社以上の企業があつまってくださいます。学生の皆さん、この貴重な「1日の出会い」を大切にしてください!
こぞっての参加をお待ちしております!
 
今回は以上です。
 

HEAT 4th 関西
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■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

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株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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