【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第十六回「新人事始」


 
ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。


 

■第十六回「新人事始」


4月になり、多くの新人さんたちがこの業界の門を叩いて、入ってきてくれました。
まずは、おめでとうございます!


 
ゲームというのは、正解=唯一解 のないものを研究、開発していくという大変な仕事です。そのためには、技術はもちろんのことですが一番大切なものとして、

・○○みたいなゲームがつくりたい!
・面白いゲームを絶対に世に送り出す!


といったような「意思」こそが、一番大切です。

もちろん、気持ちだけ強くても、形にする技術、知識がないといけませんが、これらは先輩たちから多くを学び、経験をつむことで得ることができます。そして、その先輩たちにも、当然新人時代はありましたし、先輩たちもその更に先輩たちから、多くを学んで今があります。いまは、新人ですが、あと360日ほど経過したら、後輩がはいってくるわけです。時間は、無為に過ごそうと思えばいくらでも、あっという間に経過します。この1年を何をしてすごすか? をはやく見つけたいですね。

さて、今回は、新人さんにアドバイスを送ろうと思います。


1、目的志向で行動しよう!

何のために、これをやるのか? つまりは、目的を設定して行動しよう、ということです。

言葉でいうと端的なんですけど、結構、これがなかなかできないことが多いんです。特にゲーム開発は、たくさんの「面白い」ギミックを詰め込んでつくることができます。ただ、ゲーム開発における目的は、「コンセプトを設定し、それを実現するものを開発すること」です。あ、もちろん、ビジネスとして、ちゃんと利益をあげるという当たりまえの目的はありますよ(笑)。ビジネスとしての達成は当たりまえにあることが前提での、「ものづくり」の観点からのゲーム開発における「達成しなくてはいけない目的」のこと、ですね。

どんな仕事でもそうですが、目的をさだめ、GOALを定めて動き出さないと、あさっての方向に走っている、しかも全力で走って、時間を、リソースを浪費してしまいます。ゲーム開発においては、これがコンセプトを明確にすること、です。この連載でも、コンセプトは、ゲーム開発の命綱だと何度かいってきていると思います。

コンセプト = このゲームはなにが面白いのか?
      = このゲームをプレイした人に、どんな感情を与えるか?


を曖昧にではなく、ある程度、詳細に設定する必要がある、ということですね。

× 主人公がプリンセスを救出にいくゲーム

これだと、ゲームの主な目的は書かれていますが、感情がどこにもありません。プレイヤーに与える目的として記述しておくにこしたことはありませんが、コンセプトというにはその用をなしていません。

○ 主人公と、ヒロインが「ままならぬ」恋の道を進む、せつないアクションゲーム

やや冗長です(笑)。でも、プレイヤーが感じる感情は2つ込められています。

①ままならなさ
②せつなさ

おそらく、この恋の道は障壁が数多く設定されているのでしょう。巡り会えそうで、会えない。出会えたと思った刹那、別の力によって引き離される……などなど。操作が思うようにできないのか? 操作をちゃんとしたとしても、上の引き出しを押し込んだら、下の引き出しが開いてしまう! といったような一筋縄ではいかない苦労があるのか? いろんな方向にイメージは膨らみます。

が、ままならなく、せつない、というところは設定されているので、これを実現すべくシステムやギミックを考えればいいということです。問題は、ままならない、せつない、は共に、比較的マイナスの感情であるということです。マイナスの要素で制限をつける、あしかせをつけるよりも、相対的なプラスの要素を入れて、感情をポジティヴな方向にコントロールしたいところです。なぜならば、辛いことが連続すると、劇的なプラスの反動でもはいってないと、やる気が削がれてしまうからですね。

ただ、荒木飛呂彦さんの著作「漫画術」では、マイナスの感情、状況も、マイナス方向に振り切ってしまえば理解、共感をえることができないわけではない、とおっしゃっています。どんどん、悲惨な方向に進んでいくからこその感情移入がある、ということですね。ホラー映画などにも、同じようなことが言えるかもしれませんね。

