【Japan VR Summit】海外でVRビジネスを展開する4社が集結 ゲーム・アニメ・コミュニケーションなど各分野から見た現在のVR業界とは

 
グリー<3632>は、5月10日、東京・品川グランドセントラルタワーにて、Japan VR Summit」(以下、「JVRS」)を開催した。

JVRSは、グリーと一般社団法人VRコンソーシアムが共同開催する国内最大級のVRカンファレンスイベント。VR業界の第一線で活躍する国内外のプレイヤーをゲストに迎え、日本のVR市場を拡大することを目的としている。当日は、企業、団体、個人問わず、VR関連および最先端技術に注目している方を対象に講演や展示が行われた。
 
本稿では、グリー株式会社 取締役 執行役員の荒木英士氏がモデレーターを務めた、Session II:海外VRビジネス最前線」をレポートしていく。なお、本セッションには、Baobab StudiosMaureen FanReload StudiosJames ChungTencentLi ShenVR ChatJesse Joudreyらがスピーカーとして登壇。日本国外でのVR事業への取り組みや動向について、複数のビジネス視点で話を展開した。
 

■中国、アメリカなど世界のVR事情に関する話を展開

 
まず、モデレーターの荒木氏が、各スピーカーが所属する企業の概要を紹介。さらに、各スピーカーより、自社での取り組みついての詳細が語られた。
 

▲モデレーターを務めた、グリー株式会社 取締役 執行役員の荒木英士氏。
 
 
最初にプレゼンを行ったのは、Baobab StudiosMaureen氏。Baobab Studiosでは、VRにおける3DCGアニメを制作している。Maureen氏は、「VRアニメーションでは、想像力の限界を超えて、手を伸ばせば触れられそうなものを作れる」というコメントで、VRとアニメーションの相性の良さを表現した。
 

▲Baobab Studios CEO and Co-FounderのMaureen Fan氏。
 
 
▲Baobab Studios経営陣の経歴やアドバイザーなど、スタジオのメンバーを紹介。Maureen氏を始め、ピクサーに在籍したクリエイターもいる。
 

▲最近では、カンヌ映画祭でVR関連の話が取り上げられるなど、VRへの注目度は映像業界でも高いようだ。
 
また、「VRとアニメーションを組み合わせることで、見る人を映画の世界に引き入れ、登場人物であるかのようにしたい」とMaureen氏は語る。その言葉を再現するべく、現在、Oculus RiftやHtc Viveなどで配信されている、プリレンダCGの360度立体映像「Invasion!」を公開した。
 
 
 
▲本作は、地球を侵略しに来たふたりの異星人から世界を救う物語。途中から視点が主人公のウサギ主観となり、360度自由に見渡せるため、まるで自分がウサギになったかのような体験ができる。
 
続いてプレゼンを行ったのは、Reload StudiosJames氏。Reload Studiosは、2014年3月に3名で設立し、今では40名ほどにまで増員しているという。ゲーム制作会社でありながら、ディズニーに所属したこともあるアニメーターが参加しているなど、ゲームとアニメの融合を考慮した取り組みを行えているのが特徴のようだ。
 

▲Reload Studios Founder / CEOのJames Chung氏。Reload Studiosは、主にゲーム制作を中心に事業を展開している。
 

▲スタジオのメンバーがこれまで携わってきた作品。Reload Studiosは、『コールオブデューティ』シリーズを手掛けたチームが設立したことをきっかけにスタートした。
 
 
 
▲現在、Reload Studiosで開発中の作品。
 
またJames氏は「Oculusやサムスン、Appleなど、大手企業の情報を非常に早い段階で得られたことが現状にも繋がっている」と語る。さらに、VR業界において具体的なユーザーを考えたときに、ソニーがプラットフォーマーとしてプレイステーションVRを発表したことや、現状ターゲットの20~25%をゲーマーが占めていることからも「まずはゲーマーが主流なカスタマになることは間違いない」とコメントした。
 
【現在】
 

【VRゲームが発展すると】

▲現在とは、ゲームを楽しむスタイルが変わることも示唆した。
 
さらに、今はまだヘッドセットの重量などの関係もあり、VRは長時間プレイに向かないが、将来的には軽量化されることを予測していることから、何百時間もプレイできるようなプロダクトを開発したいと考えたこともあるという話を展開。そのうえで、任天堂のWiiは非常に参考にしたプロダクトだということを明かした。現在は、ターゲットオーディエンスとなるユーザーにフィットしたプロダクトを提示していきたいと考えているようだ。そのほか、障害者であってもVRを楽しめる環境を作る必要があること、日本はIP事業が発展していることからコンテンツ開発者が飛躍するのではないかとの話を経てプレゼンの締めとした。
 
次に、TencentLi氏が、中国におけるVRマーケットの現状や、Tencentでの取り組みについてのプレゼンを行った。
 

▲Tencent Vicegeneral manager of R&D Dept. Interactive Entertainment GroupのLi Shen氏。Tencentは、中国にある世界最大のゲーム会社。
 
中国の市場では、モバイル型VR機であるGoogle Cardboardをベースにしたものを始め、大規模な展開を行えるような施策が活性化しているとの話。投資面から見ても、ハードウェア、コンテンツ、両分野に渡って行われており、Tencentでは2016年には約1200万人、2020年には約1億人にヘッドセットが販売されるのではないかと市場予測しているという。
 