いずれにせよ、コンセプトを定めないと、そのあとのものは作れないということです。が、コンセプトを定めたはずなのに、目の前のギミックが面白いのでつい作ってしまうとか、コンセプトに照らし合わせずに、思いつきを必死に「がんばって」実現してしまう、ということがおきえます。工数を使わずに、自分の時間で、自己責任で作る分にはいいと思いますよ、チャレンジは必要なので。でも、決められたものを、チームとしてむかっている目的、コンセプトに沿ったものを、スケジュール通りにつくった後のことです。

目の前の面白さは、あくまでも、手段にすぎません。そして、それをがんばってつくることは、経験としてはいいことですが、ディレクターからすると、工数を間違った方向に使われて、遅延の原因となりかねないリスクを伴ったこととなります。

そして、これのタチの悪いことは、担当者は、がんばって開発していることです。でも、チームとしてはイマイチ貢献できてない……だから、評価もされない……下手したら、ミスに近いことをしているわけです。でも、がんばっているだけに不満がたまりやすい。なので、新人の皆さんは、自分のやっている仕事の方向性や目的が正しい方向にむいているのか? をコマメに上長や先輩に確認することが大事になってきます。ただ、一事が万事きかれると先輩も、

「おいおい、それくらい自分で考えろよ」

とイラつくでしょうから、そこは、最初は、たくさん確認しつつも、じょじょに、

「あ、これは自分で考えろってことだな」

という項目やラインを設定していけるといいですね。


2、失敗を恐れないでチャレンジ!

これは、履き違えていただきたくないのですが、自分勝手に判断して行動する、ということではありません。自分だけで完結しないことも、たくさんあるからです。1つの安直な判断がチームの仲間を、会社の仲間を大勢巻き込んで不幸にしてしまうこともあります。なので、最終的な判断は、上長に確認し、委ねる方がいいとおもいます。ただ、2つ以上の選択肢を自分で考えて策定し、それを、上長や先輩たちにぶつけていくこと!はとても大事です。

自分がどういうことを考える人間なのか?
を理解してもらうこともできますし、逆に、
どういうことは確認しないとNGなのか?
も、提案、提案、していけば、相手の反応でわかるようになります。

つまり、チャレンジというのは「行動する」ということです。ミスをしなければ、評価されるわけではありません。ミスはしないにこしたことはありません。いや、基本、しちゃいけないんですけど(笑)、ミスを恐れて行動しないこと、これが一番ダメです。行動しないならば、この業界にはいってきた意味がないことになってしまうので。

自分のゲームをつくりたい!

という大きな野望をもってたいていの人は業界にはいってくると思います。でも、その自分のゲームをつくる権利を得るには、会社からの信用をうけなくてはいけません。ただ、この信用をうけるには、繰り返しますが「失敗をしない」ことで得られる信用だけでは、任せてもらえません。ミスをしないことは大事なんですが、それは、そもそも、

期待されたことをつつがなく「こなした」=100%まででしかない

からです。もちろん、100%を着実に毎回こなしてくれる戦力はとても、とても大切です。ですので、いずれはチャンスをつかむこともあると思います。地道に信頼を勝ち取っていっているわけですからね。でも、学校ではないので、先輩たちは、卒業していきませんし、経験の深い彼らも虎視眈々と自分のゲームをつくれるよう会社にはたらきかけるチャンスを狙っているわけですそうなると、やはり、100%の壁をこえていかないと、なかなかチャンスはありません。

期待された以上の「結果を出す」=101%以上つみあげる

ことをしていかないと、信用を得るまでの時間を早めることは難しいと思います。そのためには、自身の努力も101%以上、アクセルを踏まないといけないですが、やはり、経験の薄いことやうまくいかない可能性もあるけど、ハイリスク、ハイリターンのものを見つけたときはチャレンジしていきたいところです。

また、失敗をしても、許されるのが1年目の特権です(もちろん、程度はありますよ。会社に10億級の損失をさせてしまうようなことをしたら、厳しいでしょうし(笑))。それに、先輩たちが見てくれています。ただし、俗に言う報連相(報告、連絡、相談)をしっかりしないといけません。ビジネスの基本を何度言っても守れない人間を先輩たちも庇い、守ることは難しくなってきますので…

ここからは、やや細かいことを2つ(笑)。


3、挨拶はちゃんとしましょう!

は? 当たり前じゃないですか? と思われる方がいらっしゃるのと同時に、なんで? 挨拶なんて、仕事に関係ないじゃん? と思われる方もいらっしゃると思います。

前者の方は、そう思われるならば、ぜひ、声にだしてちゃんと相手に届く挨拶を、出社時、退社時にするのはもちろん、廊下で先輩とすれ違ったりするときにも、会釈やおつかれさまです! と挨拶をしましょう。

後者の方は、仕事に関係ないか? というと、少なからずあるんです。なぜなら、1人でゲーム開発はできない、とずっとこの連載でもいってきていますように、挨拶はコミュニケーションの基本だからです。また、あなたにとってはどうでもいい挨拶でも、される先輩にとっては、どうでもいいことではないかもしれないのです。そう、挨拶も1人では成り立たないんですよね。だったら相手が気持ちよくなることを、たかだか挨拶するだけで、できるのであれば、論理的に考えてもしたほうがいいですよね?

また、仕事は、特に会社では、新人さんはまず「覚えてもらうこと」から始まります。先輩たちに覚えてもらうためにも、ちゃんと声がけをして、顔をみてもらうことから始めることが決してマイナスではないことを、理解してください


4、先輩の話はメモをとってちゃんとまとめましょう!
 
先輩たちは、経験が深いので、いい話をたくさんしてくれます。しかも、時と場所を選ばずに(笑)。なぜなら、思いつくからですね。でも、その瞬間にそれを言ったら、極論、言ったことすら忘れます。なぜなら、自分のことではないからですね。でも、あるとき、その言っておいたことを後輩が実施できていなかったり意識が薄いなと感じたりする時に、これを言っていたことがフラッシュバックしてきます。そして、

「前に言っておいたのに、なんでやってないの?」

となるわけです。もちろん、言われたことをすべて対処して、確実にこなしておくことは大変だと思います。たとえ、メモっておいても、実行できていないこともあるでしょう。ですが、リスクは減ります。なので、メモは常に持ち歩き先輩たちの話を聞き漏らさずにちゃんと手元に残しましょう。それが、皆さんの資産になると思います。
 

▲自宅からでてきた新人時代のメモ……「1日20問先輩に質問する!」という課題に対して、実は1週間で100問質問しないといけないことに途中で気づいて頭を抱えているメモ(笑)。
 

ただ、気をつけていただきたいことが2つあります。

メモをとるのは、あくまでも手段であって、目的ではない、ということです。メモをとるのに必死になるあまり、実際の話を聞くのが疎かになるのは本末転倒です。一言一句聞き漏らさないことが大事ですが、一言一句書き漏らさないことが大事なのではありません。メモるのは、話を聞いて、咀嚼して、自身で考えてまとめたものが残っていればいいのです。理想は、自分の解釈で正しいかどうか? を先輩に確認するところまでできると一番いいですね。

また、メモったとしてもそれをそのまま放置するのではなく、席や家に戻ったら、そのメモから、もう1冊のノートに転記しながらまとめる、というのをやるのもいいことです。結局、話の要点や大事なポイントはなんであったのか? を考えて、まとめる、それが重要なのです。これをしないことには、自分のものになりません。なので、結局メモをしても、先輩に指摘を受けることになってしまい、なんのためにやってるんだ?と いう状況に陥ってしまいがちです。

結局最後も、

目的と手段を間違えてはいけない

の話にたどり着きました。仕事は一事が万事がこれに当てはまります。

入社した4月のこのフレッシュな気持ちを忘れずに、まずは、がむしゃらに1年駆け抜けてください!
 


■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」

 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1367億3300万円、営業損益282億7000万円の赤字、税引前損益281億3000万円の赤字、最終損益286億8200万円の赤字(2024年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
企業データを見る