また、Tencentでは現在、VRソーシャル関係の研究を行っているとのこと。オンラインメディアでの360度動画を実現するため、PC向けのヘッドセットが開発されているという話だ。
 
開発を行ううえで、ハードウェアが向上してもプレイヤーはヘッドセットを身につけなくてはいけないことから、重くてプレイしにくいというデメリットを超える価値をユーザーに与えることができなければ、何度もプレイしようとは思わないということを学んだという。例として、「既存のゲームをVRに持ち込んだところで、あえてヘッドセットを身に付けて遊ぶ必要がないことから、それほど盛り上がれないであろう」とコメントした。
 
そこで、VRソーシャルこそが、ユーザーがVRに触れるきっかけになるのではないかと考えているとのこと。スクリーンやモニターを見るのではなく、自分の身体を使って表現し、環境に入っていくことはもちろん強烈なインパクトとなりえるが、そこに「共に遊べる」という要因をプラスすることで、ヘッドセットという負担を乗り越えることができるとLi氏は語る。
 
最後に、TencentとしてはまだVR分野に足を踏み込んだばかりの状態であることから、良い立ち位置を見極めている状態であることを説明。2016年半ば~末には具体的な発表ができるのではないかとして話の締めとした。
 
 
最後にプレゼンを行ったのは、VR ChatJesse氏。VR Chatでは、VR空間でのコミュニケーションサービスを提供している。デジタル環境の中で人間同士、声を使ったり手を使ったりしてアバターで自己表現やコミュニケーションを行える。
 

▲VR Chat Co-Founder and CTOのJesse Joudrey氏。
 
Jesse氏は、ひとたびVR Chatを体験すれば、「完璧なアバターでなくとも、実際に目を合わせて話すと魔法がかかり現実のように思える」とコメント。講演後、筆者も実際に体験してみたが、視覚や聴覚が覆われるため、現代で最も距離を身近に感じられる通信手段であることに間違いはなかった。
 
また、VR Chatでは、ユーザー同士のコミュニケーションが活発に行われており、日々、「ユーザージェネレートコンテンツ」と呼ばれる新たな空間が、ユーザーの手によって何百と作られているという。各々のアバターを好きなようにコーディネートしてVR空間に入り込むという環境は、これまでアニメや映画の世界に登場した近未来を彷彿とさせた。
 




▲最後に、Jesse氏は自身のアバターを紹介して講演の締めとした。
 

■世界を魅了する、VRに感じる可能性とは

 
ここからはパネルディスカッションへ。まず荒木氏より、いち早くVR業界に目を向け、事業として発足させた理由について問われた。
 
これに対してMaureen氏は、実際にサムスンのGear VRを体験した際に映画の中に入り込んだような感覚になれたことから、今後、フィルムと現実をどう融合させていくかに面白味を感じたという。
 
一方、Jesse氏は、VRが事業になると分かってからでは遅いと感じたので、飛び込むならギャンブルでなくてはならなかったと当時を振り返る。VR Chatでは、ユーザー平均70分、長いときには5時間かけてパーティが実施されたこともあるなど、耐久性があり、非常にパワフルな可能性を秘めていることに気付かされたと語った。
 
また、続く「VRをより現実味のあるプロダクトに変えていくためには何をすればよいか」との議題では、James氏が「まずは、デバイス以上のコンテンツを作らなければならない」とコメント。実現できないような体験を提供することが重要であると語った。
 
アニメーションの観点から見るMaureen氏は、オリジナルのストーリーテリングが重要だとしたうえで、モバイルの2時間は長すぎることや、ワイヤレス導入の必要性など、ユーザーからのコミットメントを必要としないという点を要因として挙げた。
 
生活と合致したものを作りたいという点においてはJesse氏も意識しているようで、VR Chatでは、人の作った世界を見て回れたり、カラオケを楽しんだり、ゲームよりも現実に近い位置にあることを伺わせた。
 
そのほか、VRをビジネスとして捉えたときに、Tencentでは、まだVRヘッドセットが世間に普及していないことから、現段階では収益に繋がらないので止めようという流れがあったとの話も。今必要なこととして、ワンショットの取り組みではなく、プラットフォームの構築に注力しているとのこと。
 
Maureen氏からは、既に利益をあげている会社があることから、今後、伸びる可能性があることや、競合が少ない段階でスペースを確保することが大事ということ、クリエイティブの観点から見ても難しい技術を使用しているため、早めに取り組んでおくべきだということが語られた。近い将来、VR市場が大きなものにならなくとも、技術を身に着けて準備をしておくべきだという点にLi氏も同意。さらに、20年後には競合が増えて参入すら難しくなるであろうことから、「VRで社会を変えるなら今始めるべき」だとJesse氏がコメントを加えた。
 
最後にJames氏は、新しいものへの取り組みとして開発者の作業や、やり方にも変化が訪れていることを明かした。今後、VR業界がポテンシャルが計り知れない世界になるのを待っているという。また、コンテンツ以外にも、恐怖症の克服や、手術のシミュレーション、授業を受講するなど、エンターテインメント以外の部分も模索していく必要があるとのまとめで本講演の締めとした。
 
 
(取材・文:編集部 山岡広樹)



■関連サイト
 

Japan Venture Awards 2016 公式サイト

グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
企業データを見る
Tencent(テンセント)

会社情報

会社名
Tencent(テンセント)
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